秦の艦隊はどうなるのか・・
島まではおよそ80キロまで接近している。
島の方角を見ると、遠く水平線の向こうに黒い雨が降っているように見えていた。
「父さん、爆撃が始まったみたいだよ?」
「どれどれ?」
双眼鏡を覗くとはるか遠くで黒い煙が多数上がっているのが見えていた。
暫くすると、爆発音が小さく聞こえてきた。
第一次の高高度爆撃の炸裂音のようだった。
一回ではない。
数十秒間にわたって聞こえてきたのだった。
”爆撃音、未だ続いています。”
「ようやく始まったか。」
当初予定より30分以上早まったが、どうにか第一次の高高度爆撃が始まった。
投下される爆弾は、親子爆弾だった。
中には滑走路破壊爆弾が含まれていた。
その効果は・・ 残念ながら、効果のほどは期待するしかなかった。
島まで80キロを切って、他方面の味方艦隊の通信がわずかに入るようになった。
”無線室より報告。 味方の艦隊からと思しき通信が入っています。 いますが・・”
「どうした?」
”はい、通信が途切れ途切れで、内容がはっきりしません。”
「どう言う事?」
”恐らくは、妨害電波を受けているのではないか、と思われます。”
「妨害電波、か・・ ま、妥当な判断かな。 その後はどうか?」
”爆撃が行われてから、通信状況が悪いながらも少しづつ入電しています。”
「内容は、分かる?」
”はい。 横須賀司令艦隊からですが、空母・赤城が被弾、戦艦・霧島も被弾の模様です。 その他の艦も含め、被害状況は不明です。”
「赤城が被弾? 秋吉提督は無事なのか? 分かるか?」
”いえ、分かりません。 こちらから発信しますか?”
「いや、それはやめておこう。 他の司令艦隊の状況は分かるか?」
”断片的に入電していますが、言葉になっていないので、判別不能です。”
「そうか・・ 分かったら知らせてくれ。」
”了解しました。”
「どうなの、父さん?」
「んん、状況はよく分からんなぁ。 ただ、突入作戦は行われているようだな。 霧島の被弾は分かるが、赤城までとは、な・・」
「爆撃で撃破出来なかった空母でもいたんじゃない?」
「そうかもしれんな・・。」
海図を見ながら腕を組んだままの秦だった。
こちらの空母群は、第二線まで下がらないと到達しない距離に配置したはずだったから、赤城が被弾した、と言うのは俄かに理解しがたいことだった。
そして、
「睦、司令艦隊方向へ偵察機を飛ばしてくれるかい?」
「え、偵察機を?」
「ああ。 確か補用で何機か積んであったろ?」
「うん。 あるよ。 じゃ、準備させる?」
「頼む。 敵空母がいるんじゃ、こっちもそのつもりをしないとな。」
「了解。 偵察機、発艦準備、急げ!」
空母・鳳翔には、艦上戦闘機、対潜哨戒機以外に、補用で偵察機が積まれていた。
たった2機だったが、こいつを使うことにしたのだった。
対潜哨戒機よりも速度がでて、烈風より航続距離が長いのが特徴だった。
「電探室、水上、上空とも警戒を厳に。 見張りも厳に。」
偵察機を準備させながら、電探による索敵も厳重にした。
「父さん、電探の障害は、もうないね。 妨害電波は出てないみたいだよ?」
「そうか。 敵基地への攻撃は、上手くいったようだな。」
時間的に見て、既に艦隊突入が行われている頃合いだった。
”こちら無線室。 先ほどから他の艦隊からの通信を傍受していますが、通信量が多すぎて、判別できないくらいです!”
「艦隊突入が上手くいけばいいんだがな・・。」
飛行甲板上では、偵察機2機の準備が整いつつあった。
「偵察機、発艦準備完了したよ!」
「よし、やってくれ!」
”偵察機、発艦始め!”
轟音を響かせながら飛び立っていく2機の偵察機。
高度を上げて司令艦隊方面へと飛んでいった。
この間に各艦の残弾確認をしようと思った秦。
「各艦の残弾を確認してくれる?」
「残弾だね。 了解。 各艦に告ぐ、残弾の確認をし報告せよ。」
すぐに報告が来た。
「こちら皐月。 主砲弾、機銃弾の残りは9割、爆雷は残り12発。 魚雷は全弾あるよ。」
「うーちゃんも主砲弾、機銃弾の残は9割、爆雷は残り15発。 魚雷は全弾残ってる。」
「弥生だよ。 爆雷は残り15発。 機銃弾は残り8割ほど。 主砲弾は9割、魚雷は全弾残ってる。」
「あたいも同じく、爆雷残り12発。 主砲弾、機銃弾は残り8割ほどだよ! 魚雷は全弾残ってるよ。」
「そうか。 爆雷はあと1回戦分くらいか。 あとは大丈夫そうだな。 睦、空母・鳳翔は?」
「うん、機銃弾はまだ9割、対魚雷爆雷も8割、主砲弾は全弾あるよ。 航空燃料、航空魚雷、爆弾はまだ半分以上残ってる。」
「よし、十分だ。 睦、念のため、輸送艦隊に現在位置を暗号にて知らせておいてくれ。」
「いざという時のためだね? オッケーだよ!」
◇
艦隊は島まで100から80キロ付近を遊弋していた。
この瞬間だけは、戦闘もなく、静かだった。
受信する通信量だけは多かったが。
時には50キロあたりまで近づいたりするのだが、偵察機から報告が来た。
”艦隊北東方向20キロ付近に、敵艦隊を視認! 艦数5。 水雷艦隊と思われますが、わが艦隊方面へ航行中! 速度・・は、速い! 25ノット以上!”
「何ぃ、水雷艦隊だって?」
「そうらしいよ。 各艦の電探にも捉えてるよ。」
「敵ならば、戦って撃滅するしかないな。 皐月、卯月、弥生、朝霜。 やれるか?」
「え? いいの? うーちゃんたちだけでいいの?」
「あぁ。 周辺に大型艦や空母はいない様だから、ここは水雷でやろう。」
「「オッケーだよ!」」
何故か、顔が笑っているような・・
何か楽しみなような・・
「じゃ、先頭はアタイだね。 行くよ! 皐月ちゃん、卯月ちゃん、弥生ちゃん!! 進路変針、増速、黒5! 単縦陣へ。」
「睦。 朝霜たちの上空援護を頼む。」
「了解。 甲板で待機中の第4飛行隊に朝霜ちゃんたちの直掩をさせるね!」
「了解だ。」
「第4飛行隊に告ぐ! 直ちに、水雷艦隊の直掩に付け! 発艦始めぇ!」
甲板上で待機していた飛行隊のエンジンが廻りだした。
”甲板上、クリア! 滑走開始!”
との合図のあと、轟音を響かせて空へと飛び立っていった。
「全機発艦したな。 よし、空母・鳳翔は現海域で取り舵。 待機行動に入る。」
空母・鳳翔は、水雷艦隊と離れて単艦で待機行動に入った。
援護するのは直掩の烈風と対潜哨戒機の4飛行隊分だった。
「敵水雷艦隊は、正面より接近。 距離18000! 行くぞー! 皆、砲撃・雷撃戦用意! 敵の目前で取り舵。 同時に魚雷攻撃に入る!」
朝霜を先頭にした水雷艦隊は、第3戦速で敵艦隊に近づく。
各艦の12.7センチ主砲には砲弾が装填されていた。
機銃の装弾も完了し、魚雷も準備万端となっていた。
距離16000になった時、敵の先頭艦からの発砲を確認した。
”敵先頭艦、発砲! 敵は軽巡1、駆逐4!”
報告してきたのは上空の対潜哨戒機だった。
偵察機から交代して敵艦隊の監視を上空からしていたのだ。
”だんちゃーく!”
弥生の遥か後方に水柱が2本立ち上がった。
「うひゃーー!ってなんてね!」
かなり遠弾だった。
「距離15000、砲撃開始!」
朝霜の1番砲が火を噴いた。
そしてすぐに第2射を放った。
弾着修正もしないうちに、だ。
”第1射、遠弾! 修正-2!”
弾着修正をした第3、4射が放たれた。
その間に敵艦からの砲弾が適当な方角で水柱があがっていた。
敵先頭艦に爆炎が上がったのが見えた。
”第3射、命中! 続けて砲撃!”
第4射も命中する。 艦橋に、前部砲塔に、見事に。
「敵先頭艦に命中。 先頭艦、速度低下、面舵を切っています。 落伍します。」
とは見張妖精からの報告だった。
「よっし! 続けて2番艦へ照準切替え! 後部砲塔、旋回ギリギリで落伍した先頭艦を狙って!」
1番砲は2番艦へ照準を変えて砲撃を加えた。
後部砲塔は、旋回範囲ギリギリで何とか狙えたので、止めに掛かった。
先頭艦は既に被弾多数、しかも搭載魚雷に誘爆して上部構造が大破していた。
距離が12000になろうとしたとき、
「皆、距離10000で面舵を切るよ! 左舷魚雷戦用意だよ!」
と朝霜から各艦へ伝達された。
「よっし、ボクたちも砲撃開始!」
朝霜の後ろに続く皐月、卯月、弥生からも、前にいる艦の上を通り越す射撃を行ったのだった。
「艦隊、第四戦速だよ!」
と朝霜の指示が飛びながら、
「前の艦に当てないでね!」
「同士うちは御免だよ!」
と互いに注意し合う。
「うひゃー、後ろから飛び越えていく砲弾って怖いねぇ!!」
飛び越えていく砲弾は敵2番艦に吸い込まれていくようだった。
瞬く間に2番艦が火だるまになった。
そして2番艦も速度が落ちていった。
「もう、火だるまじゃん・・ それじゃ、あたいは3番艦だ!」
各艦から砲撃を行いつつも、魚雷戦の用意がされていく。
「左舷の魚雷戦用意! 距離10000、発射角左90度! 射出開度1.5! 雷速最大40、深度調整7! 各艦、雷数2!」
「こちら皐月、魚雷戦用意よし!」
「こちら弥生、同じく用意よし!」
「あーん、うーちゃんも完了! いつでもいいよ!」
あっという間に敵艦隊との距離が縮まって、10000になろうとしていた。
敵艦隊からの砲撃は、徐々に近づきつつあった。
こちらからの砲撃も続いていた。
!!
水柱が朝霜の目の前で立ち上がった!
「やばっ! そろそろ行くよ! いい、みんな??」
距離10000!
だが、朝霜は動かなかった。
!
「朝霜ちゃん! 10000を切ったよ?」
「まだまだ、行ける!!」
(行ける、ハズだよ・・・)
更に直進する。
距離9500!
「え? 朝霜ちゃん、まだぴょん??」
「まだまだ!」
(そう、まだ早いよ!)
敵も未だに直進してくるのだ。
「もう! これじゃ、チキンレースじゃない!」
と嘆くのは皐月だ。
更に、
「と、とにかく、再計算! 急いで!!」
指示を出した。
距離9000!
(まだか! もう・・・)
双方は単縦陣なため、真っ先にぶつかるのは朝霜だ。
その朝霜が動かない。
何かを待っているみたいに。
「あ! こちら見張台! 敵艦が右舵を切ります! 距離8500!!」
「よし! 今だよ! 艦隊右舷回頭! 右16点一斉回頭!! 各艦魚雷用意!」
「右舷一斉回頭! 魚雷左85度、距離8500、開度0.5、雷速40、深度調整7! 雷数2! 急げ!!」
朝霜を先頭に艦隊が右回頭する。
そして、回頭が終わった朝霜から順に魚雷を発射する。
敵艦隊を左に見た直後、
「魚雷設定よし! あたいから行くよ! 魚雷、2線発射!!」
朝霜の魚雷発射管から2本の魚雷が射出された。
続く皐月が回頭に入った。
「ボクも回頭! 左魚雷戦、用意! ・・・てーーっ!!」
卯月、弥生と続けて回頭を行い、それぞれ回頭直後、左舷に敵艦隊を見たとき、魚雷を発射した。
「うーちゃん、魚雷撃つぴょん! てー!」
「弥生、撃つ! 撃て!」
四艦で8本の魚雷が敵艦隊に向かっていく。
四艦は敵艦隊と反航する形となった。
その間も、各艦から主砲を撃っていた。
皐月は、
「各砲、目標は4番艦だよ!」
と言い、弥生は、
「目標、殿艦! 撃て!」
と。
距離8500は主砲弾で十分に届く距離だ。
相手の砲撃は至近弾多数、命中弾は少なかった。
「左舷、機銃座付近に命中弾! 発煙!」
「消火、急げ! 1番砲、休まないで砲撃続行!」
と朝霜が先頭にいるだけ、被害は大きかった。
こちらの砲撃は、ほぼ全てが命中するほど精度は高かった。
命中するたびに火炎と爆炎があがっていた。
敵3番艦、4番艦、5番艦と上部構造物に被害が拡がっていた。
もう、命中弾多数のため、火災はおさまりそうになかった。
そこへ四艦計8発の魚雷が到達した。
主砲弾の着弾ではない、高い水柱が計6つ上がった。
3番艦に2つ、4番艦に2つ、5番艦に2つの計6つだった。
”魚雷の命中を確認! 3艦に6本! 2本は外れました!”
「「やったね!」」
艦が持ち上がったかと思うと、爆発の炎と水柱が同時に上がり、艦が引き裂かれていた。
駆逐艦クラス1隻に2本の魚雷は、致命傷だった。
3隻は、あっっと言う間に真っ二つに折れて沈んでいった。
残り2隻も主砲砲撃で、ゆっくりと沈むところだった。
「砲撃止め! 旗艦に連絡。 ”ワレ敵艦隊を撃沈ス”!」
「もういいでしょ。 旗艦と合流するよ! 速度第三戦速へ。」
その連絡を受けた秦は、
「よし! ご苦労さん! よくやった!」
と褒めるのだった。
「へへ。 頑張ってるでしょ! もっと褒めて褒めて!」
「そうぴょん。 もっと褒めるぴょん!」
「もう。 皆浮かれ過ぎだよ?」
「そ、そうだぞ。 まだ終わってないんだぞ。 気を引き締めな!」
そんな会話が交わされるのだった。