そして運命は切り換わる   作:弥宵

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Twitterの方でやってたシェアワールド企画に参加させていただきました。他の参加者の方々は大御所ばかりなのでそちらもぜひ。


そして運命は切り換わる
エルメア・クリュシェーラの場合


 自分で言うのも何だが―――いや、自他ともに認めるからこそ言うのだが、私は何とも平凡極まりない人間だった。

 

 誰もが生まれながらに【属性】を有し、それに則った生と性が与えられる。そんな世界に【凡】【安定】のデュオとして生まれ落ちた私の辿る(オチ)など、もはや見えたも同然だろう。

 中流階級のど真ん中に生を受け、ごく一般的な学校に通い、普通に就職して僅かばかり出世し、そのまま老いて死んでいく。その途中には素敵な出会いがあるかもしれないし、そんなこともなく寂しい人生を送るかもしれない。いずれにせよ、どこにでも転がっているような平々凡々な一生になるだろうことだけはわかりきっていた。

 

 別に不満などなかった。何せ平均値が約束された人生だ。人より多くの幸せは得られずとも、人より多くの不幸を受けることもない。

 あるいはこの考えすらも【属性】の賜物なのかもしれないが、そこからの解放が意味するのはすなわち非人間(ノンマン)階級への転落。どこまで行っても【凡】人で【安定】志向の私に、そんな選択ができるはずもない。

 普通万歳。物語の主人公になんてならなくていい。平凡で平穏で平坦な生活を、安定して安心して安全に送れる。考えようによってはこれほどの勝ち組もいまい。

 

 

 ―――だが、どうやら私は『平凡な一般人』というものを些か誤解していたらしい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()。その程度には、この世界に悲劇というものはありふれていたというだけの話。

 

 

 十八の誕生日を目前に控えた夜、私はとある事件に遭遇した。私を狙う明確な理由があったのか、それとも無作為に選ばれたのかはわからない。ただとにかく、その日私は何者かに襲われたのだ。

 すれ違いざまに殴られて昏倒し、数時間後に意識が戻ったのは少し離れた路地裏。所持品は一通り揃っており、これでも女の身だが暴行を受けたような形跡もない。となれば、もう心当たりは一つしかなかった。

 

 属性狩り。呪術によって他者の【属性】を簒奪する行為。れっきとした犯罪だが現状碌に対策も取られておらず、被害者であろうと【属性】を失った者は差別対象となってしまう。

 幸い私はデュオだったため、どちらか一つまでなら奪われていても何とかなった。最悪の可能性から必死に目を背け、自分はまだ大丈夫だと言い聞かせながら帰路についた。

 

 

 家に着くと部屋中が荒らされていた。

 どう見ても空き巣の仕業だった。続けざまに出くわす異常事態。【安定】という言葉からかけ離れた仕打ち。一度なら偶然で済ませられても、二度目があっては何らかの原因があると見るべきだ。

 やはり、という思いが胸を過ぎる。この身に起こった出来事への確信を深め、部屋を片付ける気力も湧かず震えながら枕に顔を埋めた。

 

 

 翌朝、どうにか部屋を片付けてからいつも通り出勤した。王都でそれなりに評価を得ている飲食店だ。そう遠くもない職場に到着するまでに、二度のひったくりと三度の乱闘騒ぎに巻き込まれかけた。

 職場において、あらゆる作業を平均的に器用貧乏にこなせる私はそこそこ重宝されていた。その日は思いがけないほど忙しく、厨房から仕入れ先まで慌ただしく駆け回った。

 厨房では普段しないようなミスを連発し、同僚に体調を心配された。反面、頭は冴えており経理の仕事は普段の半分の時間で片付いた。

 

 その日の私は、何をするにも平均値から大きく外れていた。()()()()()()()()()()()

 

 

 次の日も、また次の日も、私が今まで過ごしてきたような平穏な日常は訪れなかった。日に日に平均値からのずれには拍車がかかっていった。

 事ここに至ってようやく、私は私の【属性】の二つともが完全に失われていることを理解した。

 

 それが周囲に露見するのは時間の問題だった。いや、既に疑惑くらいは持たれていてもおかしくはなかったのだ。

【属性】を失った者は、まるでその反動のように対応する性質が反転する場合があるという。その兆候は明らかに私の身に起こっており、誤魔化し通すことなど到底不可能だった。

 

 

 散々悩んだ末、一縷の望みに懸けて【鑑定】持ちの友人に再鑑定を頼むことにした。訝しむ友人にある程度の事情を明かすことになったが、彼女は()()私を友人として扱ってくれるようだった。

 もし本当にノンマンになっていたなら、目の前の友人はおろか他の友人も同僚も家族も全て失うことになる。『いずれ』が『今この瞬間』になってしまう。【凡】人で【安定】志向の私であれば、絶対にできないはずの決断だった。

 

 鑑定を終えた友人は暫くの間渋面を浮かべ、結果を口にしなかった。苦悩、というよりは困惑しているようだった。催促できるほどの度胸は、流石にまだ持ち合わせていなかった。

 彼女がゆっくりと口を開いたのは、黙り込んでから三十分も経った頃だった。

 

 果たして結果は、私の想定していた最悪とは異なるものだった。しかし、あるいはその場合よりも遥かに強く、私の不安感は掻き立てられた。

 私は奪われただけではなく、()()()()()()()()()。【無常】―――平凡で平穏で平坦な、安定して安心して安全に人生を歩めると思っていた私を嘲笑うかのように、新たな【属性(うんめい)】は日常の終わりを告げてきた。

 属性狩り、ならぬ()()()()。あの襲撃者が何を思ってそんなことをしたのか、その行為に何の利があるのか、そんなことは私の与り知るところではない。一つだけ確実に言えるのは、私の未来予想図がただの紙屑と化したということだけだ。

 

 後天的に【属性】を得る方法は、他人のそれを呪術で引き剥がして奪い取る他にない。言うまでもなく犯罪行為だ。

 通りすがりに押し付けられたなどと言って信じてもらえるとも思えない。よしんばそれが叶ったとしても、生まれ持った【属性】を二つとも失った私に対する風当たりは強い。

 

 もう今まで通りの生活を送れないことは明白だった。【安定】を失った私の周りではこれからも騒動が起き続けるだろうし、【凡】人でなくなった私に同じ仕事は続けられない。そうでなくとも、何もかも激変した私に対して不信感を抱く人は少なくないだろう。

 寂しさはあった。こんなところだけは一般人のようで、逆に言えばこんなところにしか普通と呼べる要素はもう残っていなくて、少しだけやるせなくなった。

 次の日には、そんな感傷さえも詮無いことと割り切れるようになっていた。

 

 

 私は王都を離れ放浪の旅に出た。騒動を呼び込む性質上一ヶ所に留まることはできず、定職に就くのも難しい。周囲の環境は絶え間なく移り変わっていき、私自身もそれに適応するように変質していく。

 何もかも平均的だった能力はちぐはぐな偏りを見せていった。頭の回転は良くなったが手先の器用さは失われ、身体能力は伸び悩んだが魔法の技術は飛躍的に成長した。何人かの師に巡り合い、知恵や技術を学ぶ度に私という存在は造り変えられていった。

 行く先々で面倒事に巻き込まれ、成り行きで解決する日々を繰り返していたせいか、全くの非才となった分野も多少の成長を見せることはあった。それが良いことなのか悪いことなのかは、努めて考えないようにした。

 

 

 

 

 

 そんな生活を送り始めてから五年。かつて平凡極まりなかった私は、いっぱしの実力者としてそこそこ名が知られるようになった。

 やっていることは傭兵もどきの便利屋といったところか。実力は野良としてはかなりのものと評判で、『旅行鳩』なんて可愛らしくも皮肉の効いた二つ名まで頂戴した。

 かつての私そのものであり、今の私には逆立ちしても手に入らないもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。機会があれば命名者を一発ぶん殴ってやろうと思う程度には核心を突いた名前だった。

 

 

 ある日、宿への帰り道に一人の子供を拾った。十歳前後の少女のようだったが、魔物にでも襲われたのか全身傷だらけの姿で道端に転がっていた。

 幸いにも致命傷はなく、連れ帰って手当してやると半日ほどで目を覚ました。暫くの間状況が呑み込めずに虚ろな目を空中へ向けていたが、視界に私の姿を捉えるといきなり立ち上がろうとした。

 ふらついて倒れそうになった少女を慌てて支えると、ふと目が合った。驚いたか、あるいは怯えているのかと思ったが、それにしては力の籠った強い眼差しだった。

 

 改めて少女をベッドに寝かせ、詳しい事情を伺うことにした。私の仕事を伝え、事の次第によっては依頼として協力するとも告げた。

 どうして倒れていたのか、と私は尋ねた。村から出てすぐに魔物に襲われた、と少女は答えた。

 何のために村を出たのか、と私は訊いた。兄を助けたい、と少女は訴えた。

 何があったのか、と続けて問うと、彼女は一瞬言葉に詰まった後にこう返した。

 

 ―――兄の【属性】が変わってしまい、このままでは犯罪者にされてしまう、と。

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