鎮守府みんなで、と・・
10月初旬、秦がこんなことを言い出していた。
「すでに中秋は過ぎているんだが、名月鑑賞をやろうと思うんだけど?」
【名月鑑賞ぉ?】
「あら、いいですねぇ。 やりましょう。 私はいいですよ?」
「ねぇ? 名月鑑賞って何があるの?」
そう聞いてくるのは睦だった。
「大体は、旧暦8月15日に見える満月を、お月様を皆で見る、っていうものなんだけど、この時の満月は、明るくて真ん丸に見えるんだ。まぁ、満月は毎月あるんだけど、この時期は大気が澄んでお月様がきれいに見えるんだ。
んで、この時にすすきを飾って、月見団子、栗、枝豆などを盛って、お酒をそなえて月を眺めて楽しむんだ。 どうだ? 風流だろ?」
「ふーーん、そうなんだ。」
「月見団子はおいしそう。 でも、栗と枝豆って食べられるの?」
そう聞いてきたのは朝霜だった。
「基本的には、お供え物だからね。 栗と枝豆は、生だから、食べられないことはないけど、調理をしないといけないだろ。 ただ、時期的にはどうだろう?」
「生なんだぁ。 ちょっと残念かも。」
と残念そうな顔をする朝霜だ。
「まぁ、そんなに残念に思わなくても。 栗は早生の栗が出回りますからそれを使って焼き栗にしましょうか。 枝豆は塩茹でにしましょう。 それなら食べられるわよ? いいですよね、あなた?」
「ははは。 鳳翔がそう言うなら、そうしようか。」
「え? いいのかい?」
「ええ。 いいわよ。」
「「やった!!」」
「じゃぁ、月見団子も食べられるの?」
「ええ。 食べられるわよ。 じゃあ、きな粉と黒蜜を用意しましょう。 あなたたちはその方がいいでしょ?」
「やりぃ!」
「ったく。 食べることばっかりじゃないか。 お月様を鑑賞するのが目的だぞ? ったくもう。」
呆れる秦だが、その顔は笑っていた。
◇
涼しくなり始めた10月中旬、この日の夜に名月鑑賞をすることを秦が鎮守府内に伝えた。
「ほほう。 風流だねぇ。」
「へぇ、いいねぇ。」
と好意的に捕えてくれたようだった。
ただ、一部の輩は・・
「では、提督。 酒も備えるということは、酒は飲めるんだろうな?」
と。
当然、そう思っていたから、秦の返答は・・
「ああ。 酒保は開くよ。 存分に飲んでよし! だ。」
だった。
「ただし! 酒肴は、月見団子、焼き栗、枝豆以外は無いからな。 そのつもりでね。」
とにっこり微笑んで答えてやった。
「えぇ~~」
「何、酒肴が無い、だと!」
と批判が殺到したが、
「当たり前だ。 宴会ではないんだぞ? まったく。 何でもかんでも、宴会にしてしまいよってからに。 今回は”名月鑑賞”だから、しっぽりと飲んでくれ。 いいかい?」
と秦が言うと、
「まぁ、たまにはいいんじゃないかしら?」
と助け船を出してくれる者もいて、その場は何とか乗り切った秦だった。
「まったく。 すぐ大宴会にしてしまうんだから。 ちったぁ、”嗜む”ちゅうことをせんのかね。」
「まぁまぁ。 そう怒らずに。 ある程度の量は作っておきますから。」
「鳳翔は優しすぎるよ。 すぐ働こうとするんだから。」
「あら。 心配頂いて嬉しいですね。 でも、私も好きでやっていることですから、心配しないで下さい。」
「まぁ、そういうなら、止めはしないけど、さ・・。」
鳳翔を信用している秦だが、やっぱり、鳳翔にはゆっくりしてもらいたい、と思っていた。
◇
鳳翔は、枝豆は元から塩茹でにするつもりだった。
出回っている枝豆を、八百屋に大量に確保してもらっていた。
八百屋のオヤジからは、
「いやあ、これだけの量を確保するのに、だいぶ手間取ったよ。 ウチとしては全部買い取ってくれるから文句は言わねぇけどね!」
と愚痴を言われたのだった。
枝から房を外すと、大きめのかごに4カゴにもなった。
(あらあら、大変な量ね。)
これをビニール袋に、塩少々とともに入れて、塩もみをする。
「じゃあ、皐月ちゃん、お願いね。」
「りょーかーい!」
全体が混ざるように、しっかりと揉みこむ。
これを何度も繰り返す。
さすがに量が多かったらしく、
「ふぅ。 手が、手が疲れた~。」
と嘆く皐月だった。
そして、房をたっぷりのお湯に塩を多めに入れて茹でると、深緑が鮮やかな緑色になっていた。
「よし。 綺麗に緑色になったわ。」
「わあ、綺麗な色になったね。」
ただ、塩加減は鳳翔しか知らない・・。
(ま、こんなもんでしょ。 フフフ、今回はちょっと塩きつめにしておきましょうかね。)
そのほとんどを食堂の分に割り振っていた。
次は焼き栗だ。
これも八百屋に早生の栗を大量に取り置きをしてもらっていた。
「お母さん、この量は・・ これは重たいよぉ。」
と嘆く睦。
栗の実を洗って、ダッチオーブンに入れていく。
まぁ、蒸し焼きにするつもりだ。
水は一切入れない、無水料理。
弱火でコトコトと蒸した。
「へぇ・・ これでいいんだ・・ 案外、簡単なんだね。」
この蒸している時間は結構、長い。
おおよそ30分は掛かる。
その間に月見団子に取り掛かった。
「蒸焼にしている間に、お団子ね。」
「「わぁーい。 お団子だ!」」
と言って睦と皐月が手伝っていた。
こちらは、白玉粉、水、砂糖が必要だった。
白玉粉に水を混ぜていく。
砂糖は少々だ。
良くこねて、耳たぶほどの硬さにさればOKだ。
一口大の団子に分けていく。
これを沸騰させたお湯に投入する。
団子が浮いてくれば茹で上がった印だ。
茹で上がった団子を氷水に入れて冷ます。
水を切って出来上がりとなる。
今回は砂糖が少々入っているので、やや甘めだが、それでもきな粉と黒蜜を用意した。
月見団子はこれで完成だ。
団子の数はかなり多めだけど・・
そして、焼き栗。
「どうかしら? ・・ ん、いい感じね。」
蓋を取ってかき混ぜて、また蓋をしてさらに10分ほど。
そうすれば、出来上がりだ。 焼き栗ならぬ、”焼蒸し栗”だ。
これらも、ほとんどを食堂用に割り振った。
「さあ、三品出来たわ。 じゃあ、私たち用にこっちを持って行ってね。」
「「はぁーい!」」
秦たち一家用は、そんなに多く無かった。
◇
食後、官舎の前庭にテーブルと長椅子を持ち出して空を見ていた。
もちろん、名月をだ。
八人は浴衣姿だ。
「やぁ、榛名の浴衣姿、いいねぇ。 良く似合ってるじゃないか。」
「は、恥ずかしいです。」
と頬を赤める榛名が居た。
「父さんのスケベ! 鼻の下、伸びてるよ?」
そう茶化すのは睦だ。
ヒヒヒっと笑っていた。
明らかに、おちょくっていた。
「そんなことは無いからな!」
と否定する秦。
「ウフフ。 皆にかかれば、カタナシですね、あなた。」
「ああ。 まったく。 でも、鳳翔もいい感じじゃないか。 相変わらず、お淑やかだね。 さすがにお腹は分かるか?」
すでに七カ月を過ぎたお腹の膨らみは隠せなくなっていた。
「はい。 さすがにもうこのお腹では隠せませんねぇ。」
と笑いあっていた。
テーブルの上には、高坏に盛られた枝豆、焼き栗、月見団子があった。
「へぇ。 なんかいい感じだね。」
と言ったのは朝霜だった。
「おっ。 朝霜でもわかるのか? まぁ、ちょっとでも感じてくれればいいんだけど。」
「あたいだってわかるもん!」
へへん、と胸を張る朝霜だった。
「朝霜ちゃんは、アレでしょ。 食べ物でしょ。」
「あ、バレた?」
ハハハと笑いあうのであった。
笑いあうこども達をみて、微笑ましく思う秦と鳳翔だった。
「さあ。 みんな座って。 いいお月様に向かって乾杯だ。 あ、みんなはジュースね。」
【ほーーい】
お酒を飲むのは、秦と、榛名だけだったが、スッと3つ目のグラスが出てきた。
鳳翔だった。
「鳳翔は、ダメ。」
「だめ、ですか。 やっぱり・・」
「鳳翔姉さん、お酒は止めておいた方が・・・」
そう言うのは榛名だった。
「そうだよ、鳳翔。 お腹の子のことを考えてよね。 分かった?」
「・・はい・・」
と残念そうな顔をする鳳翔だ。
しぶしぶジュースを淹れてもらって、みんなが揃った。
「それじゃ、いいお月様に。」
乾杯! とみんなで唱和した。
こども達は一気にグラスを空にする。
「ふぅ。 お母さん、おかわり!」
「もう。 そんなに飲むとお腹、チャプチャプになるわよ? 大丈夫?」
「へへん、大丈夫だよ!」
そう言ってお代わりをする朝霜たちだった。
長椅子に皆が座って、天空の真ん丸のお月様を見ていた。
「こうやって見ると、お月様って綺麗だよね。」
「なかなかゆっくりと腰を据えて見ることなかったにゃぁ。」
そう言う皐月と睦だった。
同じ月を見ているものの、口が動いている奴が若干、一名いた。
食い意地の張る朝霜だった。
「お月様もいいけど、このお団子、もっちりして美味しいよ。 あたいはきな粉かな。」
「あ! もう食べてる!」
「独り占めずるいぃ! うーちゃんも食べる!」
高坏に盛られた団子を小皿に移して食べていく。
お酒を飲む秦と榛名は、塩茹での枝豆を食べていた。
「うん、いい塩加減ですね。 さすが鳳翔姉さん! 榛名はこの微妙な塩加減が出来ないんですよねぇ。」
「あら、そう? じゃ今度一緒に作りましょう。」
「じゃぁ、おれは二人の味見役って事で。」
「何言ってるんですか! あなたも作るんですよ? いいですか?」
「え? 俺も?」
「はい。 三人で作るんです。」
「わあ、いいですねぇ。 フフフ、榛名も頑張っちゃいます!」
しょーがねぇなぁ、と思う秦だが、
(みんな、楽しんでるようで、良かった良かった。)
と思っていた。
◇
賑やかな名月鑑賞の時間だった。
団子を食べる朝霜や皐月たちに榛名を横目に長椅子に座る秦と鳳翔。
「こういうの、やって良かった、かな。」
「ええ。 良かったと思いますよ。」
そう言って微笑む鳳翔だ。
「なあ、鳳翔・・」
「なんですか?」
「その、なんだ・・」
「はい?」
頬が朱くなった秦が、ゆっくりと鳳翔に向かい、
「つ、月がきれいだな・・」
と、鳳翔にしか聞こえないように言った。
それを聞いた鳳翔は、少し考えたが、すぐに顔が朱くなった。
そして・・
「私、死んでもいいわ・・」
と、こちらも秦にしか聞こえないような声で答えたのだった。
「ありがとう、鳳翔。 いつまでも傍にいておくれ。」
「はい。 いつでも傍にいますから。 それに、あなたもいつも傍に居てください。」
「ああ。」
そう言って小さな鳳翔の手をとり、恋人繋ぎで握った。
鳳翔も握り返してきた。
秦にもたれ、身をゆだねている鳳翔だった。
「あ-! 父さん、お母さん、ラブラブぅ!」
と皐月に見つかり、弄られるのであった。
◇
暫くすると、秦たちに3つの影が近寄ってきた。
「オー、やってますネ!」
そう言うのは金剛だった。
「金剛か? いらっしゃい。」
と言ったのは秦で、
「あら、こんばんわ。 金剛お姉さま。 どうしたんですか?」
と聞くのは榛名だった。
そして、
「択捉ちゃん、松輪ちゃんもこんばんは。」
とは鳳翔だ。
「「司令、鳳翔さん、こんばんは。」」
二人が声を揃えて答えていた。
「榛名の引っ越し祝いに来ましたヨー。 と言っても手土産は無いですケド。」
「もう。 ママったらちゃんと用意しようって言ったのに、あたしの言う事きかないからぁ。」
一緒にいた松輪と択捉が嘆息する。
両手が二人に繋がっていては何も持てんだろ、と思った秦だった。
「で、金剛、どうしたんだ?」
と秦が聞いた。
「実は・・ 本館食堂でのお月見は、賑やかすぎて、落ち着かないデスネー。 それに・・」
「それに?」
「松輪と択捉が静かな方が良いって言って、五月蠅くて敵いませんネー。 だからここに来ましたネ。」
溜息を付きながら長椅子に座ってきた。
その択捉と松輪は、揃いの浴衣を着ていた。 金剛も浴衣だった。
「択捉ちゃん、松輪ちゃんの浴衣、カワイイね!」
そう言うのは皐月だった。
「へへへっ。 いいでしょ?」
と両手を広げて笑う松輪と択捉。
そこに、
「可愛いもんね、ねぇ? 松輪。」
と択捉もいう。
「金剛もその浴衣、良く似合ってるじゃないか。 榛名とは違う柄だけど、大人な感じだな。」
そう秦が言うと、モーと、金剛の頬が朱くなった。
そこへ、
「はい。 あなたたちもジュースよ。 金剛さんはこっちね。」
とグラスを持ってきた鳳翔。
わーいと飛びつく松輪と択捉だった。
「オー、サンキューデース。」
鳳翔が金剛に用意したのは・・お酒だ。
グラスを受け取り、一口飲む。
「クゥーッ。 これは効くネー。」
「ん? 金剛、ひょっとして、久しぶりに呑むとか?」
「ハイ! 久しぶりデース。 普段は”あの二人”が居るので、なかなか呑めないデスネー。 だから、今日は一段と美味しいデース!」
「ははは。 それは良かった、と言っていいのかな。」
睦、皐月らと択捉、松輪が、月見団子と焼き栗を食べ食べ、おしゃべりをしながら月を見ていた。
「へぇ、こういうのもいいね。」
「そうだねぇ。」
みんな月にうっとりとしていた。
「ヘイ! 鳳翔サン、お代わりネ!!」
「はいはい、ちょっと待ってください。」
「もう。 金剛お姉さまったら、呑みすぎないでくださいよぉ。」
「あ、鳳翔さん、そのくらいで。 ママが酔うと後が大変なんで。」
「そうですそうです。」
「オウ、択捉に松輪ぁ、二人ともそんなこと言いますかァ? もっとママを信用してくださいネ!」
「ええ? だって、このま・え フガフガ・・」
しゃべっている松輪の口を、全力で塞ぐ金剛がいた。
「ノー! それ以上喋ったら、お尻ペンペンネ!!」
「フガフガー!!!」
「あらまぁ。 そんなにしなくても・・」
鳳翔に言われて手を放す金剛。
「はぁ、ハァ、ママったら、ひどぉぉい!」
とプンスカしている松輪だ。
「金剛? お前さんの酒癖の良さはみんな知ってることだから、そんなにムキにならなくても・・」
「ノー!! みんな酷いネー。 もう注意してるですネー。」
秦も鳳翔も榛名も、みんな呆れて笑っていた。
秦、榛名、金剛の三人は、数杯のお酒を飲んで、顔が少々赤くなってきていた。
「フフフ、やっぱり鳳翔姉さんの選ぶお酒は美味しいですね。 ね、金剛お姉さま?」
「そうねぇ。 それに、この雰囲気で飲むお酒も乙なもんネ。」
「そう言ってもらえると、嬉しいですね。 お月見をやって良かったですね、あなた?」
「ああ。 みんな楽しんでもらえたようで、良かったよ。」
こういう機会をいくつも作ってやろう、と思う秦だった。