幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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秦率いる第二陣が出港した・・
目指すは南の海。
しばしの平穏が・・



いざ行かん,南の海へ。

鎮守府前の桟橋から内火艇、連絡艇に乗り込んでいく秦たち。

 

「じゃ、みんな、無事でな。」

 

と声を掛けて秦と睦が乗り込んだ内火艇は空母・鳳翔への向かった。

榛名や皐月たちの船も江田島・小用沖に投錨していたために、艦の手前まではほぼ同じ航路をたどった。

離れていく艇の上で、みな各々の艇に向けて敬礼を送っていた。

それぞれの艦に着くと、内火艇を格納し、各員が艦橋に上がったところで秦が号令を掛けた。

 

「各艦、機関始動! 舫解け!」

 

「了解、全艦に達する! 機関始動開始! 舫、解け!」

 

足元から微かに振動音がしてくると、

 

「機関始動確認、問題なし!」

 

「よし、いい音だ。 全艦、抜錨!」

 

「全艦抜錨!」

 

ガラガラと錨を巻き上げていく音が響いてきた。

巻き上げが完了すると、

 

「では、出港する。 機関、前進微速。 第一航行序列!」

 

「前進びそーく! 第一航行序列!」

 

小用沖を離れていく、第一対潜駆逐艦隊の6隻。

ここで秦が、

 

「睦。 長音、三声!!」

 

と。

 

「了解。 空母・鳳翔、長音三声!」

 

と睦が復唱し、空母・鳳翔が汽笛を鳴らした。

それも、最大音量で。

呉港に響き渡る汽笛。

その意味は、”見送りありがとう。”だ。

艦隊は江田島の北側を廻って響灘を目指す。

 

『右舷前方、柱島泊地。 第一艦隊他、合流します!』

 

呉港内ではなく、柱島に投錨していた長門たち大型艦を含む艦隊と合流した。

各艦隊は単縦陣で豊後水道を出ていく。

 

『対空電探に感有! 左右両方向より編隊接近の模様。』

 

「どれだ?」

 

報告に秦が双眼鏡で覗いた。

 

「そろそろ、各飛行隊との合流予定海域だから、味方じゃないかにゃ?」

 

とは睦だった。

 

『接近中の編隊を確認しました。 全編隊は味方飛行隊です!』

 

「やっぱり。 どうするの、父さん?」

 

「ははは。 当然、各飛行隊に所属艦への着艦を指示してくれるかい。」

 

「りょーかーい!」

 

旗艦・鳳翔から各飛行隊、各空母へ連絡がされたのだった。

第二陣には、大型の空母はいないが、軽空母がいくつか居たので、そこへの着艦が行われた。

空母・鳳翔も例外なく、着艦する飛行隊があった。

艦橋のデッキから見ていた秦。

 

「やはり、”お艦の飛行隊”は練度が高いな。 着艦がスムーズだよ。」

 

「そりゃ、そうにゃし! お母さんが厳しかったからねぇ。」

 

二人して笑ったのだった。

南進する艦隊への着艦が終わるころ、鹿屋基地からの支援機が上空に達した。

 

「基地航空隊、到着。 予定通りだね。」

 

「ああ、そうだな。 この辺りで、敵からの攻撃は無いだろうけど、念には念を入れておかないとな。」

 

九州は都井岬を右舷前方に見たころ、志布志湾に先行していた水雷艦隊が第二陣に合流してきた。

 

「こちら--水雷艦隊および輸送船団、旗艦・駆逐艦・綾波、艦隊に合流する!」

 

「こちら旗艦・鳳翔。 合流了解。」

 

この合流で第二陣全艦が揃った。 そして・・

 

「では、第一対潜駆逐艦隊、対潜警戒態勢に移行。」

 

「了解。 第一対潜駆逐艦隊、対潜警戒態勢に移行する!」

 

睦から各艦へ指示が伝えられる。

やや増速して、朝霜、皐月、卯月、弥生の駆逐艦4艦が前方海域で横一列になった。

艦幅は1キロ。

後方に1キロの地点に榛名。

更に1キロ後方に鳳翔が就いた。

 

 

艦隊がやや大隅半島よりを航行していたときだった。

佐多岬の向こう側に多数の輸送船の船団が見えてきた。

 

「父さん、予定通りに輸送船団と合流するよ。 でも・・」

 

「どうした?」

 

「なんか、予定より船の数が多いんだけど・・・」

 

「は? 多いって?」

 

「うん。 かなり多いよ?」

 

第二陣は、秦の第一対潜駆逐艦隊を先頭に、水雷艦隊、本隊となる戦艦隊と続いていた。

予定では錦江湾に先行していた、途中まで同行する輸送船と佐多岬沖で合流する手はずになっていたのだった。

当初の予定では、随伴する輸送船が10隻と、途中マニラ港まで同行する船団が1つで8隻の計18隻だったが・・

 

「電探の反応だけでも50隻近くいるよ?」

 

「はぁ? そ、そんなに・・ いったい、どうなってんだ?」

 

何故、そんなに輸送船がいるか、と言うと・・

当初は確かに18隻だけだったが、途中で南方に向かう数隻の船団が、第二陣の輸送艦隊が護衛付きで南に向かう事をどこからか情報を仕入れ、同じ南方に向かうなら一緒に行こう! 護衛もあるし、安心だ! と言う事で、日程を遅らせたり早めたりして、最終的には数個の船団が集まってしまったのだった。

ただ・・

同行しようとした船団は、護衛する艦隊は駆逐艦を主体とする水雷艦隊だと思っていた。

ところが、合流しようとした艦隊は、水雷艦隊だけではなかったことに、驚いていた。

船団に接近してくる艦隊は、先頭が駆逐艦だったから、何気なく艦隊を見ていたのだが、後方に高い鐘楼を持つ戦艦が居ることに気づいた。

戦艦・榛名だった。

”あ! 戦艦がいるじゃん! これは頼もしい!”

と思っていたら、その戦艦に司令長官座上の信号旗が無いことに気づいた。

”あれ? 長官旗がないぞ?”

そして、戦艦・榛名の後方に空母が続いていることに気が付いた。

そのころになって、

 

「こちら第一対潜駆逐艦隊、駆逐艦・朝霜! 輸送船団各艦に告ぐ! 進路、速度を我に合わせよ!」

 

と朝霜から通信が送られた。

”え? この艦隊って、確か・・”

対潜駆逐艦隊は珍しかったから、各地の船団でも名は知られていた。

その艦隊の司令は・・将官クラスだ、と言うことも。

駆逐艦隊なら司令官は佐官クラスだが、今回の艦隊は将官クラスが乗っている・・

便乗する船団の船長が慌てて連絡をしてきた。

連絡先は旗艦の空母・鳳翔だった。

しかも長官旗が翻っている。

「こちら、--輸送船団、貴艦隊に同行することを許可願いたい。」

と言う通信がわんさかやってきた。

 

「はぁ。 皆、便乗組だね。 どうするの、父さん。」

 

「無下に断ることも出来んしなぁ。」

 

そう言って、頭を掻いた秦だったが、

 

「各船団に告ぐ。 こちらは第一対潜駆逐艦隊、司令官の楠木だ。 各船団の同行を許可する。 が、安全の保障は出来ない。 以上。」

 

と通信を送った。

秦は、先頭の駆逐艦たちと榛名の間に輸送船団を挟み込んだ。

総数50隻にも上る輸送船団の姿は壮観だった。

 

 

暫くの間、大船団と艦隊は進路を共にしていたが、

 

「艦隊分離点に到達!」

 

との合図で、戦艦を主とする艦隊が、水雷艦隊と共に左に舵を切った。

南西諸島南方で、2つに分かれたのだった。

左に舵を切ったのは、戦艦を主とする艦隊、水雷艦隊など。

その目的地は、トラック環礁。

双方の艦では、妖精たちが甲板上で帽子を振っていた。

秦率いる第一対潜駆逐艦隊と輸送船の船団はそのまま南進をつづけた。

分離しても輸送船団の数は減らなかった。

秦たちの目的地は、まずはマニラ湾だった。

台湾島を右に見て太平洋を南下する。

 

「台湾島を通過。 ここまで何にもないにゃし。 暇にゃし。」

 

「そうは言っても、何もないのが一番だよ、睦。」

 

見えてきたルソン島を左に見て、さらに南下。

そんなこんなで、マニラ湾に到着した大船団。

ここが目的地の船団も居たが、大部分はまだこれからも南進するのだった。

ただ、到着が既に夜だったため、出発は朝にしてここで停泊することにした。

積み荷の荷揚げ荷下ろしの作業は夜通し行われるのだった。

秦は、榛名とこども達を空母・鳳翔の食堂に集めた。

 

「ここまでお疲れ様。 今夜は鳳翔で一緒に夕食といこう。」

 

料理長による夕食は、クリームシチューとパン、南国風のサラダだった。

空母・鳳翔の料理長の腕は、そんじゃそこらの腕前ではなく、秦の妻・鳳翔に引けを取らないほどに、良い腕をしていた。

 

「ん、うまっ!」

 

「よく煮込まれてるよ。 美味しー!」

 

「このフランスパンも、これだけでも十分に美味しいよ!」

 

皆の評価は上々だった。

朝霜はお代わりを数度。

 

「おいおい朝霜さんよ、”お腹、苦しー”って言わないだろうね?」

 

そう言って心配する秦をよそに、

 

「大丈夫、大丈夫。 食べられるときに食べとかないと。」

 

だと。

暫く、食器があたる音がしていたが、

 

「「ふぅー。 食べた食べた!」」

 

と言って食べる手が止まった。

 

「美味しかったねぇ。」

 

「さすが、鳳翔姉さんの料理長ですね。 全てにおいて、美味しかったです! ね、提督?」

 

「ああ。 満足満足。」

 

夕食を終えた秦たちは、何気に艦橋へと戻ってきていた。

 

「なんだかんだ言っても、ここが一番、見晴らしがいいよ。」

 

「やっぱり、あたいたちよりここは高いねぇ。」

 

夜とは言え、各艦の灯りや岸壁の灯りがあったために、それなりに周囲は明るかった。

第一対潜駆逐艦隊は、船団の端に位置していた。

いつでも出港が可能なように・・。

見上げる夜空には、三日月が浮かんでいた。

 

「いいねぇ。 皆で月を愛でるってのは。 お母さんがいないけど。」

 

「ははは。 その点は仕方がないな。 ちょっと寂しいね。 でも、呉で見てるかもよ?」

 

「そうだといいね。」

 

手すりに肘をついて月を眺める秦たちだった。

 

「さぁ、もう休もうか。 明日も早いんだからね。」

 

「うん、じゃぁ、お休み!」

 

「また、明日ね。」

 

そう言って各自の艦へと戻っていくのだった。

 

 

艦の朝は早い。

朝6時になると、国旗、軍艦旗の掲揚が掲揚ラッパと共に行われる。

この時間をもって一日が始まるのだ。

当然、秦が座上する空母・鳳翔が全体の指揮を執る。

今この港で最高位の将官が乗っているのだから。

もちろん、掲揚にあわせて敬礼をする。 艦橋のデッキから。

今日も天気が良さそうだ。

青い空に白と赤の旗が翻っていた。

掲揚後、睦と共に食堂で朝食をとる秦だった。

そして0700。

艦橋から指示をだす。

 

「じゃあ、行こうか。 全艦、抜錨! 出港する!」

 

「了解。 全艦抜錨、出港。」

 

錨が巻き上げられ、外洋に向けて動き出す艦たち。

 

「先頭、皐月。 出るよ!」

 

「続いてうーちゃんも出るぴょん!」

 

「弥生、出るよ。」

 

「朝霜! 出る!」

 

「高速戦艦・榛名、出港!」

 

「殿、空母・鳳翔、出るよ!」

 

まだまだ南進する船団を引き連れて、港を出ていく。

 

「輸送船も港を出たよ、父さん。」

 

「よし。 対潜警戒陣に移行。 艦隊直掩機発艦。 続いて哨戒機発艦。」

 

「了解。 各艦に下令。 対潜警戒陣に移行する。 直掩機、準備出来次第、順次発艦せよ! 対潜哨戒機、発艦準備急げ!」

 

暫くの後、艦隊直掩の烈風が飛び上がっていった。

烈風の後は対潜哨戒機だ。 こちらも準備が来次第飛び立っていった。

船団は、マニラ湾を出てミンドロ島を左に見てさらに南下する。

呉は冬真っ最中で寒かったが、さすがにここまで南に下りてくると暑かった。

些細なことだが、冬着から夏着へと換えていた。

ここで数隻の船団が離れていった。

 

「こちら--船団、今までの護衛、感謝する。 ご武運を。」

 

と連絡してきていた。

船団はイーリン・ブスアンガ両島の水道を抜けていく。

ズールー海に進入した。

暫くは陸地は見えなくなっていた。

 

「なーーんにも見えないぴょん。 鴎も居ないぴょん。」

 

「そうだよねぇ・・ 周りは何にもないし。」

 

「まぁ・・ 綺麗な水平線だけ、だね。」

 

短距離通信で交わされる、ゆっるーい会話だ。

確かに、今現在は電探、聴音に反応はない。

空は抜けるように蒼い。

艦隊の遠くを旋回する直掩機が米粒よりも小さな”点”として見えているだけだった。

艦首が海を裂き、白波を後方へと送っていく音が響いているだけだった。

 

 

 

船団は二つ目の寄港地に着いた。

そこは・・ ダバオだった。

既に大多数の船団は、秦の艦隊から離れ、それぞれの目的地へと向かっていった。

艦隊についているのは、元々艦隊随伴の輸送船18隻と、ダバオが目的地の船団が一つだけだった。

港に着いたのが夕刻前だった。

輸送船団は桟橋に接岸していたが、艦体は沖合に停泊するのだった。

 

「よし、この辺でいいだろう。 投錨。」

 

「了解だよ。 各艦、投錨。」

 

沖合に寄り添って錨を降ろす秦たち。

榛名、鳳翔、朝霜、皐月、卯月、弥生を舷を合わせていた。

 

「今日も、料理長のご飯が食べられるぴょん!!」

 

と言って卯月が空母・鳳翔へとやってきた。

 

「コラ。 まだ”来い”とは言ってないだろう?」

 

「大丈夫、大丈夫。 うーちゃんからの報告ぴょん!」

 

「報告ぅ?」

 

「そうだぴょん。 接舷完了ぴょん。 以上!」

 

それを聞いて、思いっきり呆れる秦だった・・・

 

「そ、それだけかよ・・ まったく・・」

 

隣の睦が笑っていた。

 

「イヒヒヒ。 父さんの負けだね。 諦めたら?」

 

「お前までそう言うか?」

 

「でも、ホラ。 皆来たよ。」

 

「「しれーかんに報告、接舷完了だよ!」」

 

「榛名も完了ですよ。」

 

結局、全員がやってきたのだった。

 

「ああ、もう! 好きにしろっ。」

 

少々オカンムリな秦であったが、榛名をはじめとする皆の顔は笑っていた。

 

 

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