「おっ待たせ~!」
すさまじい勢いでヴィックスが戻ってきたのは、空がだんだん茜色に染まってくる頃だった。村まで結構な距離があったはずだが汗ひとつかいていない。
(ユタちゃんも本来"あっち側"の子なんだけどなぁ・・・・?)
ここまで歩いてきただけで大汗をかくほど体力を消耗していたユタとヴィックスを見比べ、マカは首をかしげた。
「おかえりーヴィックスさん。さっそく行こうか。入江までもうちょっとあるみたいだよ」
とはいえ、しばらく休憩していたおかげでユタはすっかり体力を取り戻し、顔色も良くなっていた。ルックをかつぎ上げると先頭に立って歩き始めた。
「あ・・・・ユタ・・・・美味しそうなリンゴ・・・・あれ・・・・」
「ぉ、ルック目がいいねー。食べる?とってあげるよ」
ルックはユタの背中できょろきょろあたりを見回しては、気に入ったものをユタに取ってこさせている。当然、オバケのルックにはリンゴは食べられないが。果物だろうと石だろうと、ルックが喜ぶものは、とユタも嬉々として拾ってきている。
「いいなーユタちゃん。ちょっとルックあたしにも持たせて?」
ヴィックスはルックに興味津津のようだ。ユタの周りをぐるぐる回りながらルックを観察している。
すると、ルックはちょっぴり迷うようにいつもより少し長く震えてから答えた。
「やだ・・・・ユタがいい・・・・」
自分をつかみ上げているユタの手にしがみついているように見える。
「えぇ~・・・・あたしヤなの・・・・」
ヴィックスはすぐさま見るからに残念そうにしょんぼりと肩を落とした。この感性の鋭い少女はいつでも感情をストレートに表すようだ。
(基本的にユタちゃんと性格そっくりだけど、この点だけ違うのよねー・・・・)
ヴィックスを可愛そうに思いながら、少し遅れて歩いていたマカはまたしても寝ているスフレを起こさないように、しかし慌てて前に追い付いた。
「あ、あはは・・・・ユタちゃんとルック、すっかり仲良しになったわね」
フォローするも、ヴィックスはまだ未練があるようだ。
感情ストレートとはいえ、やはりオウルベア。いつまでもへこんでいるはずはなく、先頭を歩くユタの隣を歩き、果敢ともいえる勢いでルックに向かっていく。
「ねね、ルックはどうして死んじゃったの?」
その質問は・・・・と思わないでもないが、ルックは特に気にすることもなく、のんびり答えてきた。
「あんまり・・・・覚えてないけど・・・・確か重いものを持ち上げようとして・・・・持ちきれなくて・・・・」
「ぺしゃん?」
「・・・・そう・・・・たぶん・・・・」
(ユタちゃん、オバケになっちゃったりしないかしら)
マカはなんだか何でも持ってくるユタが心配になってきた。
そんな縁起でもない事を考えながら歩いていると、一行は山地を抜け、人間の街のある盆地にさしかかった。
「ユタちゃん、まだ人間の街に通っているの?」
マカに聞かれ、ユタは気軽にうんと答えた。
3か月ほど前、ユタがスリーピードラゴンを村に持ち込むという事件が起きた時に、成り行きで彼は人間と交流する事になり、急にオウルベア達の生活が機械化され始めるきっかけを作ったのだった。紅茶好きのマカにとっては、電気ケトルというのは非常に便利だ。まだ人間の道具が導入され始めて間が無いが、これからもっといろいろなモノが増えるだろう。オウルベア達は皆ユタに期待している。
「スリーピー探しあてたり、人間の街に通ったり、オバケと友達になったり、ユタちゃんは波乱万丈だねー」
ヴィックスもなんだかうらやましそうだ。
「あっ・・・・ユタだ」
不意に、遠くから小さく声が聞こえた。
声のした方を見ると、いつの間にか人間の街が目の前になっていた。街の入り口で人間の子供がこちらを指差している。
(さすがユタちゃん、人気者・・・・というわけでは・・・・)
ないらしい。子供達は身体の大きなユタ達に若干おびえているように見えた。そして後ろの方に手を振ると
「ユタだけじゃないよ!なんかいっぱいいる!早く交渉の人呼んできて!」
焦って大人を呼びに行ったようだ。
「・・・・?」
妙な展開に街入口で立ち止まり、マカとヴィックスが疑問符を上げていると、大人の人間がにこやか(のつもりらしい)な顔を作って出てきた。
「や、やぁユタ。今日はまた大勢で何の用だい?携帯電話の件だったら確か来月じゃなかったかな・・・・?」
明らかな作り笑顔。
ユタは人間の街に良く行っているはずだが、どうも歓迎されていないようだ。マカは心配してユタの方を見やると、先ほどと同じく結構な量の汗をかきながらこちらも若干作ったような笑顔を浮かべていた。
「いやぁ、急にごめんね。今日は単に街の横通るだけなんだ。この先の海へ行きたいんだ」
その言葉を聞いて、隠しもせずにほっと息をつく交渉人(?)さん。
(そうだった・・・・)
めったに見ない、このユタの作り笑顔を見て、マカは思い出していた。そっくりな性格のユタとヴィックスの唯一の違い。
(嫌な事があると、ヴィックスちゃんはストレートにしょんぼりしちゃうけれど・・・・)
(ユタちゃんは我慢しちゃうのよね)
さっきから大量にかいていた汗はこのためなのかな・・・・。マカはユタの事がどんどん心配になってきた。
「うーん。人間の街ってあたし久々に来るけれど、変わっていくの超早いよねぇ?」
何故か「遠慮しないで街の中堂々と通っていきなよ」と勧められ、ショッピングモールの中を歩くオウルベア3人。予想通り人間達は歩いておらず、しかし店の奥や二階の窓あたりから視線だけ感じる。先導してくれている交渉人さんも自分の背後に過剰なまでの気を配っているようだ。
「と・・・・ところでユタ?」
商店街を抜け、向けられる視線が少なくなってきたところで、緊張しっぱなしで今までろくにしゃべらなかった交渉人さんが背中を向けたまま話しかけてきた。
「君が今背負っているモノって・・・・もしかして・・・・幽霊?」
しまった。ハッとしてマカもルックの方を見た。
ユタも同じ事を思ったらしい。一瞬息詰まったが、素直に答える。
「・・・・うん、そうだよ」
ひぃぃぃ・・・・!
交渉人さんの両肩が派手に跳ねる。
隠れていた人間達も気がついたようだ。かすかに感じていた人間達の視線が一層険しくなるのを感じた。
(はやく街を出なきゃ・・・・)
マカはなるべく小さくなりながら、急ぎ足で歩き始めた。隣にいるヴィックスもどうやら同じ事を考えているようだ。無表情でなるべく周りを見ないように速足で歩いている。
(この街に通うユタちゃんの立場を、私たちのせいでこれ以上悪くするわけにはいかない・・・・)
時刻は夕方から夜へとさしかかってきていた。空の色と同じく、気分までだんだん黒くなっていくようにマカは感じた。
そんな時に限って、ユタの背中で無責任に震えるモノがあった。
「あ・・・・ユタ・・・・」
ルックである。今まで大人しかったのに、人間の視線などまるで気にせず上の方を指差す。
「あ、ちょっとルック・・・・」
ヴィックスが慌てて止めるのもまるで無視でしゃべりだす。
「あれ・・・・看板が・・・・光ってる・・・・面白・・・・」
「わっ・・・・うわぁ!!」
幽霊がしゃべりだした事で、ついに耐えきれなくなったのか交渉人が駆け出していってしまった。たちの悪いことに、完全には逃げ出さず物陰に隠れてこちらをまだうかがっている。
「ん・・・・?どうしたのルック?」
皆より遅れてルックの声に反応したユタは、いつの間にやら山を越した時よりはるかに疲れた顔をしていた。振り向く動作も緩慢で、滝のような汗がしたたりおちている。
その姿を見て、唐突にマカは閃いた。
(ユタちゃんが疲れているのって・・・・やっぱりルックを背負っていたからなんだ・・・・!)
オバケであるルックに重量はないが、持ち上げるという事はすなわち取り憑かれるという事。持ち上げられると喋り出すというのも、体力をルックに奪われるからだったのだ。
「あれ・・・・光る看板・・・・欲しいな・・・・」
人間の街では以前からあったとるに足らないパチンコ屋のネオンをねだるルック。
疲労で思考力も弱まっているのか、ユタもふらふらと看板に近づき、ひっこ抜こうとしはじめた。
(わ・・・・私がなんとかしないとユタちゃんが!)
マカは慌てて決心すると、つかつかとユタに近寄ると、手をしっかり握った。
「ダメよ、ユタちゃん」
ユタの手が止まり、ルックが驚いたように震える。
「嫌・・・・ユタ・・・・これ欲しいよ・・・・」
なおもねだろうとするルックごと、ユタを引きずるようにして歩き始めるマカ。
「あ、マカさ・・・・ん。あたしスフレちゃん持つよ」
ヴィックスも、迫力に多少圧されながらもマカを手伝い、ユタを街の反対側出口へと連れ出した。
「あれ、マカ。ヴィックスさんまでどうして・・・・」
憔悴したような顔になっても、まだユタはネオンから目を離さない。
「ルックが欲しがってるのに・・・・」
「欲しい・・・・のに・・・・邪魔するの、マカ・・・・?」
ルックも恨めしげに非難の声をあげる。
「いいから座って・・・・ユタちゃん。ほら、ルック下ろして」
人間の街から離れて、ススキの原っぱに囲まれた街道に出ると、ユタの血の気の引いた顔をタオルで拭いてやりながら、ヴィックスはユタを座らせ、マカはルックを引きはがした。
何故か最初は触れなかったが、ユタを助けなきゃという願いが通じたのか、マカが触れるとしっかりと持つ事ができた。
「マカ・・・・嫌・・・・ユタが・・・・持ってきてくれるのに・・・・」
「いい加減にして!」
なおも恨めしげにつぶやくルックに、マカはヒステリックな声を張り上げた。
「あなたが取り憑いてるから、ユタちゃんこんなに疲れちゃってるじゃない!その上人間と仲良くしたがってるユタちゃんの邪魔して、何を考えているの!」
「マ、マカ?」
怒られている当のルックよりも、むしろユタの方が驚いたようだ。引き離されたルックをかばうように前に立ち、マカの顔を覗き込むユタ。
「ルックが欲しがってるんだから・・・・良いじゃない・・・・か」
途中からマカにすさまじい形相でにらまれたためか尻すぼみになるが、ユタはまだルックをかばおうとしていた。
再びススキの野っぱらに怒号が鳴り響く。
「ユタちゃんも何考えているの!人間にあんな風に避けられてるなんて私たち知らなかったわよ。それはまぁ良いとしても、ユタちゃんルックのいいなりになりすぎよ!ただでさえ避けられてるのに、あんなところで看板なんかひっこ抜いたら街でのユタちゃんの立場どうなると思ってるの」
勢いのついたマカはまだ足りないとばかりに溜まっていた感情を次から次へと吐き出していた。
「ルックも!あなた自分で動けるでしょう。しゃべれなくなるのは可愛そうだと思うけれど、あなた持ち上げててユタちゃんすごい疲れてるのに、自分ばっかり欲しいものねだっちゃダメでしょう!」
ルックにも詰め寄るマカ。
と、またしてもユタが間に入りかばいだした。
「で、でもほら・・・・ルックはモノを持ち上げられないんだし、僕がやってあげないと・・・・ね?」
しかしマカもここまできたら引き下がらない。
「だからって、何もかも人任せで何もしなくて許されるわけじゃないの!ユタちゃんも、全部やってあげることがルックのためじゃないって分かって!」
「でも、マカだってスフレちゃんの事全部やってあげてるじゃない・・・・」
マカの迫力に圧され、しどろもどろになりながらも反論するユタに、さらにマカはカッとなった。
「スフレは私の子供!オバケなんかと一緒にしないでよ!」
マカの言葉に、石でもぶつけられたように大きくルックが震えた。激昂していたマカもハッと気付き慌てて口をふさぐ。
「あ・・・・ごめん、ルック。言いすぎた・・・・」
ルックをなだめようと近づくも、間に入っていたユタが背を向けてルックをなぐさめていた。どうやらユタも少し怒らせてしまったらしい。
顔を真っ赤にして興奮していたマカだが、自らの失言で一気に冷めて肩をすぼめて小さくなっていった。
「ユタちゃんも・・・・ごめん」
ルックを心配そうに見つめていたユタは、謝罪を背中で聞きながすとぽつりとつぶやき始めた。
「僕は・・・・マカになりたくてさ。ルックが沼地で寂しそうに落っこちてるの見た時そう思ったんだ」
「・・・・?」
また、良くわからない事を言い始めて・・・・とマカが疑問符を浮かべていると、それまで会話に混じる事ができず、傍でおろおろしていたヴィックスが入ってきた。
「ユタちゃんは・・・・お父さんになりたかったんだよね、ルックの」
指摘されて驚いたのか、ユタもちょっぴり、ルックと同じように肩を震わせた。
ゆっくりと振り向くと、小さく頷いた。
「あたしなんとなく気がついてた。マカさんとスフレちゃんがうらやましくて仕方がなかったんでしょ」
再びユタが、先ほどよりもしっかり頷く。
マカは唐突に、ユタの心情をすべて理解した。
「そう・・・か。だからだったのね・・・」
スフレをやたら気にかけるのも、スフレを欲しがるのも、すべてはユタ自身がお父さんになりたいからだった。
しかし、未だ子供のままのユタが急に親になる事はできない。スフレに対しても過剰に丁重なだけで、育てるには程遠い扱いだった。ルックも甘やかすだけ。
それでも。
「親になろうと思うって。すごいよ。たとえ上手くいかなかったとしても、ユタちゃんすごいと思うよ、あたしは」
ヴィックスに言われて、ようやくユタは立ちあがり、マカの方を向いた。まだルックをかばう位置にいるが、その眼に先ほどのような険は見えない。
「でもやっぱり、上手くはいかないね。マカのほうがもっとすごいよ。さすがスフレちゃんのお母さん」
そして、今度はルックに向かって
「ルック、ごめんね。僕なんかがお父さんっていうのもおかしいよね。でも、なんかルックがとても小さく見えたから・・・」
それまで黙っていたルックが、夜の闇に溶け始め見えにくくなってきた身体を精一杯震わせて、今まで無かった感謝の言葉をつぶやいた。
「ありがと・・・・ユタ。お父さん・・・・には見えないけれど僕は・・・・嬉しかった・・・・」
その言葉は、今までになかった感情のこもった、幽かだけれど素敵な声だった。
「マカも・・・・ありがと・・・・。僕も ユタに・・(・嫌な思いはしてほしく・・・・ない・・・・。ごめんね・・・・」
最後の言葉はこの場にいる全員に向けられたものだった。
「・・・・あれ?なんか脚と肩が軽くなったよ」
突然、ユタが元気よく跳びはねはじめた。
それまで大汗かいて、まっすぐ歩くのも怪しいほどの疲れようだったのが嘘のようだ。ルックと和解し、うまく同調することが出来るようになったのだろうか。
「ルックがユタちゃんに気をつかってくれたのかしらね。ちょっと道草食っちゃったけれど、入江の家に急ぎましょうか!」
入江にたどりついたときには、周りはすっかり暗くなっていた。
「わー・・(・なかなか綺麗じゃない?」
太陽の代わりに水面に映り始めていた月は、今日は半月だった。程よい風と、流れる雲が変わりゆく景色を演出してくれる、良い夜だ。
入江に面した砂地に、ルックの家らしき廃屋が岩場を背景に建っていた。
屋根も半分近く落ち、壁も穴だらけだが月や星を眺めるにはかえっていい場所になっている。
「懐かしい・・・・変わってない・・・・」
ルックが感激に震えながら穴だらけの家をあちこち飛び回り始めた。
(変わってない?もともと穴だらけだったのね)
「なかなかいい家ね。ここから綺麗な月が見えるみたい」
ヴィックスはほこりだらけの床にシートを敷き、天井に開いた大穴から月を楽しんでいた。
「あ、本当だ。僕も・・・よっこいしょ」
妙にオヤジ臭い掛け声とともにユタも寝っ転がった。マカも(よっこいしょと言わないように気をつけながら)ユタに倣って月を見上げようとすると
「うっ・・・・うっ・・(・」
ルックだった。天井近くまで浮きあがり、月の見える穴から外を覗き
泣いていた。
「ルッ・・・・」
ユタが手を伸ばそうとするのを、ヴィックスが止めた。首を振ると
「そっとしてあげようよ・・・・」
・・・・そうだね。
声には出さず頷いて応えると、ユタはスフレを抱きかかえてシートに戻った。
おぉぉぉぉ・・・・・・ぉぉぉおおお・・・・・・ぉぉぉぉぉ・・・・・・おおおおおお・・・・・・
悲しくも奇妙に美しい声が入江中に響き渡り、そして止んだのは
夜もふけ、日付が変わる間際になった頃だった。
「もう・・・・いい・・・・」
ルックがふわりと降りてきた。
「うん。気が晴れた?」
優しく聞くユタは、なんとなく父親らしくマカには見えた。
「うん・・・・ありがと・・・・マカとヴィックス、スフレも・・・・」
一人ひとりにしっかりと向き直り、礼がわりに震えるルック。
「寝にくいだろうけど・・・・今日は泊ってって。
明日・・・・送るよ・・・・街手前まで・・・・」
夕方の事を気にしたのか、すまなそうにルックが提案したプランに
「送る?・・・・なんで?」
ルック以外の全員が首をかしげた。
「なんで・・・・って。みんな・・・・明日帰る・・・・でしょ」
「うん。そうだけど」
あっさり肯定するユタ。
ルックは訳がわからずぶるぶる震えた。
「え・・・・?え・・・・?」
「ルックも一緒に帰るのよ。人間の街なんか通らないで、ね」
今度はヴィックス。いつの間にかルックの後ろに移動して、三人で囲むような形になっている。ルックが泣いている間に三人で相談していたのだった。
「綺麗だけど、こんな寂しい場所にルック一人置いておけないわよ。私たちの村。どこに住めるかはまだ分からないけれど、ここや人間の街よりは断然マシなはず」
マカまでもルックを受け入れる気でいる。
「でも・・・・僕、ここで・・・・成仏・・・・」
「今さらオバケぶった事言っても説得力無いよ。それに、ジョーブツっていったって身体があるかないかの違いだけ。僕らからしてみたらルックが死んじゃうのと同じなんだから。それこそほっておけないよ」
ユタらしい無理矢理な理論に苦笑しながら、マカとヴィックスも頷いた。
「カエロ・・・・ウチ」
ここぞという時しか起きないスフレも、この絶妙なタイミングで声をあげた。
「みんな・・・・みんな・・・・」
おぉぉぉぉ・・・・・・ぉぉぉおおお・・・・・・
先ほどまでとは違う、歓喜の泣き声が入江にこだました。
「そんなわけで」
五年ほど前の旅の話、長い怪談(?)話を終えた後、マカは紅茶を飲み干し庭の一点を指差した。
「ルックはウチの庭に居る、の。
本当に知らなかったの?スフレ」
マカの綺麗に整えられ、毎年美しい花を咲かせる花壇の隅に、出会った頃には無かった微笑を浮かべルックは居た。満足しきったのか、成仏することもやめしゃべる事もなくなったが
赤ん坊だったスフレが成長した今も、マカの庭でふわふわと浮いている。
「うん、知らなかった。ルックがあんまり自然に居るもんだから、当たり前すぎて聞こうともしてなかったよ、私」
オレンジの毛も長く綺麗に揃い、身長もとうに100cmを越えたスフレ。相変わらず甘やかしに来るユタやヴィックスに影響され、はやくもイタズラ女王の片鱗を覗かせてもいた。
「じゃあ、お父さんはどうだったの?ルックがウチに来た時なんて言ってた?」
自作のクッキーを一つまみ口に放り込みながらスフレ。
マカは噴き出すように苦笑すると、すぐさま答えた。
「お父さんも波乱万丈な人だからなぁ。もうこんな大事件にも慣れてたのか、全然反応なかったのよ。
あぁ、また面白いのが来たなって一言言っただけ」
「うわぁ、お父さんらしい」
親子2人顔を合わせると、大笑いした。
「ユタちゃんやヴィックスちゃんだけじゃないね。お父さんの武勇伝も大変な事件ばかりよ。昔の話、きりがないくらいいっぱいあるわ」
笑い涙を拭きながらマカは懐かしそうな顔をした。
「また今度聞かせてね」
「うん」
そんな午後の楽しいティータイムが終わる頃、マカとスフレの耳に聞きなれた足音と声が聞こえてきた。
「スーフレちゃーん!マカー!」
ユタだ。
マカは苦笑交じりのため息をひとつつくと、ティーセットを片付けにかかった。
「さて、今日はどんな事件を持ってくるのかしらね、ユタちゃんは」
ユタの足音は、なんだか今日も重い気がする。大きい物持ってくるのかしら・・・。
何度体験しても慣れない衝撃を持ち込んでくるユタだが。
マカはその驚きを待ち望むかのように、ちょっぴりわくわくしていた。