幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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ついに作戦発動を迎える秦たち。
呉の所属艦は二手に分かれて出向することに。



いざ、戦いの海へ
全艦出撃の時


いよいよ第一陣が出港する日となった。

第一陣の本隊の出港は1300。

港や各艦では朝から慌ただしく、最終の確認が行われていた。

執務室では、大石大佐と五十鈴が出港前の最後の確認作業をしていた。

 

「・・これでいいな。 五十鈴、そっちはどう?」

 

「こっちも確認は終わったわ。 積み込みの忘れ物はないわ。 たぶん、だけど。」

 

「た、たぶんって・・」

 

「だって、いろいろありすぎるわよ。 忘れ物の一つや二つ、あったって分かんないわよ。 それに、無かったら無かったで、現場で何とかするしかないんじゃない。」

 

「まぁ、そうなんだけどさ・・」

 

「ははは。 大佐は心配性だな。」

 

「はぁ。 そうは言われても、私自身、これだけの大規模な艦隊を指揮したことありませんし、役目も重要ですし・・」

 

「何言ってんのよ! なんとかなるし、何とかするしかないの! 分かった?」

 

「あぁぁ・・」

 

「完全に、尻に敷かれてるな。 大佐。 もう少し、五十鈴を信用してやれよ。 大丈夫だよ。」

 

「はぁ、提督がそうおっしゃられるのなら・・」

 

「もう! はっきりしなさい! これじゃあ先が思いやられるわよ、まったく。」

 

「ふふふ。 五十鈴ちゃんもそう言わないで、大佐さんの補佐、よろしくね。」

 

「ええ。 任せといて、榛名さん。 しっかりと敷いていくから。」

 

それを聞いていた秦は、苦笑いをするしかなかった。

 

「そろそろ時間だな。」

 

時計を見ると、既に1200を廻っていた。

 

「そうね。 行くわよ、大佐。」

 

 

第一陣全艦が一斉に出港するわけではなかった。

0900には、金剛を旗艦とする第二対潜駆逐艦隊が出港する時間だった。

 

「金剛、皆を頼むな。」

 

「任せるネ!」

 

「金剛お姉さま、榛名も後から参りますから。」

 

「フフフ。 では榛名、待ってますネ。」

 

「択捉ちゃん、松輪ちゃん。 頑張ってね!」

 

「「はい!」」

 

「ちゃーんと、ママをサポートするんだよ? 文月ちゃん、長月ちゃんも頑張ってね! ボクたちも後から行くからね。」

 

「春日・・ じゃなかった、大鷹もしっかりな。」

 

「はい。」

 

「それじゃあ、行くわよ、皆。」

 

【はーーい!】

 

元気よく返事をする択捉と松輪たちだった。

訓練期間中にも拘わらず、択捉と松輪の出力増加改造をしておいたのだ。

この改造で最大速力が20ノットを上回ることになっていた。

 

「では、行ってくるネー!!」

 

この他に大鷹、文月、長月が皆に敬礼して内火艇に乗り込んでいった。

第二対潜駆逐艦隊の六隻が動き出し、艦首が海を切り裂いていく。

本隊から先行し、一足早く錦江湾に錨を降ろしていた水雷艦隊と九州南方で合流する予定になっていた。

その後、時間をおいて第一陣の残りが順次、出港するのだった。

 

 

1230になって、秦たちは再び岸壁に来た。

第一陣本隊として出港する皆を見送るために。

既に先着の艦娘たちが居た。

その中に、呉の空母艦隊の主力となる蒼龍と飛龍が居た。

第一航空艦隊の主力となる二人に秦が声を掛けていた。

 

「蒼龍、飛龍。 よろしく頼むな。」

 

「「任せてよ、提督!!」」

 

「蒼龍ちゃんも、飛龍ちゃんも、気をつけてね。 他の娘達の事もよろしくお願いするわね。」

 

「はい、お母様。 任せてください。 ちゃんと連れていきますから。」

 

「そうです。 大丈夫ですから。」

 

「フフフ。 期待しているわ。 でも、無理はしないでね。」

 

「「はい。 では、行ってきます!!」」

 

鳳翔と蒼龍、飛龍との会話が終わるころ・・

 

「じゃあ、大佐、よろしく頼むよ。」

 

「はい。 提督、行ってまいります。」

 

「次に会うのは、戦いが終わってからになるね。」

 

「はい。 ここ呉で、お会いましょう。」

 

秦と大石大佐が握手をした。

白手袋をしているが、それでも力強く握られた手を、二度三度と上下させていた。

手が離れると、互いに敬礼をしていた。

 

「では皆さん、行ってまいります。」

 

「五十鈴ちゃんも、頑張ってね!」

 

「はい。 ちゃんと引っ張っていきますから。」

 

敬礼をした大石大佐が、見送りの人たちを見やって、内火艇に乗り込んだ。

大石大佐の後に五十鈴が続いた。

内火艇が岸壁から離れ、巡洋艦・五十鈴へと向かっていく。

ほぼ同時に、第一陣本隊の各艦に向かってそれぞれの内火艇が向かう。

暫くして、各艦に内火艇が収容されると、錨が上げられた。

総旗艦・五十鈴座上の大石大佐から指示が出される。

 

「第一陣、出港する。 全艦、前進微速!」

 

「第一陣、全艦、前進微速!」

 

停止状態から艦が動き出すと、艦首が海を切り裂いていく。

巡洋艦・五十鈴を先頭に、各艦が続いていた。

飛龍、蒼龍の第一航空艦隊、大鳳、雲竜、信濃の第二航空艦隊、大和、武蔵の第二艦隊と水雷艦隊が。

秦たちは、第一陣の全艦が見えなくなるまで岸壁にいた。

 

「行っちゃったね。」

 

「ああ。」

 

「皆、無事に帰ってこれますように。」

 

と手を合わせて祈るように話す鳳翔。

 

「ああ。 そうだな。 無事に帰ってくるといいな。」

 

「はい。」

 

そして、

 

「さあ! 次は俺たちの番だ! みんな、準備を怠るなよ!」

 

と秦が声を掛けた。

 

「あったぼうじゃん!! 任せなさいって。」

 

胸を張って応えるのは朝霜。

 

「まぁ、大丈夫じゃない?」

 

と緩く答えてくるのは睦だった。

 

「ちょっとは、緊張感を持ってくれよな?」

 

呆れる秦であった。

 

 

第一陣が出港してしまうと、呉の港はぐっと艦の数が減って寂しく見えていた。

 

「残りは少なくなったなぁ。」

 

投錨する艦が少なくなった港を見渡しながら秦が言う。

 

「しれーかん、あたいたちは年明け五日だよね?」

 

「ああ。 一週間ちょっとの差だけどね。 ここに残ってる連中だけでも正月は祝おうか。」

 

「はい。 豪勢なおせちは用意できませんけど、少しばかりなら・・。」

 

「それで十分だよ。 浮かれ気分のまま出撃は出来ないからね。」

 

 

そして年末を迎え、年が明けた。

食堂では、ささやかながらお節料理が用意してあった。

用意してくれたのは食堂部のおばさま方だった。

黒豆の煮物、煮しめ、田作り、金時、紅白の蒲鉾などの昔ながらの料理と、焼き海老、鳥もも肉のグリル、ローストビーフなどなど。

 

「大したものは出来なかったけど、これだけあればいいでしょ?」

 

と。 それでもそれなりの量であったのだが。

朝、皆が揃ったところで、秦の訓示から始まった。

 

「みんな、明けましておめでとう。 知ってのとおり、軍令部、大本営とも今次戦争の終わりを画策している。

 

そのため、既に第一陣が南洋根拠地・トラックに着いた頃だろう。残る我々も五日には出撃する。

今年は皆の活躍に大いに期待するものである。 とは言え、正月三が日は特にやることもないので、

ゆっくり休んで英気を養うことを命じる。 四日には最終準備に入ってもらう。 そして五日0600に全艦出撃する。

それまでは存分に正月気分を楽しんでくれ。 以上だ。」

 

「さあ! 沢山は無いし、手の込んだものはないけど、お節を作ったから食べましょ!」

 

と鳳翔の掛け声で今年最初の食事が始まった。

 

【はーーい!!】

 

手の込んだ料理は・・お節料理以外では尾頭付きの焼き鯛が真ん中にデン!と居座っている。

しかも、50センチは軽く超える大きさの鯛が4匹も!

 

「ゲ! デカ! 大きすぎて、どうやって食べんだろ?」

 

「さっすがにでかいなぁ。 良く用意できたね?」

 

「ええ。 瀬戸の漁師さんから分けてもらったんです。 いいのが大量だったぜ!って。 それを塩焼きにしてもらったんです。」

 

「そうなんだ。」

 

「でも、これって・・・どうやって食べるの?」

 

どうやって食すのか聞く皐月であったが、

 

「身をほぐしてね、こうやって・・・」

 

箸を身に入れて、ほじくるようにして、タイの身を取り出して、

 

「はい、食べてみて?」

 

と、ほぐした身をタレにつけて口へと運ぶ。

 

「うん、あっさりしてて美味しい!」

 

タレは、ポン酢と酢醤油の2種類が用意されていた。

鯛の身は白身であっさりしているから、つけダレの味が強調される。

それはそれで美味しいんだが。

気が付くと、弥生がタイの身を細かくほぐして小皿に盛っていた。

 

「弥生、何してんの?」

 

「うん、ここでほぐして、ポン酢をつけてからご飯に載せるの。」

 

そう言って小皿に山盛りになったタイの身にポン酢を掛けていた。

全体的に絡まったところで、ホカホカのご飯にのっけた。

まるでふりかけのようにして。

そして・・ ご飯ごとかき込んでいく。

 

「えっと・・弥生さん・・ も少しお淑やかに食べれないかい? その食べ方は、どうかと思うんだけどさぁ・・」

 

「ん、いいの。 この方が美味しいから。」

 

あっさりと返されてしまった秦だった。

大食いのメンバーが半分はいないはずなのに、お節料理はどんどんと減っていくのだった。

酒保も開いたので、お酒が出されていた。

大酒呑みは居なかったが、それなりにお酒は消費されていった。

元旦だけは秦も呑んだのだった。

その陰で、こっそりと呑もうとしたヤツが一人居た。

鳳翔だった。

 

「あ! お母さん、お酒呑もうとしてる!!」

 

「えっ!? 鳳翔! ダメじゃないか! まだまだお酒はダメ!」

 

「え、あの、少しくらいは・・」

 

「メッ!!」

 

と秦に怒られる鳳翔。

 

「やっぱり、ダメ、ですか・・」

 

「やっぱりも、きっぱりとダメ。 まだまだ翔子や千翔には母乳が必要なんだから。 アルコールを飲ませるわけにわいかないでしょ?」

 

「はい・・」

 

とシュンとする鳳翔だが、それを見た秦が抱きしめた。

 

「そんなに酒好きだったのか? まったく・・ これで我慢しておくれ・・・」

 

と耳元でささやきながら。

 

「ヒューヒュー! 熱いよ!」

 

と言う囃子言葉が飛び交う食堂となっていたのだった。

そして、誰もが正気を失うほど呑むことは無かったが。

 

 

正月三が日は、何事もなく過ぎていった。

食堂では朝から晩まで、宴会が続いていたのだった。

そのような状況に呆れる秦だった。

 

「ったく。 自由にしてよし、とは言ったものの、そこまでだらしなくなるとは思ってもみなかったぞ。」

 

食堂では、酒の匂いが充満していた。

散々、宴会やったな? と分かるくらいに。

酒が飲めない娘たちは早々に切り上げ、自室や自艦で時間をつぶしていたらしい。

姉妹艦の連中は、固まって一緒にいたという。

そして、開けて四日。

朝食を摂る皆の前で秦が話す。

 

「みな、十二分に三が日を楽しんだと思う。 只今をもって、全員に最終準備に取り掛かってもらう。 前もって言ってあるように明日0600には全艦出撃する。 いいね?」

 

その隣に立つのは秘書艦であり、秦の”妹”の榛名だった。

 

「では、みなさん。 最終準備にかかりましょう! 弾薬などの補充品は、まだまだ在庫があるから、しっかりと搭載してください!」

 

【了解!】

 

その部屋の片隅では、鳳翔が二人の赤ちゃんをあやしていた。

その二人の周りを取り囲むように、赤ちゃんに興味津々の連中がいた。

 

「あらあら。あなたたち、準備の方はいいの?」

 

「うん、大丈夫、だよ。 たぶん。」

 

そう言うのは第二陣の綾波や敷波達駆逐艦勢だった。

 

「”たぶん”じゃないわよ。 しっかりとやって頂戴ね?」

 

と呆れる鳳翔であった。

 

【はーい】

 

だって。

 

 

港では、弾薬や備品の積み込みが佳境を迎えていた。

”時間がないよ! 遊んでる暇はないよ!”

”火薬類の扱いは注意して!!”

”慎重に!”

なんて大きな掛け声が飛び交っていた。

第一対潜駆逐艦隊の所属各艦の補充や点検は夕方になってようやく、すべてが終わっていた。

 

「はぁーー。 やっと終わったよー。」

 

とは、直前まで主砲の換装を行った、空母・鳳翔の担当艦娘・睦だった。

 

「お疲れだね。 睦ちゃん。」

 

「うん、もう、ぐったりだよぉぉぉぉ。 主砲の換装もなんとか終わったし、動作確認もオッケーっとー。 弾薬の積み込みも完了してるし、航空機燃料もオッケーね。」

 

「父さんも直前に余計なことを言ってくれちゃってさぁー。」

 

「ボヤかない、ボヤかない。 それより、皆も終わったの?」

 

と聞く榛名。

 

「うーちゃんも完了。」

 

「ボクも終わったよ。」

 

と皆準備は万端のようだった。

 

「で! そういうはるちゃんは?」

 

「フフフッ。 もちろん、とうの昔に終わってるわよ。 抜け目なし、よ。」

 

とウインクまでして見せていた。

 

「さすが、榛名ちゃんね。 やっぱり、出来るわね。」

 

そう言ったのは鳳翔だ。

ベビーベッドの翔子と千翔をあやしながら、こちらの会話に入り込んできたのだ。

 

「何事にも完璧な鳳翔姉さんほどじゃないですよ。 結構、バタついたんですから。」

 

「やぁあ、皆お疲れ様だったね。」

 

労いの言葉は秦だった。

 

「ホントだよ。 でも、しれーかんの方はどうなのさ?」

 

「榛名と鳳翔の協力のお陰で、輸送船、補給物資の手配は・・ 予定通りだよ。 ありがとう、榛名、鳳翔。 おおいに助かったよ。」

 

ほぼ準備が整った状態になった。

明日はいよいよ出撃となったのだった。

秦は、11月になってから各艦の主砲の換装を言い出したのだった。

駆逐艦・皐月、弥生、卯月の3艦の主砲を、12.7センチ連装を艦前部に一基、艦後部に一基の二基四門を新型や改良型に交換。

艦中央部にあった2基は対空機銃等に交換させた。

魚雷は九三式、通称酸素魚雷発射機を、四連装を二基に交換した。 予備魚雷は増やせなかったが、全12発が搭載されていた。

爆雷も30発ほど搭載した。

駆逐艦・朝霜は、大きな換装はしなかったが、それでも後期型や改良型に更新がなされていた。

空母・鳳翔の主砲は、艦橋前後に15.2センチ連装砲塔を搭載させていた。

全艦の対空機銃はベルト給弾式を、対魚雷用爆雷投射機も搭載していた。

また、対水上、対空、聴音の各機器は全艦隊全てにおいて新型を搭載させていた。

そして、戦艦・榛名も同様に、新型や換装を行っていた。

戦艦・榛名の艦橋の両サイドには・・ 駆逐艦・皐月らと同じ絵が描かれていた。

”女神に導かれし水雷乙女たち”の水色の絵が。

”出来れば、積めるものは積んでおきたい”と考えていた秦だったが、艦の機動に影響が出る事や、被弾時の誘爆被害を避けることも考えていたから、ギリギリの弾薬搭載はさせなかった。

その代わり、輸送船がいつもより多めに随伴することになっていた。

急な改造、換装で手間取ったが、皆無事に補充や点検が終わったのだった。

 

 

その夜。

楠木家は晩御飯を終えて居間でまったりしていた。

翔子と千翔が産まれてから、楠木家の話題の中心は翔子と千翔の赤ちゃんだった。

翔子は鳳翔が抱いてあやしていたが、千翔は榛名が抱いていた。

 

「最近は、はるちゃんがちーちゃんをあやしてるよね?」

 

とは皐月だ。

千翔も満更でもなく、榛名に抱かれると、アー、フーと言いながら、手足を動かして、榛名に抱き着こうとするのだった。

 

「ちーちゃん、榛名ですよぉ。 フフフ」

 

と言いながらあやすのだ。

 

「最近は、千翔は榛名がお気に入りだな。」

 

「ええ、そうなんです。 まぁ、私としては助かってますけど。」

 

「でも、ちーちゃん、お母さんに抱かれてる方が喜んでるよ?」

 

そう言うのは皐月だ。

 

「まあ、お母さん一人で同時に二人は相手できないから、仕方が無いんだけどさ。 朝霜ちゃんとはしょうちゃんよりちーちゃんの方が仲が良くない?」

 

千翔は、朝霜もお気に入りらしく、榛名が居なければ朝霜を見つけては手足をバタつかせるのだった。

 

「あたいは、二人を比べることはしてないけど? そう見えるのかなぁ。」

 

「そう見えるって。 だって、いっつも居間でちーちゃんと一緒に寝てるじゃん。 いったい、何時間寝れば気が済むんだよ?」

 

「えぇぇ、いいじゃん。 一緒に寝たいんだからさぁ。」

 

「寝てる間は大人しいからいいんだけどさ。 その分”夜寝れない!”っていって五月蠅いくせに・・・ まったく・・・」

 

「ぐっ・・ そんなに言わなくてもいいじゃん・・」

 

皐月らの言葉に、何も言えなくなる朝霜だった。

 

「そうは言っても、皆、翔子や千翔の面倒を見てくれて、助かってるんだよ、俺も鳳翔も。 な? 鳳翔。」

 

「ええ。 皆があやしてくれるから、ものすごく助かってるのよ。 ありがとうね。」

 

そう言われて、皆”へへへへ”っと笑っていた。

千翔はと言うと、榛名か朝霜か、となれば、断然、榛名の方がお気に入りらしかった。

 

「相変わらずなの?」

 

と聞くのは睦。

 

「ええ。 お風呂でちーちゃんと一緒に入ると、榛名のおっぱいに吸い付くんだもの。 母乳は出ないのに・・・」

 

と榛名が言う。

そう。 以前、榛名が千翔をお風呂に入れていた時だった。

その時はたまたま秦ではなく、榛名がお風呂に入れていたのだったが、千翔を胸に抱いていると、千翔が榛名の、豊満な乳房に吸い付いたのだった。

 

「きゃっ!」

 

最初は驚いた榛名だったが、母乳を飲もうとする千翔が、愛おしく思えたのだった。

 

「鳳翔姉さんもこんな感じなのかしら・・」

 

と思ったら、吸い付かれるのも悪くないかも、と思ってしまったのだった。

翔子は榛名に吸い付かないのだが、千翔は・・ 榛名を母親と思っているのか、乳房に吸い付くのだった・・。

 

「翔子も千翔も、皆をそれぞれ認識してるんだなぁ。」

 

とは秦だが、それに続けて、

 

「そうですね。 翔子も千翔も好みがあるみたいで・・。」

 

と鳳翔が言う。

実際、鳳翔と秦以外だと、翔子は睦が一番のお気に入りで、千翔は榛名、朝霜がお気に入りのようだった。

皐月、弥生、卯月は、どちらとも仲が良いようで、特に嫌われている、と言うことは無かった。

 

「翔子はしっかり系で、千翔が賑やか系なのかな?」

 

「あながち、間違ってはいないと思いますけど、その分け方は・・ どうでしょう・・」

 

「ははは。 ま、分け方はどうでもいいさ。 みんなが仲良くできていれば。」

 

「そうですね。 それが一番です。」

 

秦と鳳翔がそう言い合って笑っていた。

 

「何話してるの?」

 

と聞いてきたのは睦だ。

 

「うぅうん、大したことはないよ。 皆、仲がいいなってね。」

 

「そうだね。 仲はいいと思うよ。」

 

「うん、仲はいいよね。」

 

と言って皆で微笑んでいた。

そしていつものように、2、3人ごとに分かれて入浴した。

秦も鳳翔と一緒に入浴した。

これもいつもの通りだった。

そして・・ 明日に備えて皆寝入るのだった。

 

 

翌朝0430。

まだ薄暗い、寒い朝だった。

いつものごとく、朝食は秦の担当だ。

ただ、今日に限っては、鳳翔も同時に起きだしてきた。

 

「おはよう、鳳翔。」

 

「おはようございます、あなた。」

 

「まだ寝てても良かったのに。」

 

「いいえ。 出発までの時間を大事にしたいと思いましたので。 フフフ。 まだ誰もいないこの時間、結構、いいんですよ?」

 

冬の早朝、まだ外は薄暗い。

まだ誰も起きてこない、この時間は二人にとって、イチャイチャする時間帯でもあったのだが。

 

「翔子と千翔は?」

 

「まだぐっすりです。」

 

「ならいいけど。」

 

「はい。 大丈夫ですよ。」

 

朝食の用意が進む朝の食堂で、いつもよりはるかに早い時間に起きだしてきたヤツが。

 

「うー、さぶっ。 父さん、お母さん、おはよう! あ、またイチャついてるしぃ・・ もう・・・」

 

そう言ってやってきたのは睦だった。

朝から呆れモードのようだ。

それからこども達が皆起きだしてきた。

 

【おっはよー!】

 

皐月、弥生はもちろんいつもの事だが、今日に限っては朝霜、卯月も居た。

しかも・・ 白三本ラインの入った、第一中学校の冬用セーラー服姿で。

もう、秦も言うことは無かった。

皆に好きにさせていたのだ。 「何を着てもいいからね。」と。

そして榛名も。

 

「今日は特別さぶいねぇ。」

 

「まぁまぁ、そうは言っても、いつもの事じゃん。」

 

そう言ってテーブルにつく。

賑やかな朝食風景も見慣れたものになってきていた。

 

「さあ。 朝ごはんだ。 食べよう。」

 

【いっただきまぁす!!】

 

秦も鳳翔も、榛名もこども達も手を合わせてから食べ始めた。

いつものホカホカご飯にお味噌汁、卵焼きにアジの干物の焼いていた。

いつもの朝食風景。

 

「見慣れた光景だな。 みんな元気でよろしい。」

 

秦の眼差しは穏やかだった。

フフフと笑う鳳翔の目も穏やかだ。

その視線の先には・・ 朝ごはんをがっつくこども達が・・・。

 

「そんなにがっつかなくても・・」

 

「そうは言っても、しばらくはお母さんのご飯、食べられないんだからね!」

 

「そうぴょん! 食べられるときに食べておかないと、後で後悔しそうだぴょん!」

 

食べながら、ウンウンという。

 

「もう。 帰ってからも食べられるわよ?」

 

「それはそれ。 今は今だよ、お母さん。」

 

鳳翔が呆れていると、くくっと笑いをこらえている秦の声がした。

 

「鳳翔、そう言われるとカタナシだな。」

 

「もう、あなたまで。」

 

口を尖らせる鳳翔だが、そのうちに手で口を押えて、フフフと笑っていた。

それにつられて、秦も、ははは・・と。

二人の笑い顔につられて、

 

「もう、何が可笑しいんだか・・」

 

とか言いながら、へへへっ、いひひひっと笑うこども達だった。

 

 

そして・・

時間は0520になった。

 

「さてと、行くか。」

 

秦が皆に向かって言い、執務室に向かった。

執務室に着くと、部屋のストーブに火を入れた。

ストーブの火が付き、徐々に温まってくる。

鳳翔がベビーベッドに翔子と千翔を寝かせて、布団を掛けた。

自席に就いた秦が、さて、と声を出すと同時に入口の扉を叩く”コンコンコン”と音が聞こえてきた。

入室を促すと、第二陣の艦娘たちが勢ぞろいしていた。

 

「おはようございます! 司令官!」

 

「提督、おはようございます。」

 

と挨拶しながら入ってきた。

 

「やあ、みんな、おはよう。」

 

と返す秦。

執務室は満員状態になった。

秦は皆を見渡しながら、

 

「いよいよ、この時がきた。 皆、準備は怠りないかな?」

 

というと、

 

「無いよ-。」

 

と緩い返事が返ってきた。

呆れながら、さらに、

 

「よろしい。 では、皆、出港だ!」

 

と言うと、

 

【了解!】

 

と全員同時に返ってきた。

ぞろぞろと執務室を出ていく。

 

「じゃあ、しれーかん、あたいたちも行こうよ。」

 

「そうだね。 あんまり遅れることも出来ないから、ボクたちも行くか。」

 

「ああ。 行くぞ。」

 

そう言って、秦は鳳翔と向かい合った。

 

「外は寒いから、ここで見送ってくれるかい。」

 

「いいのですか? 港まで行きますのに・・」

 

「翔子や千翔が居るんだ。 ここでいいよ。 ・・じゃあ、行ってくるよ。」

 

「はい、とその前に・・」

 

目を閉じて、顔を上げてきた。

その顔に近づいて・・

チュ・・

二人の唇が合わさる。

もう、こども達は何も言わなかった。

見慣れてしまったいたために・・

唇が離れて、

 

「続きは・・帰ってきてからだ。」

 

「はい。 ここで帰りを待っています、あなた。」

 

二人の目は、いつになく穏やかだった。

 

「「「お母さん、行ってくるね!」」」

 

「行ってらっしゃい! みんな帰ってくるのよ。 榛名ちゃんもね。」

 

「はい。 鳳翔姉さま。 任せてください!」

 

そう言って秦たちが執務室を後にした。

一人、鳳翔を残して。

いや、三人を残して。

 

 

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