幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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いよいよ出撃の日が近づいてきた。
全員にブリーフィングをする秦、皆の反応は・・



出撃! その前に・・

出撃計画は、鳳翔の産気づいたことで一瞬停滞をきたしたが、その後は順調に進んでいた。

本隊の出撃は、年明け5日になり、第一陣の出港日は12月下旬と定められた。

攻撃開始日は追って連絡すると。

 

 

この日の昼食後、食堂に呉所属の全艦娘が召集された。

 

「みなも薄々感じていると思うが、敵本拠地に対する攻撃計画を発表する。」

 

と秦が高らかに宣言した。

ざわついた食堂内が一瞬で静まり返った。

ひりつくほどの緊張感が一気に高まった。

 

「今回は、鎮守府を警護する数隻を残し、全艦出撃する。 もちろん、呉だけではなく、横須賀、佐世保、大湊、舞鶴からもほぼ全艦が参加する。」

 

そこまで言って、食堂に居る全員の顔を見渡した。

 

「で、だ。 細部までは言えないが・・・」

 

秦は、作戦計画の細部までは説明しなかったが、機密に関する部分をオブラートに包みながらも、ほぼすべての内容を話した。

 

「・・・以上だ。 何か質問はあるかい? ただし! 反論は無しだ。」

 

「提督、まだ艦隊編成を聞いていないが?」

 

「あぁ。 それはこれからだよ。」

 

「そっちを早く知りたいよね。」

 

とは蒼龍だった。

そして・・

 

「まず、第一陣を発表する。 第一陣の出港日は明後日だ。 第二艦隊、第一航空艦隊、第二航空艦隊、第一から第三までの水雷艦隊、第二対潜駆逐艦隊だ。 あと、各艦隊に属さない四個の駆逐隊だ。 これだけでも総数50隻余りだ。」

 

そこまで言って秦は一呼吸間をとった。

そして・・

 

「続いて本隊となる第二陣は、第一艦隊、第三艦隊、第三航空艦隊、第四から第六までの水雷艦隊、第一対潜駆逐艦隊だ。 こちらも総数40隻余り。」

 

と。

続けて・・

 

「第一陣の総旗艦を五十鈴にやってもらう。 大石大佐が指揮する。 第二陣の総旗艦は榛名にやってもらう。 第一陣、二陣ともに10隻以上の補給艦が同行する。」

 

と話を終えた。

 

「じゃあ、楠木提督は、榛名に乗艦するのか?」

 

聞いてきたのは長門だった。

 

「いや、俺は、空母・鳳翔に乗るよ。 今回は、移動だけになるからね。 操艦するのは睦だよ。」

 

「さすがに、鳳翔さんは、連れていけないよね?」

 

「ああ。 鳳翔には、提督代理として呉に残ってもらう。 残る駆逐隊は鳳翔の指揮下に入ってもらう。 また、残余の基地航空隊も同じくだ。」

 

「提督、本隊の第二陣より先発する第一陣の方が、艦数が多いようだが?」

 

「ああ。 もともと、今回の出港は、南洋基地までの移動が目的だからね。 さっきも言ったように、目的地はトラックとパラオだし。」

 

「多少の日程上の余裕はあるのかな?」

 

「そうだな。 出港後の航路については、各艦隊の旗艦に改めて説明するからな。」

 

そこまで言って皆の顔を見渡していた。

そして説明を終えるのだが・・

 

「以上だ。 と言う事で! 話は変わるが、明日は全員で餅つきを行う。」

 

「へ? 司令官、なんで餅つきなの?」

 

唐突に言われて不思議そうな顔をする面々だった。

 

「第一陣は明後日に出港するからな。 出港までに少なくとも正月気分だけでも味わっておこうと思ってな。 既に準備はしてあるからね。」

 

そう言われて、

 

【よっっしゃああ!】

 

とはしゃぐのだった。

 

 

その日の夕方から明日の餅つきの準備が始まった。

もち米を洗って水に浸す。

その量は・・

 

「何、この量??」

 

「はは。 これだけの量のもち米を見るのはなかなか無いよな。」

 

「これで何人前?」

 

「単純に言って、100人前は無いとダメだよね。」

 

そう。 用意されたのは100人前に相当するもち米だった。

重量にして25キロ。

 

「えっっと・・ 1人分を5個として・・ 500個?」

 

「だいたい一升で30個くらい、かな?」

 

「そうだね、最低でも20キロは必要だね。」

 

そう言うものの、水に浸すバケツの数だけでもかなりの数になるので、倉庫にあった、一斗分が入る大鍋を2つ使っていた。

次の日、食堂での朝食後、早速、餅つきが始まった。

まぁ、急な話だったため、杵つきではなく、餅つき機を用意してきた。

食堂のテーブルは、即席のもち台となっていた。

まずは、もち米を蒸すことからだ。

厨房のコンロを簡易の蒸し器にして、一籠一升で、五段の蒸し器がセットされた。

厨房ではおばさんたちが担当して蒸していた。

蒸すこと20分余り。

どうやらお米が柔らかくなったようで、”いいわよ。”と言われ、蒸し米を餅つき機に投入する。

餅つき機は、蒸し米を入れてスイッチを押すと、あとは全自動で動いて、10分ほどで突きあがるのだった。

ふっくらとして、白く輝く蒸し米の粒が、回転しながら、粒の形が崩れてきて、そのうちに粒は判別できなくなっていた。

この一升分が入る餅つき機が2台用意されていた。

米粒が完全になくなって、もちが突きあがる。 

突きあがったお餅は、もち台に運ばれ、直径10センチほどの丸餅にしていくのだ。

餅つき機には、次の蒸し米が投入されていく。

もち台に乗せられた時点では、もちは粘度の高いどろどろの状態だ。

もち自体の温度も高く、振れると熱い!

 

「あっちぃ!!」

 

もち台に載せられたお餅に、片栗粉をまぶして、手早く丸餅にしていくのだが、熱くてたまらない。

 

「熱いけど、柔らかいうちに丸めないと、硬くなるわよ!」

 

そう注意を受けるものの、熱すぎるのだ。

だから、と言うわけではないが、台の上に水を張った桶が置かれていた。

もちを触って熱くなった手を桶の水に突っ込んで冷ます。

これを繰り返していた。

丸く出来たお餅は、もち箱に入れていく。

 

「あっつぃー!」

 

「お~、出来立てだね!」

 

餅つきを遠巻きに見ている奴らは、出来立てを食べたくてしょうがないみたいだった。

こそ~っと手を伸ばすヤツが何人かいた。

 

「あっ、ダメじゃない! 出来上がるまで待ちなよ!!」

 

と言われて、伸ばした手を、バシッっと叩かれていた。

 

「イタッ! え~、いいじゃんか?」

 

 

「提督、急な事を言い出すと思えば、用意がいいじゃないか。」

 

と言うのは長門だった。

戦艦組は、餅つきを遠巻きに見ている連中の一部だった。

 

「ははは。 慌ただしいだろうが、やっぱり、楽しいことは多い方がいいだろ?」

 

と笑って答える秦だ。

 

「まぁ、確かにそうですけど、出撃で緊張感が高まっている時に、これでは、下がったりしないんですか?」

 

と言うのは榛名だ。

 

「確かに、気持ちが高まっている時に、こんなイベントでって思うかもしれないけど、今回はまず移動が目的であって、実際の戦闘はまだ先だしね。 今のうちに、英気を養っておくことも必要だよ。」

 

と、もちをつく連中を見ながら言った。

さらに秦は、

 

「君たちみたいに、大人な艦娘ばかりじゃないしね。 あの子らみたいな小さな子まで参加させるんだ。 少しは気がまぎれることもしておかないと。」

 

と、択捉、松輪らの幼子がじゃれているのを、目を細めながら見つめていた。

長門、陸奥も幼子たちを見ていた。

 

「ふふ。 確かにそうだな。 一度港を出ると、あーやってじゃれることなど出来ないだろうしな。」

 

一度出撃してしまうと、緊張感が高まり、じゃれることなどしている時間はない。

常に周囲に監視の目を張り巡らせ、即時対応を出来るように体制を整えていなければならないのだ。

いつ、どこから砲弾が飛んでくるかもしれないのだから。

大型艦のように、数発の被弾があっても沈むことが無ければいいのだろうが、小型艦はそうはいかない。

一発の砲弾で轟沈してしまう事だってあるのだ。

だから・・ だから、常に周囲を見張らなければならない。

常に周囲を見張るのは、簡単に聞こえるが、そんなに単純ではない。

索敵範囲は、対水上では、自分の艦の周囲360度で距離としておよそ100キロが電探の範囲である。

対空では、その360度の範囲で、高さ1万メートル以上まである。

さらに、対水中になると、水深が深ければ深いほど暗くなり、目視出来ない世界となる。

だから、水中の音を頼りに相手を探すのだが、これがまた難しい。

潜水艦は音が静かだし、仮に、沈底待機されていれば、発見はほぼ出来ない。

突然にやってくる魚雷を、素早く見つけなければこちらが沈んでしまう。

だから、なのだ。

 

 

時間を追うごとに、もち箱の数が増えていく。

開始1時間で10升のもち米をお餅にしたのだ。

それだけでもかなりの丸餅の数になるが、残りも10升ほどあった。

蒸し器から蒸し米を投入する役、ついたお餅をもち台に乗せる役、丸める役、見学役とを交代していく。

幼子は見学組だったが、餅つき機に張り付いて面白がってみている子、もち台で一緒に丸めている子にわかれいた。

もち台で丸めている一人が択捉だったのだが、つきたてのドロドロ、アツアツのもちに悪戦苦闘していた。

 

「うぅぅ~、あっつい~。 固まんないよ~。 あーん! 丸くなんないぃぃぃ!」

 

そう言う択捉の背後から、

 

「もう。 アナタは何やってるデス! お餅を丸めるのはこうするデス! 見てるですネ!」

 

と金剛が声を掛けていた。

 

「いいですカ? ずっと触ってると熱いから、素早くネ。 丸めるのは台の上で、こうするネ!」

 

うぅぅ、と半べその状態で金剛の手の動きを見る択捉だった。

掌に収まるくらいで小さくちぎって、台の上で、掌の中でクルクル転がすようにすると・・

 

「ホラ! 完成ネ! 分かったァ?」

 

ものの10秒ほどで1個出来上がっていた。

 

「じゃぁ、やってみテ。」

 

「う、うん・・ こう?」

 

見様見真似で択捉が、金剛の真似をしてみた。

小さくちぎって、台の上でコロコロと・・ 

 

「えぇ~、上手くいかなーい・・」

 

「おぉ、そんなこと無いですネー。 なかなか筋がいいデース! でも、経験が必要ネ!」

 

いくつか択捉がやってみたが、丸くは無い、不揃いの”丸餅”が出来ていた。

 

「あらまぁ。 択捉ちゃん、よくがばってるけど、これは、ちょっと皆に出せないわねぇ。」

 

そう言うのは、食堂のおばちゃんだ。

ちょっとショックを受ける択捉。

 

「でも・・ はい、あーーん!」

 

とおばちゃんが不揃いのお餅を一つ掴んで、択捉の口に突っ込んできた。

最初はびっくりした択捉だったが、それに応えて、口を開けた。 あーーんっと。

択捉の小さな口に、丸めそこなった小さな餅が入った。

ん、んぐ・・ と咀嚼して・・

 

「お、おいしぃぃ!」

 

一瞬で笑顔になった。

そして、おばちゃんは・・

 

「はい、あんたもね、金剛ママ。 はい、あーーん。」

 

おばちゃんは金剛にも餅を突っ込んできた。

金剛も、あーーんっと口を開けて、餅が口に収まった。

 

「ん。 美味しいですネ、コレ。」

 

食べた金剛もにっこりと笑った。

食べる二人の姿を見つけた松輪が、

 

「あーん、ママ、ずるいぃ! 私も!」

 

と金剛に駆け寄ってきた。

 

「おぅ、松輪、これは、しーっずかにするデス。 特別デスヨ!」

 

と言って不揃いのお餅を一つ掴んで松輪の前に出した。

 

「はい、あーーん!」

 

松輪もそれに応じて、

 

「あーーーん」

 

と小さな口をめいいっぱいに開けて、餅を口に入れた。

ん、ん、うん

 

「おいしー。」

 

「それは、良かったネ!」

 

ニコリと笑う松輪と金剛だった。

そして、餅つきが終わりを迎えた。

 

「さあ。 もう残りは無いわね。 終わりにしましょう。」

 

と見ると、蒸し器にも餅つき機にも、残りはなかった。

もち台の上にも既になく、すべてもち箱に収まっていた。

 

「やぁ、終わったか! ご苦労様、みんな。」

 

最後は秦が締めた。

時間は、お昼過ぎだったので、

 

「さあ、みんな、後片付けよ、 終わればお餅を食べましょう!」

 

と榛名が告げて、後片付けをして、遅いお昼ご飯となった。

お昼ご飯は、つきたてのお餅だ。

あんこは無かったが、安倍川と砂糖醤油が用意されていた。

 

「では、頂こう。 いただきます。」

 

いただきますの合図で、皆が食べ始めた。

 

「うん、美味しいね。」

 

「硬くなくていいよ、コレ。」

 

皆の顔はにこやかだった。

総じて、好評だったようだ。

ちょうどそこへ赤ちゃんの母乳を与え終えた鳳翔がやってきた。

 

「あら。 もう終わりですか? ちょっと遅かったですか。」

 

「ははは。 そうだな、ちょっと遅かったかな。 でも、楽しかったよ。 お餅もいい出来だしね。」

 

「それは何よりです。 フフフ。 皆の顔を見れば、楽しかったのが分かります。」

 

はい、と言って小さく切り分けたお餅の乗った小皿を鳳翔の前に出す秦。

いただきます、と言って小皿を受け取り、頬張る。

 

「ん、いい出来です。」

 

とにっこりと微笑んだのだった。

そして、餅昼食が終わるころ、

 

「え~、余ったお餅は、明日出発する皆に持って行ってもらうからね。 忘れないでね。」

 

と皆に向かって言った。

 

【やったー!】【え~】

 

の二つの叫びが聞こえたが、気にしない秦だった。

 

 

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