時間の流れって早いですねぇ(すっとぼけ)。
そんな訳で最新話です。
久々に書くんでクオリティーは低めです。
「……」
燦々と太陽が照りつける午後0時少し前。一通りの家事を終えてさあ昼ご飯にしようとしたその時に、ふとキッチンからお弁当の匂いがする事に気が付いた。
キッチンに向かえば案の定というか、可愛い花柄の袋に入った弁当が物寂しげに鎮座していた。
十中八九まなの弁当箱であるそれを見て、殺生丸は少し考える。
弁当がなかったら売店で買うから大丈夫か? いや、中学校って売店あったっけ? ……なかった気がするなぁ。うん……よし、持って行こう。
決断してからは早かった。
身に付けていたエプロンと三角巾を外して丁寧に折り畳み、後ろに一つに括っていた髪ゴムを外す。
後は純子からもらった白の上着を羽織って、財布と弁当箱を持てば準備完了。
かかとを踏まずにしっかりと靴を履いて戸締りの確認をして、殺生丸はまなの通う中学校に向かった。
──
「あれ、お弁当わすれちゃったかな……」
四時間目が終わり待望の昼休みになってすぐに、まなは弁当箱がない事に気が付いた。
「うっわぁ、最悪……。 今日一日我慢しなきゃいけないの……?」
お弁当を食べられず家に帰るまで空腹に晒される耐え難い現実に思わず心の底から溜息が出た。流石に友達から恵んでもらうのは意地汚いというか、自分のプライド的にやだ。
取り敢えずエネルギーの消費を少しでも抑える為に随分と騒がしい周囲を無視して寝ようとしたところで、友人が何やら興奮した様子でまなの下にやってきた。
「まな! まな! 聞いた!? 何かすっごいイケメンな人がお弁当箱片手に学校の中を歩いてるんだって!! 見に行かない!?」
「イケメンな人? ……いい、かなぁ、それよりもお腹減って死にそう……」
「あれ、お弁当忘れたの?」
「うん、そうなんだぁ……」
「ありゃぁ、ご愁傷様です」
「あはは……はぁ」
まなのお腹が切なく泣くのと、騒めきが一転して教室内が静かになるのは同時だった。
お腹が鳴った事に赤面しつつ何故か静かになった教室内を見ると、其処には非常に見覚えのある人物が自分の弁当箱片手に教室の入り口にいた。
「あ、せつ兄」
「え、せつ兄?」
反射的に呟いた言葉を耳聡く聞いた友人の質問は、まなの耳には届かなかった。
何故なら殺生丸が持つ弁当箱に視線が釘付けになっていたからだ。ついさっきまでの地獄のどん底に落ちる程のがっかり感。それを掬い上げて天に昇らせる品が其処にある。
いつにも増して殺生丸が神々しく感じられ、弁当箱がキラキラと輝いている様に見えた。
じーっと殺生丸が持つ弁当箱を見ていると、徐に殺生丸がまなに向かって歩き出した。
「ありがとせつ兄! 今日一日大変な事になるところだったよぉー!」
一歩ずつ確実に近づく殺生丸。落ち着いていてゆっくりと感じるその歩みに我慢出来なくなったまなは、席から飛び出して殺生丸に抱き着いた。
その瞬間に周りから悲鳴とも怒声ともとれる大声の嵐が響き渡ったが、餓えたまなにはそれが聞こえていなかった。
「次から気を付けろ」
「うん!」
殺生丸がまなの頭を撫でながら言ったその言葉に、元気に返事をしてから弁当を受け取った。
まなが返事をしたのを聞き届けた殺生丸は、もう一度まなの頭を撫でて教室を出て行った。
殺生丸が教室から居なくなるのを見送ったまなは、早速とばかりに弁当箱の包みを解いて蓋を開ける。
「いっただっきま──」
「ちょっとまな!! 今の人と知り合いなの!?」
一度は絶望した故にご飯を食べる喜びもまた一入なまなを、友人の大声が静止した。
「ああ、うん。お父さんの知り合いで今一緒に住んでるんだぁ」
「い、一緒に住んでるの!? なんて羨ましい!! もっと詳しく教えなさい!!」
「えー? そんな事よりご飯食べよーよ?」
「ご飯なんて後に決まってるでしょ!! さあ潔く話しなさい!」
「そんなぁ、ていうか前にニュースになってたんだから知ってるでしょ?」
「問答無用!」
友人だけではなくクラスメイトや果てには違うクラスや違う学年からも人が押し寄せ、結局まなはお昼ご飯を食べる事が出来なかった。
──
既に夜の帳が落ち闇に包まれた午後20時、丑の刻参りにしては些か早いが近くの神社から鳴り響くカーン、カーンという金槌の音を聴きながら殺生丸は外を歩いていた。
頭に浮かぶのは現在居候している家の一人娘、犬山まなの事とそれに関連してここ最近になっての出来事。
偶然助けた縁から懐かれ、強制的に居候させる強引さと甘えたがりな面を持つ少女。現に先日も就寝時間に殺生丸の手を引っ張って自分の部屋に連れ込まれ、抱き枕にされた。
ちなみに今日はまなが未だ帰ってこないので迎えに出ているところである。
まなの通う中学校から匂いがする事から、まだ中学校に居る事は判ったが何故か鬼太郎とか言う小僧の仲間達の匂いもする。
具体的には綺麗なねーちゃんとババアとジジイ、後その仲間だろう二つの匂いと、鼻が文字通り曲がりそうな臭気を持つのが一匹。
ここまでなら、まあ妖怪の友達と遊んでるんだなぁ程度に考えて本人に行動を任せる。
しかしそれに加えて、ここ最近邪悪を孕んだ視線がまなに向けられた事が何度かあったのも迎えに出ている理由の一つだったりする。
嫉妬や憎悪の視線ではなく、情愛や敬愛の視線でもない。薄ら寒く、背筋を粟立たせるのに感情が込められていない奇妙な視線。
不確定要素は早く摘むに越した事はないと判断した殺生丸は、夜な夜な家を抜け出しては視線の主を見つける為に出歩いていた。
不思議な事にその視線の主からは匂いが感じられなかった。視線の出所に行っても影どころか匂いの残滓もなく、見つけ出すのは困難を極めている。
だから、という訳ではないが折角出歩ている序でに視線の主以外の危険がないかも確認している。時には空を飛び、時には歩き、時には高い場所から睥睨して。
今日はまなを迎えに行く為と、帰路の安全確認の為に歩いている。
「……あ」
「……」
丁度前方から歩いて来た少女が殺生丸を見て声を上げた。
だが、殺生丸はこんな時間に明らかに未成年の少女に声を掛けていいのか戸惑った。もし、丁度話し掛けている所にお巡りさんや知人が通り掛かったら……事案だ。
そう判断した殺生丸は少女の事を見て見ぬ振りをして歩き──
「……あ、あのっ! 今日学校に来てた人ですよね! その、お願いがあるんですけどっ……!! 」
「……」
確かに今日学校に行ったし、学校の至る所から妖怪の気配ないし影も形も見たけども。
何故話した事もない相手にお願いするのか。
その理由が分からず無言を貫いていると少女が話し始めた。
「実は、私ストーカーにあってて……最初はそうでもなかったんですけど、最近段々エスカレートしてきて……私、怖くて……」
「……そうか」
涙混じりに話す少女にどう返そうかと悩んだ末に一言しか発せなかったが、この時間に出歩いている理由はわかった。
だが、何故自分に頼るのかがまだ謎のままである。
視線で続きを促すと、少女はちゃんと察してくれて続きの言葉を紡いだ。
「それで、今日人間の女の子にお弁当を届けてた貴方を見て、もしかしたら頼れるかなって思って……」
まあつまりは、頼みやすそうだったという事だろう。
頼りやすいという第一印象に喜ぶべきか、安請け合いし易そうに見られたことに嘆くべきか。……ここは喜んでおこう。
そう判断した殺生丸は少女に詳しい話を聞くことにした。
簡単に纏めると、まずこの少女はかの有名なトイレの花子さんである。
ある時同じ学校に棲み憑いているようすけ君とかいう少年の霊が、トイレットペーパーを求めて飛び回っているのを見かけてトイレットペーパーを渡したのが運の尽きだった。
それ以来自分の棲んでいるトイレに温くなった牛乳やシワシワになった大根が置かれ、仕舞いには四六時中後を憑けられる様になったという。
しかも、周囲の男の幽霊や妖怪に嫉妬して体育館の天井に吊し上げているとかなんとか。
更に言えばようすけ君云く、花子さんとは相思相愛で将来を誓い合っている仲らしい。
物の見事にストーカーであり、完膚なきまでにストーカーである。
殺生丸は久方ぶりに頭痛を感じた。
「わかった。そのようすけ君とやらをどうしたい」
「出来れば死んでほしいです」
「……」
トイレの花子さんは意外と過激だった。
まあ話に聞く限りそこらの低級霊より若干強い程度だろうし、毒華爪で切り裂けばそれでお終いだろう。
そんな事を頭の片隅で考えながら、殺生丸は花子さんを伴ってまなの通う中学校に向けて再び歩みを進めた。