幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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冬へと向かう中で、裁縫する鳳翔。
何を作っているかというと・・



半纏

10月の頃に、居間で鳳翔が一人裁縫をしていた。

それも青い生地と赤い生地。 そして、いっぱいの綿を用意していた。

 

「何を縫ってるんだい?」

 

と秦が聞いてみた。

 

「これですか? これは半纏です。」

 

それを聞いた朝霜が、

 

「はんてん?」

 

と聞き返す。

 

「そうよ。 綿入りの半纏よ。」

 

と答える鳳翔。

 

「綿入り?」

 

更に聞く朝霜だ。

 

「ええ。 夜とか、冬の寒い時に、羽織るのよ。 綿入りだから暖かいわよ。」

 

それを聞いて、ふぅーん、という顔をする。

 

「でも、どてらじゃないの、それ?」

 

「そうね、地方によっては、半纏をどてらとも言うところもあるわね。」

 

「そうだなぁ、地域によっては丈が長かったりするらしいけど、ウチのは、どっちかって言うと、法被の綿入り版みたいな感じだけど。」

 

「フフフ。 そう言う見方もありますか。 私としては、あなたのお義母さんが着ていて、温かそうだったので、いつかは作ろうと思ってたんですけどね。」

 

「なんだ、そうなのか。」

 

「そうだね。 確かに父さんのおばあちゃんが着てたよね。」

 

そう言うのは睦だった。

鳳翔と睦は秦の母親を見知っているので、秦の母親が半纏を着ていたことを思い出していた。

 

「そういや、父さんのおばあちゃんは、赤色の生地に白い花柄がたくさんあるヤツじゃなかったっけ? もこもこになってたよね?」

 

「もこもこって・・ そんなに酷くは無かったろ。」

 

「でも、もこもこでも、寒い時期は温かいわよ。 睦ちゃんは、寒いの嫌でしょ。」

 

「うーん、確かに寒いのは遠慮したい、かな。」

 

「だったら、睦ちゃんも、もこもこになりましょうね。」

 

とニッコリと鳳翔スマイルで睦が撃沈したのだった。

 

「ねぇねぇ、お母さん。 それって、あたい達のも?」

 

「ええ。 あなた達の分もちゃーんと作るから、心配しないで。」

 

「じゃあ、待ってるね。」

 

「うーちゃんは、フリフリ付けて欲しいぴょん!」

 

「はいはい。 フリフリね。」

 

「やったー!」

 

一人喜ぶ卯月だ。

 

「じゃぁ、あたいは、綿をたっぷり!」

 

「あらあら。 じゃあ、残ったら全部入れてあげるわ。」

 

「ケケケ、やりぃ!」

 

「おいおい、お前たち。 鳳翔に負担を掛けるんじゃないよ? 分かってる?」

 

「あなた、大丈夫ですから。」

 

「鳳翔がそう言うなら・・」

 

秦としては、鳳翔にあまり負担は掛けたくなかった。

お腹が大きいのに、もっとゆっくりして欲しかったのだった。

ただ、鳳翔はそうは思っていなかった。

秘書艦の仕事は榛名に任せてあるし、普段の家事はこども達が分担していたから、自身には余裕があった。

もちろん、裁縫は大好きな鳳翔である。

生地から型をとって、表地、裏地を作り、ミシンで縫い合わせ、綿を入れていく・・

生地は呉市街の呉服屋さんに頼んでいたもので、秦用の青系の生地と、皆用の赤系の生地の2種類を用意していた。

赤系の生地は・・ 人数が多かったので、それなりの量になっていた。

また、綿も人数が多い為に、結構な量になっていたのだった。

ミシンは、呉に来てから新たに購入したものだ。

さすがに、足踏みミシンは相生から持ってきていないので、プログラム内蔵型の最新型を購入していた。

 

「さすがに新型ねぇ。 縫い目も布送りも勝手にやってくれるなんて、良く出来てるわ。」

 

なんて感心していたくらいだ。

当然、手縫いよりも作業が早い。

 

「なにか、手作り感が・・ 薄いわねぇ・・ 機械的な感じがするわねぇ・・」

 

と思っていたが、

 

「でも・・ これなら、いろいろと作れるわ。」

 

と前向きに考えていたのだった。

 

 

11月に入ると、はやり朝晩は寒くなってきた。

 

「さあ。 半纏を出しましょうね。」

 

という鳳翔の一言で、半纏を着ることになった。

 

「はい、あなたの分ですよ。」

 

と秦に手渡すのは、青地に白い錨の絵柄がたくさん入った半纏だった。

 

「ありがとう。 早速着てみるよ。」

 

そう言って半纏を着る秦。

 

「うん、ちょっと大きめだけど、これってこれくらいの大きさの方がいいかもね。 うん、温かい。 温かいよ、鳳翔。 ありがとう。」

 

「はい、あなた達のもあるから、着てみてくれる?」

 

わーい、と寄って来ては自分のを手に取って着ていく。

卯月のはフリル付きだから一番よくわかる。

 

「うーちゃんの、フリフリ付きぃ!」

 

卯月のは、ピンク色のフリルが襟に付いていた。

生地は、一応、各人の希望を聞いていたのだが、みんな同じ生地になってしまった。

朱色の生地に絣の模様が入った柄ものだ。

ただ、どれも襟に名前が縫われていた。

だから、卯月以外は同じ柄でも名前を見れば、誰のか直ぐに分かった。

 

「これは・・ 皐月ちゃんので、これは・・睦ちゃんだね。 こっちは弥生ちゃんで、残ったのはあたいか。」

 

「このおっきいのは・・」

 

「私と榛名ちゃんのよ。 はい、榛名ちゃん。」

 

「あ、ありがとうございます、鳳翔姉さん。 わあ、温かいですねぇ。 いい感じでもこもこです。」

 

半纏を着るとどうしても体がおっきく見えてしまう。 太っているわけではなく、綿のせいなのだが。

 

「フフフ。 ありがとう。 作ったかいがあったわ。」

 

「ほら。 鳳翔も着ないと。 自分だけ着ないわけないよな?」

 

「はい。 ・・これでどうです?」

 

鳳翔も自分で縫った半纏を着て、両手を広げて見せた。

 

「やぁ、可愛らしいじゃない。 ちゃんとお腹まで隠せるくらいだね。」

 

「ええ。 ちょっと大きめにしてみたんです。 ・・変じゃないですか?」

 

「そんなことないよ。 いい感じじゃない。 な、みんな?」

 

「うん。 見た目は、あんまり変わらないね。」

 

「そ、そう?」

 

皆で笑いあっていた。

 

「帰ってきたら半纏を着て、ベッドに入るまで着てればいいよね?」

 

「ええ。」

 

「寝るときは布団の上に載せておけば大丈夫だけどな。」

 

「じゃあ、そうしよっかな。」

 

「ただし! 寝相が悪いとベッドの外に落ちちゃうから気をつけてな。 いい? 卯月に朝霜?」

 

「な、なんであたいと卯月ちゃん名指しなんだよ、しれーかん?」

 

「なんでって、お前たち二人が一番、寝相が・・酷いからだよ。」

 

「ひっど!」

 

「そう言うけど、掛け布団は体の上に無くて右か左に寄ってるし、下手すりゃ、蹴飛ばしてベッドの下に落ちてるしなぁ。 それで良く風邪をひかないもんだと、関心はするけどな。」

 

「う・・ そこまで言わなくても、いいじゃん・・」

 

地味にショックを受ける朝霜だった。

 

 

やはり11月ともなれば寒くなってくるものだった。

 

「うぅ~、朝晩は寒くなったよねぇ。」

 

執務室には大きめのストーブが置かれていた。

そのストーブに冷えた手をかざして暖を取る秦が居た。

 

「提督さん、そんなに近寄って熱くないの?」

 

ストーブにあたる秦を見ながら五十鈴が呆れるように言った。

 

「五十鈴ぅ、俺の手は皆より冷えるのが早いんだよ。 まぁ、すぐに暖かくなるんだけどね。」

 

その五十鈴に反論する秦だった。

 

「提督は寒がり、ですか?」

 

そう聞いてきたのは大石大佐だった。

 

「いや、そう言う訳ではないんだが・・ 急に寒くなっただろ? でも、榛名や五十鈴は、その恰好・・ 寒くないのかい?」

 

「ええ。 まだ大丈夫ですよ?」

 

「そうよ。 まだまだ平気よ。 提督さんが寒がりなのよ、きっと。」

 

なにか虐められている感じがする秦だった。

 

「フフフ、提督、ダメですね。 虐められっぱなしですよ?」

 

「あ? 榛名もそう言うか?」

 

官舎では、鳳翔お手製の半纏を着ている秦だが、どうしても着ない執務室では寒がった。

 

「寒いものは寒いんだよ!」

 

と強がってみせるのだった。

 

 

夕方、執務を終えると秦はまっすぐに官舎へと帰る。

隣の建物だけに時間は掛からない。

たまにこどもらに”遊んで!”と捕まることもあるが、そうでなければものの1分で玄関に着く。

 

「ただいま。 うぅ~、さむ!」

 

段々と冷えてくる感じがするのだ。

 

「あら、お帰りなさい、あなた。」

 

ニコリと出迎える鳳翔。

 

「ああ。 今日は一段と寒いような気がするよ。」

 

「じゃぁ・・」

 

鳳翔は、そう言って秦の手を握った。

秦の、冷えた冷たい手を両手で挟み込むように・・。

 

「まぁ、冷たいですね。 フフフ。 どうですか。 暖かいですか?」

 

「ああ。 暖かいよ、鳳翔。 ありがたいけど、身体に良くないことはしないでね。 特に冷えることは・・」

 

玄関で二人手を握り合ったまま、しばらく動こうとはしない・・

そこへ・・

 

「あぁあ、もう! 玄関でラブラブしないでください! 鳳翔姉さん、兄さん!」

 

怒り声で榛名が言ってきたのだ。 しかも痺れを切らせて。

 

「さっさと入ってくれないと、邪魔です! でも・・ 羨ましいったらありゃしないんですから!」

 

プンプンと怒りながら榛名が入ってきた。

 

「どうしたの?」

 

中から睦がやってきた。

玄関で声がしたのに、誰も入ってこない事が気になって見に来たのだった。

 

「睦ちゃん、聞いて。 この二人ったら、玄関で手を握り合ったまま動かないのよ! 邪魔ったらありゃしないの!」

 

そう言われて恐縮しまくる秦と鳳翔だった。

 

「いくら安定期を過ぎたとはいえ、妊婦さんを寒い玄関に居させないでください! 分かりましたか?」

 

「はい・・」

 

怒られて小さくなる秦。

 

「わ、私は大丈夫だから。」

 

と鳳翔が言うが、

 

「鳳翔姉さんも、です! 安易に大丈夫って思わないでください! 何があるかわからないんですからね。 いいですか?」

 

「は、はい・・」

 

鳳翔も小さくなっていた。

 

「ま、まぁ、そんな事より、早く居間に行こうよぉ。 ここは寒いぃ。」

 

皆を暖かい居間へと誘う睦。

 

(まったく、苦労するわ・・)

 

そう思ったのだった。

 

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