機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神   作:申業

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PHASE-14 Distance(4/7)

推進材の火が消えれば、

地球の重力が、重い機械の身体を地上へと引き寄せる。

クールカは深追いはしなかった。する必要がなかった。

何せ、俺──落下していく《ヴェスティージ》へ、

下向きに斜め線を描くように移動し、近付いてくる敵がある。

……のは、俺もとうに気付いちゃいたが。

当たり前だ。あんなにでかい声を出されれば。

『死ねェェェェ!!!』

とか何とかいう叫び声に耳を押さえたときには、

敵はもう目の前まで迫っていた。

敵──カトリーナ・スティーヴィンズが、である。

また知らない機体が出てきやがった。

《ディン》や《バビ》のような、空中戦用のモビルスーツらしい。

何だか知らないが、オオコウモリのもののような、

体躯の数倍はあろうかという大きな翼が背中にあって、

側に寄られた俺の機体に、これが影となって覆い被さる。

両腕には甲殻類を彷彿とさせる殻状の装甲があり、

しかもスズメバチの針みてぇに拳の側に鋭いのが1本ずつ。

よく、コンセントに刺したり抜いたり繰り返したとき、

プラグとの間に、電流を帯びてバチバチ鳴ったりする訳だが、

丁度そんな調子で、針の先が光ってやがった。

後に調べたが、本当は拡散式というらしい。

卵から無数の幼虫が孵(かえ)るよう。

稲妻が飛び散り、《ヴェスティージ》の体に振りかかる。

当然ビームシールドがあるから、命中はしない訳だが、腕は2本。

針も同様。片手の先が光れば、逆の手も光ろうもので。

衝立(ついたて)みたいに構えたビームシールドでは、

そのままじゃ押さえきれないようで、

まだ熱の残る──と確認した訳ではないが──スラスターに再点火、

体勢を変え、回避する。

敵は、そう速くはない。

というのは、散々速い奴等と当たってきたかもしれないが。

とにかく、距離はすぐに取ることが出来た。

……そう、このカトリーナに対しては。

「……一昨日の今日にしちゃ、万全過ぎんだろ?テメェ」

雲を切るように上から下ろされた鎌。

回避動作は取ったが、やや遅く、

突き出たアンテナの右先端を掠(かす)めた。

『パヴァロッティ・ギボンだ……今度は容赦せん』

「何だよ……『今度は』ってのは……」

苦笑を禁じえなかった。

『すべては、我が理想の為に……』

そんなヤツの声に頭上へ目をやれば、

当のクールカの機体は、刀の錆でも落とすみたいに、

2つの剣先を擦り合わせていた。

『「今度こそ」、斥(しりぞ)けさせてもらうぞ。アスカ』

クールカは笑う。部下の失言をネタにする形で。

「……あぁ、そうかい」




思い返してみれば、俺にもあったさ。
力を持てばもう何も失わないと、そう信じていたことがあった。
信じたかった。信じていたかった。
そんな俺の祈りを踏みにじるように、
C.E.73年冬、アスラン脱走事件が引き起こされた。
プラント最高評議会議長ギルバード・デュランダルのやり方に、
反発したアスラン・ザラという同僚が、
ダスティンの姉にあたるメイリン・ホークという少女を伴い、
基地からの逃亡を図ったのである。
流れとはいえ、その追撃を担ったのが、俺だった。 
アスランのことは仲間だと思っていたが、
俺は共に追撃を行ったレイ・ザ・バレルなる隊員の、
「敵なんだ彼は、彼等は!」
という言葉を信じて、彼の乗る《グフ》に刃を突き立てた。
「あんたが悪いんだ…あんたが!あんたが裏切るからぁぁっ!!」
そんな言い訳めいた言葉で、必死に自分を言い聞かせながら。
腹部だか胸だけ、もう覚えちゃいないが、
貫かれたグフは脆くもバラバラになって、海へと落ちていった。
幸い、このときはアスランもメイリンも奇跡的に助かったのだが、
それを俺が知るのは、まだ先のこと。
帰ってしばらくして、俺は彼女と会った。廊下で。
ルナマリア・ホークだ。メイリンの、そしてダスティンの姉だ。
気まずさから顔を下げて通り過ぎる俺に、
ルナマリア……ルナは急に近付いて、背中に泣きついた。
恨み言でも言われると、覚悟していたのに。
1歳年長の彼女は、果たして大人だったのか?
それとも、単に孤独に耐えられなかっただけか?
今でもそれは分からない。
泣きじゃくる彼女を、俺は抱き締めることしかできなくて…… 
ただ、俺は無力であった。それは間違いない。
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