幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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急遽思いついた安産祈願。
少々遅くなったが、みんなで出かけることに。



安産祈願

9月のある日の官舎での出来事だった。

秦が鳳翔に、

 

「そう言えば、安産祈願ってしてなかったよな。 今日しておこうか?」

 

と提案したのがきっかけだった。

 

「安産祈願ですか?」

 

「うん。 ま、神頼みなんだけど、どう?」

 

「あ、いいですね。 最近はもう悪阻も酷くありませんし、体調もいいですしね。 フフフ。」

 

「ん?」

 

「いえ、ほんとに妊婦さんなんだなぁって、思ったんです。 フフフ。」

 

口に手をあてて、笑う鳳翔だ。

 

「ここの近くじゃ、亀山神社?が安産祈願の祈祷をやってるらしいんだって。 行ってみる?」

 

「はい。 行ってみたいですね。」

 

そう言う二人に割り込んできたヤツがいた。

 

「へぇ・・ 安産祈願って、なんなの?」

 

そう聞いてきたのは皐月だった。

 

「昔から妊娠5ヶ月の戌の日に、無事に赤ちゃんが生まれますようにって祈願をするんだよ。」

 

と簡単な説明をした秦だ。

 

「戌の日? ってなに?」

 

「戌の日ってね、大雑把に言うとだな・・ 干支の十二支は判るよね? あれは”年”だけど、”日”にもあってね。 それで、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の順番で回ってくるんだけど、犬はお産が軽く、子だくさんになる処から戌が選ばれているって事になってるんだ。」

 

「へぇー。」

 

「だから、12日に1回、必ず戌の日が巡ってくるんだ。 その日にお参りして、妊婦さんに腹帯をして祈願するんだよ。 まあ、こういうのはよく大安が選ばれるんだけどね。」

 

「でも、お母さんってもう妊娠六か月すぎてるんじゃなかったっけ?」

 

「うん、そうなんだけど、なかなか忙しかったしね。 行きそびれちゃったんだよね。 まあ、誰かに代わりに行ってもらっても良かったんだどね。」

 

と頭を掻く秦だ。

 

「そう言えば、今月の戌の日って今日じゃありません? しかも大安ですよね?」

 

カレンダーを見てそう言ったのは、榛名だった。

 

「そうなの? じゃあ、今からみんなで行こうよ! ね!」

 

と急に乗り気になったのは朝霜だ。

 

「うーちゃんも行ってみたい、それ!」

 

「「行きたい、行きたい!!」」

 

と大合唱になってしまった。

 

「わ、分かったから。 じゃあ、みんなで行こう、ね?」

 

「わ、私も行っていいですか?」

 

とは榛名だった。

 

「OKだよ。 ね? 鳳翔?」

 

「私は何人でもいいですよ。 フフフ。 大所帯になっちゃいましたね。」

 

「それじゃあ、昼一で行くか。 いいね、みんな?」

 

 

 

その日の午後。

昼食後の休憩の後、楠木家8人全員で、鎮守府から車2台で出かけることにした。

仕事は大石大佐と五十鈴に頼み込んで変わってもらっていた。

何しろ、秘書艦の榛名までもが一緒に行くのだから。

鳳翔はいつもの薄紅色の着物に紺の袴姿だが、手には日傘を持ち、襷はしていなかった。

秦の手には、腹帯があった。

 

「父さん、それなに? サラシ?」

 

睦の目には、サラシに見えていた。

 

「これ? サラシだよ。 腹帯に使うんだけどね。」

 

「腹帯って何?」

 

「腹帯って、妊婦さんのお腹を支える帯のことよ。 大きくなるお腹を下から支えるの。 見ての通り、サラシなんだけど、お祓いを受けるから、ただのサラシ、ではないわね。」

 

「ふぅーん、そうなんだぁ。」

 

鎮守府からホンの10分ほどで神社に到着。

祈祷をしてもらうのに受付へ。

初穂料を払って、8人全員が拝殿に上って祈祷を受けるのだ。

 

「よいしょ」

 

とお腹を抱えながら拝殿へ上る鳳翔を、秦が手を差しだして支えていた。

 

「大丈夫?」

 

「ええ。 ありがとうございます。」

 

「ゆっくりでいいからね。」

 

「はい。」

 

ゆっくりとした動作で拝殿に上った。

そして、妊婦の鳳翔を真ん中にして、皆が正座していた。

睦も皐月も、神妙な面持ちをしていた。

みんな一緒に神主さんからお祓いを受けた。

その際、腹帯にもお祓いをしてもらったのだった。

祈祷が終わって、正座から足を崩した途端、

 

「ひぃ―っ」

 

と言う声が上がった。

後ろに倒れこむ朝霜と、前に転がる卯月がいた。

 

「あ、足が、足がぁあああ。」

 

「ありゃあ。 痺れたのかい? あんなにちょっとだけだったのに、まったくもう。」

 

弥生、皐月と睦は大丈夫なようだ。

榛名も痺れは無かった。

 

「朝霜ちゃん、卯月ちゃん、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫ぴょん・・」

 

と言うものの、痺れはなかなか取れなかった。

鳳翔は秦に支えられて拝殿を降りて行っていた。

 

「はい、ゆっくり、ゆっくり。」

 

「はい。」

 

と言いながら。

その時、朝霜が聞いてきた。

 

「なんで、痺れてないのよぉ。」

 

そう言われてもなぁ、と思う二人であった。

そして、お参りが終わると、腹帯を撒くのであるが、儀式の一環なので、着物の上からお腹に巻くのだ。

鳳翔と秦の二人で、腹帯を巻いた。

 

「ん、と。 こんなもんかな。」

 

「はい、いい感じですね。」

 

着物の上からだと、ちょっとおかしな格好ではある。

 

「なんか、変だよ?」

 

とは朝霜だったが、みなが、そうだね、って言ってる。

 

「まぁ、儀式だからね。 ずっとしているわけではないし。」

 

「私も、この格好は・・ この格好でいるのは、恥ずかしいですよ、やっぱり。 腹帯を巻くのは着物の下になるんでしょうね・・」

 

と顔を赤める鳳翔だった。

 

「まあ、そうだね。 今の時代じゃ、マタニティーガードル?ってかいう商品もあるらしいじゃないか。 腹帯の方が珍しかったりするんじゃないの?」

 

「そうですね、そうかもしれませんね。」

 

一通り、お参りが終わったのだった。

 

 

一行が帰るために境内を歩いていた。

鳳翔はだんだんとお腹が大きくなってきてから、徐々に足の運びがガニ股になってきていた。

それにつれ徐々に体の重心が後ろになってきていた。

 

「やっぱり、妊婦さんだね。 少しづつだけど、歩き方が変わってきたみたいだね。」

 

と秦が言うと、

 

「私自身は、変わってない、と思っているんですけど、たまに鏡を見ると、ちょっと・・」

 

と恥ずかしそうに答える鳳翔だった。

 

「それに、走るっていう事も、ちょっと無理ですね。」

 

「まぁ、そうだろうねぇ。 そのお腹じゃ無理だよね。 ま、走ることはさせないからね。」

 

「ええ。 それはわかってます。」

 

とフフフと微笑んでいた。

そんな会話をしていたが、

 

「こんな行事もあるんだね。」

 

と睦が聞いてきた。

 

「睦は、知らなかったか?」

 

「うん。 初めてだよ。 でも、いい経験になったよ、父さん、お母さん。」

 

「そうね、睦ちゃんも、好きな人の赤ちゃんが出来たら、安産祈願しましょうね。」

 

「えぇ~、私の赤ちゃんかあ。」

 

頬を赤めて、微笑む睦だ。

 

「私にも出来たんだから、睦ちゃんも出来るわよ。 ね、あなた?」

 

「そうだな。 睦に限らず、皐月や弥生たちも、将来は、だな。」

 

そう言われて、顔を見合わせて、

 

「そうだと、いいねぇ。」

 

だって。

 

「じゃあ、私も希望はあるわけですね。」

 

と言うのは榛名だった。

 

「そうだよね。 次ははるちゃんなのかな?」

 

そう皐月が言った。

 

「うふふ。 私はやっぱり、提督との赤ちゃんが欲しいなぁ。 ダメですか?」

 

ウっ

秦が言葉に詰まっていた。

 

「あらあら、あなた、人気者ですねぇ。」

 

と鳳翔が笑っていた。

 

「鳳翔! お前さん、分かって言ってるだろう? ったく!」

 

「私はいつで・も・か・・」

 

ゴツン!

秦が榛名の頭を小突いた音だった。

 

「いったぁ! 何するんですか!」

 

両手を小突かれた頭の上に置いて、秦を涙目で見る榛名だ。

 

「余計なことを言うんじゃない! ホレ! 見てみ! 睦たちの目を!」

 

睦や皐月たちの目が、ヤラシイ目つきの目が秦を見ていた。

 

「ったく。 榛名は俺の妹なんだから、妹らしくしなさい! いいかい?」

 

「えぇぇ~、残念だなぁ・・」

 

と思いっきりワザとらしく残念がる榛名。

その姿を見て鳳翔が笑っていた。

 

「フフフフ。 今回は榛名ちゃんの負けですよ? でも、あなたも暴力はいけませんよ? でも、”兄妹”らしくていいですね。」

 

「ああ! 鳳翔姉さん、そういう事言いますか! むぅ。」

 

ちょっとむくれる榛名だったが、

 

「じゃあ、こうします! えい!!」

 

そう言って鳳翔に抱き着いてきた。

 

「きゃっ」

 

「へへへ。 お姉さぁぁぁん! ムフフフ。 鳳翔姉さん・・いい匂いです・・」

 

「まぁ、甘えたさんね。」

 

抱き着いた榛名が、鳳翔にすり寄っていた。

 

「まったく、お前さんたち、なにやってんだよ?」

 

と呆れる秦だったが、

 

「女子二人の愛を確かめ合っているんです! 邪魔はさせませんよ?」

 

そう榛名に言われて呆気に取られていた。

それを見た皐月が

 

「あちゃー。 イチャイチャするのが一組増えちゃったよ・・」

 

と嘆いていた。

 

「あーん、はるちゃんとイチャイチャするのは、うーちゃんなの!!」

 

って卯月が怒っていた。

 

「お前らぁ・・ こんなとこで騒がないでくれよ・・ 騒ぐんなら帰ってからにしてくれ。」

 

【はあぁぁい!!】

 

秦の言葉に、みんなが返事をして、神社を後にするのだった。

 

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