幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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いよいよ戦いが始まる、のか・・
南洋の拠点・パラオまでもう少しのところで、期せずして戦闘が始まる・・



雨の戦闘

ダバオの港を出て数時間が経過していた。

目的地は、パラオ。

ダバオから東に向かって進む艦隊は、6隻と18隻の計24隻が秦の指揮下に居た。

出港した時は天気は超快晴で波も穏やかだったが、少しづつ雲の色が黒くなってくるのが分かっていた。

 

「こりゃあ、一雨くるかな?」

 

「電探上はまだ先だけど、雨の範囲は広そうだよ?」

 

雨雲まではまだ10キロ以上離れていたものの、見るからに大きな低気圧の塊に見えた。

離れているのに、目視でも背が高い積乱雲を伴っているのがわかった。

艦隊はその低気圧に向かって真っすぐに進んでいるようだった。

 

「そろそろ低気圧に突入するな・・ 睦。 各艦に荒天対策をとるよう、連絡を。」

 

「了解。 各艦に下令。 各艦、荒天対策を実施せよ!」

 

その連絡を受けた各艦は、甲板上にある洗濯物や風で飛ばされそうな物が艦内に取りこまれていった。

時間的に余裕があったはずだが、荒天対策が終わるとほぼ同時に雨が降ってきた。

途端に凪いでいた波が大きくなった。

そして、ついに・・・

 

◇

 

最初に気づいたのは艦隊左側に居た駆逐艦・皐月だった。

 

「電探に感有。 左10時方向、距離10キロ以上、感は2つ。 急に現れました!」

 

この報は秦にも届けられた。

 

「左方向に感2つ、だって?」

 

「そうらしいにゃ。 それ以上の連絡はまだないよ。」

 

暗く低い雨雲から大粒の雨が降る中、艦橋の窓は雨で視界不良だった。

 

「父さん、どうしよう? すぐに転進するの?」

 

と聞いてくるのは皐月だ。

 

「いや、待って。 皐月、電探の具合はどうなんだ? 反応ははっきりしてる?」

 

「うぅぅん。 ちょっとぼけてるよ。 ボーっと反応したり、くっきり反応したりしてる。」

 

ボーっとしてる、と言う事を聞いて、

 

「全艦、進路、速度そのまま。」

 

と指示を出したのだった。

 

「え? いいの? 確かめなくていいの?」

 

皐月が聞いてきたが、雨と潮風と海水の飛沫を受けている電探が、十分に機能している、とは思えなかったのだった。

だから、反応が正しいことを確かめたかった。

 

「皐月、対象の方位、速度がわかるまで、現状のままだ。」

 

「あ、そういう事ね。 了解だよ!」

 

秦は改めて指示をだした。

 

「全艦、進路、速度、そのまま!」

 

と。

10分ほどして、

 

「こちら皐月。 正体不明の反応、方位0-9-0、速度10ノットで進行中。」

 

と皐月から報告が来た。

 

「10ノットか・・」

 

「この荒れた海で10ノットの速度を出して、かつ電探の反応の小ささからすると、潜水艦の浮上航行じゃないかにゃ?」

 

潜水艦の浮上航行か、と思ったのは秦も同じだった。

 

「睦。 この辺で味方潜水艦の航行予定はあったかな?」

 

「うぅぅん、聞いてないよ。」

 

と首を横に振った。

 

「とすると、無暗に進路を変えて接近しない方がいいかもしれないが・・ 」

 

自席で腕を組んで考え込む秦。

そして、

 

「よし。 低気圧が切れるまで進路、速度はこのままだ。 低気圧が切れたら進路変更、正体不明艦に急接近する。 敵と判明すれば即刻、攻撃開始だ。」

 

と。

 

「了解。 じゃあ、皐月ちゃんたちに伝えるね!」

 

睦が各艦へと伝達した。

 

◇

 

暗く雨がたたきつける荒れた海をまっすぐに進む艦隊。

秦は、低気圧と正体不明艦の両方を見逃すな、と指示したが、空母・鳳翔は揺れた。

200メートルを超える全長の艦が、ゆっくり、ゆっくりと前後左右と揺れた。

同程度の大きさの戦艦・榛名も同じくだったが、小型艦の各駆逐艦はもっとひどかった。

大きなうねりになると、艦が波間に隠れて一瞬、見えなくなってしまう。

司令官席に座る、というよりもしがみ付いている、といった感じの秦。

隣の艦娘席の睦も同じようだった。

その揺れは、低気圧をやり過ごすまで続いたのだった。

低気圧に突入する事数時間。

ようやく低気圧の外縁が目視できる状況になって、

 

「正体不明艦が低気圧を抜けた模様。」

 

との報告が来た。

 

「現在、正体不明艦は、わが艦隊の左舷11時方向、距離7000。 以前進行中。」

 

とのことだった。

 

「よし。 艦隊左舷の皐月、卯月に下令。 進路転進、正体不明艦を確認せよ! 本隊はこのまま。」

 

「「了解!」」

 

「睦。 対潜哨戒機の発艦準備。 低気圧の影響が無くなれば即時発艦できるよう、準備をしてくれ。」

 

「了解だよ!」

 

正体不明艦の確認命令を受けた駆逐艦・皐月、卯月が増速して艦隊を離れていく。

 

「よーし! 第三戦速へ増速! 進路0-8-5! 砲雷撃戦、よーい!」

 

皐月の合図で主砲弾が弾薬室から揚弾されていく。

艦前部の砲塔へと主砲弾が挙げられると、砲身へ込められる。

後部甲板では爆雷の用意が進められていく。

連装砲塔一基あたり主砲弾は2発。

 

「正体不明艦まで距離6500、砲塔廻せ! 続いて、砲身あげ!」

 

12.7センチ連装砲塔が廻って正体不明艦に向く。

砲身が空を睨んでいる。

 

「こちら電探室。 正体不明艦が増速の模様。 こちらに気づいたようです。」

 

「こちら見張り台。 正体不明艦を視認しました。 敵潜水艦と認む!  あ! 敵潜水艦、潜航します!」

 

「主砲管制、照準よし! いつでもいけます!」

 

次々と報告がやってきた。

そして、ついに戦闘が始まる!

 

「皆、いっくよー!!」

 

と声を掛けたのは皐月だった。

 

「主砲、交互射撃開始! てーーっ!!」

 

「うーちゃんも準備よし! てーーっ!!」

 

2艦から放たれた弾が目標に向かっていく。

 

”弾ちゃーーく、今!”

 

目標海面に水柱が上がった。

 

「方位よし、遠弾。 距離調整、次、よーーい!」

 

「距離修正よし、てーーっ!!」

 

次弾が放たれていく。

第二射が潜行しようとする潜水艦に、当たった!

火炎が上がり、黒煙が立ち上ってきた。

命中により、潜行が止まったようだった。

 

「命中! 続けて砲撃!」

 

第三射、第四射と放つ。

更に命中弾が出る。

そして、艦首が海面上に上がったかと思うと、そのまま艦尾から沈んで行ってしまった。

 

「不明艦、一隻沈みます!」

 

「やったね!」

 

喜ぶ皐月と卯月だが、命中したのは一隻のみだった。

もう一隻は、完全に海中に没してしまっていた。

 

「皐月ちゃん、もう一隻潜っちゃったよ!」

 

「わかった。 ソナー、探針音開始!」

 

繰り返し探針音が発せされる。

ピッ・・・ カン!

 

「敵潜水艦、探知! 本艦正面、深度50から60! まもなく真上を通過!」

 

「よーし。 爆雷調整深度70! 投射よーい!」

 

駆逐艦・皐月と卯月が敵潜水艦の真上を通過すると同時に、爆雷を投射する。

 

「爆雷4発、投射する。 てーー!!」

 

艦尾の爆雷投射機から左右に爆雷が撃ち出されていく。

4発だと、左右2個づつで2斉射。

それが皐月と卯月の二艦で8発だった。

爆雷が海中へと落ちていく・・

深度が70になったとき、爆発した。

時間差で8個の爆雷が爆発した。

海中では、爆発点を中心に衝撃波が。

この衝撃波が潜水艦を襲うのだ。

潜水艦は、激しく揺れた。

海上では、爆雷の爆発に伴う水柱が立ち上がっていた。

爆雷投射後、しばらく直進していたが、再度爆雷攻撃をする為、潜水艦の後ろに回るのだ。

 

「よし、反転するよ。」

 

皐月が右に、卯月が左に舵を切っていた。

 

◇

 

低気圧を抜けた空母・鳳翔から対潜哨戒機が飛び立ち、皐月と卯月の支援を空からしていた。

 

「皐月へ。 敵潜水艦進路変更認めず、深度30へ浮上の模様。」

 

と哨戒機から探知結果の連絡が来た。

 

「了解。 後ろから再度爆雷攻撃を仕掛ける!」

 

最初の爆雷攻撃位置から半径3000メートルの円を描きながら敵潜水艦の後ろへつこうとした。

その間も上空の対潜哨戒機の索敵は続いていた。

この対潜哨戒機には、海中の潜水艦の磁気を探知する磁気探知装置を搭載していた。

当然、投下用ソナーブイなども搭載していたが、今回は磁気探知装置だけで十分だった。

 

「皐月、卯月へ。 敵潜水艦、進路変わらず、深度100へ。」

 

「了解! 爆雷調整深度100。 投下用意!」

 

探針音で敵潜水艦の位置を補足しながら、敵潜水艦の後方で準備を進める皐月と卯月。

そして再び攻撃を始めた。

 

「皐月ちゃん、いっくぴょん!」

 

「了解だよ。 増速、第三戦速!」

 

二艦が増速して敵潜水艦の真上に達しようとしたとき、

 

「爆雷、投下ぁ!!」

 

「うーちゃんも投下!」

 

二艦から計8発の爆雷が打ち出されていく。

敵潜水艦が回頭して爆雷を回避しようとしていた。

 

「敵潜水艦、取り舵をとって回頭中!」

 

と対潜哨戒機から連絡がきた。

皐月、卯月は既に爆雷を投下し終え、二艦共面舵を切って再び後ろに廻ろうとしていた。

 

「あーあ。 外されちゃったか・・」

 

「もう一回、行くぴょん!」

 

そう言っている間にも、

 

「敵潜水艦進路変更。 進路0-2-5へ修正求む。 敵潜水艦まで2000。」

 

との報告が来る。

 

「了解! 進路0-2-5。 今度こそ沈めてやるんだから! 卯月ちゃん、いい?」

 

「うん! いつでもおっけーぴょん!」

 

回頭が終わり、再び敵潜水艦の後方につけた二艦。

そこへ秦から連絡がきた。

 

「こちら楠木。 皐月、卯月。 爆雷の残弾はどうだ? 大丈夫か?」

 

「父さん。 うん、大丈夫。 だけど、なかなか当たらないねぇ。」

 

「二人とも、十分に気をつけるように。 いいね?」

 

「りょうーかーい!」「大丈夫ぴょん!」

 

そう返事はするものの、戦果はまだ無い。

そして、三度目の攻撃に移った。

 

「敵潜水艦、前方500、深度50。 進路変わらず!」

 

と対潜哨戒機からの報告だった。

 

「よし。 行くよ! 爆雷、調整深度50。 雷数4。 投下用意! 増速、第三戦速!」

 

「うーちゃんも皐月ちゃんに続くよ!」

 

二艦が増速して潜水艦の上を通過していく・・

同時に爆雷を投下する。

 

「「爆雷、投下あーー!!」」

 

爆雷が打ち出され投下されていく。

深度50で爆雷が爆発する。

計8発の破裂音が響いた。

皐月と卯月はしばらく前進したのち、左右に分かれて回頭していた。

皐月が右に、卯月が左に舵を切っていたのだ。

潜水艦は、というと・・

爆雷が破裂するまでに深度70まで潜っていた。

激しく揺れたが、損害は無かった。

8個の爆雷が爆発し終えると、潜水艦は、右に舵を切り、潜望鏡深度まで急速浮上してきた。

船の回頭は潜水艦の方が小回りが利く。

つまり・・

大きく弧を描きながら回頭する皐月の横っ腹を真正面に捉える位置に、潜水艦が潜望鏡深度まで浮上していた。

そして、潜水艦から魚雷が放たれていた。

雷数は・・・

潜望鏡による目標設定の雷撃ではなく、黙視状態での予想位置へ向けての扇状雷撃だった。

白い航跡を引いて魚雷が進む。

これに気が付いたのは、上空で旋回していた対潜哨戒機だった。

 

「敵潜水艦、潜望鏡深度まで浮上の模様! あ! 魚雷発射! 本数は4つ! 皐月に向かう! 皐月、緊急回避せよ! 右舷90度より雷数4! 扇状雷撃だ。 緊急回避せよ!」

 

「なっ?! 見張り妖精、見える?」

 

「見えた!! 魚雷視認! 右舷90度方向より雷数4。」

 

航跡を捉えたのだった。

駆逐艦・皐月は右に舵を切って回頭中だったため、

 

「くっ。 回頭中止! 取り舵いっぱい! 最大戦速!」

 

面舵での回頭から急遽、取り舵を切った。

それも舵輪いっぱいに廻して、全速力で躱そうとした。

急な回頭で、遠心力で外に振られる皐月。

 

「魚雷、近づく! 距離2500! 衝突コース!!」

 

「右エンジン全速! 左エンジン停止! 後部銃座、魚雷を撃て!」

 

皐月は、魚雷に対して同じ方向に艦を向けて命中する面積を小さくすることを選んだのだった。

また、扇状射撃だったため、魚雷が進むほどに間隔が広がっていく。

その隙間に入ろうと考えたのだった。

後部銃座の25mm機関砲が魚雷が進む海面に向けて火を噴いていたが、なかなかに当たらなかった。

 

◇

 

その時、対潜哨戒機は、敵潜水艦の真上に発煙筒を投下していた。

 

「こちら哨戒機、各艦へ連絡。 敵潜水艦所在位置に発煙筒を投下。 砲撃されたし! 繰り返す。 敵潜水艦所在位置に発煙筒を投下。 砲撃されたし!」

 

その連絡を受けた秦が、

 

「よし、榛名へ連絡。 発煙筒位置に対して対潜攻撃弾で砲撃せよ!」

 

と指示を出した。

 

「こちら榛名。 砲撃了解。 1番、2番砲塔、対潜攻撃弾を装填。 目標、敵潜水艦想定位置!」

 

「こちら射撃指揮所。 方位左20度、距離11000と50! 砲塔旋回! 砲身あげー!」

 

榛名の1番2番主砲の砲塔が旋回する。

1基につき2つの砲身が角度を上げていく。

 

「1番、2番、装填よし! 射撃準備よし! 警報!!」

 

砲撃の準備ができ、発砲警報が鳴る!

次の瞬間!

 

「1番主砲、2番主砲、斉射、撃てぇーー!!」

 

合図と共に轟音が響いた。

4発の主砲弾の発射だ。

砲弾が砲身を飛び出していく。

飛翔の後、目標地点へ向けて砲弾が落下していく。

4発の砲弾が、目標地点に着弾した。

散布界があったために、それぞれがある程度ばらけた位置に着弾した。

しかし、そのうちの1発が海面下数メートルにいた潜水艦にあたった。

海面下とは言え、数メートルでは戦艦の主砲弾があたれば被害は甚大だった。

船体を突き破って艦内で爆発したのだった。

爆発したのはまさに前部魚雷室付近で、搭載していた魚雷に誘爆した。

潜水艦は艦尾を持ち上げたかと思うとそのままゆっくりと沈んでいった。

 

「敵潜水艦に命中! あ! 爆発しました。 敵潜水艦が沈みます!」

 

暫く旋回していた対潜哨戒機から

 

「敵潜水艦、沈没。」

 

と連絡がはいったのだった。

 

◇

 

必死に左回頭する皐月。

白い航跡が迫ってくる。

 

「敵魚雷、1500。 右側一線はコースを外れました。 左側一線も外れました!」

 

残り中央の二線。

艦がほぼ平行位置につくと、

 

「舵戻せ! 魚雷と平行に!!」

 

と。

 

「距離1000切ります、衝突します!」

 

皐月は、覚悟した。

 

「機関停止! 全員、衝撃に備えよ!! 被害対策班、ようーーい!!」

 

「皐月ちゃーーーん!!」

 

卯月の悲鳴にも似た叫び声が響いたとき、身構えた瞬間、艦の両側わずか数メートルを白い航跡を残して2本の魚雷が通過していった。

艦橋から通過していく魚雷を見ながら、

 

「はぁああ・・ 当たらなかったかぁ・・・」

 

とため息をついていた。

 

「皐月ちゃん、大丈夫??」

 

「うん、なんとか、ね。」

 

「で! 敵潜水艦は? 位置知らせ! 右回頭用意!」

 

「敵潜水艦は、味方の砲撃で沈没しました。」

 

「え? 味方の砲撃ぃ?」

 

「はい。 おそらく戦艦・榛名と思われます。」

 

「そ、そうなんだ。 ま、とにかく、卯月と合流して、戻るよ!」

 

爆雷攻撃に参加していた卯月と合流して、艦隊に戻っていった。

 

「皐月、卯月、お疲れ様。 被害はないか?」

 

「もう、危なかったよ。 魚雷があたるかと思ったもん。」

 

「無事で何よりだよ。 さあ。 定位置に戻って。 爆雷の補給はパラオに着いてから補充しておくように。 いい?」

 

「「了解。」」

 

再び艦隊の定位置に戻る皐月と卯月だった。

合流を終えた艦隊は、その後、パラオまで何事もなく航海が続いたのだった。

 

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