機動戦士ガンダムSEED C.E.81 ナイルの神 作:申業
世に言う『メサイア攻防戦』。
デスティニープランと呼ばれる、
一種の管理社会の創造を提示したデュランダル議長に対し、
ラクス・クラインが反発の声を上げ、戦いは新たな局面を迎えていた。
その最後の戦いが、この『メサイア攻防戦』だった。
「だったら、どうすればいいっていうんだ?
アンタらの理想ってヤツで戦争が止められるのか?
戦争のない世界以上に幸せな世界が……あるはずがない!
だから俺はぁ!」
そう叫び、武器を奮う俺に、アスランは本気で戦おうとしない。
それを何故かと問えば、
「それは……今のオマエの姿が昔の俺に似ているからだ」
と答えた。
「俺はかつて母を殺された憎しみだけで戦いに身を投じた……
だからわかる!今のおまえの気持ちが!
自分の無力さを呪い、ただ闇雲に力を求めて……
だがなシン!その先には何もないんだ!
心は永遠に救われはしない!
だからもう、おまえも過去にとらわれて戦うのはやめろ……
明日に……未来に目を向けるんだ!」
「今さら何を!」
目を閉じ、俺は叫んだ。
「あんたが正しいっていうのなら!俺に勝ってみせろっ!」
アスランの《インフィニットジャスティス》から片腕を奪い、
月面に叩きつけてやった。
しかし、息を乱し、追い詰められていたのは俺の方だった。
「これで……やっと終わる……この戦争も……俺の戦いも!全てが!」
剣を抜いた。
「まだだ!」
アスランがそう叫び、《ジャスティス》のリフターだけが飛び、
それに驚き、できた俺の一瞬の隙。アスランは見逃さなかった。
一気に間合いを詰めたアスラン。振り上げた足には、鋭い刃が。
「くそぅ!」
左腕を破壊され、次いで上からリフターが襲いかかり、
もう片方も撃ち抜いた。
もしも、あの一瞬が……
などと考えたが、その末、口をついて出たのは、
「アスラン……あんたやっぱ強いや……」
なんて言葉で、それで、
俺は憑(つ)き物が落ちたみたいに、笑みすら溢(こぼ)れた。
俺は強さに囚われていたんだ。
強くあらねばならない。例え、友と言える存在が相手でも。
そんな俺の覚悟を、荷を下ろしてくれた。
違う強さを示してくれたことが、何故だが嬉しくて、それで……
「……別れましょう」
──それはC.E.81年、春。
夜景の見えるビルの13階のレストランで、ルナは静かに切り出した。
独り言みたいに小さな声で。
俺は彼女の髪のように真っ赤なプッタネスカを食べていた。
聞きたくなかった。聞こえないフリをして、
わざと、そのまま料理を口に運んでいた。
それでも、
「そのままでいいから……聞いて」
とルナは言って、話は続いた。
優しげに話しかけるルナが、何故だが怖かった。
フォークを握る手が動かない。ただ、小刻みに震えるばかりで。
「……この前、アスランのことを聞いたの」
恐る恐る顔を上げた。ルナは……泣いていた。
いや正確には両目いっぱいに涙が溜(た)まってていて、
必死に堪えているようだった。
「ゴメン、やっぱり……私はアスランが好きだった」
「……ルナ」
泣いていたのは、俺だった。フォークを落とした。
溢れ出す涙を止められなくて、震える指で口を抑えて、
せめて声だけは殺した。それしか、俺には出来なかった。
「もう終わりにしましょう……傷を舐(な)め合っていたって、
きっと……幸せにはなれないと思うの……お互いに」
ハッとして顔を上げる。そのとき見た彼女の顔は今も、
目の奥に焼き付いて離れない。
ルナは微笑んでいたような。それでいて悲しげのような。
言い様のない表情でこちらを見つめていた。
「上手く、いえないんだけど……
いつも、シンはどこか遠くを見ていた気がしていたの。
一緒にいるときも、ずっと……いつかの夜に、
アナタがご両親や妹さんの名前を呼んでいたのを聞いて、
思ったの……そうか、シンの本当に欲しかったものって、
もう戻らない、ご家族との毎日だったんだな……って」
伝票をサッと自分の方に寄せ、ルナは席を立った。
その去り際に、静かに、
「……ありがとう」
と呟いて……
──遡ること、C.E.80年冬。
大西洋連邦と東ユーラシア連邦を主力とする、
統一連盟の多国籍軍がオーブ本島に進軍。
後に『オロファトの戦い』と呼ばれた、このオーブ征伐最大の激戦は、
まずオーブ軍はほぼ壊滅、
多国籍軍も戦力の約30%を失った。
ユニウス戦役以来、オーブ軍に身を置いていたアスラン・ザラもまた、
愛機《ディバインジャスティス》で出動。
不運にもこのときが、
大西洋連邦による新兵器の投入時期と相成った。
プラントに遅れること6年あまり。
大西洋連邦は核暴発を招く兵器ニュートロンスタンピーダーを使用。
以後、核エンジンを採用した機体は現れなくなる。
アスランの《ジャスティス》とてそれは同じ。
多国籍軍を大いに苦しめた末、太平洋に散っていった……