急ぎ、呉に戻ることに。
そこで作戦の概要が話される。
遠州灘上空を西に向かう飛行艇。
その機内では・・
イチャイチャしている2組がいた。
一組は・・ 秦と鳳翔。
隣り合い、肩を抱き、互いの顔を寄せて微笑んでいる。
「あ な た うふふふふ。」
「なぁに、ほうしょう」
夫婦なのにいつまでも恋人チックな二人である。
もう一組は・・ 大石大佐と五十鈴だった。
大石大佐にもたれ掛かり、身体を預けている五十鈴が、そこにいた。
この二人の顔は、朱に染まっていた。
大石大佐の手と五十鈴の手が、恋人繋ぎで結ばれていた。
どうやら、昨晩のうちに、二人の想いが繋がったようだ。
その二人を、目を細めながら秦が見ていた。
(これで、新たなカップルが誕生したな。 人が人を思うことは、良いことだしね。)
そう思っていた。
そんな機内の雰囲気とは違って、機体はよく揺れた。
それでも着実に呉へと向かっていた。
◇
「ただいま!」
お昼前、呉鎮守府執務室に秦たち四人が帰ってきた。
「あ、お帰りなさい、提督。 ご苦労様でした。」
返事をしたのは居残りだった秘書艦の榛名だった。
「いやあ、低気圧のお陰で一泊、余分に時間が掛かったけど、こっちはどうだった?」
「はい。 こちらは、雨より風でしたね。 強風でかなりの被害が出ています。 停泊していた艦もだいぶ擦ったみたいですし。」
「そうか。 それは大変だったな。」
「急ぎ、元通りに復旧作業をさせています。 何隻かは修理が必要な状況です。」
「おぅ、そんな影響あったのか。 そういえば、あちこちの港に避難していた艦隊は?」
「はい。 全艦隊無事で、呉に帰投中です。 損害はありましたが、損失はありませんでした。 損害としては、かなり擦れた傷がありましたので、修理に廻しています。 その関係で遠征や訓練にやや支障が。 一応、こちらに・・報告書にまとめておきましたのでご確認をお願いします。」
報告書を受け取り、内容を見て、
「ま、仕方がないだろうな。 いや、よくやってくれて助かったよ、榛名。 ありがとう。」
「いえ、そんな・・」
頬が赤くなった、かと思えば、なぜかクネクネしてる榛名であった。
「そ、それはそうと、榛名、これを見てくれ。」
そう言って例の計画書を見せた。
「作戦計画書、ですか。」
「ああ。 今回の出張の目的だったものだ。」
一通り読んだ榛名が、溜息をついた。
「ハァ。 なんていうか・・ 大規模なんですね、こんどの作戦は・・」
「そういうことだ。」
部屋の雰囲気が暗くなるような、そんな感じがした。
「まぁ、しょげてもいられないからね。 で、悪いんだが、長門と金剛を呼んでくれるかい?」
「長門さんと金剛お姉さまですね。 了解です。」
可愛く敬礼した後、館内放送で長門と金剛を呼び出した。
「秘書艦榛名より達します。 長門さん、金剛お姉さま、至急、執務室まで。 繰り返します・・・・」
しばらくして執務室に長門、金剛がやってきた。
「失礼する。 提督、何用か?」
「ハァーーイ! 呼ばれて来たヨー!」
「すまないね。 まずは、座ってくれ。」
そう言ってソファーに着座を促した。
「長門と金剛に来てもらったのは、新たな作戦計画が発せられたことを伝える為なんだが・・」
「新たな作戦?」
「ああ。 と言っても半年は先になるんだがね。 だから、作戦計画なんだが、他のモノにはまだ秘密だからね。 いいね?」
「OH! そんなに先の話ですカー?」
秦が、概要を説明する。
「時期が来れば、ここ呉から一斉に全艦出撃、と言うのではなく、いくつかの泊地から分散してから出撃する予定なんだ。 詳しくはまだ話せないんだけど。」
「と言うことは・・」
「君が察した通り、ここの艦隊のいくつかを予め分散配備することになる。 まだ”どこか”は言えないけどね。」
「そうか。 趣旨了解だ。 では、今後は訓練も本格的に、だな?」
「ああ。 より実戦的になるな。 長門、金剛。 よろしく頼むよ。」
「了解だ。」「任せるネー!」
さすが戦艦の艦娘だ。
理解が早いので助かるのだった。
「了解だが・・」
長門が何か言いたそうだ・・
「ん? なにかな?」
「訓練は、実戦的なものにするが、弾薬類の補充は、十分なのか? 訓練をすれども弾薬類が無くては意味がないぞ?」
長門の意見はもっともだ。
だが・・
「心配要らないよ。 ちゃんと考えているよ。 榛名、工廠に弾薬類の大増産の依頼を掛けておいてくれ。 生産ラインいっぱいでね。」
「はい、それは構いませんが・・」
「なにか?」
「いえ、私はそこまでやったことが無いので・・ その・・」
モジモジしている榛名。
「大丈夫よ。 私がお教えしますから。 分からないことがあったら何でも聞いてね。」
横から手助舟を出してきたのは鳳翔だった。
「と言う事で、榛名、詳しくは鳳翔に聞いてくれ。」
「はい。 分かりました。」
パッと顔色が明るくなって、元気に返事をしていた。
「それと・・ 大石大佐には分艦隊の指揮をお願いするつもりだから、そのつもりで。」
「はい。」
緊張した顔つきになる大石大佐。
「分艦隊の旗艦は、長門、君にお願いすることになるから、そのつもりでね。」
「了解だ。」
長門が答えた。
「あら、あたしはどうなるのよ? 秘書艦は続けるの?」
そう聞くのは秘書艦・五十鈴だった。
「五十鈴には秘書艦のままだよ。 五十鈴には分艦隊の総旗艦をやってもらうつもりだよ。」
と秦が応えていた。
「え? そ、総旗艦?? あ、あたしが?」
目を見開いて驚く五十鈴だったが、
「そうだよ、五十鈴。 しっかりと頼むよ。」
大石大佐が、にっこりと微笑んで答えていた。
五十鈴は、その笑顔に、自身の頬を赤めていた。
「それと、もう一方の分艦隊は、私が指揮するが、総旗艦は榛名にやってもらうからね。」
「えっ? 榛名が、ですか?」
「ああ。 秘書艦でもあるし、代理もこなしてくれたし、ね。 よろしく頼むよ。」
「は、はい! この榛名、全力で頑張ります!!」
と榛名は握りこぶしに力を込めていた。
「以上だ。 退室していいよ。 あ! 金剛は残って。」
長門が”失礼する”、と言って執務室を出ていった。
「テイトクー、何の用ネ?」
残された金剛が先に話してきた。
「悪いね。 金剛、第二対潜駆逐艦隊はどうだい?」
「そのことでスカ! 訓練も十分ネ。 いつでも出撃OKネ!」
「そうか・・ 実はね、本作戦が始まったら、君と榛名は横須賀の秋吉提督の艦隊の配下に入ってもらうからね。」
「そ、それはどういう・・」
「それはどういう事ネ?」
二人が疑問に思うのは無理ないことだ。
榛名は第一対潜駆逐艦隊の、金剛は第二対潜駆逐艦隊の、主力として訓練してきたのに、である。
「すまないな。 秋吉提督の艦隊は、君たち姉妹艦の比叡、霧島が居るんだが、対潜駆逐艦隊より、向こうの戦艦隊に欲しいということで、配属替えすることになったんだ。 もちろん、反対はしたんだが、な。」
すまなそうな顔をする秦だ。
「ハァ。 まぁ、命令とあらば従わざるを得ませんネー。 でも・・」
「ん、択捉と松輪のことかい?」
「イエス! 何ていえば良いのか・・ 難しいデスネ・・」
・・・
しばらく沈黙の時間が流れた。
「まぁ、今すぐじゃないから、そのうち俺から話すさ。 それで今はいいだろ?」
「お願いしマース。 あの子たちと離れるのは、寂しいデスネ・・」
少し悲しそうな表情の金剛だ。
「もう、母親だな、金剛?」
「えぇ、あの子たちは、あれで十分にかわいいですからネ・・」
「あ、あの、榛名も、ですか?」
「ああ。 榛名も、だ。 すまないね。」
こちらも表情が曇る。
「ただ、実際の配属替えは、まだまだ先だから、ほかの皆には内密ね。 わかったかい?」
それを聞いて・・
「了解ネー!」「はい。 分かりました。」
二人の返事は、元気なものになっていた。
「さ! まだ始まったばかりだから、今から暗い顔をしても何にも始まらない。 しっかり頼むぞ。 みんな?」
秦がそう言って、この日の打ち合わせを終えた。
◇
「そういや、榛名の引っ越しは終わったのかい?」
「あ、はい。 もう少しなんですが、今日のうちに済ましてしまおうと思っています。」
「部屋は見た?」
「はい。 私一人では十分すぎる大きさです。 ホントにいいんでしょうか。 何か、勿体ないような気がしますが・・」
榛名が戦艦寮から官舎へと移るのだが、今までは金剛と同室だったのが、今度は一人部屋となるのだった。
部屋自体の大きさは、さほど変わらないのだが、二人から一人になることで、一人当たりの面積は倍!となっていた。
「ま、建物の大きさは変えられないから、一人で広いかもしれないけど、我慢してくれるかい。 もっとも、普段は執務室に居るし、休日には、こども達が遊びに行くだろうからね。」
「それはいいのですが・・ それはそうと、食事は今まで通り、本館食堂でいいんですね?」
「あら、榛名ちゃんも官舎の食堂で摂らないの?」
「え? いいんですか?」
「榛名もうち等と同じく、官舎の食堂で摂るんだよ。」
「ふふふ。 これで一人増えますねぇ。 料理のし甲斐が増えます。」
そう言って笑う鳳翔だ。
「まぁ、本館食堂で食べてもいいけど、一応、家族なんだし、ここの食堂で食事しよ。」
と秦もニコリと笑った。
勤務時間も終わって、榛名の引っ越しだ。
運び込む荷物は、そんなに多くなかったので、こども達も手伝ったおかげで、二往復しただけで終わってしまった。
ベッドも、箪笥も、机も完備だから、ホントに身の回りの品だけだった。
そして時間は1900。
今日の夕食からは、新たに榛名がテーブルにつくのだった。
今までより、賑やかな食事風景となっていた。
用意する食事の量は・・ 今までより多くなっていた。
少し、ではなく、やや多めだ。
(やっぱり、戦艦組の榛名の食事量は、それなりに多いんだなぁ。)
と感心する秦だった。
◇
その日の夜。
寝室のベッドに腰かけている二人。
秦と鳳翔だ。
「あなた。 榛名ちゃんのことですけど、いいんですか?」
「ん、ああ。 横須賀への配属替えのことかい?」
「ええ。 かなりショックを受けていたようですけど。」
「こればかりは、命令だからな。 下手な小細工は、今はしない方がいい。 もっとも、その時になってみないと、ね。」
「やっぱり気にしていたんですね。」
「ああ。 せっかくウチに来たんだからね。 家族として、一緒に居たいしね。」
「ふふふ。 それでしたら心配しすぎでしたか。」
「はは。 そうなるね。 昼間にも言ったけど、配属替えがあるとすれば、作戦開始直前になるだろうからね。 そうなれば、どさくさに紛れることもあるさ。」
秦はそう言って笑っていた。
「もう。 人が悪いですよ?」
そう言って秦にもたれる鳳翔。
肩を抱いて、頬を鳳翔の頭に寄せて、
「鳳翔に気付かれるくらいの人の悪さなら、そんなに悪くはないだろ?」
と。
それに応えるように、
「ええ。 まだ可愛いと思いますよ。」
と鳳翔がいう。
そのうちに、互いの顔が向き合い、さらに近づいていく。
そして・・
んっ
ちゅっ
むっ
二人の唇が重なり、漏れる空気の音がしていた。
そして、そのまま抱き合ったまま、眠りに就くのだった。