隷属者の喜遊曲~私が凡人から無能になるまでのお話~ 作:丸焼きどらごん
私は属性というものが嫌いである。
神の贈り物なんて言葉で着飾ったそれは、私にとってはただただ忌まわしき隣人でしかない。
しかしいくら嫌おうと、厭おうと。
私たちはそれとうまくやっていかなければならないのだ。
だから今日も私は隣人に首輪をつけて飼いならす。
いつかどちらが主人か分からせてやるために。
昼間だというのにのっぺりとした濃い闇が地面に張り付く、灰色の壁に囲まれた閉鎖的な場所。春先だというのに吐く息は白く、羽織った外套を掻き合わせても薄着の私には少し寒い。この閉鎖結界の特性だろうか。
奇妙なほどに静寂で包まれたそこで、私はひときわ明るい声を響かせた。
「アノマン様、毎度のご贔屓ありがとうございます! 良い取引でした。今後もご愛顧いただけましたら幸いですわ」
そう言って頭を下げるも、取引相手の男の興味はすでに私に無いようだ。私が売った魔石を筒のような器具を覗いて無言で見聞している。
ちなみにこの場所で取引をする際、男は一言も言葉を発していない。
……別にたぶらかそうなんて思っちゃいない。けど取引を円滑に進めようと、少しでも相手にいい印象を与えようって磨き上げた容姿や鍛え上げた表情筋での満面の笑みを無視されるのは、あまり気分が良くないわ。愛想笑いしろとまで言わないけれど、ご苦労さまのひとつでも言ったらどうなのかしら。
まあこいつらに愛想なんてものを求めるのが、そもそも間違いなのかもね。私としてもお金をもらえたら、まあそれでいいわけだし。
…………とか考えていたら、何やら男の口が動いた。
しかしその口からこぼれ出たのは、私が期待しているようなものではなく……。
「ああ、なんと……いいな……素晴らしい……良い石だ……これを……ビュラニウムと……銀氷液で反応させて……豚の頭に……そうだな……あの……十四歳だったか……ちょうど仕込みはすんで……いたし……あの……雄の骨髄を加えて……皮を剥いでおいた雌の子宮に…………眼球と……すりつぶした睾丸……牛の膀胱も……フフ……私の唾液と汗も混ぜよう……媒体は華やかな……ほうがよい……骨を砕いてよく叩いて……リボンにするなら……腕と脚……どちらがよいか……迷うな……叩くときに……破損しないよう……皮には先に術を………………人の子の皮膚は……もろすぎるからな……フフフフフ……嗚呼………………楽しみだ……」
「ご利用ありがとうございました。失礼します」
恍惚とした表情でブツブツと独り言を紡ぎだした男を前に、私は簡潔に挨拶を述べると笑顔のまま速やかに方向転換した。さっさと立ち去ろう。
(なにかおぞましい単語がちょいちょい聞こえた気がするけど、あんなものすぐに忘れるに限るわね。消去よ、消去)
慣れたといっても、気持ち悪いものは気持ち悪い。私は一般的な感性の持ち主なのだ。
少しうんざりしながらも、商品と引き換えに手に入れた革袋には笑みがこぼれる。中からは金属のこすれる音がして、ずっしりと重いそれが今回の報酬だ。今回は少し危ない橋を渡ったけれど、仕入れてきたかいがあったわね。
お金って、素敵だわ!
だけどせっかく明るくなった気分に、最後の最後で水を差す声。……取引相手の男が、初めて私に向けて言葉を発したのだ。
「いい仕事だったぞ、凡骨トリリア。次も期待している」
首筋に突如垂れた生ぬるい水のような声に、ぞわぞわと悪寒が這い上がった。
だけど私は客の前で笑顔を絶対崩さない!
「…………。いやん、トリリア嬉しい! ありがとうございますぅ! 次回も頑張っちゃうゾ! えへ!」
ぶっ殺すぞテメェって言わなかった自分を褒めたい。私偉い。褒めた。
あの男、せっかくいい気分だったのに最後の最後で落とすんじゃないわよ!! 一言余計だ、一言!! 褒めるなら褒めるだけにしろ! 気分上がるどころか下がったっつーの!! 気色悪さと怒りを抑えるために頭悪い返事しちゃったじゃない!!
「ああ。そうだ、お礼に客を一人紹介しよう。また声をかけられることもあるだろうが、その時は対応してやってくれ。私の考えを理解してくれる可愛い教え子なんだ」
「そ、それは光栄です」
金蔓が増えるのは嬉しいけど、こいつの弟子か……。気持ち悪そうだな……。
いっそコンフーロ様くらい非常識を自らの常識として正気でいてくれてる方なら、一周回って仕事相手としては付き合いやすいんだけどな。怖いけど。
私は少々ひきつった笑みを浮かべて、それでもなんとか繕って礼を言うと今度こそ……その場を後にした。
……私の表情筋も、まだまだね。
私の名前はトリリア・アルフレインズ。由緒正しい、アルフレインズ伯爵家の次女である。
……まあ由緒正しいと言ったって、婿養子のお父様は成り上がりみたいなものだけど。だけど特異な属性を抜きにして、あの弁舌と商才「だけ」は尊敬してるわ。わが父ながら、よくもまあ伯爵家なんかに取り入ったものよ。
そして私には、輝かしい出身に似つかわしくない不名誉なあだ名がある。
”凡骨トリリア”
この呼び名とは、忌々しいことにずいぶんと長い付き合いだ。魔法学校の時が最初だったから……かれこれもう十四年くらいか。
この仕事についたあとも何処で漏れたのか。……気づけば取引先でまでそう呼ばれるようになっていた。
まったく腹が立つわね! 誰よ広めた奴!!
まあ出身に似つかわしくないと言えば、あだ名なんかよりもっと似つかわしくないのが今の仕事なんだけどね。思いっきり実家に唾はいてるわ。
私たちは【属性】という名の神の祝福をもって生まれてくる。その数は膨大で、教会に属さない私はその全容を知らない。
でもそんな私にだってわかることはあるわ。それが何かって、祝福なんて言われてるけど、ど~したって属性には当たりはずれがあるってこと。
このアライメントは宗教国家だし、アトリ教や特殊部隊サルバシオンの裁きが怖くて誰もが口にはしないだろうけど……。神様は不公平なくそ野郎に違いないと、そう思ってるのはきっと私だけじゃないはずよ。まあ属性を持たないノンマンよりはマシなんでしょうけどね。私も見識を広める中で幾度か彼らを見てきたけど、その扱いったら酷いものだった。別に私個人での嫌悪感は無いけれど、今後も進んで関わりたくは無いわね。
でもそんなノンマンは除くにしても、私はきっと属性運が無かった方の人間。
きっと生まれる場所が違ったら、良くも悪くもない属性だったのだろう。しかし貴族の家に、それもこの国の貴族らしく属性至上主義の両親と優秀な兄弟の末っ子に生まれたことが、不幸の始まりよ。
『お前はそんなことも出来ないの?』
小さいころから、そう言われるのが嫌でたまらなかった。もっと言えば腹が立った。煮えくり返っていた。それを十八年も我慢していたんだもの。自分を褒めてあげたいわ。
私は人の数倍頑張らないと、望んだ結果を得ることができない。勉強も魔法も、あらゆる全てが生まれ持った属性に制限されてきた。そういう属性なのだ。
…………ああもう、【凡】って何よ、凡って!
それでも生まれ持ったものだしと、賢い私は早々に意識を切り替えてそれを補う努力をした。今となっては糞くらえだが、私なりに優秀な家族を誇りに思い、家の名誉を傷つけまいと頑張ったわけだ。幼いころからの教えで当然のごとく属性を崇める思想に染まっていた私にとって、素晴らしい属性を持つ父や母、姉や兄は憧れだったから。
いつか認められようと、必死だった。
怒りを憎しみを押し込めて、馬鹿にされながらも自分なりに研鑽した。
だ・け・ど!!!!
周りが「平凡な才」だの「凡庸極まりない」だの「能力相応に凡俗な考えだ」だの、凡、凡、凡と!! 繰り返し繰り返し馬鹿に、して! 馬鹿にしてぇぇぇぇ! うるっさいのよぉぉぉぉぉ!! おかげさまで、何事も! やることなすこと! 平均値から抜け出せない凡人に育ったわよ!! あれは属性のせいだけじゃない。洗脳だわ!! それでも私は頑張ったのに、潜在意識に自分は平凡だって刷り込まれたせいで、どうしたって何するにも苦手意識がついてまわったわよ!! よくもまあ、認めてほしくてけなげに頑張る可愛い子供にあんなこと言えたものね!!
しかもせっかくの二属性持ち、デュオだっていうんのにもう片方の属性が【傍観者】ってふざけてんのかしらと。お兄様とお姉様なんてトリオの上にそれぞれ人生を謳歌する上で有利な属性ばかり。
属性を贈ってくれた神様って本当に不公平で意地悪だわ。だからアトリ教も、属性自体も、好きじゃないのよ。というか嫌いまでいくわね。
まあそんなわけで、なんだかんだと鬱憤が積もり積もって爆発した結果。
私は七年前に家出して、アトリ教の敵対組織に物資を売りさばく闇商人なんかになったわけだけど。
常に命の危険はあるし、サルバシオン怖いし、そもそも取引相手がやばいけど……。屈辱で平坦で起伏のない、そんな人生の中で属性に飼い殺されるよりマシだとこの仕事を選択した自分が私は好きよ。後悔なんかしてないわ。
でも変人相手に常識人な私がちょっと疲れてしまうのは、ご愛嬌ってもんよね!
あ~あ、今回も疲れたわ!
「決めた。今日は、飲もう」
私と客の取引に利用される場所は、足がつかないようにその時々で様々だ。今回はいかにも後ろ暗いことに適していますと言わんばかりのスラムの裏路地だった。
取引相手の空間魔法で遮断されてたから暗いし寒いしで、いつにも増して憂鬱だったわね……。いや、あんな魔法使えるならもっといい場所選びなさいよ。冷えちゃったじゃない。
抜け出た今も薄暗いじめじめした路地であることに変わりないし、慣れたといっても未だにスラム街が好きになれないわ。ほら私って、お嬢様だし。
だからこんな陰気な場所からは早々に立ち去りたかったけど、今日はこのまま飲むと決めたので私が向かう先はひとつ。スラムのさらに深部だ。
吹き溜まりのようなみすぼらしい道を抜け、逞しそうな蔦が這う寂れた石壁の前に立つ。腕をあげ、身に着けていた腕輪に刻印された文様を石壁に押し当てた。
すると押し当てた部分から壁に光の線が走り、複雑な模様を描いた後に、一つの文章を浮かび上がらせる。
『ようこそ、セイレンスの隠れ家へ』
光が消えると、壁には樫の木で作られた艶やかな扉が出現していた。真鍮のドアノブを回し中へ入ると、長い階段が下へと続いている。
私は慣れた足取りで踏み入ると、少々乱暴に扉を閉めて階下の闇へと歩を進めた。
しばらく暗い階段を降り、たどり着いた場所は高級感がありながらも人を寛がせる落ち着いた調度品に囲まれた酒場。うすぼんやりとした魔法灯に照らされた空間は、非日常感を演出している。
ちなみに通ってきた扉と階段には空間魔法が使われているため、私も未だにここが何処にあるのかを知らない。
このセイレンスの隠れ家という酒場は裏の人間御用達、しかも店に入れるのは高額な入会金を支払った数少ない人間だけ、という高級店だ。
裏の人間で金持ちっていうのは全体数に対してほんの一部だから必然的に本当の意味でやばい人間が集うことになるのだが、その分、客同士のいざこざを起こさぬために魔法的な面からもあらゆる対策がされている。
だから店主を信用できたならば、ここ以上に愚痴を吐き出すのに適した店は無い。気分が悪くなったら多少金を出してでも来る価値がある場所だ。
「セイレンス~ぅ。私だってね、苦労したのよ。だって、まず商人としての信用がにゃいんだもの。おとーさまのしごとを見て、目利きには自信があったけど、でもでも、じっせきも、おかねもまんぞくになかったのよ。そこから私、がんばったとおもわない? ひっく」
「ああ、頑張った、頑張った。偉いぞ」
早くもへべれけになった私に、店主のセイレンスの対応はおざなりだ。だけどこの適当な感じが、私としても気を使わなくてすむので実に良い。もともとセイレンスは私の客でもあったし付き合いもそこそこ長いから、この業界では数少ない気心知れた間柄ってやつね。お互いに深入りこそしないけど。
薄いグラスに注がれた、うっとりするような芳香を放つ紺碧の美しい酒。これは度数のわりに口当たりが軽くて、すいすいと飲めてしまう。……流石【結】の属性持ち。素材と素材の良いところを結びつけるのも上手いのよね~。複数の材料を合わせているのにこの一体感、最初からこういうお酒だったみたい。私もこんな属性だったらよかったのに。
「ほんっとうに、がんばったのよ~。家から持ち逃……ありがたく頂戴したお金なんて、いざ商売しようとおもったら微々たるものだったんだもの。世間知らずをおもいしったわ」
「世間知らずという自覚はあったんだな……」
「そりゃ、まあねぇ……。この界隈にぃ、私みたいなおそだちのいい人間が入ること自体少ないでしょうし~。でも七年でここまでになったわたし、すごくな~い? えへへ~」
「ああ、凄い凄い」
「でっしょ~! ろくでもないと思ってたぞくせいも、考え方しだいってもんよぉ。己の属性への理解をふかめるべし! これだけは至言だと思ってるわ~ぁ」
「いや、だからと言ってお前の使い方は少しどうかと思うが……」
「あによ、いいじゃにゃい。わたしはねぇ~傍観者よ~? 幸運も平均ー不幸も平均ー。主役になれないー。つまらにゃいじんせーい。だったら~ぁ、舞台の主役並みにすっご~い人たちのぉ、おこぼれもらったって~、ばちはあたらないのよ~。せいとうなけんり~んふふ~」
そう、私は現在【凡】と【傍観者】という属性を活かして、早い話が強い人間のおこぼれを掻っ攫う方法で商売を軌道に乗せているのだ。まあおこぼれと言ったって、その強い人間におこぼれが発生するような状況に突き落としているのは私なんだけど! ほほほ!
状況さえ作り上げれば、傍観者たる私は劇的な物語をその傍らから見守るだけ。傍観者とは、手を出さず見ているだけの者のことだ。見ているだけで、参加しない。もしくは参加できない。そして傍らで見ているだけという事は、その気になれば俯瞰的に全体を把握できる。私はそうして己の利益になるものを探し出し、自らの糧にする。
こうして、私は嫌いな自分の属性を飼いならしているのだ。
由緒正しいお貴族様。
私って本当に、そこに生まれたことが、そもそもの間違いだったのよね。かといって裏社会の大半を占める最下層に生まれたかったかと言われたら絶対に嫌だけど。でも、中流層くらいだったらもっと心穏やかに、うまくやっていけていたと思うわ。
平均的に、適度に。幸せでそれなりの不幸と付き合っていく人生なら何も問題がなかった。だけど周囲が優秀なばかりに、平均値は落ちこぼれと言い換えられた。
十二歳で「少しでも役に立つようその凡庸な才を磨け」な~んて言葉と共に突っ込まれた魔法学校でも、成績は可もなく不可もなく。私よりよっぽど成績が悪い奴はいっぱいいたのに、お兄様お姉さまのせいで「凡骨トリリア」なんて不名誉で呪いのようなあだ名をつけられた。……まあ、我慢の限界だったわよね。卒業と同時に持てるだけのアルフレインズ家の私財をかっぱらって家出してやったわよ。私の華々しい闇商人への第一歩としては、コソ泥みたいでちょっと情けなかったかしら。
まあ苦労はあったけど、家を出てから私はようやく自分の属性との付き合い方を少し知れた。だからこうして、今のちょっと小金持ちなトリリアちゃんがいるわけよね。
ちょいちょい非合法なこともやってきたけど、っていうかほとんど非合法なことしかしてないけど、要はばれなきゃいいのよばれなきゃ。
店に来てから数時間は経ったのかしら? でもまだまだ帰りたくないのよねぇ。むしろなんか今日は乗ってきた!
不満を吐き出し褒めてもらったことでふわふわと上機嫌になった私は、バンっとカウンターに手をついて立ち上がる。そして舞台役者のように両手を広げて、酔った勢いのままに高らかに言い放った。
「ああ、トリリアはわるい子です! でも私は今がたのしくてしかたがない! だからかみさま、許してね!」
大きな声を出したからか、セイレンスは迷惑そうな顔だ。……ああ、気づかなかったけど今日は他にも客がいたのね。セイレンスの魔法のおかげで声は聞こえないだろうけど、この大ぶりな動作だけでも店の空気を壊してしまったかもしれない。だから私は「ごめんごめん」と謝って、少し冷えた頭で改めて席についた。
ふいに、視線を感じた。
奥の席に座る他の客だろうかと、魔法の効果で男か女かの全容すら見えないと知りながら私も視線をなんとなく向ける。
だけど霞がかって見えないはずなのに、確かに私はこう感じた。「目が合った」と。
それが何故か異様に気持ち悪くて、一気に酔いがさめた。……興がそがれたわね。そろそろ帰ろうかしら。
私はセイレンスに先ほどもらったばかりの報酬から現金で支払いを済ませると、足早に店を後にした。
そして店から出て歩くことしばらく。私なんかよりも数倍優れた魔法を扱う相手から買い取った、魔法弾入りの魔銃を抜き放った。
「失礼。私はとても弱いから、こんな体勢でごめんなさいね。お客様、かしら?」
私の問いかけに、店からずっと付きまとっていた粘り着くような視線の主が姿を現した。
現れたのは赤茶色の髪の毛を丸っこく整えた若い男。整えている割には前髪が長くて、目元が見えない。……嫌ねぇ。人の感情って目に出るから、こういう相手は嫌いなのよ。読みにくいわ。
「うん、お客様だったよ。そのつもりだった」
男の言葉になんと返したものかと考えあぐねる。そしてひとつ思い当たり、さらに問いかけた。
「もしかして、アマノン様のお弟子様ですか?」
「そう! 彼に君を紹介してもらったんだ! だけど実際に君を見て気が変わった。君はやってる仕事のわりにとても俗的でつまらない人間だよね! 僕、嫌いだな!」
喧嘩売ってんのかこのガキ。
額に青筋が浮かぶをの自覚するも、相手は大事なお得意様の関係者だ。どうして嫌いな相手をつけてきたのか不明だが、ここは穏便に対応してお引き取り願おう。
しかし男は私が口を開く前に、一方的にしゃべり倒してきた。会話をする気はないのだろうか。
「でもさ、だけどね、僕は、君の容姿がとてもとても気に入った! 可愛いね、素敵だね、綺麗だね! 雪原みたいな白い肌には、艶やかで長い黒髪がとてもよく映えるよ! 全部僕のだって全身くまなく唾液をつけてあげたいな! 嗚呼、嗚呼、それとね、葡萄酒みたいな赤みがかった紫色のその瞳、飲み干してしまいたい! 穴の開いた君の顔もきっと神秘的で麗しいこと間違いないもの! サンゴみたいな可愛い唇は切り取ったら勿体ないかな? でも食べたらきっと美味しいよね! 唇は僕の好物のマシマロみたいだって、アマノンくんが言ってたから! その白くて細い指に手を絡めたらきっととても気持ちいいね! 臓物を引きずり出してひっかけたら、それはきっと芸術だ! ああ、もう! 素晴らしいよ! 君は頭の先から足の指の先まで僕の好みだ! だから結婚して! 結婚しよう! 結婚した! 僕の花嫁! 愛してる! 外見だけ! 今日から僕らは夫婦だよ!」
銃に入ってた魔法弾全部叩き込んだ上で全力で逃げた。駄目だこいつ関わっちゃいけないやつ!!!!
「ダメだよ逃げちゃ!」
「!? な、なんで……」
だけど結構な私財をつぎ込んだ魔法弾をものともしなかったそいつは、走っていた私の背中にべたりとくっついてきた。たまらず私は地面に倒れこみ、次いで首に巻き付く男の節くれだった生暖かい手の感触を感じる。……吐きそう。
「君はこれから花嫁修業をしなくちゃ! だって君の中身はとてもとてもつまらないからね!! だけど安心して!! 僕が君を中身も素敵な完ぺきな女性にしてあげる! さあまずは、そのつまらない属性を引き剥がそうか! 僕にふさわしくないからね!」
言葉と共に、頭を鈍器で殴られた。
それが、私が【凡】と【傍観者】の属性持ちだった日の最後の記憶である。