何を作っているかというと・・
10月の頃に、居間で鳳翔が一人裁縫をしていた。
それも青い生地と赤い生地。 そして、いっぱいの綿を用意していた。
「何を縫ってるんだい?」
と秦が聞いてみた。
「これですか? これは半纏です。」
それを聞いた朝霜が、
「はんてん?」
と聞き返す。
「そうよ。 綿入りの半纏よ。」
と答える鳳翔。
「綿入り?」
更に聞く朝霜だ。
「ええ。 夜とか、冬の寒い時に、羽織るのよ。 綿入りだから暖かいわよ。」
それを聞いて、ふぅーん、という顔をする。
「でも、どてらじゃないの、それ?」
「そうね、地方によっては、半纏をどてらとも言うところもあるわね。」
「そうだなぁ、地域によっては丈が長かったりするらしいけど、ウチのは、どっちかって言うと、法被の綿入り版みたいな感じだけど。」
「フフフ。 そう言う見方もありますか。 私としては、あなたのお義母さんが着ていて、温かそうだったので、いつかは作ろうと思ってたんですけどね。」
「なんだ、そうなのか。」
「そうだね。 確かに父さんのおばあちゃんが着てたよね。」
そう言うのは睦だった。
鳳翔と睦は秦の母親を見知っているので、秦の母親が半纏を着ていたことを思い出していた。
「そういや、父さんのおばあちゃんは、赤色の生地に白い花柄がたくさんあるヤツじゃなかったっけ? もこもこになってたよね?」
「もこもこって・・ そんなに酷くは無かったろ。」
「でも、もこもこでも、寒い時期は温かいわよ。 睦ちゃんは、寒いの嫌でしょ。」
「うーん、確かに寒いのは遠慮したい、かな。」
「だったら、睦ちゃんも、もこもこになりましょうね。」
とニッコリと鳳翔スマイルで睦が撃沈したのだった。
「ねぇねぇ、お母さん。 それって、あたい達のも?」
「ええ。 あなた達の分もちゃーんと作るから、心配しないで。」
「じゃあ、待ってるね。」
「うーちゃんは、フリフリ付けて欲しいぴょん!」
「はいはい。 フリフリね。」
「やったー!」
一人喜ぶ卯月だ。
「じゃぁ、あたいは、綿をたっぷり!」
「あらあら。 じゃあ、残ったら全部入れてあげるわ。」
「ケケケ、やりぃ!」
「おいおい、お前たち。 鳳翔に負担を掛けるんじゃないよ? 分かってる?」
「あなた、大丈夫ですから。」
「鳳翔がそう言うなら・・」
秦としては、鳳翔にあまり負担は掛けたくなかった。
お腹が大きいのに、もっとゆっくりして欲しかったのだった。
ただ、鳳翔はそうは思っていなかった。
秘書艦の仕事は榛名に任せてあるし、普段の家事はこども達が分担していたから、自身には余裕があった。
もちろん、裁縫は大好きな鳳翔である。
生地から型をとって、表地、裏地を作り、ミシンで縫い合わせ、綿を入れていく・・
生地は呉市街の呉服屋さんに頼んでいたもので、秦用の青系の生地と、皆用の赤系の生地の2種類を用意していた。
赤系の生地は・・ 人数が多かったので、それなりの量になっていた。
また、綿も人数が多い為に、結構な量になっていたのだった。
ミシンは、呉に来てから新たに購入したものだ。
さすがに、足踏みミシンは相生から持ってきていないので、プログラム内蔵型の最新型を購入していた。
「さすがに新型ねぇ。 縫い目も布送りも勝手にやってくれるなんて、良く出来てるわ。」
なんて感心していたくらいだ。
当然、手縫いよりも作業が早い。
「なにか、手作り感が・・ 薄いわねぇ・・ 機械的な感じがするわねぇ・・」
と思っていたが、
「でも・・ これなら、いろいろと作れるわ。」
と前向きに考えていたのだった。
◇
11月に入ると、はやり朝晩は寒くなってきた。
「さあ。 半纏を出しましょうね。」
という鳳翔の一言で、半纏を着ることになった。
「はい、あなたの分ですよ。」
と秦に手渡すのは、青地に白い錨の絵柄がたくさん入った半纏だった。
「ありがとう。 早速着てみるよ。」
そう言って半纏を着る秦。
「うん、ちょっと大きめだけど、これってこれくらいの大きさの方がいいかもね。 うん、温かい。 温かいよ、鳳翔。 ありがとう。」
「はい、あなた達のもあるから、着てみてくれる?」
わーい、と寄って来ては自分のを手に取って着ていく。
卯月のはフリル付きだから一番よくわかる。
「うーちゃんの、フリフリ付きぃ!」
卯月のは、ピンク色のフリルが襟に付いていた。
生地は、一応、各人の希望を聞いていたのだが、みんな同じ生地になってしまった。
朱色の生地に絣の模様が入った柄ものだ。
ただ、どれも襟に名前が縫われていた。
だから、卯月以外は同じ柄でも名前を見れば、誰のか直ぐに分かった。
「これは・・ 皐月ちゃんので、これは・・睦ちゃんだね。 こっちは弥生ちゃんで、残ったのはあたいか。」
「このおっきいのは・・」
「私と榛名ちゃんのよ。 はい、榛名ちゃん。」
「あ、ありがとうございます、鳳翔姉さん。 わあ、温かいですねぇ。 いい感じでもこもこです。」
半纏を着るとどうしても体がおっきく見えてしまう。 太っているわけではなく、綿のせいなのだが。
「フフフ。 ありがとう。 作ったかいがあったわ。」
「ほら。 鳳翔も着ないと。 自分だけ着ないわけないよな?」
「はい。 ・・これでどうです?」
鳳翔も自分で縫った半纏を着て、両手を広げて見せた。
「やぁ、可愛らしいじゃない。 ちゃんとお腹まで隠せるくらいだね。」
「ええ。 ちょっと大きめにしてみたんです。 ・・変じゃないですか?」
「そんなことないよ。 いい感じじゃない。 な、みんな?」
「うん。 見た目は、あんまり変わらないね。」
「そ、そう?」
皆で笑いあっていた。
「帰ってきたら半纏を着て、ベッドに入るまで着てればいいよね?」
「ええ。」
「寝るときは布団の上に載せておけば大丈夫だけどな。」
「じゃあ、そうしよっかな。」
「ただし! 寝相が悪いとベッドの外に落ちちゃうから気をつけてな。 いい? 卯月に朝霜?」
「な、なんであたいと卯月ちゃん名指しなんだよ、しれーかん?」
「なんでって、お前たち二人が一番、寝相が・・酷いからだよ。」
「ひっど!」
「そう言うけど、掛け布団は体の上に無くて右か左に寄ってるし、下手すりゃ、蹴飛ばしてベッドの下に落ちてるしなぁ。 それで良く風邪をひかないもんだと、関心はするけどな。」
「う・・ そこまで言わなくても、いいじゃん・・」
地味にショックを受ける朝霜だった。
◇
やはり11月ともなれば寒くなってくるものだった。
「うぅ~、朝晩は寒くなったよねぇ。」
執務室には大きめのストーブが置かれていた。
そのストーブに冷えた手をかざして暖を取る秦が居た。
「提督さん、そんなに近寄って熱くないの?」
ストーブにあたる秦を見ながら五十鈴が呆れるように言った。
「五十鈴ぅ、俺の手は皆より冷えるのが早いんだよ。 まぁ、すぐに暖かくなるんだけどね。」
その五十鈴に反論する秦だった。
「提督は寒がり、ですか?」
そう聞いてきたのは大石大佐だった。
「いや、そう言う訳ではないんだが・・ 急に寒くなっただろ? でも、榛名や五十鈴は、その恰好・・ 寒くないのかい?」
「ええ。 まだ大丈夫ですよ?」
「そうよ。 まだまだ平気よ。 提督さんが寒がりなのよ、きっと。」
なにか虐められている感じがする秦だった。
「フフフ、提督、ダメですね。 虐められっぱなしですよ?」
「あ? 榛名もそう言うか?」
官舎では、鳳翔お手製の半纏を着ている秦だが、どうしても着ない執務室では寒がった。
「寒いものは寒いんだよ!」
と強がってみせるのだった。
◇
夕方、執務を終えると秦はまっすぐに官舎へと帰る。
隣の建物だけに時間は掛からない。
たまにこどもらに”遊んで!”と捕まることもあるが、そうでなければものの1分で玄関に着く。
「ただいま。 うぅ~、さむ!」
段々と冷えてくる感じがするのだ。
「あら、お帰りなさい、あなた。」
ニコリと出迎える鳳翔。
「ああ。 今日は一段と寒いような気がするよ。」
「じゃぁ・・」
鳳翔は、そう言って秦の手を握った。
秦の、冷えた冷たい手を両手で挟み込むように・・。
「まぁ、冷たいですね。 フフフ。 どうですか。 暖かいですか?」
「ああ。 暖かいよ、鳳翔。 ありがたいけど、身体に良くないことはしないでね。 特に冷えることは・・」
玄関で二人手を握り合ったまま、しばらく動こうとはしない・・
そこへ・・
「あぁあ、もう! 玄関でラブラブしないでください! 鳳翔姉さん、兄さん!」
怒り声で榛名が言ってきたのだ。 しかも痺れを切らせて。
「さっさと入ってくれないと、邪魔です! でも・・ 羨ましいったらありゃしないんですから!」
プンプンと怒りながら榛名が入ってきた。
「どうしたの?」
中から睦がやってきた。
玄関で声がしたのに、誰も入ってこない事が気になって見に来たのだった。
「睦ちゃん、聞いて。 この二人ったら、玄関で手を握り合ったまま動かないのよ! 邪魔ったらありゃしないの!」
そう言われて恐縮しまくる秦と鳳翔だった。
「いくら安定期を過ぎたとはいえ、妊婦さんを寒い玄関に居させないでください! 分かりましたか?」
「はい・・」
怒られて小さくなる秦。
「わ、私は大丈夫だから。」
と鳳翔が言うが、
「鳳翔姉さんも、です! 安易に大丈夫って思わないでください! 何があるかわからないんですからね。 いいですか?」
「は、はい・・」
鳳翔も小さくなっていた。
「ま、まぁ、そんな事より、早く居間に行こうよぉ。 ここは寒いぃ。」
皆を暖かい居間へと誘う睦。
(まったく、苦労するわ・・)
そう思ったのだった。