犬山家にお世話になって数日が経過した現在、殺生丸はまなの母親である純子の隣で目玉焼きとウインナーを焼いていた。
「殺生丸君、そっちの方どう? 」
「もうすぐ出来上がる」
「了解、それじゃあ私はご飯とお味噌汁並べておくわね」
「ああ」
純子の言葉に返事を返しつつ、焼きあがった目玉焼きとウインナーを皿に乗せていく。
自分より遥か年下の女性に君付けで呼ばれる事に何とも言えないむず痒さを感じるが、殺生丸が妖怪だと欠片も思いもしない純子からすればちょっと不思議な雰囲気を持つ年下の男の子だ。
まさか自分から自分は妖怪です何てアホな事をほざこうとは思わない殺生丸は、君付けを甘んじて受けながら朝食の用意を進めていく純子の後ろ姿を見つめて思う。
こんなに美人で家庭的で、強気でありながらも確かな優しさと母性を持つ人を嫁にするとは祐一も中々の猛者だなと。
一体どうやって純子をオトしたのかを疑問に思いながら、皿に乗せ終わった3人分の皿を食卓テーブルに運んでいった。
余談だが、一家の大黒柱である祐一は大事な会議があるとの事で早朝から仕事に出ている。
──
一方、殺生丸に見送られて食卓テーブルで準備をしている純子は、ふと息子がいればこんな感じかしらと考えに耽っていた。
まなが言葉をぼかしながらも遠回しにホームレスと言って連れてきた殺生丸。ホームレスにしては異様に清潔で、今までの人生を振り返ってもお目にかかったことのないイケメン君。見た感じ20代の男の子。
基本的に物静かだが話しかけられればしっかりと返答するし、居候しているという申し訳なさからか積極的に家事を手伝ってくれている。
それどころか、自分と夫がいない時は家事全般を殺生丸が担っているくらいだ。
そしてよくまなに宿題で分からない事を教えてくれている。古文限定だが。
殺生丸が泊まることを笑顔で快諾した裏でまなに悪影響や害がないかを観察していた純子は、それらを考慮して結果的に害無しとして殺生丸を受け入れた。
寧ろ殺生丸の事を気に入った純子はまなと結託して、殺生丸が家を出ようとするのを何だかんだで押さえ込んでいる。
幸い自身と夫の収入を考えれば1人や2人養うのはどうって事ないのだ。
いっそのこと本当に息子にならないかしらと考えながら、丁度お皿を持ってきた殺生丸にまなを起こしてもらうように頼んで準備を終わらせる。
少しして軽く身支度を整えたまなと殺生丸が席に着き、3人でいただきますをして朝食を食べ始めた。
「……」
「ありがと、せつ兄」
「ああ……」
殺生丸が何も言わずに、丁度醤油を欲しそうにしていたまなに手渡した。
それを見ていた純子は2人の阿吽の呼吸に1人無言でニヤリとする。
年の差婚なんて今時珍しくはないのだ。あわよくばこのまま殺生丸とまなが良い関係になる事を願いつつ、その前に殺生丸には定職に就いて貰わないとと考えながらニヤニヤする。
「お母さん、どうしたの? ニヤニヤして」
「え? あ、別になんでもないのよ? ちょっと思い出し笑いしてたのっ」
「ふぅん……?」
慌てて言い繕っている様な純子の様子に不自然さを感じながらも、一応納得するまな。
まなが納得したのを見てほっと一息吐いた純子がふと視線を上げると、殺生丸と目が合った。
「ど、どうしたの? 殺生丸君」
「いや……」
一言そう言って手に持っている茶碗に視線を移した殺生丸を見て、頬につうっと汗が一筋流れたが殺生丸が特に何かを言う気はないと察して肩から力が抜けてふとテレビに視線がいった。
テレビにはビビビ電気なる新しく出来た会社の特集がされている。
なんでも、今までにない程の格安料金で電力供給をしておりビビビ電気に変える人達が加速度的に増えているとかなんとか。
「電気代が安くなるのは助かるわねぇ」
「でも、何処と無く胡散臭いような……」
「たしかに、成金みたいな格好の社長よねぇ……何も考えないでお金使い過ぎて破産しちゃうタイプかも。まあ、うちは今まで通りでいいわよ」
その言葉を最後にまなと純子からビビビ電気についての話題が上ることはなく、テレビは次のニュースに移っていった。
──
ある日の夕方、雄一から借りた本をソファーで読んでいる殺生丸の背中にまなが飛びついて、目の前にスマホを突き出した。
「せつ兄! これ見て!」
「……」
ドンッと突き出されたスマホを見ると、空中に浮かぶ島一つはありそうな巨大な岩の塊がアップされていた。さらに言えば雷のような光の線が夥しい数ある。
この画面は所謂SNSらしく、一番上には怪奇! 空に浮かぶ超巨大な岩と超降り注ぐ雷の雨と微かに映った人のような影! という何処と無く頭の悪さが感じられるタイトルが立てられていた。
この記事によれば轟音と共に突如この岩塊が雷を伴って空中に浮かび、その岩塊に引き寄せられるように様々な物が引き寄せられているとの事。
しかも、写真をズームすると最近世間を騒がせているビビビ電気の関係者らしき人物が映っているとかなんとか。
そのビビビ電気の関係者らしき人物の写真も載せられているが、一目で分かる程度には人間離れしている容姿だった。
完全に妖怪である。
しかもこの雷と先程から地味に感じていた妖気から鑑みるに神の系譜だろう。
其処らにいる木っ端妖怪ならば妖気に触れるだけで消し炭になる程の力を持った存在だが、正直今の殺生丸に構っている暇はない。
何故なら裕一から借りた本の続きが気になって仕方ないからだ。
携帯アプリの恋愛シミュレーションゲームの携帯彼氏、そのゲームをダウンロードしていた主人公の友人の女性が怪死を遂げた事で始まる物語。
中々に魅せる言い回しや書き方が、この小説の世界の中に沈み込む手助けをしてくれて次へ次へと目が動いていく。
そして、殺生丸は早く続きが読みたい故に行動を起こした。
背中に抱きついていたまなを抱き上げて膝の上に下ろして後ろから抱え込む。
急な出来事にきょとんとしているまなを見て言った。
「あの程度の雑魚、他の妖怪が片付ける」
「……そう、なんだ……? 鬼太郎が向かってるのかな……」
殺生丸の言葉を聞いて自分なりに納得したまなは、そのまま殺生丸に身体を預けてスマホを弄り始める。
まながスマホに集中しているのを確認して、殺生丸は再び小説の世界に没頭していった。