幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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艦隊は最終泊地へと到着する。
そこで榛名との別れが待っていた。

そして、いよいよ戦が始まる・・




戦の前に -別れと約束と・・-

ようやく目的地パラオに到着した秦たち。

 

「パラオ泊地を目視で確認!」

 

「「「やっと着いたぁぁ!」」」

 

「うん、ようやく着いたな。 全艦、環礁内の泊地に投錨。」

 

「「了解!!」」

 

バベルダオブ島の環礁内に錨を降ろしたのだった。

そして、落ち着く暇なく、次の話が待っていた。

 

「父さん、あれは?」

 

と言って指さしながら皐月が聞いてきた。

その指さす方向には、別の水雷艦隊がいた。

そう。

榛名を迎えに来た、横須賀司令艦隊差し向けの部隊だったのだ。

 

「あれは・・ 榛名の迎えの艦隊だな。 榛名とはここで別れることになるな。」

 

「はい。 に、いえ、提督、お世話になりました。」

 

そう言ってニコリと微笑んではいたが、目じりに光るものが。

 

「え~っ、はるちゃん、もう行っちゃうの?」

 

と嘆くのは卯月だったが、

 

「こらこら。 榛名に迷惑を掛けるんじゃない。 もう決まっていることだ。 俺にもどうしようもないんだから、分かっておくれ。 な?」

 

こども達のなかでも卯月は残念がっていたが、致し方ないのだ。

それでも、ぶーぶーと言っていた卯月も納得はしないまでも理解だけはしたようだった。

 

「すまないな、卯月。」

 

そう言って卯月の頭を撫でる秦であった。

パラオ到着後、すぐに補給と修理を行った。

輸送艦が横付けして、この間の戦闘で使用した爆雷や主砲弾などを補充する。

睦月型、夕雲型の駆逐艦での爆雷は、ほとんど露天のようなものだった。

このため、補充はやりやすかった。

 

「補充する爆雷は、こっちから装填して!」

 

後部甲板の空いている装填台に装填していた。

1発ずつ、ゆっくりと。

まあ、爆弾が裸で甲板上に置いてある、と言えば近いだろうか。

装填台に載せきるまでが慎重な作業だった。

主砲弾は砲塔脇の荷下ろし用ハッチから行った。

12.7センチ砲弾は、信管を外した状態で艦内の弾庫に収められた。

1発ずつ慎重に、艦内へと収められていく。

甲板上での移動は、転がして・・

また、修理も行ったのだった。

損傷は無かったが、不具合を直しておきたかった。

ここで燃料も補給しておいた。

油送艦が横付けして燃料パイプを接続する。

停船しているから、補給はやりやすかった。

各艦の弾薬類は満載、燃料もほぼ満載となった。

これらの作業が寝ずで行われ、2日で終わって、全艦出撃準備が整った。

 

「さて、と。 計画に基づき、明日払暁、わが艦隊は出撃するぞ。 準備は・・ 大丈夫だよな?」

 

「「大丈夫だよ。」」

 

「抜かりないって。 もう、父さんてば、心配性なんだからぁ。」

 

出撃すると、敵根拠地付近での対潜及び対水上哨戒に就くのだ。

その目的は、根拠地攻撃により逃げ出してくる敵艦を補足・撃滅するために。

またはわが軍の後方に潜水艦が忍び込まないようにするために。

 

 

出撃前夜の今宵は、空母・鳳翔でのささやかで、穏やかな夕食となった。

有無を言わさず、皆空母・鳳翔へとやってきていた。

そんな姿をみて、一人呆れている秦だったが、やはり、賑やかで、楽しい時間は欲しかった。

 

「さあ! 早く食べようよ!!」

 

と皆に急かされながら、

 

「あぁ。 頂こう。 皆、いいかい?」

 

と仕切る秦。

 

「「うん!」」

 

皆の返事の後、手を合わせて・・ ”いただきます!” と。

 

今日のメインディッシュは、煮込みハンバーグだった。

 

「このデミソース、美味しー。」

 

「お肉も柔らかくて美味しいよ!」

 

アルマイトの食器に先割れスプーン。

昔懐かしい食器に盛られた煮込みハンバーグ。

どれも秦の掌よりも大きなサイズだった。

だから、食べ応えは抜群!だ。

ソースに漬けるバケットも、カリッとしていて、これも美味しい仕上がりだった。

 

「料理長さんのご飯、いつでも美味しいね。」

 

厨房で親指を立てる料理長が笑っていた。

そんな中、卯月が一人、ご飯にデミソースを掛けていた。

 

「何してんの、卯月ちゃん?」

 

「ご飯に掛けてんの。 こうすれば、即席のハヤシライスぅの完成ぃ!」

 

即席ハヤシライスを口に運ぶ。

ムグムグ・・

 

「うーーん、美味しいよ!」

 

と卯月の顔が笑っていた。

その顔を見ていた秦の顔も微笑んでいた。

 

”皆元気で、いい雰囲気だ。 このまま賑やかだといいのに・・”

 

と思っていたのだった。

 

 

そしてその日がやってきた。

いや、やってきてしまった。

第一対潜駆逐艦隊は自らの補給船を引き連れてパラオを出港した。

同時に、榛名を加えた水雷艦隊がトラックにいる艦隊に合流すべく出港した。

 

「榛名。 呉で会おうな。 絶対に。」

 

「はい。 必ず合いましょう。 それでは行ってきます! みんなも頑張ってね!」

 

「「はるちゃんも頑張ってね! また会おうね!」」

 

と挨拶を交わして、出ていった。

出港した時点で、根拠地攻撃作戦開始の5日前であった。

榛名は、トラック島配備の他の金剛型姉妹と合流するため、パラオから東に進んだ。

秘かにトラックを出港していた艦隊と合流を終えたときは作戦開始2日前となっていた。

 

 

秦率いる第一対潜駆逐艦隊はパラオから南東に進んでいた。

敵根拠地は南太平洋のナウルとのことだった。

ナウルは正しく絶海の孤島だった。

島の周囲には何もない。

一番近い島までは500km離れている。

その次に近い島まではその倍、1000kmもある。

隠れる島もなく、あるのはだだっ広い水平線のみ、だった。

この島は一周4キロ弱の小さな島だった。

ナウルには近づかないものの、ナウルの南方まで進出し、後方へ逃げる敵艦、後ろに回り込もうとする敵艦を補足することが目的の秦たち。

戦略爆撃による攻撃の為、大方の敵艦船は破壊できる、との思惑から秦に同道する部隊は無かったのだった。

パラオから4日は何事もなく過ぎ、既に作戦開始24時間前を切っていた。

想定海域を遊弋する空母・鳳翔のデッキ上で、

 

「あと少しだな。 このままなにもなければいいんだが・・」

 

そう呟く秦。

 

「そう心配しても始まらないよ、父さん?」

 

と答えてくれる睦だった。

 

「まぁ、そうなんだが・・」

 

煮え切らない返事だった。

パラオを出てから、各艦には無線封止を指示していたため、連絡は主に発光信号だった。

警戒体制も厳となっていた。

艦隊上空には直掩機が8機、対潜哨戒機12機が艦隊を中心とする半径50キロを常に哨戒していた。

残りの機体は空母・鳳翔の甲板あるいは格納庫で出撃待機となっていた。

数時間ごとに交代で直掩と哨戒とを繰り返す。

大雨や大しけでもない限り、常時警戒態勢だった。

 

 

作戦開始まで残り8時間となったころ、

 

「ふう。 作戦開始は明日の早朝0500・・。 あと8時間ほどだな・・」

 

とデッキで呟く秦。

2100を過ぎた頃、デッキの手すりに肘をついて夜空と甲板上を見ていた。

今、艦橋に睦の姿は無い。

作戦開始までに、交代で休息を命じていたのだった。

 

(ふぅ。 睦はぐっすり寝ているかな・・ 明日は頑張ってもらわないとな・・)

 

予定では作戦開始2時間前に起きだしてくるはずだった。

各艦は既に夜間灯に切り替えられており、外に向けての灯りは無く、艦橋の灯りすら見えなかった。

空母・鳳翔の甲板上では、夜間にも拘わらず、対潜哨戒機の発着艦が行われていた。

 

”第二飛行小隊各機、発艦準備宜し!”

 

甲板上の作業員から報告が来ると、すぐに航空管制から発艦の指示がとぶ。

 

”発艦始め! 発艦始めぇ!!”

 

第二飛行小隊各機がエンジン音を唸らせながら順番に飛び上がっていく。

 

”発艦終了後、直ちに第三飛行小隊の着艦作業に入る! 着艦制動索よーい!”

 

甲板の後方では着艦の準備が行われていた。

 

”着艦指導灯、点灯よし! 着艦制動索、準備よし!”

 

甲板上の準備が整うと、闇夜の中から翼端の赤と緑のライトが近づいてきた。

一機、また一機と着艦してくるのだった。

 

(さすが、”鳳翔お艦”の航空隊だ。 この暗闇の中で見事な着艦だ。)

 

と感心する秦だった。

対潜哨戒機は、目標が近いこともあって、昼夜関係なく哨戒を行っていたのだった。

 

(こんな暗闇で、いきなり攻撃を食らうことは勘弁したいしな・・)

 

と思っていたのだった。

さらに、

 

(みんなには苦労を掛けるが、やってもらわないとな・・)

 

そうも思っていた。

 

 

そんな静かな時間の中で、急報が飛び込んできた。

 

”敵の索敵電探と思しき電波照射を感知!”

 

報告してきたのは艦隊前方50km付近を哨戒中だった、対潜哨戒機からだった。

艦橋内は一気に緊張の度合いを高めた。

ただ、空母・鳳翔ではこの電波を感知していなかった。

 

「まだわが艦では感知はしていないんだな?」

 

”本艦の逆探には反応なし。”

 

「とすると・・・ まだ水平線の下っていうことか・・ それとも・・」

 

敵の索敵用電探の、周期的な電波を感知したようだった。

連続的な感知では無かった。

つまり、射撃用照射電波では無かった、と言う事だろう。

秦は、

 

「しばらく様子をみよう。 ただし、逆探に変化があれば至急報告の事。」

 

としたのだった。

急報を受けて起きてきた睦も首を傾げていた。

その後、電波を探知し続けていたが、電波を探知しなくなった、と報告が来た。

 

「どういう事だろう、父さん?」

 

睦がそう聞いてきたものの、秦も良くは分からなかった。

 

「さあ・・ 単に周辺を哨戒していただけなのかもしれんな・・」

 

「そうだといいけど・・」

 

「ま、気にしても始まらん。 一応、警戒はしておこう。」

 

「ん、了解にゃし!」

 

暗い艦橋にある海図台の前に立って、腕組みをしている秦。

その海図にはナウルを中心に、艦隊の位置が書き込まれていた。

時間と共に各艦隊の位置がナウルに近づいていく。

言い知れぬ緊張感が高まっていくのを感じる秦だったが、

 

「もう休むか・・ では後を頼む。」

 

と言って司令官室へと向かったのだった。

睦は先に艦橋を出て自室へと戻っていた。

何かあれば連絡を寄こしてもらうことにして、自室へとやってきた秦は、ほんの数時間でも横になることにしたのだ。

灯りを消してベッドに横になる。

 

(ふぅ。 少しでも休んでおくか・・)

 

そう思ったのだった。

 

 

(そう言えば、手紙は届いたのかな。 さすがにもう届いているだろうな。)

 

手紙。

呉を出て以降、途中に立ち寄ったマニラとダバオから呉に居る鳳翔に宛てて手紙を出していた秦。

当然ながら機密に触れる事は書けなかった。

だから、”今日はいい天気だった””二人の赤ちゃんは元気にしているか”とか”身体に気をつけて”くらいしか書けない。

もっとも、手紙の最後には”愛しているよ”と書いてあった。

読みながら頬が熱くなる感じがした鳳翔だった。

それでも、手紙を書く時点までは、”無事に生きている”証にはなっていた。

受け取った鳳翔も、詳細は書かれていないけれども、無事で居ることだけは分かった。

受け取ったとき、

 

(あの人からの手紙ですか。 フフフ。 初めてですね。 いつもは傍に居ましたからね。 そう思うと寂しいですが・・ さあ、なんて書いてあるのでしょ?)

 

そう言いながら封を切った。

そして読み終えて、

 

(呉のほうは問題ありませんよ。 フフフ。 みんな元気の様でよかったわ。 私も元気、赤ちゃんも元気ですよ、あなた。)

 

と思うのだった。

そして、

 

(私もあなたの事、愛していますよ。)

 

そう思ったのだった。

ただ、返事は書けなかった。 いや、書かなかった。

秦は今、海上を移動中だから。

一応、到着地は聞いてはいるものの、機密事項である為、送れないし、書けないのだ。

 

(はぁ・・ まったく、軍機って面倒くさいわねぇ。 こっちの書きたいことが少しも書けないじゃない・・)

 

そう思っては、執務室から外を眺めながら、秦やこども達の幸運を願う鳳翔だった。

 

 

ベッドで仮眠を摂った秦だったが、ほんの4時間程度だった。

眠い目を擦りながら、艦橋に上がってきた。

席に着くなり大欠伸。

 

「ふわぁあああああああ・・ 眠いなぁ・・」

 

両手で顔を擦りながら、何度も大欠伸をしていた。

 

「もう。 そんなんじゃ、先が思いやられるよ。 シャキッとしにゃさい!」

 

既に起きてきていた睦に叱られる秦。

 

「そうは言ってもなぁ・・」

 

愚痴る秦だが、そこへ、

 

「はい。 眠気覚ましのコーヒー。」

 

とコーヒーの入ったカップを差し出してきた。

湯気が出てて、熱そうだった。

 

「おお。 ありがと。」

 

コーヒーを一口飲んで、

 

”うっ”

 

と声を挙げて、しかめっ面になった。

 

「これ、結構濃いんだけど。」

 

「当たり前じゃん。 だから、眠気覚ましって言ったじゃない。」

 

飲み終えて、

 

「ああぁぁ。 目が冴えるわ、こりゃ。」

 

と。

 

「そう言う睦は、休めたのかい?」

 

「うん。 休養バッチリ! とはいかないけど、十分に休めたよ。」

 

「そうか。 そりゃ良かったな。」

 

と顔を見合わせて笑う二人であった。

そして、いよいよ始まるのだ・・

 

 

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