幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

1 / 40
鳳翔の体の異変とは・・



新たな生命と共に
鳳翔の・・


病院に救急搬送された鳳翔。

運ばれた当初は意識が無かったが、治療のお陰か、意識を取り戻し、集中治療室から一般病棟の個室へと移されていた。

ベッドに寝ている鳳翔を取り囲み、心配そうに見守っている秦とこども達が居た。

意識を取り戻した鳳翔を、安堵の表情で取り囲んでいた時、担当の女医が、今回の検査結果を持ってきたのだが・・

 

「では、症状について説明をしますね。」

 

と医師から鳳翔の身体について説明を始めた。

 

「まず、先にも言いましたが、外傷性の傷はありませんでした。 また、断層画像による診断でも異常は見当たりませんでした。 その点で言えば、健康体そのモノですね。 ただ・・」

 

「ただ?」

 

秦が聞き返す。

 

「血液等の検査結果、今回の体調不良の原因が分かりました。」

 

「そうですか! で、その原因とは?」

 

と秦が再び聞き返す。

医師の顔が・・ ニコリと微笑んだ。

そのことに、なんだ、と思った秦だが、続けて医師が話す内容に、驚いたのだった。

 

「鳳翔さん、奥様は・・ 妊娠されていますね。」

 

という。

 

「「え?」」

 

二人は固まった。

 

「す、すみません、もう一度・・」

 

と聞き返すのは秦だった。

何か聞きなれない言葉が並んだからだった。

 

「ですから、奥様は妊娠されてます。 検査結果の数値からすると、妊娠20週を過ぎたくらいでしょうかね。 お二人にはそう言う記憶はありますか?」

 

妊娠と聞いて、二人は驚いたような顔をする。

 

「え、あ、はい、そう言う記憶は・・  あります、が・・」

 

顔を赤めながら秦が応える。

鳳翔の目が秦に向かう。

秦の目も鳳翔に向かった。

互いの視線が重なって、頬を赤めるが・・ 次第に、目から涙がこぼれ落ちてきた。

 

「あ、あなた・・」「鳳翔・・」

 

秦が鳳翔の手を握り、鳳翔も握り返してきた。

秦は、何事もなく良かった、と思うと同時に、

 

「おめでとう、鳳翔。」

 

と。

鳳翔も、

 

「あなたとの、赤ちゃんが、出来たのですね・・ 嬉しい・・」

 

と。

二人の頬には途切れる事の無い涙があった。

それでも二人の顔は、微笑んでいた。

今ここに、一つの幸せがあることを思いながら。

 

「コホン! あー、続きを話してもいいかしら?」

 

と医師が、わざとらしく言ってきた。

 

「す、すみません、つい・・」

 

「いえ、まぁ、良くあることですから。」

 

と笑っていた。

 

「で、一応、今回の症状は、悪阻という事になろうかと思います。 定期的に検査に来ていただきますので、そのつもりで。」

 

「「はい。」」

 

「それから、もう退院していただいて結構ですから。」

 

そう言い残すと病室から出て行った。

残った二人は、涙を流しながら、抱き合っていた。

 

「鳳翔・・」「あなた・・」

 

と、お互いを呼びながら。

そこへ睦たちが戻ってきた。

 

「父さん、お母さん、って、またぁ?」

 

「え、なになに?」

 

睦の指摘にも係わらず、今この時ばかりは、二人はお構いなしだった。

睦たちがベッドサイドまで来たとき、二人は手を握り合っていた。

 

「そうそう、で、結局はどうだったの?」

 

と皐月が聞く。

 

「そうだな、ちゃんと話さないとな。」

 

「ええ。」

 

秦と鳳翔が五人に向かって、

 

「お前たちに話しておくよ。 実はな・・ そうだな・・うん。 あと半年もすれば、お前たちの妹か弟が産まれるぞ。」

 

【え?】

 

「それって・・」

 

「ああ。 鳳翔のお腹の中に、赤ちゃんがいるんだよ。」

 

【え?】

 

一瞬の沈黙ののち、

 

「「「おめでとう!」」」

 

と、みんなで叫んでいた。

 

「父さん、お母さん・・ よかったぁ。 ホントによかったよー。」

 

そう言うのは睦だった。

秦の母親からは、”まだまだ先やな”と言われていたので、この日が来るとは思ってもみなかった。

睦の目からも涙がこぼれ落ちていた。

 

「へへへっ、おめでとう。」

 

と言いながら、涙を流す。

皐月も朝霜も弥生も、うれし涙だった。

 

「そっかぁ、ボクもお姉ちゃんになるのかな。」

 

「そうだぞ。 皆、お姉ちゃんになるんだぞ。」

 

「そうかぁ。 あたいにも妹が出来るんだ。 へへへ。」

 

以前、妹が欲しいかもって言っていた朝霜だったが、こんなにも早く妹が出来るとは思ってもいなかったのだ。

その部屋で、七人家族全員が泣き笑っていた。

 

 

その日のうちに病院を退院してきた鳳翔たち。

その足で執務室にやってきていた。

 

「ただいま。」

 

と扉を開けて執務室に入ってきた秦たち。

 

「提督! お帰りなさい。 鳳翔さんも。 体の方は大丈夫なんですか?」

 

そう聞くのは大石大佐だった。

 

「ごめんなさい、心配を掛けてしまって。」

 

と鳳翔が言い、大石大佐と五十鈴に謝罪していた。

 

「すまなかったね。 急とは言え、君たちに任せてしまって。」

 

秦がそう言い終えると、自席に座った。

鳳翔は秦の傍に立っていた。

睦たちは、というと、食堂へ行ってしまっていた。

恐らく、おやつにありつくためだろうと思った秦だった。

そして、鳳翔の妊娠をしゃべるんだろうな、と思った秦だった。

 

「大佐、五十鈴。 鳳翔の体調不良の事なんだが、原因が分かったんだ。」

 

「そうなのですか。 原因が分かったのなら、良かったですね。 対処のしようも判るというもんです。」

 

「ははっ。 ま、そうなんだがね・・」

 

ちょっと歯切れの悪い言い方に、違和感を覚える大石大佐と五十鈴だった。

 

「どうしたの、提督?」

 

「実は・・ 鳳翔は・・ 妊娠しているんだ。 体調不良は、悪阻だそうだ。」

 

「「へ?」」

 

一瞬の間が空く・・

 

「そ、そうなんですか。 それはおめでとうございます。」

 

「へ、へぇ、艦娘が妊娠・・ って、マジですか?」

 

五十鈴が驚いた顔をしていた。

 

「ああ。 マジだそうだ。」

 

「じゃぁ、私も妊娠できる可能性があるのね・・」

 

そう言った五十鈴が、頬を赤めて大石大佐をみた。

大石大佐も同時に五十鈴を見たようで、視線が合った二人は、さらに顔を赤めてしまった。

 

「ま、まぁ、生まれるのは半年近く先だからね。」

 

なんか、室温が上がった気がする執務室だった。

 

「で、問題があるんだ。」

 

「問題とは?」

 

と大石大佐が聞き返す。

 

「鳳翔が妊娠したから、秘書艦の仕事を減らそうと思う。 そうすると、その代りを探さなきゃならん。 当面は、五十鈴にやってもらおうと思うんだけど。」

 

「私なら、大丈夫よ。 何なりと言って頂戴。」

 

「助かるよ。 ありがとう。 それと、艦隊の方も手を入れなきゃならんと思う。」

 

「そうですね。 一応、艦隊旗艦ですからね。」

 

「え? 私は大丈夫ですよ? 働けますから、普段通りでいいですよ?」

 

「だーめ。 お腹の子の事を最優先に考えておくれ。 とは言え、どうしようかねぇ。」

 

席で腕を組んで考え込んでしまった。

 

(秘書艦業務は、誰かに割り振れば済むだろうけど、艦隊の方はどうしようか、悩むなぁ。 鳳翔がいないと艦は動かないし・・ ちょっと、一晩考えてみよう。)

 

簡単に鳳翔の代わりに出来るヤツはいないのが現実だった。

 

 

その日の夕食時。

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

夕食を終えた七人だったが、食後のお茶を飲んで落ち着いていた時だった。

 

「皆に相談なんだけど、いい?」

 

秦が切り出した。

 

「なぁに?」「なんだい?」

 

「鳳翔が、お母さんが妊娠したのは、話したよね。 それで、鳳翔にはあまり無理をして欲しくなくてね。 そこで、この家の事を皆でやろうと思うんだけど。」

 

「ん、いいよ、父さん。」

 

「昼間にみんなで話したんだよ。 お母さんを手伝おうって。」

 

「そうか。 ありがとう、みんな。」

 

「え? 私も、動きますから、除け者にしないでください。」

 

泣きそうに訴える鳳翔だが、

 

「大丈夫だよ。お母さん。 妊婦さんとは言え、動いた方がいいんでしょ。 だからみんなでサポートしようって決めたの。」

 

「そうだよ。 掃除、洗濯から始めようってね。 料理は、一緒にやって覚えようってことにしたの。」

 

「あ、もちろん、しれーかんも手伝うんだよ?」

 

「了解だ。」

 

「みんな・・ ありがとう。」

 

鳳翔の目に涙が浮かんでいた。

家事の分担を決めて、一息入れた時、徐に睦が言ってきた。

 

「ねぇ、父さん。」

 

「どうした、睦。」

 

「お母さんの艦はどうするの? 秘書艦のお仕事を制限するっていう事は、出撃とかも、無しってことだよね。」

 

「ああ。 そうなるな。」

 

「そこでね、お願いなんだけど・・」

 

「お願い?」

 

「うん・・ あのね、私、考えたんだ。 艦娘を辞めてからも妖精さんは見えるしって。」

 

「それが、どうしたの?」

 

鳳翔も秦も頭の上に”?”が浮かんでいた。

 

「もう一度、艦娘になれないかな?」

 

一瞬何か言われた気がしたが・・

 

【えぇぇぇぇ!!】

 

「睦、何言ってんだ! もう一度って、お前、何考えてるんだ!」

 

強く反応したのは秦だった。

 

「睦ちゃん・・」

 

鳳翔は、睦のいっている意味がわかったようだった。

 

「だって、お母さんが、艦を動かせないんなら、艦娘を探す必要があるんでしょ? 艦があっても動かす艦娘がいないんでしょ。 鎮守府の誰かが動かすにしても、みんなそれぞれ艦があるわけだし。 ここで艦をもってないのは、私しかいないじゃない。」

 

「だからって、お前が名乗り出る事はない。 第一、お前は、一度解体したんだぞ。 分かっているのか?」

 

「分かってるよ。 でも、解体してからも、妖精さんは見えてるし。 何を言ってるか分かるし。 ねぇ、だめ?」

 

「睦、お前・・」

 

秦は、怒ってはいたが、睦のいう事も理解できていた。

睦の言うとおり、鳳翔が動けないとなると、他の艦娘を探さなければならない。

そうなった時、見つかる保証もないし、見つかっても、空母・鳳翔が動くとも限らない。

ただ、睦は一度解体した身だ。

せっかく解体したのに、再び艦娘になる、なんて・・

親としての秦の気持ちは、やってほしくなかった。

だが、提督としての秦は、戦力の低下を招かない方法が他にないのなら、睦を復帰させるしかない。

 

「睦ちゃん、本気で言ってる?」

 

「また艦娘に戻るって、そんなに簡単じゃないよ?」

 

朝霜や皐月が睦に質問を投げかける。

 

「みんな、私は本気だよ。 解体しても、私は元・艦娘だもん。」

 

睦の目は、本気だった。

 

「父さん、だめ、かな?」

 

・・・・

 

「睦・・ 悪い、考えさせてくれ・・」

 

秦はそう言って席を立った。

無言のまま自室へと戻っていた。

 

「睦ちゃん。 本気なのね?」

 

「お母さん・・ うん。 本気だよ。」

 

「そう。 ごめんなさい。 私が妊娠なんかしなければ、あなたに・・」

 

鳳翔の目に涙が溢れて来ていた。

 

「違うよ! お母さん、違う。」

 

睦が鳳翔の前に来て、目を見つめて言う。

 

「私は、どこまで行っても、父さんとお母さんの娘だよ。 二人の愛情は分かってる。 私の事を思ってくれてることも。 だから、私は、艦娘に戻るの。 生まれてくる赤ちゃんの為にも、私は戻るの。」

 

「睦ちゃん・・」

 

鳳翔の涙は・・ 止めどなく流れ落ちている。

皐月も朝霜も、驚いていた。

 

「それに、どこかへ行くわけじゃないし。 ね、みんな?」

 

「そう・・ 分かったわ。 でも、あの人が、提督が判断するのを待つしかないわね。」

 

「分かったよ。 ボクは睦ちゃんの気持ちを尊重するよ。」

 

「そうだね。 あたいらがとやかく言っても、最後は睦ちゃんが判断することだし、ね。」

 

鳳翔が妊娠した事に沸いたが、今度は、重苦しい空気に包まれた楠木家だった。

ただ・・ 睦は本気だったし、他は、睦の意見に賛成したのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。