殺生丸転生in鬼太郎   作:さくい

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その名は

「殺生丸?」

 

 ゲゲゲの森にあるツリーハウス。その室内には家の主人である鬼太郎を筆頭に父親の目玉オヤジ、猫娘、子泣き爺、砂かけ婆、そして窓から中を覗いているぬりかべの6人の妖怪がいた。

 其々が大なり小なり傷を負っているのは、昨晩出来た人間の友人の犬山まなが妖怪城の礎にされたのを助けに行った時のことである。

 

 犬山まなの救援を受けて妖気渦巻く妖怪城に突入しようとした鬼太郎達。そこで見たのは天守閣に大穴が空いて、見るも無残な姿になった妖怪城だった。

 加えてその穴の付近にいたたんたん坊は細切れにされ、かまいたちは毒でグズグズに溶かされ、二口女は真っ二つになっていた。

 

 たんたん坊は何事もなく復活して鬼太郎達の邪魔をしたが、何故かかまいたちと二口女はグジュグジュとケロイドの状態に溶けていってただ不気味に蠢くだけで復活する事はなかった。

 

 

 たんたん坊を凌ぎながら地下に向けて空いた穴を辿り、その過程でたんたん坊を床に叩きつけて道を拡張していった。

 そうして地下へ続く床を壊した時である。砂煙の隙間から何かが見えた。軽く見ただけでも理解した、そこに居たのは捕食者だった。

 

 犬山まなを片手で抱き上げて片刃の大剣を片手に持つ、雪のようなロングストレートで白を主体にした小袖の様な服と袴を身に纏った美丈夫。

 その妖怪から放たれる妖気は鬼太郎が今迄に感じたどの妖気よりも強大で、鋭かった。

 

 一瞬呆気に取られるも犬山まなを抱えているのを見て、連れ去ろうとしていると即座に判断。鬼太郎は攻撃を開始する。

 

 髪の毛針、霊毛ちゃんちゃんこ、リモコン下駄、体内電気。

 

 自身が信頼する技を駆使したが、その全てが児戯だと言わんばかりに簡単に蹴散らされた。

 

 このままでは勝ち目は薄いと悟った鬼太郎は仲間達に時間稼ぎを請い、最大威力の指鉄砲を放とうとしたその瞬間。

 

 相手は大剣を薙ぎ、その薙いだ剣筋から強烈な衝撃波が放たれた。

 

 仲間達から避けろと言葉を掛けられるが、自身の後ろにいるのはその仲間達である。

 

 仲間達を見捨てる事が出来なかった鬼太郎は、少しでも仲間達に向かう衝撃波を抑えようと霊毛ちゃんちゃんこで防御姿勢を取って意識を失った。

 

 

 次に目覚めたのは、囚われている筈だった犬山まなに起こされた時だ。

 そして語られたのは彼の妖怪に助けられたという事実だった。

 

 たしかに犬山まなにはこれといった怪我はなかったし、彼女を汚さないようにご丁寧に風呂敷を敷いて寝かされていたという。

 

 思っていた事と違う事実に混乱したが、何はともあれ無事に解決という事で犬山まなと友好を交わし、そこら辺に転がされていた子供達を家に帰して鬼太郎達はゲゲゲの森に帰還した。

 

 

 

 そして今は砂かけ婆から昨夜に遭遇した麗人について話を聞かされていた。

 

「そうじゃ。今で言う平安時代に西国を支配していた犬妖怪の倅でな、それはそれはいい男じゃった。冷たい態度ながら妖怪や人に分け隔てなく接し、かと思えば敵対する者には何処までも残酷でのぉ。今風に言うならクール系男子か。普段の表情は冷たくて冷酷なのに、その実心根は優しく時折見せる微笑みは輝かんばかり。当時は童女から枯れた女まで夢中になったものじゃ」

 

 うっとりとした表情でそう語る砂かけ婆に辟易しつつ、鬼太郎は話の続きを促した。

 

「それで、具体的には?」

 

「ふむ、戦闘能力は父親をも凌ぎ最強と謳われた実力者じゃった。一振りで百の妖怪を蹴散らす人の鉄砕牙、一振りで百の命を救う天の天生牙、一振りで百の亡者を蘇らせる地の叢雲牙。この三本の刀を扱える者はこの世の覇者となれると伝えられる程の天・地・人の天下覇道の三本の妖刀に加え、その文字通りに全てを砕く爆砕牙をも持っていたんじゃ。しかもこの4振りの妖刀を真に使い熟す実力もある。思い出すだけでもあの戦いぶりはうっとりするわい。いつの頃からかぱったりと話を聞かなくなって死んだと噂されてたんじゃがのぉ、生きておって何よりじゃ」

 

 そう締め括った砂かけ婆の表情はうっとりから、正しく恋する乙女のものになっていた。それを見た子泣き爺が嫉妬を感じたが、それは誰にも気づかれなかった。

 

 砂かけ婆の話から統合するに人間にも妖怪にも差別なく接する超強い妖怪、ということになる。加えて女にモテる。

 

 そこまで考えた所でふと気づいた。

 

 砂かけ婆は如何にも知り合いという風に話していたが、ならば何故その殺生丸は砂かけ婆をも攻撃したのか。

 そう問うた鬼太郎に砂かけ婆は答えた。

 

「そりゃあ、あれじゃ。あの頃の儂は花も恥じらう乙女でのぉ……話しかける事が出来ずに、何時も物陰からこっそり見ていたのじゃ」

「その頃からババアだったくせになぁに言っとるんじゃ砂かけ」

「やかましいわ子泣き! 女は何時迄経っても乙女なんじゃ!」

 

 何時もの喧嘩を放っといて鬼太郎は父親である目玉オヤジに話し掛ける。

 

「父さん、殺生丸という妖怪は何故今更になって姿を現したのでしょう」

「さあのう、わしも殺生丸という妖怪についてはそこまで詳しくはないんじゃ。じゃが伝え聞く話では、一部の地域で守護神として崇められていたらしいのぅ。砂かけの話と合わせれば、鬼太郎と同じじゃ。という事は鬼太郎の先輩に当たるのう」

「はあ、そうですか……」

 

 カラカラと笑う父親を眺めながら、鬼太郎は殺生丸と対峙した時の事を思い出して自分も強くならなければと思った。

 

 

 

 ーーー

 

 そんな話がされているとは夢にも思っていない殺生丸は、昨夜助けた女の子の家にお邪魔していた。

 

 再会はほんの偶然だった。金が無く、金を得る手段も考えつかずにふらふらとウインドウショッピングをしていた時の事である。

 

 電気屋のテレビに映っているニュース番組を眺めながら、八百屋のおばさんから貰った林檎を現代人の努力すげーと考えながらうまうま食べていると戸惑い気味に話し掛けられた。

 

「あの……」

「……」

 

 振り返った先にいたのは昨夜助けた女の子だった。

 思わず噛り付いたまま黙って見ていると、女の子はいきなり頭を下げた。

 

「あの、昨日は助けてもらってありがとうございました! 」

「……気にするな」

 

 出会い頭に感謝の言葉をぶつけた女の子に面食らいつつ何とか言葉を発して、続く言葉が見つからずに視線をテレビに戻した。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に会話はなく、さりとて落ち着いた雰囲気とは程遠い微妙な空気が二人の間に流れた。

 殺生丸は傍目では泰然と構えているが内心ソワソワし、女の子に至っては明らかに挙動不審になっていた。

 そうこうしている内に林檎を食べ終えた殺生丸が、近くに設置してあったゴミ箱に芯を投げ込んだ。

 

「ではな」

「あ、待って!」

「……なんだ」

 

 思わずという風に去ろうとした殺生丸の服を掴んで引き止める女の子にクールに返す殺生丸。だが実際は、女の子に服を掴まれて引き止められるという胸キュン体験をして心臓バクバクである。

 更に上目遣いで話すというコンボでノックアウト寸前だ。

 

「私、犬山まなっていうの。あなたは? 」

「……殺生丸」

「殺生丸、殺生丸……あ! せつ(にい)って呼んでいい!?」

「……好きにするがいい」

 

 女の子改めまなにそう聞かれて心の中で悶絶する殺生丸。まなの高過ぎるコミュニケーション能力に戦慄しつつ、何故こんなに懐かれているのかと疑問に思う。

 たしかに昨日助けはしたが、それだけでここまで懐かれる事はないだろう。ならば何故こんなに人懐こい笑顔でせつ兄と呼んでくるのか。なんなら犬耳と尻尾を幻視する程の懐き具合である。

 疑問に思いつつも聞く勇気を持てない殺生丸はどうにでもなれと思いながら返事をした。

 

 

「せつ兄は此処で何してるの? よかったら少しお話ししようよ!」

 

 

 殺生丸はまなの提案を振り払う事なく頷き、まなに連れられるままに近くの公園に行ってそこで色々と話した。

 まなの事、鬼太郎と呼ばれていた小僧の事、最近妙に妖怪絡みの事件に遭遇する事、そして殺生丸が行く当てもなくふらふらしている事。

 

 そしてホームレスな殺生丸の話を聞いて、まなは思った。

 自分を助けてくれた妖怪が行く当てなく彷徨っているのなら、自分の家に泊めればいいじゃない! と。

 

 無論まなとて中学生だ。

 男と女の因果関係は理解している。実際にそういう目を向けられたことがあるし、それで嫌な思いもした。

 

 だが殺生丸からはそんな情欲の眼差しを向けられなかったし、彼が優しい妖怪だという事は昨夜の事と今日の会話で理解した。

 それどころか彼から感じる眼差しは一見冷たいながらも優しさに満ちている。そんな目で見られて気恥ずかしくなりながらも、まなは殺生丸を家に招いても問題ないと判断した。

 

 断ろうとする殺生丸を強引に捩伏せ、袖を引っ張って立たせて自宅に向けて歩き出す。

 殺生丸は諦めたのか抵抗する事なく付いて来てくれた。

 

 

 そうして現在、まなの家に到着。

 まなの両親がなんて言うかひやひやしていた殺生丸は、親子の会話に呆気にとられた。

 

「お母さん、この人せつ兄っていうの! 今日家に泊めていいでしょ?」

「まなのお友達? あら、随分と綺麗な人ね。勿論いいわよ」

 

 娘の具体性に乏しい内容と母の能天気とすら言える即断。

 それで良いのかよと思いながらも、犬山母子に逆らう事なく有り難く泊めさせてもらった。

 

 余談ではあるが、父親が帰ってきて紹介された時の言葉が「幾らイケメンだからってまなはわたさーん!! 」であった。




お父さんが西国を支配していた時期がわからなかったので、平安時代に支配していた事にしました。
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