幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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秦と鳳翔には、指輪がある。
ケッコンカッコカリの指輪が。
今日はその指輪に代えて・・・


本物の指輪

安産祈願を終えた数日後。

寝室のベッドに入って話し込む秦と鳳翔が居た。

 

「ねぇ、鳳翔?」

 

「なんですか、あなた?」

 

「明日なんだけど、第一対潜駆逐艦隊は修理と補給で休養日なんだけど、仕事を榛名と大石大佐、五十鈴に任せて、広島までちょっと付き合ってくれないかな?」

 

「え? 広島へ、ですか?」

 

「うん。 ダメ、かな?」

 

「いえ、構いませんけど。 何をするんですか?」

 

「ちょっとした買い物を、と思ってね。 じゃあ、よろしく。」

 

何を買いに行くんだろう? と思った鳳翔だったが、口には出さず、明日聞けばいいか、と思って眠ることにしたのだった。

次の日。

既に朝の支度を終え、睦らこども達は学校へと出かけていった。

 

「いってきまーす!!」

 

「ちゃんと勉強するんだよ。」

 

「大丈夫。 まっかせてよ!」

 

元気だけはいいこども達である。

0830少し前、榛名が出かける。

 

「それじゃ、先に行きます。 鳳翔姉さま、行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

0840を過ぎたころになって、秦が執務室に出かける。

 

「じゃあ、行ってくるよ。 一区切りついたら迎えに来るから。」

 

そう言って、”行ってらっしゃい”の口づけをする秦と鳳翔。

頬を赤めて、

 

「はい。 待ってますよ。 行ってらっしゃい。」

 

と返事をする鳳翔だった。

榛名は一足先に執務室に向かっていた。

秦は執務室に入ると、大石と五十鈴、そして秘書艦の榛名の姿を確認した。

 

「今日の訓練と出撃だが・・」

 

と今日の予定を確認し、仕事の割り振りを済ませた。

空母・鳳翔を旗艦とする第一対潜駆逐艦隊は、前日の訓練の修理と補給で今日は休養日であったことから、提督代理を大石に任せ、

 

「すまないね大佐。 今日一日、お願いするよ。 榛名も頼むね。」

 

そう言って執務室を後にした。

 

 

「鳳翔、居るかい?」

 

戻ってきて、玄関で声を掛けた。

 

「はーい。 居ますよー。」

 

少々、弾けた返事が返ってきた。

玄関付近で抱き合って、お互いを確かめていた。

鳳翔は、着替えるのも大変だったので、袴姿のままで羽織り物を持って出かける準備が出来上がっていた。

その後、秦が軍服から私服に着替えてきた。

車を手配して、港へ向かうよう、指示を出した。

 

「あら? 駅ではないのですか?」

 

「ああ。 たまには連絡船もいいかなと思ってね。」

 

やってきたのは呉中央桟橋だった。

ここからは四国・松山と広島・宇品へと向かう連絡船が出ていた。

切符を買って乗り込んだのは、松山発呉経由の宇品ゆきの高速船だった。

定刻よりやや早く入港して接岸して来ていた。

所要時間からすれば、呉から宇品までだと最短で20分ほど。

列車よりも速いが、中心市街地からはやや遠いのだ。

二人が乗船する時、一緒に乗り込む乗客は何人かいたが、すでに松山から乗ってきた乗客で8割ほど席が埋まっていた。

秦は二人掛けの席を見つけて、二人で座った。

座るとほぼ同時に高速船が動き出した。

 

「やぁ、もう動き出したか。」

 

「20分くらいですか? 案外、速いんですね。」

 

二人が座ったのは左舷の窓際だったので、出港後、すぐ左手に鎮守府前に停泊している艦船が間近に迫ってきた。

 

「窓の位置が低いから、駆逐艦でも大きく見えるな。 あれは陽炎か。」

 

「そうですね。 いつもは上から見ていますからね。 向こうは五十鈴ですね。 あっちには松輪たち海防艦ですか。」

 

徐々に速度を上げる高速船。

少しづつ右に舵を切っていく。

鎮守府の桟橋やドックから徐々に離れていく。

少し離れた沖合には大きな軍艦がいた。 長門と陸奥だ。

その横を抜けていくと、対岸に空母が見えてきた。

 

「あ! あれは”鳳翔”ですね。」

 

「どれ? ああ、そうだね。」

 

「みんな、ちゃんとやってるのかしら?」

 

「ははは。 心配には及ばないさ。 今日は補給と修繕をやってるだけだからね。」

 

「そうだといいんですけど。」

 

秦の腕に抱き着く鳳翔。

見合って、二人して微笑んで窓の外を見ていた。

高速船の速度が上がって、10分もしないうちに減速に入った。

 

「もう、到着のようだな。」

 

「やっぱり、速いですね。」

 

エンジン音がしなくなったと思ったら、もう桟橋は目の前だった。

ゆっくりと桟橋に接岸した。

渡し板が渡されると、乗客がぞろぞろと降りていく。

秦と鳳翔は一番最後に降りることにした。

船から降りると、いくつもの連絡船が留まっていた。

 

「これからどうするんですか?」

 

「これからは、路面電車で街までね。」

 

改札口を抜けると、すぐ目の前に路面電車の電停があった。

同じ船で来た乗客は、ほとんどが路面電車に乗り換えていく。

先発の電車は既に満員状態だったので、秦たちは次発の電車に乗ることにした。

鳳翔のお腹の事を考えれば、急ぐことはないのだから。

ここの路面電車は10分間隔で運行されているらしく、すぐに電車が来るようだった。

少し待つと次発の電車がホームに入ってきた。

1両だけのこじんまりした可愛らしい電車だ。

二人が乗り込むと、少しの時間で折り返していく。

乗客は2,3人ほど。

 

「これなら呑気でいいな。」

 

なんて話していると、何駅か過ぎると満席になった。

街に近づくほどに立ち客が増えてきた。

 

「こりゃあ、予想以上だな。」

 

「ええ。 こんなに混むなんて、思ってもみなかったですよ。」

 

電車に乗って30分ほどで広島の中心市街地へとやってきた。

 

「ふぅ。 やっと着いた。」

 

「これから、何処へ行くんですか?」

 

「ん、まずは、熊野筆のお店だよ。」

 

「熊野筆のお店?」

 

「ああ。 鳳翔が持ってる化粧筆を扱ってるお店だよ。 そろそろ買い替えや買い足しが必要だろうと思ってさ。」

 

「え、そんな。 悪いですよ。」

 

「いいじゃないか。 毎日は無理だけど、たまになら買ってもいいんだから。」

 

電停から5分ほど歩いて到着した。

お店は思ったより小ぢんまりしていた。

 

「いいんですか、ホントに?」

 

「ああ。 全ッ然構わないよ。 好きなのを選んで。」

 

「ありがとうございます。 それじゃぁ・・」

 

と言って、いくつもの筆を手に取って品定めをしていた。

 

「このサイズの筆が欲しいんですよねぇ・・ でも、こっちの方が・・ やっぱり、こっちかなぁ・・」

 

選ぶ鳳翔の後ろで、細く微笑んで見ている秦だった。

品定めする事30分あまり。

 

「決めました。」

 

鳳翔の手には4本の化粧筆が握られていた。

 

「それでいいのかい?」

 

「はい!」

 

ニッコリと微笑んでいた。

秦が支払いを終え、お店を後にする。

 

「さて、と。 次は・・」

 

「まだ、どこかへ?」

 

「うん。 次が本命、かな。」

 

鳳翔の頭の上に”?”が浮かんでいた。

 

 

熊野筆のお店からアーケード街を二人寄り添って歩いていた。

それもゆっくりと。

 

「さすがに、人が多いですね。」

 

「そうだね。 中国地方随一の繁華街だしね。」

 

通りの両サイドは大手の百貨店だったりする。

秦はそのうちの一つに入っていく。

そのあとに続く鳳翔だ。

 

「やぁ、着いたよ。 ここだよ。」

 

秦たちが着いたのは、ジュエリーショップだった。

 

「ここって・・ 何を・・」

 

まあまあ、と言いながらお店に入っていく。

 

「予約していた、楠木ですが。」

 

と入口付近に立っていた店員に声を掛けると、

 

『はい、楠木様ですね。 こちらへどうぞ。』

 

と案内されたのは、店の奥にある個室だった。

 

「あの、あなた? 何をするんです?」

 

お店の待遇に心配になる鳳翔だったが、

 

『ご依頼の商品は、こちらです。』

 

と店員が持ってきたのは、銀色に輝く指輪だった。

それも大小一つづつ。

 

「あの、これって?」

 

「うん。 マリッジリング。 俺と鳳翔のね。」

 

「あの、私、指輪してますけど・・」

 

「それは、ケッコンカッコカリの時の指輪でしょ。 カッコカリじゃなくて、本物のマリッジリングだよ。」

 

「本物・・ いいんですか?」

 

そう聞いてきた鳳翔だった。

表情は、最初は驚いていたが、秦の本気度を感じると、目に涙が浮かんできていた。

 

「ホントに、ホントに?」

 

「ああ。 ホントに本物の結婚指輪だよ。」

 

エヘヘヘっと泣き笑いの鳳翔だ。

 

「デザインとか、俺が選んでみたんだけど、どうかな? サイズは前に聞いていたままなんだけど?」

 

銀色の指輪には、唐様の花が彫り込んであった。

和彫り細工の指輪だった。

鳳翔が指輪を手に取って嵌めてみた。

カッコカリの指輪の上に。

 

「はい、ぴったりです。」

 

左手薬指に、カッコカリの指輪と本物の結婚指輪の2つがあった。

まるで2連リングのようだった。

 

「カッコカリの指輪は、外してもいいんだよ?」

 

「いえ。 これも大事なモノですから、外しません。」

 

左手を光にかざして反射具合を、デザインを眺める鳳翔。

それを微笑ましく見ている秦だった。

 

「じゃぁ、俺もそうしようかな。」

 

そう言って秦も指輪を嵌めた。

カッコカリの指輪と結婚指輪の2つだ。

 

「うん、俺もぴったりだな。 どう? お揃いだよ?」

 

と左手を、鳳翔の左手に重ねていた。

秦と鳳翔が、視線を重ねて見合って微笑んでいた。

 

「じゃあ、決まりだね。」

 

「はい!」

 

『お二人とも、よくお似合いです。』

 

と店員に言われて嬉しくなる二人だった。

指輪の支払いをして、寄り添って店を出た二人だった。

 

『ありがとうございました。』

 

と見送られる二人だが、互いの左手薬指には2つの指輪があった。

 

 

「へへへ。 綺麗ですね。」

 

指輪をかざしながら鳳翔が言う。

そんな鳳翔に向かって、

 

「鳳翔。 その指輪、返してもらうことはしないからな。 ずっと持っていてくれよ。 死が二人を割くまで、な。」

 

「何言ってるんですか! 死んだって離れませんからね。 あなたも覚悟してください?」

 

「そうだったな。 死んでも一緒だったな。」

 

「そうですよ。」

 

そう言い合って笑っていた。

 

「それで、これからどこへ行くんですか?」

 

「うん、腹ごしらえ。」

 

「あ、そう言えば私、お腹ペコペコです。」

 

「そうか。 じゃぁ、もう少し我慢しておくれ。 行ってみたいお店があるんだ。」

 

「何処ですか?」

 

「フフフ。 着いてからのお楽しみ、さ。」

 

「あら? 教えてくれないんですか? 意地悪ですね。」

 

「ははは。 ひみつだからいいんじゃないか。」

 

再び路面電車に乗って30分弱。

ある電停で降りた二人の前に、一軒のお店があった。

 

「さあ、着いたよ。 ここだよ。」

 

お店の看板には”あなご”と書いてあった。

 

「あなご、ですか?」

 

「うん。 あなご飯のお店なんだ。 ここのはなかなか美味いよ。 さあ、はいった、はいった。」

 

秦に促されてお店に入った。

 

「あなた、来たことあるんですか?」

 

「うん。 士官学校時代に初めてきてね。 その時食べたあなご飯が美味しくてね。 まあ、それからも何度かね。」

 

「そうなんですね。」

 

そう言いつつ、二人ともあなご飯を注文した。

 

『あなご飯、ふたつ!』『あいよ!』

 

と店員の威勢のいい声が響いていた。

10分ほど待って、二人の前にお目当てのあなご飯がやってきた。

お重に入った、一口サイズに切られたあなごの蒲焼。

やや薄めのタレが掛かっていた。

 

「いい匂いですね、これは。」

 

「鰻の蒲焼と違って、脂は少ないけど、その分、身がしっかりしてるからね。」

 

「じゃあ、いただきます。」

 

と言って食べ始める二人。

あなごを一切れ食べて・・

モグモグ、ムグムグ・・

 

「うん、このあなご、美味しいですね。」

 

「久しぶりに食べても、やっぱり、美味いなあ。」

 

そんなことを言いながら食べていた。

 

「あ! そうだ! すみませーん、このあなごの蒲焼、10人前を持ち帰りでお願いできますか?」

 

「持ち帰り?」

 

「はい。 今日の晩御飯です。 こども達の。」

 

「なるほど。 それはいい。」

 

『10人前ね。 タレも一緒でいいかい?』

 

「はい、お願いします。」

 

その後も二人で美味しく頂いたのだった。

 

『あなご飯が2つと、蒲焼10人前持ち帰りでーーー』

 

と支払いを済ませ、来た時と同じく路面電車に乗って帰ることにした。

 

「ふぅ。 美味しかったです。 いいお店を知ってたんですね。」

 

「ははは。 良かった。 鳳翔に褒めてもらえたようで。」

 

「ふふふ。 帰ったらこども達にも食べてもらいますからね。」

 

「ああ。」

 

お腹を満たした二人は、電車の振動が眠気を誘ってきて、うつらうつらとしていたが、乗り換えがあったために寝込むことは出来なかった。

そして再び宇品港へと戻ってきた。

帰りは高速船ではなく、通常の連絡船にした。

まあ、急いで帰ることもなかったのも一つだが、高速船の本数が少なかったから、なのだが。

連絡船にのること40分あまりで、呉中央桟橋に到着した。

その船は、そのまま松山まで行くのだ。

桟橋に降り立つと、夕暮れになっていた。

船着場の前から官舎へはタクシーを使ったのだった。

こうして二人の買い物は終わった。

 

 

「さあ! みんな、ご飯よ!」

 

官舎での夕ご飯の時間となった。

 

「今日は何かな?」

 

皐月や卯月が、ワクワクしながら食堂にやってきた。

そして、出てきたのは・・

鳳翔特性の、あなご丼だった。 しかも卵とじになって。

 

「鰻の蒲焼?」

 

「皐月ちゃん、ちょっと違うぴょん。 鰻より薄いぴょん。」

 

「さあて、なんの蒲焼でしょう?」

 

と微笑む鳳翔と秦。

 

「これって・・ 鳳翔姉さん、アレ、ですね? 鰻より小ぶりな。」

 

とは榛名だった。

どうやら榛名は知っているようだった。

 

「ふふふ。 そうね。 食べてみて。」

 

と鳳翔が言うと、

 

【いっただきまぁす!】

 

と言って皆食べ始めた。

 

「うん、これ美味しい!」

 

「鰻より身は薄いけど、身がしっかりしてるよ。」

 

「ムグムグ・・ お母さん、これって、あなご?」

 

と聞くのは皐月だった。

 

「正解! どう? あなご専門店の焼きあなごを丼にしてみたの。」

 

「卵の甘みとタレの塩加減がいいわぁ。」

 

「あなごかぁ。 うなぎよりあたいはこっちかな。」

 

そう言って丼を書き込む朝霜だった。

 

「朝霜ちゃんたら、そんなにかき込まなくても、まだまだあるわよ?」

 

「ムグ・・ おかわり!」

 

「もう・・ はいはい。」

 

呆れた表情の鳳翔だが、それでも微笑んで2杯目をよそった。

 

「はい、これでいい?」

 

「ありがと、お母さん! やっぱりお母さんのご飯は美味しいよ!」

 

「もう、朝霜ちゃんたら。 ありがと。」

 

「良かったな、鳳翔。」

 

「ええ。」

 

二人で見つめあっていた。

 

「あれ?」

 

「どうしたの、睦ちゃん?」

 

「父さん、お母さん。 その指輪・・ 増えてる・・」

 

「あら、見つかっちゃったかしら。 フフフ。」

 

頬を赤めて鳳翔が答えていた。

 

「フフフ。 今日、買ってもらったのよ。」

 

「「「えぇぇー、いいなぁ。」」」

 

「いいなぁ、じゃない。 これは、本物の結婚指輪だよ。」

 

「本物の?」

 

「ああ。 俺と鳳翔は、ちゃんとした夫婦だし。 カッコカリの指輪だけじゃぁなぁって思ってたからね。 思い切って買ったんだ。 だから、俺と鳳翔だけだよ。」

 

皆からへぇーっていう声がしてきた。

 

「それじゃあ、私は? お兄さん。」

 

とは榛名だったが、その言葉に、

 

「え? 榛名も? いや、これは俺と鳳翔のだからね。」

 

「えぇ? 私も欲しいです!」

 

「いや、榛名は妹だし、それに・・ これ一点ものなのね。 だから同じものはないの。 我慢しな?」

 

「ぶー! でもいつか、私用のも貰いたいんで! よろしく、お兄さん!!」

 

「あらあら。 あなたの負けですよ?」

 

「ケケケ、しれーかんの負けぇ! ケケケ」

 

「ったく、お前たちはぁ。 そう簡単に買わないからな!」

 

そうやって騒がしくも賑やかな夕食時となったのだった。

 

 

秦と鳳翔は、入浴を終え、自室のベッドに腰かけていた。

 

「まったく、榛名のやつ・・」

 

「まぁまぁ、そう言わなくてもいいじゃないんですか。」

 

「もう。 鳳翔もそう言うし。 俺は、俺の嫁さんは鳳翔だけだからね。 分かってるだろ?」

 

「はい。 分かってますから、言うんです。 フフフ。 そう言ってもらえるのが嬉しくて。」

 

ハァっと溜息をつく秦だった。

 

「鳳翔・・ 楽しんでるな・・」

 

「フフフ。 そんな事ありま・・す よ。」

 

と笑っている鳳翔だった。

それでも二人は抱き合って眠りに就くのだった。

 

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