まずは、対潜駆逐艦隊の本領が!
無事に戦いを終えることができるのか?
闇夜を進む艦隊。
そこへ再び報告が、警報と共に来た。
”哨戒機より報告! 艦隊正面5000に潜水艦の反応あり!”
「なに! そんな近くでか! 詳細は?」
さらに追加で報告が来た。
「磁気探知機の反応では、水深100から150、浮上の様子は認められないとのこと!」
浮上する様子はない、とのことだったが、秦はそれは無いだろうと思った。
「5000しか離れていない・・ まさに魚雷を撃つ最適距離なのに、浮上もしないとは・・」
「なんだろう、父さん?」
追加で報告が来た。
”あと4500で敵潜水艦上を通過!”
”敵潜水艦、動きなし!”
秦は、しばらく考えていたが、次の報告で考えが纏まるのだった。
”哨戒機3番機より報告! 艦隊前方11時の方向、距離20000に潜水艦を探知!”
さらに、
”2番機より報告! 艦隊2時方向、距離21000にも潜水艦を探知!”
との報告だ。
(という事は・・ この配置は・・ ん、間違いないだろう・・)
「睦! 全艦に戦闘態勢に入るよう伝達だ。」
「え? それって・・」
「恐らく待ち伏せだ。 それも複数のな。 ・・たぶん、潜水艦による艦隊飽和攻撃だろう。」
「ヤバいじゃん!」
「ああ。 ヤバい。 めちゃくちゃヤバい状況だ。」
「でも、どうすんの? 作戦開始時刻までまで2時間ちょっとあるよ?」
「止むを得ん。 こっちがやられるわけにはいかないから、作戦開始時刻前だけど、戦闘を開始する!」
と語気を強める秦。
「いいの?」
「ああ、構わない。 俺が全責任を持つ!」
秦の一言で一気に艦橋内が緊張する。
”あと3000で敵潜水艦上を通過!”
との報告のあと、秦が命令する。 前方を見つめて。
「全艦に下令。 第一対潜駆逐艦隊、全艦直ちに戦闘配備。 全艦、砲撃・雷撃戦よぉぉい! 輸送船団は後方へ退避!」
それを聞いた睦が復唱する。
「了解! 艦隊全艦に達する! 全艦、砲撃・雷撃戦用意! 戦闘配備につけ! 輸送船団は後方へ退避!」
旗艦空母・鳳翔から各艦に向けて発光信号が送られた。
同時に艦内に警報音が鳴り響いた。
各艦は信号の受信後、返信をしてきた。
”各艦より返信。 了解とのこと!”
そして後方へ退避する輸送船団からは、
”健闘を祈る”
と信号が送られて来た。
”まもなく敵潜水艦上を通過!”
「航空隊に下令。 全機対潜攻撃装備、装備完了次第、発艦せよ!」
「了解! 全機、対潜攻撃装備、急げ!」
「上空の哨戒機4番機には、通過後の敵潜水艦を攻撃するよう指示を。」
「了解。 艦隊上空を旋回中の哨戒機4番機に敵潜水艦を攻撃するよう指示をするね!」
”敵潜水艦上を通過しました!”
「よし! 現時刻をもって無線封止を解除! 横須賀、呉の司令艦隊に向けて”我、敵ト遭遇セリ。コレヨリ戦闘ヲ開始スル”と発信せよ!」
「り、了解! 全艦に発信! 現時刻をもって無線封止解除! 続けて司令艦隊に向けて戦闘開始を通告!」
「哨戒機4番機に、艦隊との距離1000で攻撃開始を下令!」
水深150で艦隊の通過を待っていた潜水艦が動き出した。
通過するのと同時に浮上を始めていたのだった。
”敵潜水艦、浮上を開始の模様!”
「第一対潜駆逐艦隊全艦に下令。 艦隊取り舵。 単縦陣に移行。 対潜攻撃用意!」
艦隊は左に舵を切った。
その動きは、通過した潜水艦を無視したかの様に。
潜水艦は、シメシメと思ったかもしれない。
潜望鏡深度まで浮上し、味方に通信を送ろうとした瞬間、対潜哨戒機の攻撃を受けたのだ。
”敵潜水艦の浮上を確認! これより攻撃する! 対潜爆弾、投下!!”
4番機は低空にて翼下に抱えていた対潜爆弾2発を目標に向けて投下した。
ヒュルル・・ と短く風切り音をさせながら落ちていく爆弾。
爆弾2発は、潜水艦の潜望鏡付近に命中した。
爆炎が水しぶきと共に上がった。
”よし、セイル付近に命中!”
敵潜水艦はセイルに穴が開いてしまっていた。
爆発の影響で右に傾き、浸水して来ていた。
4番機は翼下に抱える残り2発の対潜爆弾も投下した。
その爆弾も潜水艦の船体にまで到達し、爆発した。
すぐに浮上を掛けなかったために、破孔から浸水し水没していく。
艦尾を上にして沈んでいく潜水艦・・
完全に水没すると、
”こちら4番機。 敵潜水艦を撃沈す!”
と通信を送ったのだった。
◇
一方、秋吉率いる横須賀隊の司令艦隊では、
「なに? 楠木から通信だと? まだ無線封止の時間のハズだろ? 作戦開始まで2時間か。 早いではないか! どういう事だ、赤城?」
と秋吉が驚きながら声を荒げていた。
「落ち着いてください提督。 楠木提督の艦隊が敵に発見されたようです。 でなければ、楠木提督は勝手なことはしませんよ? 通信にもあるように・・」
「とは言え、あと2時間じゃないか。 我慢しきれんかったか。」
秋吉は、(焦ったな、楠木)と思ったが、続く報告で理解した。
「提督。 楠木提督の旗艦・鳳翔からの続報では、今から1時間ほど前に敵潜水艦1隻探知、10分前にはさらに待ち伏せの6隻を探知。 敵陣形が整う前に攻撃を開始したと。」
「なに? 待ち伏せで7隻だと? 密度の濃い待ち伏せ、だな・・。」
「恐らくそう判断されたのだと思いますよ?」
「そうか・・」
そう呟いた秋吉だったが。
「赤城よ。 こうなっては、準備を早めた方がいいと思うんだが・・」
「はい。 その方がよろしいかと思います。 航空隊からすれば船の1時間、2時間の距離はほとんど誤差ですしね。」
「分かった。」
そう返事をした時だった。
「大湊司令艦隊より暗号電を受信。 内容は”ワレ、コレヨリ攻撃隊発艦ス”です!」
と暗号電を受信したのだった。
「大湊はもう動いたか・・ では、我らも動こう。 赤城?」
「はい。 横須賀艦隊、無線封止解除し、第一次攻撃隊の発艦準備に入ります。 既に対艦装備をさせていますので10分もあれば。」
「よし、やってくれ。」
「達する! 司令艦隊全艦、無線封止解除! 第一次攻撃隊、発艦準備! 前衛艦隊にも攻撃態勢を下令!」
秦からの通信が合図となって、各艦隊が動き出したのだった。
「赤城よ。 米戦略空軍へ暗号電文を送ってくれ。 時刻を早める、とな。 1時間は早まるがな。」
「了解しました。」
横須賀隊の赤城、加賀、大湊隊の翔鶴、瑞鶴、呉隊の飛龍、蒼龍を始め、大鳳、雲竜、葛城、信濃ら大型空母から攻撃隊が発艦していった。
同時に、第一次の高高度爆撃を行うべく、米戦略空軍も時間を早めるため、速度を上げてナウルへと進路を取った。
◇
「父さん、艦隊の舵を切って大丈夫なの?」
「ああ。 奴らの目的は、間違いなく飽和攻撃だよ。 だから、各潜水艦の火点に我々が入らなければ前後左右から魚雷を食らうことは無いよ。」
「それって、包囲されてるってことだよね?」
「まぁ、そうとも言うな。 だから、逆半円形に並んでるんだよ、奴らは。」
探知した潜水艦は、確かに秦の艦隊を包囲する形でいた。
艦隊は左に舵を切っており、敵の最右翼の潜水艦に向かっていた。
「もうすぐ潜水艦の上に来る。 包囲網の反対側、左翼方面は航空隊に攻撃してもらう。 同時にね。」
「そうなんだ。 だからか・・」
「ああ。 同時に両翼から沈めていく。 奴らも動揺するぞぉ。」
秦はそう言って、ケケケと笑った。
「もう。 その笑い方は朝霜ちゃんそっくりじゃない・・・」
「そ、そうかぁ。 やっぱり、親子なんだよ、うん。」
「そ、それはそうかもしんないけど・・」
”まもなく、敵最右翼潜水艦の上を通過します!”
その報告で一気に顔が引き締まった。
「よし、皐月、卯月、弥生、朝霜に、攻撃開始を命令! 上空の航空隊にも各個に攻撃開始を指示!」
「了解! 全艦、全機に達する。 攻撃開始せよ!」
皐月、卯月がやや右に舵を切って、増速。
弥生、朝霜はやや左に舵を切った。
「弥生、攻撃開始する!」
「あたいも行くよー!」
弥生、朝霜の2隻は敵最右翼の潜水艦へ爆雷攻撃を開始した。
「うーちゃんの攻撃ぃ!」
「あ! 卯月ちゃん、早いよ! ボクも攻撃開始!」
皐月、卯月は2番艦へと向かい、ほぼ同時に爆雷攻撃を開始した。
攻撃開始と同時に爆雷による撃沈がでた。
深度調整がうまくいったようで、2発の爆雷で一隻の潜水艦の船体が破れてしまった。
そこへ更なる爆雷が落ちてきて、破れた船体の傷口を広げていった。
瞬く間に船体が折れ、大量の泡と油を吐きながら沈んでいった。
海面では泡と油が大量に浮いてきた。
それを見た哨戒機から、
”卯月、皐月の爆雷攻撃で、敵潜水艦撃沈と認む。”
と報告がきたのだった。
「よし、まず一隻。」
その報告を受けたとき、弥生、朝霜の爆雷攻撃で潜水艦を撃破したようだった。
「こちら朝霜、敵潜水艦1隻の撃破を確認だよ!」
「よくやった。 これで2隻。」
次々と戦果の報告がきた。
「こちら皐月。 敵潜水艦を爆雷攻撃にて撃沈せり!」
「あーん、うーちゃんも頑張ったのぉ!」
「あー、はいはい。 共同戦果ってやつね!」
「よし、よくやった!」
「うん! 卯月ちゃん、次、行くよー!!」
皐月と卯月のコンビは次の攻撃に移っていった。
◇
敵左翼側では、対潜哨戒機による攻撃が始まっていた。
”敵潜水艦、位置判明、深度20、潜望鏡深度。 これより攻撃する! 投下魚雷、用意っ!”
と機長が指示を出した。
後席の助手が操作卓を操作して応える。
”右翼投下魚雷、投下用意、調整深度10! 準備宜し! 投下、いつでもどうぞ!!”
攻撃準備完了である。
”敵潜水艦まで距離300・・、右翼投下魚雷・・投下ぁ!!”
機長が投下スイッチを押した。
右翼に吊り下げていた投下魚雷が機体から放たれ、海へと落ちていった。
着水すると調整された深度まで潜行し、潜水艦へと航跡を残してまっすぐに向かっていく。
潜水艦は、投下された魚雷を探知した。
魚雷は高速度で目標に向かって進む。
その速度は40ノット以上。
潜水艦は、急加速、急潜行をしようとするが、距離が近すぎたのだ。
加速や潜行も無駄となった。
見事に魚雷は潜水艦を捉え、爆発したのだった。
魚雷は、炸薬量は少なかったが、爆発力は大きい高性能な炸薬が使われており、一発でも船体に穴をあけることぐらい簡単だった。
潜水艦は浮上できず、そのまま沈んでいった。
海面に大量の気泡を残して。
”敵潜水艦、撃沈と認む!”
海面の様子を見て機長が旗艦に報告した。
その報告と同時に、左翼2番艦の撃沈の報告も入ってきた。
”敵、左翼2番艦の撃沈を確認!”
「上出来だ。 これで4隻。 残り2隻だ。 気を抜くなよ!」
と緩みかけた気を引き締める秦だった。
◇
引き続き、上空からの攻撃が続いていた。
しかし、
”海中の騒音の為、一隻失探! ロストしました!”
と報告が来た。
「なにぃ? 見失った、だと!」
「そうみたい。 こんだけ雑音だらけじゃ無理だよ、父さん。」
秦の言葉に反応する睦だ。
”現在、哨戒機7番機が索敵中!”
との追加報告。
海図台に、各艦の移動経路と位置が記されていたが、そこには敵潜水艦の記載もあったのだ。
その海図台を見ながら、
「敵に、積極的な意思があったら・・ ヤバいかも・・」
と小声でつぶやいた。
「え? 何がヤバいの?」
睦が聞き返す。
そのうち、対潜哨戒機による攻撃で一隻を撃沈した、と報告がきた。
「ふぅ。 あと一隻ね!」
そう睦が呟いた直後だった。
”敵潜水艦を探知! 方位・・ あ!”
「どうした!!」
”敵潜水艦より魚雷発射! 雷数四! 旗艦に向かう!! 距離2500!!”
報告は7番機からだった。
”旗艦へ。 左舷に衝突コース! 雷速40ノット!!”
「は、速い!」
そう叫んだのは睦だった。
「やはり、か。 睦、機関最大出力、最大戦速! 舵そのまま!! 急げ!!」
秦が顔を上げて叫んだ。
「りょ、了解! 機関最大出力、最大戦速!!」
空母・鳳翔の機関が唸りを挙げて出力を増す。
スクリューが回転速度を増して後ろへの白波が大きくなった。
魚雷のコースから外れようとしたのだが・・
如何せん、距離が無さ過ぎた。
”距離2000!!”
「左舷、対魚雷爆雷、用意! 各砲四連射!」
空母・鳳翔の両舷に計8門の対魚雷爆雷投射機がある。
要は、アクティブアーマーだ。
魚雷の目の前で爆雷を爆発させ、水圧の壁を作るのだ。
その壁で、魚雷を破壊、もしくはコースを外させるのだ。
”爆雷投射機、準備よろし! 魚雷コースを知らせ!!”
”敵魚雷、本艦左舷10時方向、距離1600、雷数四、深度7から8。”
”了解、左舷10時方向、雷数四、深度7から8・・ 左舷各砲、調整深度8、通常散布界! 距離400で発射する!!”
爆雷調整の指示が飛ぶ。
その間も魚雷は近づく。
”距離1000! 衝突します! ・・さらに接近! 800!”
「被害対策班、ようーい! 全員衝撃に備えよ!」
”距離600、 500、 400!”
”爆雷投射機、発射!!”
各砲から爆雷が放たれていく。
艦の左舷いっぱいに広がって。
着水すると魚雷に向かって走り、魚雷の目の前で爆発した。
ほぼ同時に16発の爆雷が左舷の海面一面で爆発し、水柱があがった。
空母・鳳翔の甲板よりも高く水柱があがった。
水柱が落ち始めると、爆雷の結果が分かるようになる。
”爆雷爆発!”
「魚雷は!」
睦が叫ぶ!
だが、残念な報告が来てしまった。
”! 爆発を抜けた! 雷数1!!”
爆発の壁を抜けた魚雷が1本あった。
しかし、距離が無さすぎの為、あっという間に命中した。
ドォォーーン!
左舷やや中央前方寄りに、敵魚雷があたったのだ。
船体が揺れる!
「うわぁああ!」「きゃああああ。」
「ど、どこだ! 被害知らせ!」
秦が報告を求めた。
暫くして、
”左舷水密区画に命中! 不発の様です! ですが、浸水発生!”
魚雷は不発だったようだ。
「水防、急げ!!」
「被害対策班、どうか?」
”こちら、左舷被害対策班。 命中箇所は左舷16番水密区画です。 装甲板に亀裂あり、浸水しています。 外壁の為浸水対策が取れません。 そのため、16番水密区画を閉鎖します!”
どうやら、一区画は水没したようだが、閉鎖したため、それ以上の浸水は無いようだった。
「どうだ睦? 被害の影響はあるか?」
「うん、大丈夫みたい。 ただ、左にわずかだけど傾斜気味だよ。 でも、艦載機の発着艦に支障なし、だよ!」
「そうか。 良かった。 睦、念のため右舷15番区画に注水だ。」
「うん、分かった。」
現時点において、感じるか感じないかくらいの傾斜だが、航行に支障は無かったが、秦は右側の水密区画一つに注水するよう指示を出した。
注水によって、左右のバランスをとったのだ。
”右15番水密区画、閉鎖確認。 注水完了。”
と報告が来た。
それによって、
「艦の水平が戻りました!」
との報告だ。
敵潜水艦からの第二次の魚雷攻撃は無かった。
空母・鳳翔が回避している間に、哨戒機7番機が敵潜水艦を攻撃したのだ。
対潜爆弾を投下し、撃沈させていたのだった。
これで、探知した七隻全艦を沈めたことになったが、
「周囲の警戒を怠るな! 全艦、巡航速度に戻し、探知続行せよ!」
と指示を出した。
「了解! 全機全艦に達する! 対潜警戒を現状のまま維持!」
まだまだ警戒を緩めることはできなかった。
何しろ、海の中を完全に把握は出来ないから、過敏にならざるを得ないのだ。
見えない海中からいきなり魚雷を喰らいたくもなかったから。
最後の撃沈より数分が経過した時だった。
「もう、大丈夫かな?」
「さあ、どうかな。 戦闘は始まったばっかりだしな。 それに・・ 遠くから聞こえるだろ?」
秦がそう言ったのは、タイミングがずれてしまったが、ようやく第一次の高高度爆撃が始まったところだった。