幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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いつもの生活の秦たち。
お腹が大きくなってきた鳳翔にさらなる変化が・・
ついに・・



新たな命

「ところで、提督? 例の計画ですが、そろそろ最終段階として取り掛からないと・・」

 

「そうだな。 そろそろ、最終確認をしておくか・・」

 

「はい。 資料はこちらに。 訓練は継続しています。 弾薬類の製造も備蓄も継続しています。」

 

既に纏められていた報告書を、大石大佐が秦に見せた。

その報告書を捲っていく。

 

「そうだね。 各艦の練度は高練度になってきているね。」

 

必要とする艦数は確保しなければならないが、その辺は問題ないようだった。

 

「予定艦数は・・ 一応、クリアしている、か・・」

 

「はい。 今現在では、ですね。 このままいけば問題ないと思います。」

 

「出撃までに、事故らなければいいんだがね・・」

 

「大丈夫じゃない? 今から心配しても始まらないわよ?」

 

と言ったのは五十鈴だった。

確かに、そうなんだが、と思う秦だった。

戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、海防艦らの戦闘艦の整備はほぼ終わっている。

艦載機も、艦上戦闘機、同攻撃機、同爆撃機、同偵察機と同対潜哨戒機の確保は出来ていた。

完熟訓練もばっちりだ。

何しろ、空母・鳳翔の搭乗員によるきっつーい訓練をうけてきたのだから。

水上戦闘機、同偵察・観測機、同攻撃機とこちらも確保は完了していた。

機体としては、艦上機は艦載分だけではなく、陸上基地に配備する分も手配は出来ていた。

岩国や松山、広島を始め、高知、宿毛、鹿屋、指宿といった国内各陸上基地と国外の南方の陸上基地にも配備するのだ。

輸送船、補給船、工作艦らの必要数は確保できていた。

残るは・・ 弾薬類、燃料だった。

艦が動かなくても、機関は動いているから燃料を消費する。

呉に備蓄されている分では、全量を賄えないので製油所からタンカーで直接、輸送してもらったりしていた。

弾薬は、口径ごとに必要数は異なるので、生産は大変だった。

通常弾、水中弾、徹甲弾、三式弾、対地攻撃弾、対潜攻撃弾を始め、対空機銃・機関砲弾に至るまでだから、弾数だけは多かった。

また、出撃する艦だけではなかった。

呉を守る艦も必要だった。

全艦が出撃して、母港がガラアキでは不味いのだ。

秦は、留守居役に鳳翔を提督代理とし、残存して呉を警護する艦を、神風型駆逐艦たちにやってもらう事を考えていた。

もちろん、神風型とは言え、練度もばっちり上げておいたのだ。

 

 

秦は計画に沿うように、また計画以上の対応を取ることに心を砕いていた。

 

「ふぅ。 まぁ、こんなもんだろう。」

 

「はい。 計画以上ですね。」

 

と大石大佐が言う。

 

「まぁ、鳳翔の準備もしなけりゃいけないから、かなり大変だったけど、良く出来たと思うよ。」

 

「提督、出産準備で買い忘れは無いですよね?」

 

「ああ。 多分ね、だけど。 産着はあるし、赤ちゃんの服に、紙おむつ、ベビーベッド、ベビーカーに乳母車。 抱っこ紐に、鳳翔用の授乳服・・、いろいろ買ったし。」

 

榛名に聞かれて、指折りながら買ったものを思い返す秦。

 

「後は、母子手帳、役所への届出書、色紙・・・・ いろいろあるよな。」

 

「ん? ねえ、色紙って何するの?」

 

と聞いてきたのは五十鈴だ。

 

「はは。 色紙は、赤ちゃんの命名用だよ。 二人分のね。」

 

とニコリと微笑む秦。

 

「何、もう名前は決まってるの?」

 

「うん。 鳳翔と相談して、決めてあるよ。」

 

「へぇー、何て名前なの?」

 

「それは、 ひ み つ 。 帰ってくるまでのおっ楽しみだね。」

 

「女の子でしたね、双子ちゃん。」

 

「ああ。 ウチはホントに女の子ばっかりになるよな。 睦に朝霜、卯月、弥生、皐月、そして榛名っと。 いまでも男1に女7なんだもんな。」

 

そう。以前の検診時のエコー診察で、双子の性別が判明していた。

双子は、女の子だったのだ。

診断結果が出たときは、秦は驚いていたが、鳳翔は、そんな予感があったらしく、「やっぱり・・」と言っていた。

 

「俺としては、男だろうが、女だろうが、元気に産まれてくれればいいんだけどさ。」

 

「でも、提督。 産まれるまでは、油断禁物ですよ。」

 

「ああ。 十分に注意するよ。」

 

 

師走に入って、執務室の仕事は慌ただしくなってきていた。

そろそろ所属全員に計画の詳細な説明を、と考えている時だった。

その日、鳳翔は秦、榛名、こども達を送り出した後、一人居間で手編み物をしていた。

各部屋の掃除をお手伝いさんに任せていた。

朝からお腹の中の赤ちゃんが、ポコッポコッと動くのを確認していた。

 

(ふふふ。 だいぶ大きくなったわね。 あと1カ月くらいかしらね・・)

 

そう思っていたところ、なんだかお腹がチクチクしてきたのだった。

実は以前からお腹に違和感があったのだった。

今日は入院前の最後の検診予定日だった。

だから、お昼ご飯を一緒に食べてから病院へ行こう、と秦に言われていたのだが・・

 

(あたた・・ 何かしら。 ちょっとお腹が痛いような・・)

 

そこでハッと気付いた。

 

(これって・・ まさか、陣痛の始まり、かしら・・ でも、予定日までひと月あるし・・)

 

ちょっと気にしながら編み物を続けていたが、徐々に下腹部が痛くなってきた。

 

(あたたた・・ また来たわね。 周期的になって来た感じがするわ・・)

 

それでもまだ十分に耐えられるほどの痛みだった。

しかし・・

 

「! ん!! ぐゥウ!!」

 

と唸るほどに痛みがきつくなってきた。

下腹部を押さえて、しばらく痛みに耐えていると、弱くなってきた。

 

「く、ふぅぅ・・」

 

だが、

 

「! んん! ぐっ!!」

 

また痛みが強くなる。 しばらく耐えていると、

 

「く、ふぅぅ・・」

 

と息がはけるくらいまで痛みが治まる。

 

(やっぱり、これは・・ あの人に連絡した方が良さそうね。)

 

そう思った瞬間、

 

「グッ!! あ、アツッ!!!」

 

今までにない下腹部の痛みが襲ってきたのだった。

 

「あっ! いったぁああああ!!!」

 

叫び声をあげて膝まづく鳳翔だったが、それでも痛みに耐えられず、倒れ込んでしまった。

 

 

今日の仕事を、榛名や大石大佐に割り振ってしまい、かなり早めに官舎へと帰ってきた秦。

 

「ただいま。 うーさぶ。 鳳翔、いる?」

 

と声を掛けるが、返事が無い。

あれ? 聞こえなかったのかな? と思いつつ、食堂へと入るが、誰もいない。

次に居間へとやってきた時に、上床に倒れている人影を見つけた。

明かりが無く、やや暗い室内だが、よく見ると、桜色の着物に袴姿・・

そう。 鳳翔だった。

 

「鳳翔! どした! 大丈夫か?」

 

と駆け寄る秦。

下腹部を押さえ、唸り声を上げている。

 

「うっ、うっっ・・」

 

肩を揺らすが、一向に返事が無い。 唸ったままだ。

額に手をあてると、既に大汗をかいていた。

 

「うぅっ・・」

 

と苦しそうに唸っていた。

そのうち、秦に気付いた鳳翔が、

 

「うぅっ・・ あ、あなた・・ お腹が・・ お腹が・・」

 

と苦しい中で秦に訴えかけてきた。

 

「分かった! お腹だな? ・・産まれそうか?」

 

その問いに、無言で頷く。

 

「よし、すぐ救急車を呼ぶから、頑張るんだ!」

 

秦は、鳳翔に、他の傷がないか、確認した。

すると、鳳翔の袴が濡れていることに気が付いた。

出産について勉強もしていた秦は、

 

「こ、これって・・ 破水・・」

 

と気付いた。

急いで救急車を呼んだ。

 

「鳳翔が、妻が産気づいた! 既に破水している!」

 

と。

それが終わると今度は榛名に連絡した。

 

「榛名、鳳翔が産気づいたんだ。 今から病院へ行く。 後を頼む。 それと、睦たちに連絡を。」

 

「は、はい。」

 

急な連絡に、大声で言われて驚く榛名だった。

下腹部を押さえ、苦しむ鳳翔を抱きかかえ、励ます秦だったが、今、それ以上の事が思い至らなかった。

救急車が来るまでの時間は・・およそ数分のハズ、だが・・

秦の感覚は、”遅い! まだか! 遅い!”としか思わなかった。

救急隊がやってきたのは、数分どころか、ものの3,4分だった。

救急隊員がやってきて、状況を確認すると、手際よくストレッチャーに鳳翔を乗せる。

すぐさま救急車に運び入れた。

車内で脈拍、心拍を測って、病院へ連絡しようとしたとき、

 

「掛かりつけは、呉赤十字の婦人科です!」

 

と秦が声を掛けた。

その声を聞いて、呉赤十字病院に連絡をした。

受け入れ可、との返事だった。

救急車は、すぐに出発した。

秦も同乗した。

車内でも鳳翔は、苦しそうだった。

 

「鳳翔、すぐ病院に着くからな!」

 

秦はそう言って、鳳翔の手を握っていた、と言うより、力強く握る鳳翔に、手が潰されるか、と思うくらい、鳳翔に強く握られていた。

だから、秦も力いっぱい、握り返していた。

そうしないと、本当に握りつぶされそうだった。

救急車が病院に着くと、待ち構えていた担当医と看護師たちによって分娩室へと直行した。

車内から連絡していた状況が伝わっていたようだった。

分娩室に着くと、分娩台に移される鳳翔。

その際、破水で濡れた袴や着物は脱がされ、病衣に着替えさせられていた。

下腹部の痛みはいよいよ強くなってきたようで、うめき声が大きくなってきていた。

 

「ウッ、グゥゥゥっ・・  ハァハァハァ・・」

 

時々痛みが和らぐタイミングがあるようで、その時だけはうめき声が小さくなって、荒い呼吸の音だけが聞こえていた。

その時を狙って、秦が鳳翔に声を掛けるのだが・・

 

「鳳翔! 大丈夫か? 気をしっかり! 頑張るんだぞ!」

 

そう言って手を握っていた。

妊娠、出産は女性にしかわからないことだ。

秦は、鳳翔に声を掛けるしか出来なかった。

 

 

榛名から連絡を貰った睦たち。

 

「お母さんが産気づいたって!」

 

「ど、どうするの?」

 

はた、と考える睦だ。

 

「え~、病院には行きたいし。 でもすぐには産まれないって言うし・・ どうしよう?」

 

「しれーかんも病院だよね?」

 

「病院に行くにしても、手ぶらでいいのかい?」

 

「そうだよね。 父さん、いろんなものを用意してたよね?」

 

そうだよねって思い出して、秦と鳳翔の寝室を覗いてみることにした。

 

「う~んっと・・ 意外に整理されてるよね・・」

 

「何言ってんのさ。 お母さんがいるんだよ? 散らかってるわけないじゃん!」

 

「あ、そっか。」

 

じゃぁっと言って、皐月が指さしたのは・・大きめのバッグだった。

 

「これ、かな?」

 

「どれどれ? 中身はっと・・」

 

中は、どうやら鳳翔の着替えらしき下着やら浴衣?が入っていた。

産着やらも入っていたので、

 

「これだね! じゃあ、持って行こう!」

 

となった。

玄関まで来た時に、榛名に出合った。

 

「あら、持っていくものはあったの?」

 

「うん。 たぶん、これでいいと思うよ。」

 

「そう。 じゃあ、急ぎましょう。」

 

荷物は榛名が持つことに。

いつぞや見たいに、五人と榛名は車を手配して病院へと向かうのだった。

その車中、

 

「ねぇ、はるちゃん? 仕事は片付いたの?」

 

と聞いたのは卯月だったが・・

 

「片付くわけないじゃない。 大佐さんと五十鈴ちゃんに任せてきたわ。」

 

と平然と答える榛名。

それを聞いて、そうだよね、と皆思うのだった。

病院に着くと、六人は分娩室へと急いだ。

そこに居るはずの秦の元に。

 

 

分娩室の前に来ると、誰もいなかった。

看護師が出入りしているだけだった。

 

「あ、あの。 お母さん、楠木 鳳翔は?」

 

と出入りする看護師に声を掛けた。

 

「あ。 鳳翔さんね。 ご主人が中にいるわ。 ちょっと待っててね。」

 

と言って部屋へ入っていった。

暫くすると、白衣を着た秦が出てきた。

 

「や。 皆来たのかい? 悪いね。」

 

「それより、兄さん。 鳳翔姉さんは、どうなの?」

 

榛名の質問に、秦は無言で、首を振る。 そして・・

 

「まだまだ、だよ。 見てると、可哀想になってくるよ。 あの状態が、まだまだ続くと思うと・・・」

 

と、苦しそうに言うのだった。

 

「あ、そうそう。 父さん、これ。」

 

そう言って持ってきた荷物を秦に渡すと、

 

「ありがとう。 急いできたから、どうしようって思ってたんだ。 助かるよ。」

 

そう言って、バッグの中から白い布?を取り出して、

 

「悪いけど、まだ掛かると思う。」

 

「うん。」

 

「じゃぁ、また後でな。」

 

そう言って秦はまた分娩室に入って行った。

 

「あたいたちは、待つだけだね。」

 

「そうだね。」

 

「早く生れないぴょん?」

 

「そう言っても、待つしかないよ。」

 

分娩室の前で待つことにした六人だった。

それから数十分後、再び秦が廊下に出てきた。

 

「父さん、どう?」

 

と睦の声で、皆の視線が秦に向かった。

 

「あぁ。 まだまだだよ。 今日は遅くなると思うから、みんな、帰っててくれるかい?」

 

「「え?」」

 

「うぅぅん、待ってるよ。」

 

「いや、まだ掛かると思うし、今は、鳳翔についててやりたいから、家のことは何も出来ないよ。 だから・・」

 

そこまで行ったときに、

 

「分かりました。 兄さん、戻って吉報を待ってますね。」

 

と榛名が言った。

 

「え? はるちゃん?」

 

こども達が驚いたが、

 

「皆、戻ってましょう。 ここは兄さんに任せましょう。 ね?」

 

と言う榛名に説得され、しぶしぶ帰路に着くのだった。

その途中、

 

「父さん、一人で大丈夫かな?」

 

心配そうに言うのは弥生だったが、

 

「大丈夫よ、きっと。 信じましょう。 兄さんを。 ね?」

 

と榛名が言うので、無理やり納得しながら帰るのだった。

ただ、榛名としては、

 

(ごめんね、皆。 私も不安なのよね・・)

 

と思っていた。

 

 

分娩台の上で、苦しそうにしている鳳翔だが、医師や看護師の指示に従い、呼吸を合わせたりしていた。

 

「息を吐いて~・・・ はい、吸って!」

 

と言う動きを繰り返していた。

その声に、秦も一緒になって息を吐いたり、止めたり。

鳳翔の口には、布があてがわれ、力を入れたときに、噛み締めれるようにしていた。

だから、しゃべることは出来ず、うぅぅ・・という声がするだけだった。

苦しいのか、頭を左右に振りながら、痛みに耐えている鳳翔。

顔と言わず、もう全身が、汗で濡れていた。

秦は、鳳翔の顔の汗を拭いたり、

 

「鳳翔、頑張れ。 頑張ってくれ。」

 

と言って手を握るしかできなかった。

 

 

鳳翔が運び込まれてから既に4時間あまりが過ぎた。

外は日も暮れ、寒い夜になろうとしていた。

しかし、分娩室では、鳳翔が下腹部の痛みに耐えていた。

華奢な体の鳳翔は、もう耐えれるような体力はなくなりかけていたその時だった。

 

「うっ、むうううぅぅぅ!」

 

と鳳翔が一段と大きな声を上げた。

 

「あ、見えた! 頭が見えたよ! あともう少し! 踏ん張って!」

 

赤ちゃんの頭が見えたらしく、その声で、周りの雰囲気が一気に変わるを秦は感じた。

 

「もう少し、もう少し。 そうそう、踏ん張って!」

 

「んんんっっ!!!・・」

 

鳳翔が目を閉じて、思い切り力んだその時!

 

「はい!! 出た!!」

 

医師の手が、ほんの小さな体を受け止めていた。

すぐにへその緒を縛ってから切断。

血に濡れた小さな体をお湯で洗う。

その体は、少し色素が抜けたような白さだった。

 

「さ、上の子ね!」

 

そう言っていったん、保育器に寝かせた。

一人だけならそれで終わるのだろうが、今回は双子だ。

 

「んんんっっ!!!」

 

と更に力をこめる鳳翔。

まだまだ油断がならない状況だった。

一人目が産まれて10分としないうちに、

 

「頭が出てきた! もう少し! もう少し! 頑張って!!」

 

二人目が出てきたようだ。

 

「鳳翔、頑張れ! あと一人だ!」

 

「んんんっっ!!!・・」

 

鳳翔が目を閉じて、思い切り力んだその時!

 

「はい!! 出た!!」

 

医師の手が、二人目の、ほんの小さな体を受け止めていた。

すぐにへその緒を縛ってから切断した。

血に濡れた小さな体をお湯で洗う。

その体は、一人目と同じく、少し色素が抜けたような白さだった。

二人とも保育器に寝かせられた。

鳳翔の方は、と言うと・・

二人分のへその緒を切断したあと、子宮から胎盤を出した。

会陰切開はしなかったので、外科的対処は必要なかった。

 

「はぁ、はぁ、ハァ・・・」

 

と体全体で息をしていた。

ようやく、呼吸が落ち着いてきたころ、

 

「あ、あなた・・ 赤ちゃんは・・」

 

と傍にいた秦に聞いた。

 

「落ち着いた? 赤ちゃんは・・ ここにいるよ。 見える?」

 

と傍にある保育器を指さした。

看護師が、

 

「さぁ、赤ちゃんですよ。」

 

と言って、鳳翔の胸の上に抱かせた。

鳳翔の左腕に一人目、右腕に二人目がすっぽりと収まるように。

 

「ああ、あぁぁぁぁ・・ これが・・私の・・赤ちゃん・・」

 

そう言いながら汗を流した顔に、更に涙が流れていた。

左右の赤ちゃんの頭に頬を寄せて、

 

「私がママよ。」

 

と言いながら。

その姿を見ていた秦も、

 

「鳳翔、おめでとう。 お疲れ様。 そして、ありがとう。」

 

と言ってその目からは涙が流れていた。

そのころになって、ようやく二人の赤ちゃんが、泣き出した。

ホギャ、ホギャって言って。

二人分の鳴き声が分娩室に響いていた。

その鳴き声に分娩室にも安堵の空気が漂っていた。

そして、安心したのか、赤ちゃんを抱いたまま鳳翔は気を失ってしまった。

 

「大丈夫。 安心したんでしょう。 眠っているだけですよ。」

 

と医師が言ってくれていた。

 

「お疲れ様。 ゆっくり休んで。」

 

二人の赤ちゃんを保育器に寝かせた秦は、汗で濡れた髪を指で鋤いて、いつまでも鳳翔の傍にいるのだった。

 

 

時間は2300になろうかとしていた。

鳳翔が眠っている間に、分娩室から個室に移され、病衣に着替えさせられていたが・・

ようやく目が覚めた鳳翔だった。

目を開けると、白い天井があり、横を向くと、秦がじっと見つめていた。

 

「鳳翔。 起きた?」

 

「え、あ、はい。」

 

互いに視線が重なり合い、傍に居ることに安堵した。

秦はベッドの上半身を起こしてベッドわきの椅子に座った。

 

「あ、あの、 私の、赤ちゃんは・・」

 

「あぁ。 今、新生児の検査中でね。 もう少しで帰ってくると思うんだが・・ それと、これを着ていて。」

 

秦が鳳翔に羽織らせたのは、半纏だった。

 

「病衣だけだと寒いだろ。 これを羽織ってなさい。」

 

「はい。 ありがとうございます。」

 

そんな話をしている時に、部屋に医師と看護師が入ってきた。

 

「目が覚めたんですね。 おめでとうございます。 双子ちゃんをお連れしましたよ。」

 

小さな保育器を2つ、持ってきていた。

 

「検査結果が出たので、お知らせを、と思いましてね。」

 

「それで、結果は?」

 

「はい。 検査項目、すべてにおいて異常は見られませんでした。 健康体そのもの、ですね。」

 

「そうですか。 ありがとうございます。」

 

そう言って秦と鳳翔は保育器の中の二人を覗いた。

予定日より一月ほど早く産まれたが、体重は2600グラムほどあった。

報告が終わると医師たちは出ていった。

二人の赤ちゃんは、まだ眠っているのか、目を閉じて、時々手足がピクッっと動いていた。

その手は小さく、秦の親指の大きさ位しかない、小ささだ。

 

「よく眠ってる・・ かわいい・・」

 

そう言って赤ちゃんの頬を撫でる鳳翔だった。

そのうちに、小さく欠伸をする赤ん坊。

欠伸を終えると、目がうっすらと開いていた。

ボーっと見ているような感じがしていたが、ウーッ、ウーッと言いながら手を動かしていた。

 

「そう言えば、まだお乳を飲んでないな・・」

 

「今、飲むんでしょうか?」

 

そう言って一人を抱き上げ、鳳翔の左腕の中に抱いた。

鳳翔と赤ちゃんが向き合う形で。

病衣から左の乳房を出して赤ちゃんの口にあてがってみた。

すると、赤ちゃんが乳房に吸い付いた。

 

「あ。 吸ってますよ。 お乳を飲んでます!」

 

んく、んくと音が聞こえていた。

ほんの数分の事だったが、鳳翔と秦にとって、長く思えた。

一人目が飲み終えると、続いて二人目だ。

今度は右腕に抱き込んでみた。

右の乳房を出して、二人目の口にあてがってみた。

こちらも、薄ら目で乳房に吸い付いてきた。

 

「ふふふ。 この子も飲んでますね。」

 

鳳翔の微笑みは、もう立派な母の微笑みだった。

お乳を飲み終えて、赤ちゃんの背中をトントンと軽くたたくと、ケホと音を発した。

どうやらそれがゲップのようだった。

そして、これが、赤ちゃん二人の初乳だった。

飲み終えた赤ちゃんを保育器に戻して、秦がベッドに腰かけ、その秦に鳳翔がもたれていた。

二人して、保育器の中の赤ちゃんを見ていた。

 

「それで鳳翔。 この子達の名前なんだけど。」

 

「私は、あの案でいいですけど。」

 

「そう。 じゃぁ、決まりだね。」

 

「はい。」

 

二人して笑った。

 

「一人目が、・・・・。 二人目が、・・・・。」

 

「はい。」

 

 

翌日の早朝に、秦が睦たちに連絡した。

 

「おはよう。 赤ちゃん、産まれたぞ。」

 

と。

それを聞いて、

 

「おめでとう!! やったね! これで私たちの妹分が産まれたんだね!!」

 

と喜んでいた。

 

「じゃあ、今から行くね!」

 

と言って、榛名を始め、こどもたち全員が病院へとやってきた。

病室に着くと、

 

「おっはよー! おめでとう! お母さん!!」

 

と言って六人がなだれ込んできた。

 

「ああ。 おはよう。」「あら、みんなおはよう。」

 

と秦と鳳翔が返事をするが、すぐに秦が人差し指を口の前で、

 

「しーっ」

 

っと言ったのだ。

そして、小声で、

 

「赤ちゃん、まだ寝てるから、静かにね。」

 

と。

 

「了解だよ。 で! 赤ちゃんはどこ?」

 

そうそう! と皆が保育器の前に集まった。

が!

保育器の中は・・ 空っぽだった。

 

「あれ? いないじゃん。 ねぇねぇ、しれーかん、赤ちゃんは?」

 

思わず朝霜が秦に聞いた。

 

「え? あ、ホントだ。 赤ちゃん、いないね。」「どこ?」

 

とは皐月と睦だ。

ベッドの上で半纏を羽織っている鳳翔とベッドに腰かけている秦の目が・・ 笑っていた。

すると、榛名は気が付いたらしく、

 

「あ、そこだったんですね。」

 

と言った。

 

「え? どこどこ? はるちゃん、どこぴょん??」

 

こども達は、室内をキョロキョロと見まわしたが、まだ分からないらしかった。

そのうちに、

 

「赤ちゃんはここよ。」

 

と微笑む鳳翔が種明かしをする。

そう。 羽織った半纏に隠されていたのだ。

 

「そこに居たの? そこはわかんないじゃん!」

 

「お母さんが腕組してるだけかと思ったよ。」

 

半纏をずらして、皆に見えるようにした。

鳳翔の右胸と左胸に抱き着くように、産着を着て眠っている小さな赤ちゃんが居た。

 

「「わぁー。 ちっちゃいねー。」」

 

「「かわいいー。」」

 

「見てみて。 このお手て、小さくてかわいぃ!」

 

「はは。 皆の妹だからな。 子育ては皆で手伝うんだよ?」

 

「分かってるって。 で、名前は? 決まってるんでしょ?」

 

「ああ。 決めてあるよ。」

 

「何て名前なの?」

 

と聞いてくるこども達だ。

じゃぁ、と色紙を取り出す秦。

そして、鳳翔に目配せして、

 

「まず、上の子、皆を数えると楠木家の六女になるんだけど、名前は・・ ”翔子(しょうこ)”だ。」

 

色紙には”命名 翔子”と書かれていた。

 

「次に、下の子、七女になるけど、名前は・・ ”千翔(ちか)”だ。」

 

同じく”命名 千翔”と書いてあった。

 

「「へぇ~」」

 

「翔子ちゃんに千翔ちゃんか。 お母さんから一文字取ったんだね。」

 

「ああ。 女の子だから、鳳翔、お母さんのようになってもらいたくてね。」

 

「ふふふ。 なんだか恥ずかしいですね。 そう言われると。」

 

「そういう事だ。 皆、よろしくな。」

 

「「りょうかーい!」」「「オッケーだよ!」」

 

一応の返事は元気が良かった。

しかし、その声が大きかったらしく、二人の赤ちゃんが欠伸をして、目が開いた。

覗き込むこども達を、赤ちゃんがジッと見つめて、手を動かしてきた。

 

「あ、起きた。」

 

【よろしくね、翔子ちゃん、千翔ちゃん!!】

 

二人の赤ちゃんは、笑っているように見えるのだった。

 

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