……しかも明後日受験とか。 なにをしてるんでしょうね(棒)
皆さんは『後悔先に立たず』という言葉を知っているだろうか。 辞書的な意味は、ことが終わった後で悔いても、取り返しがつかないというものだ。 俺は今まさにこれを体感していた。
先の星矢みたいになる!発言で完全にシャイナさんに火が付いたらしく、鬼も裸足で逃げ出す修行になっていた。
自信があった近接戦闘でボコボコにされた。 まさしく手も足も出ない。 すべてが防がれるとか避けられるとか、そんなものではなかった。 攻撃させてもらえないのだ。
拳を繰り出そうとしても、腕を曲げたところでシャイナさんの手で抑え込まれ、結果何もできない。
屈辱だった。
歯が砕けてしまうほど食いしばろうと、いくら力んだところでピクリとも動かない。
「グウウゥ」
「いくら力んだところで動きはせんよ。 殴るという動作において、最も衝撃を与えるのは腕が伸びきった瞬間だ。 そこ以外ならお前のパンチなど恐れる必要なんてない」
「そんなこと、わかってるよ!」
硬直を嫌った光牙は苦し紛れの蹴りを放とうとして、止められる。
光牙の膝の少し上にシャイナの足が置かれ、同じく動かない。
「くそがっ」
所詮は苦し紛れの一撃。 万全の態勢での攻撃すらまともに当たらない状態で、そんなへなちょこキックが通る道理はなかった。
仕切り直すために後退し、距離をとる。 シャイナはそんな光牙を追撃することなく、悠然と立っていた。
「光牙よ。 お前の力点をずらし、衝撃の方向性をコントロールすることで防御を無視できるその技術は称賛に値する」
「は、そりゃどうも」
光牙は一度脱力し、体に渦巻く無駄な力の流れを消し去る。 そうして思い切り足を踏み出す。 方向性の定められた力によって、波紋なしで高速移動を可能にする。
そうしてシャイナとの距離を詰め、脱力。 多少の怒りを込めた八つ当たりのようなその拳は振りぬかれることはなかった。
「だが、脱力し、全身の筋肉を弛緩させるという行為が入る。 これは戦闘行為中には大きな隙となる。 大方、普通の状態でしようとしても方向性を決めるという特性上、自分の体に働く力を把握しなければならない。 それが出来んからこそのワンクッション的な役割を果たしているのだろう」
いつの間にか光牙に近づくように移動していたシャイナにより、目算が狂う。 とっさに腕を伸ばそうとするが時すでに遅く、何の力も入っていない腹を鋭く打ち抜かれた。
「ガフッ」
「もう一つお前に足りないとすれば経験だ。 基本的な動きは我流らしくめちゃくちゃだが、予測不能というのも武器になることだし、そこはいいだろう。 だが誰かと打ち合うということに慣れていないな。 正確には格上の相手との戦い方がまるでなっていない。
馬鹿正直に直線的な攻撃ばかりしていたところで一撃も入れられん。 今の私とお前のようにな」
一通り講義したところで光牙が起き上がってこないことを訝しんだシャイナはうつ伏せに倒れこんでいる光牙近づき、状態を確認する。 みごとに伸びていた。 最後の一発は力加減を間違ったらしい。
「やりすぎた、か?」
この日、俺は安易な一言はいうものではないという教訓を学んだと同時に、シャイナさんのことをドS鬼畜女と心の中で呼ぶことにしたのだった。
地獄はこれで終わらない。 さらにきつかったのはのは小宇宙の訓練だった。
まずはステップ1。 小宇宙を感じよう編。
「えーと。 ドえ……コホン。 シャイナさんや、いったい俺は何をしているのでしょうか。 お教え願いたいのですが」
「? お前、さっきの話を聞いていなかったのか? 小宇宙を感じるための修行だといったではないか」
「いや、おかしいでしょこれ」
光牙がいるのは島の北部にある絶壁。 そこで簀巻きにされ、吊るされていた。
崖の上に生える木の、海にせり出した枝に縄が結び付けられている。
「ねえ! ちょっとシャレにならないんですけど!? えちょ、枝が! 枝がギシギシって。 落ちるって。 ほんとに落ちちゃうって! 俺泳げないんだってば」
「何を言っている? 恐怖に打ち勝ち、心に波立てず、静かな気持ちで臨め。 さもなくば永遠にそのままだぞ」
「コスモなんて知るかっ。 いいから早くここから降ろせ!」
「光牙よ。 小宇宙とは――」
「んな解説何回も聞いた。 今言ってんのはそういうことでなく――」
「ぴーぴーとうるさいやつだ。 いったい何が気に入らないんだ」
「おまえの修行方法だよ!」
ロールキャベツのようにぐるぐる巻きにされ、眼下に広がる大海原なんて誰が得するんだ。 やめい! こんな修行ではコスモが目覚める前に、トラウマで戦えなくなるわ!
……などという僕の主張を聞いてもらえるはずなどなく、ドS鬼畜女による蹂躙は夜まで続
いた。
去り際に「ふむ、これでもまだ目覚めないか……。 もう一段階上げるべきか?」などと呟くドSなど見ていません。 ええ、見ていませんとも。
(´・ω・`)