妖怪との縁が強くなってきた(要因は多分俺)犬山家の皆にお守りを作る為に久しぶりに帰省した。
臆病だったり力量差の分かる妖怪だったら、俺の妖気の残滓で理解するだろうけど……。
残念ながらそんな妖怪は一握りなのよね。
大抵の妖怪は自分の欲望のままに動くから、自分より強い存在が相手でも引かないことが多いし。寧ろ燃えてやる気出す輩もいるし。
そんな訳で、犬化した俺の毛と牙を使ってお守りを作った。
装着者に害がある場合に発動する結界及びカウンターの効能を持たせた首飾り。
見た目はシンプルで1cm程までに削った牙と、牙を中心に睚眦、黒水晶、天眼石、青水晶等々のパワーストーンで力を増幅させた代物。
因みに、糸は俺の毛を編んだのを使ってる。
初めて犬夜叉と桔梗の為に四苦八苦しながら作ったのを思い出しながら、一晩掛けてせっせと3人分こさえた。
翌日、下界に降りる為に荷造りしてたら母上からお小遣いをもらった。
慶長小判っていうのを50枚もらった訳だけどいつの時代のか分からない。
母上いわく人間の間では価値はあるらしいけど、何故母上が人間の金を持っていたのか……。
金ピカで綺麗だったからかな。母上キラキラしたの好きだし。
にしても、何処で換金しようか。
正規の場所だと身分証明が必要だろうし、非正規の所なんて分からんしなぁ……海外行ったら簡単に見つかるか? いや、でもどっちみち日本円に換金するから二度手間か?
いっその事、祐一や純子に換金してきてもらうのも有りか。
半分はお世話になってる身として納めるのは当然としても、もう半分あれば暫くはお金に困らないだろうし。
……うんよし、そうしよう。
純子には数日帰らないって言ったけど、予定より早く終わったし犬山家に戻っても変わんないかな。
最初の頃は犬山家を出ようとしてたけど、度重なる母娘の妨害ですっかり家を出る気力を持ってかれた。
このまま犬山家に戻らないで放浪の旅に出てもいいけど、そうしようと思えない俺は今や牙を抜かれた哀れな犬である。
わんわん。
……洒落にならんな。父上が今の俺を見たら、訳知り顔で頷きつつ肩をポンポンする事間違いなしだろう。
父上⇨十六夜さん。
犬夜叉⇨桔梗。
俺⇨まな。
……ふむ。
父上の家系は人間の女に手懐けられる定めだった……?
人間基準で言うなら孫と祖父以上の年齢の開きがある女性に、だと……?
つまりは、ロリコンの家系……?
なんてアホな事を考えながらふよふよ空を飛んでいると、眼下に空間の裂け目が見えた。
しかもまなや鬼太郎達の匂いと、更には知らない妖気を感じる。
多分妖怪関連でまなが巻き込まれたか、当事者かのどっちかか?
取り敢えず鉄砕牙で空間の裂け目を切り裂いて広げて、そのまま突入する。
その空間は上空に楕円の鏡面みたいなものが無数に浮かぶ不毛な大地だった。
周囲の観察をそこそこに、まなの匂いを辿って全力で翔ける。
まなの近くに2つ、覚えのない妖気を感じる。片方からはそこまで邪気を感じないけど、もう片方からは逆に邪気しか感じない。
そこまで知覚した段階でまなとジジイ、そして巨大な骸骨が見えた。
多分、がしゃどくろかな。犬夜叉と桔梗が結婚して、30年位経った後に村を襲ったんだっけか。
犬夜叉は人間だし、桔梗は流行病で床に伏せってたから慌てて駆け付けたのを覚えてる。
その時は桔梗の為に薬草を採ってて、その調合をする為にビンタ一発で吹っ飛ばしたんだよなぁ。
そんな無駄な事を考えてると、がしゃどくろが目からビームを放った。
……ちょっ! 待て待て待て! 前はそんな事しなかっただろお前!
焦る俺を置き去りにしてがしゃどくろが放ったビームだけど、まなの近くにいたジジイが鏡を使って反射して跳ね返した。
ただ、角度がずれたからかがしゃどくろの下にある山を貫通している。
光の速度に反応するなんてやるじゃないかジジイ! と心の中で賛辞を送りつつも、骸骨の第2波を防ぐ為に2人の前に鉄砕牙を抜き放ちながら降り立った。
──
「……あ、れ? ここ、何処……?」
目を覚ましたまなの目に移ったのは、空に楕円形の何かが浮いて地面を照らしている岩と土だけの世界だった。
「私、たしか……そうだっ、大きいがいこ──」
「目を覚ましたかい、まなちゃん」
意識を失う直前の記憶を思い出そうとしていると、突然誰かに話し掛けられた。
反射的に声が聞こえた方を見ると、其処にはアタマに瘤がある老人が此方を見ていた。
「だ、誰?」
「儂? 儂は鏡じじいじゃ」
「あなたが、助けてくれたの……?」
「う、うむ……。まなちゃんが、がしゃどくろに襲われそうになってたから、つい……」
「そっか、ありがとう」
もじもじとしながら答える鏡じじいにお礼をして、周りを見る。
がしゃどくろというあの巨大な骸骨の妖怪が、また来るかもしれないのだ。
自分は何の戦力にもならないが、逃げることは出来る。
だからこそ、何時でも逃げられる様に周囲を見ていた。
そしてその行動が功を奏したのか、丁度背後の山を見た時に其処からがしゃどくろが現れた。
「まなちゃん! 儂の後ろに!」
「は、はいっ」
鏡じじいから鋭い声が上がり、反射的に答えて鏡じじいの後ろにまわる。
鏡じじいががしゃどくろに向けて持っていた杖を構えると、それが気に食わなかったのかカラカラと音を立てながら眼孔から見える赤い光を強めた。
そして、ふと気付くと鏡じじいの前には円形の鏡が出現していて、がしゃどくろの赤い光は小さくなっていた。
「うそ……」
がしゃどくろの少し下、山がある部分が丸く穴空いている。
あの赤い光はがしゃどくろの攻撃で、鏡じじいはその攻撃を鏡で反射したらしい。
鏡じじいがいなかったら、あの赤い光は自身を貫いていただろう。
つまりは、死んでいた。
逃げるなんて無理だ。寧ろ今ここで動けば、確実にあの赤い光が自分を殺しに来る。
その事に恐怖を抱き、それでも何か鏡じじいの助けにならないかと考えながらがしゃどくろを見る。
またもや眼孔の赤い光が増幅されていて、それは先程よりも強くなっている。
「これは……」
鏡じじいが思わずという様に声を出した。その声に含まれるのは焦燥と戸惑い。
幾ら鏡で反射出来ると言っても、その反射には限度があるのかもしれない。
例えば、光を反射する前に光熱で鏡が溶けるとか……。
光線を放っているのは妖怪なのだ。人間が見つけ出した物理学は、そこまで信用できないだろうからもしかしたら鏡を貫通してくるかも。
「鏡じ──」
鏡じじいに声を掛けようとしたその瞬間、周囲を赤く染めて赤い光が迫って来た。
さっきより遅い気がするが、その分恐怖を煽っている様に見える。
全てが赤く染まった視界、自分は死ぬのだろうと漠然としたとした思いで茫洋と目の前を眺めた。
そして、赤はなくなり視界が元に戻って……まなの前には頼りになる妖怪の姿があった。
白の長髪を靡かせ、冷徹を秘めた黄金の瞳で相手を見つめ、毒を包容した爪で切り裂き、その牙で全てを砕く。月の化身と謳われ、戦神と崇められた大妖。
以前殺生丸が何の妖怪なのかを調べた時に出てきた文言を、身の丈を超える大剣を振り切った様な姿勢で静止している殺生丸と、体躯を砕かれて魂となり消えゆくがしゃどくろを見ながらまなは思い出していた。
「怪我はないか」
「あ、うん! ありがと、せつ兄!」
言葉と共に殺生丸に力いっぱい抱き付く。
少しの間をおいて、背中に腕が周り抱きしめ返してくるのをまなは多大なる安心感と共に感じる。
「……」
「あ……」
殺生丸の顔をじっと見つめていると、殺生丸が背中から手を離した。
その事に寂しさを覚えて、でもそれは直ぐに歓喜に変わる。
何故なら、殺生丸が懐から出したネックレスを首に掛けたからだ。
白い牙の様な物を中心に様々な石が彩っている不思議な魅力を放っているネックレス。
「せつ兄、これって」
「護身具だ。これを着けておけば、大抵の妖怪を退けられる」
「護身具……ありがと、せつ兄」
光を反射するネックレスを触って眺め、自分の為に用意してくれた事を考えると胸の辺りがポカポカしてくる。
それと同時に殺生丸に包まれている様な気がしてくるから不思議だ。
「まなを守ってくれた様だな」
「は、はい! お会い出来て光栄です殺生丸様!」
目を目一杯開けて殺生丸を見つめていた鏡じじいが、俊敏な動きで頭を地面に付ける。
「頭を上げろ。いずれこの恩は返す」
「は、ははぁ! 有り難き幸せ! 」
「ひゃっ、せつ兄……?」
「……」
地面にめり込まん程に頭をつける鏡じじいを一瞥した殺生丸を見ていると、ふわっと身体が浮いて気がつくと殺生丸にお姫様抱っこされていた。
戸惑いつつ話し掛けるも、此方を一瞥しただけで特に口を開ける事なく上を向いて、そして浮いた。
「え、あ……う、浮いてる……」
落とされない様に殺生丸の首に腕を回しながら、遠くなっていく大地を眺める。
飛行機とは違う、風を切って空を飛ぶ感覚が楽しい。
気がつくと不毛な大地から、街の光が煌めく綺麗な夜景の世界になっている。
更に感動を募らせ、ふと殺生丸を見る。
月光をキラキラと反射する白の髪と黄金の瞳。
額にある三日月の紋と両頬にある2本の紋様。
それと相まって見るものを惹きつける妖艶さと氷の様な冷たさを持つ凛々しい横顔。
改めて殺生丸の綺麗さを確認して見惚れている間に家に着き、リビングのソファに座らされた。
妖怪に追われて襲われて、もう死ぬかと思ったら颯爽と助けられた。
学校が終わってからの激動に頭の処理が追いついていないのか、ぼうっとしていると目の前にはザ・日本食という様にご飯、味噌汁、焼き鮭、お新香が並べられており殺生丸に勧められるがままにご飯を食べてお風呂に入って寝る準備をする。
あくびを漏らしながらねこ姉さんに殺生丸に助けられた事をレインで伝えて、丁度眠気がやってきたところで殺生丸を部屋に連れ込んでベッドに倒れ込み眠りに就いた。
──
その頃。
まなが鏡じじいに連れ去られた事を調べ、鏡じじいの住処の鏡から異空間に突入した鬼太郎達。思いのほか広い空間で思ったより時間が掛かり、辿り着いた場所には鏡じじいだけがいた。
「ああ、感激じゃあ……あの殺生丸様に話し掛けられるどころか、お、恩を返すと……」
「……父さん」
「ふむ……恐らくまなちゃんは殺生丸に助けられた様じゃのう」
「そう、ですか」
類い希なる推理で真実を読み取った目玉おやじにより、この件は解決した。
更に言えば異空間から出てきた時に猫娘のスマホにまなから連絡が来て、事件収束の太鼓判が押された。
後半かなりダイジェストになりました。
力尽きたんです(´༎ຶོρ༎ຶོ`)
許して下さい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)