幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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秦たちが横須賀へ出かけた。
残された睦たちは・・



荒天

呉。

残された睦たちは、朝から鎮守府内学校に登校していた。

 

「今日は、父さんとお母さんたちは泊りなんだよね?」

 

「うん、そうだよ。 大石大佐さんも五十鈴さんも一緒だって、はるちゃんが言ってたよ。」

 

いつの間にか、”榛名お姉さん”が”はるちゃん”になっていた。

当の榛名本人も気にしていないようなので、皆”はるちゃん”と呼んでいた。

 

「じゃぁ、執務室には、はるちゃん一人だよね?」

 

と皐月が言えば、

 

「そうだぴょん。」

 

と卯月が答え、

 

「それじゃあ、放課後ははるちゃんとこ行く?」

 

と睦が誘えば、

 

「「お、いいねぇ。 行く行く。」」

 

と答える皆であった。

 

 

そして、放課後。

 

「はるちゃーーん! 遊びに来たよ!」

 

と執務室の扉をノックもせずに入ってきたのは朝霜だった。

そのあとを睦と皐月が続く。

 

「もう、朝霜ちゃんってば! ノックもしないで入っちゃダメでしょ!」

 

「いいじゃん、いいじゃん。 減るもんじゃなし。」

 

バカッ。

 

「いってぇ! あんだよ? 睦ちゃんかい? いってぇじゃん!」

 

「まったく。 そういう問題じゃないでしょ!」

 

言い合う朝霜たちを秘書艦席から見ていた榛名が、笑いながら声をかけてきた。

 

「フフフ。 皆元気ねぇ。 睦ちゃんも、目くじらを立てないで。 私なら大丈夫だから。 ね?」

 

そう言われた睦だったが、

 

「ダメだよ、はるちゃん! 叱るときには、ちゃんと叱らないと。 特に朝霜ちゃんはすぐ、ずるするんだから。」

 

と榛名に注意を促した。

 

「え、そうなの?」

 

ちょっと驚いた榛名だった。

 

「そうだよ、はるちゃん。 すぐにずるするし、横着して手を抜こうとするから、気をつけてね。」

 

「わ、わかったわ。」

 

「あ! 睦ちゃん、その言い方、酷くない? あたいがいけない子みたいじゃん!」

 

という朝霜の苦情に、皐月が即答する。

 

「そうだよ。」

 

その言葉に、ぶっ倒れる!朝霜だった。

 

「あ、あのねぇ・・ あたいは、一体何したってんだよぉ・・ 皆酷いよ?」

 

うふふふ。

榛名が、睦たちを見て笑っていた。

 

「皆、仲いいわねぇ。 それに元気があっていいわよぉ。 お姉さんとしては頼もしいかな。」

 

そういう榛名に、卯月が近づいて行った。

 

「ん? どうしたの?」

 

「あ、あのね・・」

 

卯月が榛名の耳元でささやいた。

 

「あら、いいわよ?」

 

と榛名が応えると、

 

「やった!」

 

と笑う卯月。

そして、榛名の膝の上に座った。

 

「へへへへ。 はるちゃんのお膝だぴょん!」

 

それを見た皐月が、

 

「あ! 卯月ちゃん、ずっこいよ!」

 

「へへへ、いいでしょ。」

 

と榛名の膝の上で得意気に笑っていた。

 

「ああぁぁあ。 まったくもう。 隙もあったもんじゃないね。」

 

と皆呆れていた。

 

 

1600になっていた。

くだらない話をしあっているところへ、気象予報が入ってきた。

”今晩の気象予報をお知らせします。 今晩は、晴天なれども、夕方から東寄りの風が強く、瀬戸内では・・・太平洋上では・・・、接近中の低気圧は明日午後に九州に・・・大雨、強風に警戒を・・”

と。 今日は天気がいいようだが、明日以降は低気圧の影響が出る予報だ。

 

「それだと、今日中に荒天対策をしておきましょうか。 皆もいい?」

 

「うん、了解だよ。」

 

榛名が館内放送で、荒天対策をとるよう、通知した。

 

「秘書艦榛名より全員に達します。 明日の低気圧接近に備え、各艦荒天対策をとるよう指示します。 遠征、出撃も今晩以降の天候を考慮しますので、各自注意のこと。」

 

と。

放送を聞いた艦娘たちが急ぎ各艦に向かっていった。

更に、各基地航空隊にも荒天対策を取っておくよう連絡をした。

朝霜たちも荒天対策は一緒だった。

 

「あたいたちも行くよ!」

 

榛名も自身の艦に向かっていった。

係留ロープやアンカーの調整をし、飛ばされるものが無いように甲板上を整理などをして戻ってきた。

 

「そういや、はるちゃんの引っ越しはまだなの?」

 

と朝霜が聞いた。

 

「ええ。 まだ荷物の整理ができてないのよ。 明日にはって思ってはいるんだけど、天気がねぇ・・」

 

と苦笑いをする榛名だった。

榛名が秦の”妹”になることになったので、寮から官舎へと引っ越しをすることにしたのだった。

官舎自体には、空き部屋もあったため、一人増えたくらいでは何ともなかったのだが・・

本当のところはちょっと違っていた。

問題は、択捉と松輪たちであった。

金剛と榛名が相部屋だったのだが、あの”ママ事件”以来、金剛に択捉と松輪が纏わりついて離れなかったのだ。

食堂でも、待機室でも、”金剛ママ”にすり寄る松輪たちだったのだ。

更には、隠岐と対馬がそれに輪をかけていた。

結果的に、金剛を”ママ”と呼ぶのは四人になっていた。

二人部屋に、さらに四人の幼子が入るとさすがに部屋が狭い・・

さすがの榛名も根を上げてしまい、官舎に入ることにしたのだった。

 

「はぁー。 金剛お姉さまと離れるのは、寂しいですねぇ。 でも、笑って、楽しそうなお姉さまを見てると、榛名が出た方が良さそうなので、出ることにしたけど、いざ、出るとなると、やっぱり、ねぇ・・」

 

「そうだよね。 急に離れるのもねぇ。」

 

同情してくれたのは睦だった。

 

「でも! 次に向かって行く、と思えば、悲しんでもいられないから。」

 

と笑って見せた榛名だった。

そうしているうちに、”グゥゥゥーー”って音が聞こえた。

 

【なに? 今の?】

 

小さく手が上がった。

 

「あ、あたい。 あたいのお腹の虫ぃ・・」

 

どうやら朝霜の腹の虫のようだった。

 

「朝霜ちゃん、そんなにお腹空いたの?」

 

「え、うん・・ お昼がちょっと少なかったんだよねぇ・・ へへへ」

 

お腹を擦りながら笑っている朝霜だった。

 

「そういや、もうこんな時間なんだね。 じゃあ、みんなで食堂に行こうか。」

 

「「うん、行こう行こう!」」

 

「今日は久しぶりに、食堂で晩御飯だね。」

 

皆で駄弁りながら食堂へと向かっていったのだった。

 

 

夕食を食堂で摂ることが少ない睦たちだが、今日は皆と一緒に食堂に居た。

 

「あら、睦ちゃんじゃん? なに、今日はこっちなの?」

 

と声をかけてきたのは青葉だった。

 

「うん。 父さんとお母さんが出張中だし。」

 

「あ、そっか。 司令官は鳳翔さんと一緒に出掛けてるんだったわね。」

 

当の青葉は既に食べ終えていたため、

 

「私は食べちゃったから、お先に。 ごゆっくり。」

 

と言って食堂を出ていった。

食事中、窓の外は、風が強くなってきていた。

それに気づいた榛名が、

 

「あら? 急に風が強くなってきたわね。」

 

と。

窓がカタカタと揺れていた。

 

「荒天対策しておいてよかったんじゃない?」

 

「そうね。 でも、夜間偵察に出ている川内さんたちは大丈夫かしら。」

 

窓の外を見ながら心配になる榛名であったが・・

低気圧が思いのほか、早く北上し、急速に勢力を強めていたのだった。

 

 

川内を旗艦とする水雷戦隊は波が高まる太平洋上にいた。

洋上の波は、思った以上に高かった。

波高は10メートルはあろうか、と思うほどだった。

 

「ひゃぁ! 段々波が高くなってきたわね。 ちょっとこれ以上は危険になるわね。」

 

そう思った。

そして、

 

「各艦に次ぐ! 荒天のため、これ以上の夜間偵察は中止し、帰投する!」

 

と中止を決断して、帰投することにした。

そうは言うものの、荒れている海では航行するだけでもかなり危険だ。

川内は呉鎮守府に打電して、呉を目指して進路を北に向けたのだった。

 

 

遅めの食事中の榛名に、川内からの電文が届けられた。

受け取った榛名が眉を顰めた。

 

「何かあったの?」

 

そう聞くのは皐月だった。

 

「ええ。 夜間哨戒中の川内さんからよ。 ”波が高くなってきたから、帰投する”って。」

 

「太平洋ってそんなに荒れてんだ。」

 

「そうみたいね。」

 

そう言って、川内の電文に返信することにした。

 

「では、川内さんに返電を。 内容は”帰投了解。 緊急時は佐伯湾に向かうことを許可する。”と。」

 

勤務時間外であっても、緊急電は提督に届けられる。

なにせ、急を要する事案の判断は、どうあっても急がれるから。

今、提督たる秦は出張中だ。

副提督の大石も一緒に行っている。

したがって、残っているのは留守居役の榛名しかいなかった。

ある意味、榛名の責任は重大であった。

榛名からの返電を受け取った川内は、

 

「さっすが、秘書艦様だね。 緊急時は佐伯湾ね。 助かるわぁ。」

 

そう言って、艦隊の進路を佐伯湾に向けるよう指示を出した。

そこで波が収まるのを待つ、と言うのであった。

 

「急ぐよ! みんな、付いてきて!」

 

 

夜間、寝入っていた秦に榛名から連絡が入っていた。

 

「どうしたんですか、あなた?」

 

「ああ。 榛名からだよ。 天候が悪く、今夜の哨戒は中断したと。」

 

「そうですか。 え? そんなに天候が悪いんですか?」

 

「らしいね。 確かに、下り坂だったけど、早まっているようだよ。」

 

「そうなんですね。 じゃあ、明日以降はもっと危険かも?」

 

「そうだね。 要注意だね。」

 

そこまで言って、またまた抱き合って眠りに就くのだった。

翌朝。

東京は朝から曇りだった。

やや風が強いようだ。

秦と鳳翔はいつもの時間で起きだしていた。

いつものごとく、朝の口付から。

身支度を終え、朝食も済ませて、0800にはチェックアウトした。

既に秋吉と赤城はチェックアウトしてロビーで待っていた。

 

「おはようございます、秋吉提督。」

 

「おう、おはようさん。 朝から熱いのお。」

 

手を繋いで現れたものだから、秋吉はそう呟いていた。

少し遅れて、大石と五十鈴が現れた。

 

「おはようございます。」と。

 

「お前さんたちは、よく眠れたかの?」

 

との秋吉の質問に、顔を赤めて大石が応える。

 

「はぁ、それなりに、休ませていただきました。」

 

「ガハハハ。 ”それなり”か。 まぁいい。 では、横須賀まで送ってくれるかの?」

 

「はい。 構いません。 では、行きましょうか。」

 

六人は、飛行艇で東京から横須賀鎮守府まで移動することにしたのだった。

飛行時間は20分となかった。

それこそ、”あっ”と言うまだ。

ただ、よく揺れた。

短いフライトにも関わらず、右、左、と。

横須賀の海に飛行艇が着水した。

秦にとっては久しぶりの横須賀鎮守府だった。

ただ、感傷に浸る間もなく、秋吉の執務室へと入っていった。

提督席に秋吉、秘書艦席に赤城が座り、ソファーに秦、鳳翔、大石、五十鈴と秘書艦代理だった加賀が座った。

秋吉は、計画書と編成表は加賀にも見せた。

その上で、口を開いた。

 

「さて、と。 昨日の今日で悪いが、続きだ。 計画書によれば、南洋に呉の出先となる泊地を整備する、とある。 既に、トラック、パラオに泊地が作られているが、トラックが妥当だろう。

 

あそこは横須賀の管轄下じゃが、今計画に基づいて呉と横須賀の合同管轄に移管する。 呉からの司令官も必要となる。 いいな?」

 

「日本から離れること、3000キロか・・ 遠いですね。」

 

「ああ。 環礁だから、大小で200程の島があったか。」

 

「で、だ。 誰かを司令官として送らねばならんが・・ 大石君、君に行ってもらう。」

 

「は? 私、ですか?」

 

「ああ。 楠木の手法は見てきたろ? その実践の場と思えばよい。」

 

「はぁ・・」

 

「なんじゃ、歯切れが悪いのぉ。」

 

「いえ、そう言う訳ではありませんが・・ その、秘書艦は、どうなりますか?」

 

「それは、今のままじゃよ。」

 

「え?」

 

「今のまま、五十鈴に秘書艦をやってもらう。 聞くところによれば、お前さんらはケッコン間近らしいじゃないか。 わしからの配慮だ。」

 

互いを見やって、顔を赤める大石と五十鈴だった。

 

「年内には、行ってもらうから、そのつもりでな。」

 

「「はい。」」

 

「まぁ、細かいことは、お前さんたちに任せるからな。 わしらも忙しくなるわい。 赤城、加賀、頼むぞ。」

 

「「はい。 心得ました。」」

 

その後、七人は計画書の内容について議論し、昼頃に終わった。

秦たちは帰ろうとしたのだが、”西日本方面は、天候が悪く、着水は難しい”との話を聞いた。

急ぎ帰ることにしたかった秦だが、鳳翔や大石たちも居るので、無理に帰ることを諦めた。

 

「秋吉提督、申し訳ありませんが、呉の天候が回復するまで、我々はこちらで待機させていただきたいのですが?」

 

「ん? 構わんよ。 部屋は例の家族寮も空いているぞ?」

 

「え? 空いているんですか? てっきり、提督と赤城さんが使っているものと思っていましたが。」

 

秦の言葉に、頬がちょっと赤くなった秋吉と赤城・・。

 

「いや、今まで通りじゃ。 ワシはあの官舎を使っておらん。」

 

「掃除も手入れも出来ていますから、今からでも、昔のように使えますよ、お母様。」

 

「あら、そうなの? じゃぁ、使わせてもらいましょうか、あなた?」

 

「ああ。」

 

秦たち四人は官舎までやってきて、とりあえず、呉に連絡することにした。

官舎の執務室からは、ネットワークは繋がっていた。

繋がると画面に榛名が現れた。

 

「やぁ、榛名。 そっちはどうだい?」

 

「あ、提督! いま、どちらですか?」

 

「まだ横須賀だよ。 すぐには呉に帰れそうにないんだろ?」

 

「はい、こちらは、雨風共に強くなっています。 雨は何とかなりますが、風が予想以上に強くて、結構大変です。 既に呉の街でも暴風警報が出てて、避難命令も出ています。」

 

「そうなんだ。」

 

まだ、低気圧が直接上陸ではないのに、影響が大きいようだった。

 

「天候が回復するまでこちらに居ることにするよ。 そっちは任せてもいいかな?」

 

「はい、榛名は大丈夫です! お任せを!」

 

とガッツポーズをして見せる榛名であったが、

 

「まあ、何かありましたら連絡いたします。」

 

と敬礼して応えてくれた。

 

「じゃぁ、よろしく。」

 

そこまで言って、秦も返礼して通信を終えた。

 

「さて、と。 昼飯はまだだったね。 何か食べようか?」

 

と言って席を立とうとした時、そこへ、鳳翔と五十鈴がお盆をもってやってきた。

 

「お腹空いたわよね? 鳳翔さんと焼きそばを作ったから、食べましょ。」

 

ソースのいい匂いが部屋に充満してきた。

そういや、すでに1330を過ぎている。

 

「あぁ、ありがと。 大佐も食べよう。」

 

四人がソファーに座って、焼きそばが盛られたお皿を受け取る。

 

「うぅぅーん、ソースの匂い、すきっ腹にこたえるねぇ。」

 

では、【いただきます。】と。

焼きそばは、具の種類はシンプルだったが、量は多かった。

キャベツ、豚肉、エビ。

そばには削り節らしき粉末がのっていた。

 

「これ、削り節? でも、香りは違うなぁ・・」

 

「やっぱ、わかんないかぁ。」

 

そう言ってケラケラと五十鈴が笑った。

 

「フフフ。 それは”だし粉”です。」

 

と鳳翔が付けたした。

 

「だし粉?」

 

「はい。 香りがいいですから。 それに、味に深みが出ますからね。」

 

へぇーっと秦と大石大佐。

それでは、と麺を口に運ぶ。

麺は中太麺だった。

 

「ソースがちょっと辛めだけれど、これは、美味い!」

 

「美味しいですねぇ。」

 

キャベツは歯ごたえが良かった。

エビは、茹でエビだったが、キャベツと違ってプリっとした食感だった。

 

「二人で作ったのかい?」

 

と秦が聞くと、鳳翔が笑いながら、

 

「いいえ。 五十鈴ちゃんが一人で作ったんですよ。 私は横から見てただけです。」

 

「そうなんだ。 やるじゃないか、五十鈴。 美味しいよ。」

 

と大石大佐が褒めた。

へへへっと笑って、五十鈴が頬を赤めていた。

秦が鳳翔を見ると、秦にしか見えないようにウインクして見せた。

 

(鳳翔め。 横から見てただけなんて言ってるけど、口も出したな。)

 

と秦は心の中で思った。

お茶を啜りながら食後のひと時をまったりと過ごすのだった。

 

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