俺は市ノ瀬正規、とある不良校に通学していた中学2年生。していた、といっても転校しただけであり不登校になった訳ではない。転校したのは親の都合で、といっても父さんが買った家を売り払って生活の足しにして、ボロいアパートに引っ越ししたためだ。
別に、母さんを恨んでる訳じゃない。ここまで一人で育ててくれてるし、その苦労はよくわかってるつもりだ。母さんと妹の由乃に楽をさせるためにも良い企業に就職するべく、勉学に励む。それが俺の学校生活だ。
「えーっ、今日は皆に連絡がある。なんと、このクラスに転校生が来る。皆、仲良くするように。では、入ってきて。」
「はい。」
ドアを開け、周りに目をやり、黒板に名前を書く。
「市ノ瀬正規、引っ越して来たばかりでわからない事が多いけどよろしく。」
「それじゃあ、あそこが市ノ瀬君の席だからね。」
俺はその席に向かって歩く、だが、その通路で足をひっかけようとする奴がいた。
「っ!?いってぇ!」
俺は上から睨みながら呆れる。未だにこんなバカげたガキじみたことをやる奴がいたのか。
「どうしたんだ?」
「こ...こいつが!」
そこで、相手に何も言わせないように
「そこに足があるなんて見えなかっただけです。そこに、まるで足をひっかけるように足を伸ばしている彼が悪いのでは?」
「なんだと...!」
そこで、そいつの隣に居た奴がそいつを引き寄せる。
「よせよ、マジでヤバいって。目つけられたぞお前。」
「な、何だよ?転校生相手にビビってんのか?」
「こいつの名前、聞き覚えあると思ってたけど思い出したんだ。黒中(こくちゅう)で不良共を一人残らず制裁したっていう...。」
「嘘だろ...!?冗談じゃねえ!」
その瞬間、俺に対する周りの目を一気に変わった。そりゃあそうか、不良をまとめて絞めたんだ。覚悟はしていたさ。席に座ると、たまたま隣の女子と目が合うが一瞬で目を逸らされてしまう。当たり前の反応だ。
「えーっ、それでは一時限目を始める!規律、例!」
「おねがいしまーす。」
いかにもやる気の無さそうな声だ、まあどこもそんな感じだろう。そんな時、さっきの女子が俺に話しかける。
「あの...その...、教科書、見せてくれませんか?」
「忘れたのか?まあ...次からは気をつけろよ?」
「ごめんなさい...。」
「ま、いいけど。」
すると、周りからこんな声が聞こえて来る。
「嘘...可哀想。あんな奴に貸すなんて。」
「こら、聞こえるよ。でもさぁ、あいつも懲りないよねぇ。教科書どこやったんだろうねぇ?あぁ、破られたんだっけ?あはは、笑える。」
どこにでもいるんだな、こういうアホが。胸くそ悪い、集中できるものも集中できない。そう思いつつも授業が着々と終わって昼休みになり、弁当を食べる。すると、隣の女子がひそひそ話をしていた女子数人に連れられていったのが見えた。
「仕方無い...これも何かの縁だ。慣れっこではあるけどな。」
トイレに行く振りをして行く方を見ると、そこは今では使われる事がほとんど無いとされている旧校舎だった。
「あのさぁ?アンタ、ちょっと調子乗ってない?」
「なんで...?」
「なんで...?って、そりゃあの黒中で天辺取ったっていう市ノ瀬にちょっかいかけてるからだろ?」
「お前みたいな親亡し風情がイキってんじゃねえよ!」
あきらかな虐め、というかリンチだなあれじゃ。しょうがない、いくか。
「親亡しで悲劇のヒロインぶってるお前には、これがお似合いなんだよ!」
生ゴミを詰められたゴミ箱を頭から被せようと持ち上げた所を、俺がゴミ箱を相手側に倒して相手に被るように仕向けた。
「いやぁぁぁ!?」
「ちょっ...アンタ...何やってくれてんだよ!」
「はぁ?何って...目の前で行われてる悪行に制裁をしてるだけなんですけど?」
「てめぇ...転校生だからってイキってんじゃねえぞ!てめえら殺っちまえ!」
こうなるかぁ...これじゃ転校初日からこっぴどく怒られるんだろうな。仕方無い、覚悟決めるか。
「下がってろ、流石に数人相手に守りきれる程俺も強くないからな。」
「はい...ありがとう...ございます。」
相手の拳を軽くかわし、護身術で制圧していく。だが、途中で左右から押さえつけられ身動きがとれなくなる。
「さっきのお返し、たっぷりくれてやるよ!」
面倒なんだよねぇ、これされると。運がいいことに足は何もされてない、所詮この程度か。膝裏を軽く蹴って体勢を崩させると、前にいる相手も軽く相手をする。
「なんだよこいつ...!覚えてろ。」
そう言って退散してく、もう昼休みも終わるか。
「その...ごめんなさい。私なんかのために...。」
「何、一つだけ聞いておくけど。お前、何か相手にされるようなことしたか?」
すると、首を横に振る。まあよくあることか。だが、ここで俺は思った。よく見たら可愛くないか...?いやいや、待て待て、俺みたいな奴が一緒にいても怖がらせるだけで、もっと危険なことが及ぶかもしれない。考えろ、俺。
「わりぃ、派手にやりすぎたから何か呼び出しくらったら証人になれるか?」
「うん...。あっ、名前言ってなかったね。私、宮本美弥...その、よろしく。」
「おう、よろしくな。美弥。」
当然、次の時限に遅刻したのと、昼休みの事でこっぴどく怒られたが、証人もいたことで軽い注意で終わった。あと、加害者はこっぴどく怒られた。
「そういえば、正規との出会いってこんな感じだったよね。」
「そうだっけか...?あんまり覚えてねぇや。もうあれから3年になるのか。」
「うん...。あんな地獄みたいだった日々から救ってくれて...私に勉強を教えてくれて...ありがとう。」
彼女はそう微笑むと、俺は少し嬉しくなった。確かにいろんなことがあったもんな。今こうやって美弥が隣にいるのはなんだか幸せな、そんな気がする。そんな俺と彼女は今日から高校2年生だ。京明学園高校、その2年生だ。