監獄から解放されたと思ったら仮想世界に閉じ込められた   作:超高校級の絶望家

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グッドモーニングプリズナー

「練馬一の知将もここで終わりでゴザルか……関羽様、小生あなた様の様な英雄にはなれなかったでゴザルよ」

 

 満身創痍のガクトの目の前には彼の背丈の10数倍もあろう巨大な化け物が今にも首を掻き切ろうと自身の持つ両腕の先端にある巨鎌を振り上げていた。

 

「ガクトっ‼︎」

「ガクト君‼︎」

「ごふっ……ガクト……」

 

 まさに絶体絶命。ガクトの学友であり無二の親友であるシンゴ、アンドレ、ジョーは化け物が荒らした戦場の中身動きすらとれず、今にも消えてしまいそうになる仲間の事を涙を流しながら見ていることしかできない。

 助けたいッ。しかしもう身体を動かすことすら出来ない……。

 無限に思える数秒。絶望の中彼らは祈った。

 

 誰か……俺達の仲間を助けてくれ‼︎

 

 ガクトを見つめる化物の二対の四つ目が青い炎を燃え上がらせギシャァァァァアアアっと唸りをあげる。

 振り下ろされる巨鎌。

 シンゴ達だけではない。そこに居合わせた、志同じくこの化け物を倒す為に集まった戦士達全てが諦めた。

 そう、彼の命はここで終わるのだ。

 

「ガァァァクゥゥゥゥトォォオオオオ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「っていう夢を見たんだよ」

「つまり小生はキヨシ殿の夢の中で無残な死を遂げたということでゴザルか」

「いやいや、惜しかったんだけどな。もう首を落とされる直前ってところで目が覚めたんだよ」

 

 食堂にあるテーブルの一角に男子生徒5人が一つにかたまり昼食をとっていた。

 ここ私立八光学園は去年までは全寮制の女子校で近隣では有名であったが新理事長の就任と共に今年から男子生徒の受け入れを開始した。

 その栄えある1期生として学園に入学した男子生徒は5人。それがここにいる藤野 清志(通称キヨシ)諸葛 岳人(通称ガクト)若本 真吾(通称シンゴ)根津 譲二(通称ジョー)安藤 麗治(通称アンドレ)である。

 

 彼らは入学早々に覗き事件を起こし学園内に備えられたプリズンで辛く過酷な刑務作業を共に乗り切ったことで確かな絆を手に入れた俗に言う親友と呼べる関係であった。

 もちろんその中には拳で語り合った苦い記憶もあるが男子高校生にとってそれは青春であり学園生活におけるスパイスでしかないのだ。

 

「惜しかったじゃないでゴザル‼︎ 例え夢の中といえど小生をそんな無残に殺すなんて……人でなしとはキヨシ殿のような男を指すのでゴザル‼︎」

 

 キヨシの夢物語に憤りを感じたガクトは激しく音を立てて立ち上がり発狂する。その際に机から転げ落ちたコップが床に水を撒き散らした。

 

「ゴフッ……うるさいぞ。食事の時くらい静かにできねぇのか……」

「す、すまないでゴザル。つい我を忘れてしまい……」

 

 常時ひどい口内炎を患っているジョーが咳払いをしながら文句を言い放った。

 叱咤を受けて落ち着きを取り戻したガクトはいそいそと近くにあった紙ナプキンを使い地面を拭いていった。コップはプラスチック製のもので大惨事だけは免れたようだ。

 

「悪かったよガクト。でも俺だってあんな殺伐とした夢なんかより、千代ちゃんともっとこう……もっとこういろいろする夢を見たかったんだよ!」

 

 キヨシの弁明はもはや弁明と言うよりも自分の欲求をブチまけたものだったが、頭を冷やしたガクトは頷きながら先の件は水に流したのだった。

 

「それにしてもキヨシよぉ、体育祭終わったら告白するって言って結局いつになったらするんだよ?」

「うっ……それは、いざとなったらなかなか実行に移せなくて」

 

 体育祭、実際はこの学園に存在する2つの生徒会、表と裏の政権争いだったのだが、ある重大な使命の為裏生徒会に手を貸していたキヨシ達。

 紆余曲折はあったものの波乱の体育祭は突然終わりを告げた。

 あれから数ヶ月、慌ただしかった1学期が終わり2学期に差し掛かった今、八光学園はかつての落ち着きを取り戻していた。

 キヨシは彼の想い人である栗原 千代に告白する決心をつけた筈だったのだが、もう随分昔に感じる程の月日が経った現在も未だに実現には至ってないようだ。

 

 そう、これは原作とは違った未来を辿ったエピソード。彼らの物語は今も続いている。

 

「それにしてもあの時はビビったよな。キヨシが突然覚醒した時はよ」

「まさか花殿や会長殿に“愛してる”なんて言い出すとは小生武者震いを覚えたでゴザルよ」

「いいなー。僕はその時リサさんとの隷属関係のおかげで記憶が曖昧なんだよね」

「リサ殿に完全服従したアンドレ殿の姿はまさに赤兎馬そのものでゴザったよ」

 

 彼らが話しているのは体育祭の騎馬戦での出来事である。圧倒的な戦力差を覆すべく裏会長栗原 万里が行った苦渋の策。快進撃を続けた彼らだったが再び敵に阻まれることになる。勝利の為にある種暴走した裏生徒会書記の緑川 花はこの手しかないとキヨシの説得にはいる。

 キヨシはある事情により花の女性下着、縞パンを着用していた。そしてその時行っていたキヨシのいきり勃ったエリンギ見せつけた戦法に加え女性下着を眼前の敵に晒すことで突破口を開こうとしたのだ。

 しかしキヨシは拒む。勿論だろう。“女性下着を着用し勃起したイカれたド変態”のレッテルなんてだれが貼られたいものか。

 キヨシにとってそれは絶対に回避しなければいけない羞恥のプレイ。だがそれでも勝利を諦めない花は更に説得を続けた。その説得の中キヨシはあるフレーズに心を揺れ動かされた……“本物の勇者”という言葉に。

 

『ヒーロー! いや勇者‼︎ あいつらに目にモノ見せてやれ!』

『はい! 見せつけてやります!』

『いくぞ!』

『えぇ……思いっきりいってください‼︎』

 

 それを思い出すだけでキヨシは頭を抱えたくなった。

 バチンッとこだました彼のヒーローが腹を叩きつけた音。勢いよくパンツを下された弾みで飛び出してしまった彼のヒーロー。

 その時キヨシは自らを恨んだ。世界を恨んだ。

 そして……憤死した。

 

「ボッキヨシ…………げふっ」

「その話はもうやめようぜ」

 

 ジョーの胸神経な発言に顳顬を一度押さえたキヨシはこの話の打ち止めを提案する。

 こっちの世界に戻ってこれたのはよかったがあの一件以来大衆の面前で恥部を晒しその上女性下着まで着用したイカれたド変態のレッテルを貼られ、すれ違う女子達からは陰口まで言われる始末。まぁキヨシの衝撃が強すぎたおかげというべきなのか万里達の失態は忘れ去られ戦いを終えた裏生徒会は徐々に権力を取り戻しつつある。

 

「もうそろそろ昼休みも終わりだから教室に戻ろうぜ」

 

 シンゴの提案で各々の教室に向かう男子達。途中まで同じ廊下を歩いた彼らだったが徐々に教室に入っていき最後はキヨシ1人が廊下を歩くことになった。

 その道中にキヨシを見て顔をしかめる女子生徒は多い。最初の頃程酷くはないが数ヶ月経った今もキヨシに対する非難の目は無くなっている訳ではなかった。

 しかし彼の精神力はもはや常人を超越していた。陰口どころでは全く動じぬ強い心を手に入れたキヨシにとってはこれほどの事は造作もないのだ。

 

 だが、そんなキヨシの精神を揺らがせる存在もいる。

 ようやく目的地に辿り着こうかというところで自分の教室の前に立つ1人の女生徒を見つけ「しまった」と後悔する。

 

「人の顔みてなんで嫌そうな顔してるんだよ」

「いえ、嫌そうな顔なんて……」

 

 本来ならば自分の教室の前で待っていてくれる女子がいるなんて男子高校生にとっては最高のシチュエーションでしかないわけだが、キヨシにとってこの女生徒は違った。

 因縁……彼女とはその言葉が相応しい。入学してから今日まで様々な事があった。まさに他人には言えない“普通”の高校生が経験出来ないような事だ。

 今キヨシの表情が曇ったのには理由がある。何故なら彼女と絡むと文字通りロクな事が無いからだった。

 

「1年の教室に押しかけてなんのようですか? 花さん」

「キヨシ、アンタ今日の放課後ちょっと付き合いなさいよ」

 

 キヨシを待っていたのは緑川 花。裏生徒会書記でファンシーな雰囲気を漂わせたゆるふわ系女子。誰が見ても美少女である彼女だが空手でインターハイベスト4の実力者であり、その恐ろしさをプリズンで過ごした男子5人は身をもって体感していた。

 瞬殺の蹴りを繰り出すお仕置きに陰で“暴君”と呼ぶ彼らだがキヨシだけは花に対して全く別の恐怖を抱いている。

 花は今まで何度もキヨシに復讐しようと迫ってきた。それも並大抵ではない執念で……。そしてその度に傷口はどんどんと広がっていき2人の関係をもしも見ている人間がいれば「完全にアブノーマルなカップル」と言葉にするだろう。客観的にそう判断したキヨシはこれ以上泥沼に嵌らない為に少しでも花との距離を開けようとしていたのだが、まさか教室の前で待ち伏せされるとは思ってもいなかった。

 

「何かあるんですか?」

「あっ?ぐちぐち言ってないで黙ってついてきたらいいんだよ。アンタの部屋まで迎えに行くから授業終わったらすぐに部屋戻りなさいよ」

 

 有無を言わさず用件だけ伝えるとフンっと鼻を鳴らし自らの教室に戻っていく花。その後ろ姿を見て何かまた大変なことになりませんようにと神様に祈りながらキヨシは大きく溜息をつく。

 

「溜息なんてついてどうしちゃったの?」

 

 背後から声をかけられたキヨシはゆっくりと振り向く。するとそこには彼の想い人である栗原 千代が少し心配そうな顔をしてこちらを伺っていた。

 

「いや、なんでもないよ。さっ、次は数学だったかな」

「溜息なんかついてたから何かあったんだと思ったよ。元気そうでよかった」

 

 千代の素敵な笑顔を見るだけで先までの憂鬱な気分は吹っ飛んでしまったキヨシは少しオーバーに腕を回しながら自分の席に向かう。

 

「そうだキヨシ君、来月にまた学生相撲大会があるんだけど今回も一緒に行ってくれないかな? やっぱり相撲に興味ある人と行きたいなって思って」

 

 彼女の笑顔はキヨシにとって最高の栄養剤だ。勿論断る理由なんてないだろう。告白すると決めてからは少し怖気づいてなかなか声をかけられなかった千代からの誘いなのだから。

 

「絶対いくよ! なにがあっても‼︎」

「なにがあってもはダメだよ! 大事な用があったら断ってくれていいからね。でもよかったぁ。キヨシ君とだったら私も凄い楽しいし」

 

 あぁ、なんて幸せなんだ。こんな時間が永遠に続いたらいいのにと思った矢先、丁度チャイムが鳴りキヨシの甘い願いは数学教師の入室により終わってしまった。

 しかし、思いもしなかった千代とのデートの約束を果たしたキヨシは少し顔を高揚させいつも以上に気合をいれ授業に取り組んだ。

 

 千代ちゃんとデート。俺はこのデートで絶対に告白してみせる‼︎

 心の中で決意したキヨシはふと昨夜見た夢の事を思い出す。

 

 凄いリアルな夢だった……ガクトが死ぬ?

 なにか良くないことが起こらなければいいけど。

 

 キヨシはふとそんな事を思ったがそれよりも来月のデートが大事だと一度頭を振って数学教師の授業に耳を傾ける。いくら優しい千代だからとはいえ成績の悪い男の事を好きになってくれるとは思えない。先ずは目の前の事を必死にこなそう! そう思ったキヨシは授業に真剣に取り組む。

 

 その時キヨシはまだ予想だにしていなかったのだ。あの夢が彼らの未来を予知していたものだと…………。

 

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