幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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被害続出だったが、ようやく終わりが。
無事な者は・・



戦闘(5)-終結・・-

秦が率いる第一対潜駆逐艦隊5艦は・・現在2艦が海上に浮いているだけだった。

その報告を受けたのはすぐの事だった。

 

「水上電探より報告。 前方2000に駆逐艦・朝霜を確認。 それ以外の艦影は、半径20キロ内にはありません。」

 

ん??

何かおかしい、と思った。

艦隊は5隻のハズだが・・

 

「無線室より報告します。 戦闘中に、駆逐艦・卯月、弥生、皐月の通信途絶を確認しました。 卯月は--時、弥生は--時、皐月は--時。 3艦共沈没と思われます。」

 

「「え・・」」

 

卯月、弥生、皐月は・・ 沈没らしい、とのことだ。

秦も、睦も絶句した。

俯き、拳を握りしめた。

椅子のひじ掛けを思いっきり叩いて・・

 

「そんな・・ あいつらが、沈んだ・・」

 

と唇を噛んだ。

隣で聞いていた睦も、

 

「うそ・・ そんな・・ 皐月ちゃんたちが・・」

 

とショックを受けていた。

煤けた顔が、怒りで紅くなる。 が、その頬に涙がつたう。

 

「なんで、ねぇ、なんでよ! 皆あんなに訓練したのに! 父さん! なんで・・」

 

涙が頬を伝って落ちる睦が秦に詰め寄ってきた。

睦が秦の胸を叩く。

秦も、信じられない気持ちだったが、睦と一緒に泣くわけにもいかなかった。

だから・・

 

「まだ、まだ確認したわけじゃない。 だから、まだ希望は・・ 睦・・」

 

そう言って睦を引き寄せて抱きしめるのだった。

その瞬間に、大声で泣き出す睦だった。

だが、泣いてばかりはいられない。

まだ”終わった”訳ではなかったから。

 

「睦、涙を拭いて・・。 すまないが、被害と周囲の確認をしておくれ。 頼む・・」

 

納得していない、分かりたくない、と思ったものの、このままでは何もできないのも確かだ。

涙をぬぐって、

 

「ウン・・ 分かった・・ 確認するよ・・」

 

と応えた睦だった。

 

 

しばらくして、各部署からの報告が、瓦礫が散乱する艦橋内に響く。

 

「水上電探室より報告。 機器状態が悪く、半径20km以上は判明しません。 ただし、20km以内に敵影認めず。 前方2000に駆逐艦・朝霜、後方10000に大型艦1隻を確認、敵味方信号を確認中。」

 

「大型艦が1?」

 

秦は戦闘準備を下令した。

 

「こんな時に。 戦闘態勢! 急げ! 砲撃戦よーい!! 上空の直掩機にも連絡だ!!」

 

慌ただしくも、次の報告が来た。

 

「水測より報告。 半径5000以内に潜水艦を探知せず。」

 

近くに敵の潜水艦は居ないようだった。

それは、それとして良かった。

 

「睦、朝霜へ連絡。 砲撃戦の用意だ。」

 

睦が朝霜へ伝えると、朝霜から返事が来た。

 

「こちら朝霜! 砲撃戦用意よし! ただし、魚雷の残数はゼロ!」

 

そうだった。

駆逐艦・朝霜は魚雷を撃ちつくしてしまっていたのだった。

予備魚雷もない。

秦は、”これはヤバい・・”と思った。

だが、次の報告が来る。

 

「敵味方信号を確認しましたぁ。 大型艦は、戦艦・榛名です。 現在、こちらに向けて接近中の模様。」

 

「戦艦・榛名より、信号。 内容は・・”ソチラニムカウ”です。」

 

その報告で、一瞬にして気が抜けた。

 

「ハァーーーー・・ 榛名か。 良かった・・ 生き残っていたか。」

 

「睦、戦闘態勢を解除だ。 朝霜と榛名にこちらへ来るよう、伝達してくれるかい?」

 

「オッケー! 伝えるね。」

 

睦が連絡すると、二艦から返答がきた。

 

「朝霜より、しれーかんへ。 そちらに接舷するね。」

 

「榛名より、提督へ。 了解しました。」

 

朝霜と榛名が、共に生き残った。

ああ、生き残ったんだ、と改めて思う秦だった。

ただ・・ 喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら・・

この時点で空母・鳳翔は微速で進んでいる状態だった。

座り込んだままだった秦が、ようやく立ち上がり、司令官席に座りなおしたとき、空母・鳳翔の左舷に駆逐艦・朝霜が近づいてきた。

軽い衝撃の後、舫が渡されていく。

続いて、高速戦艦・榛名が右舷に近づいてきた。

朝霜よりも大きな衝撃の後、榛名との間に舫が渡されていく。

しばらくして、艦橋に朝霜と榛名がやってきた。

朝霜の服は、一部に焼け、千切れていた。

顔も煤け、頬に絆創膏を張り付けていた。

榛名も、振袖が千切れて短くなっているし、足や腕は、ぶつけたのだろうか、あざがいくつもあった。

髪も埃をかぶっているかのように、一部が白く見えていた。

二人して司令官たる秦に報告する。

 

「駆逐艦・朝霜、無事、生き残ったよ! フネは、ボロボロだけどね。 ヘヘヘ。」

 

泣き笑い顔で言う。

 

「提督、戦艦・榛名、生き残りました。 ご無事で何よりです!」

 

敬礼して報告する二人。

それを聞く秦だったが・・ 終わると同時に、

 

「よく、生き残った!」

 

そう言って、両手を広げて朝霜と榛名の二人を抱きしめた。

力強く抱きしめるのだった。

 

「きゃっ」「わっ」

 

と悲鳴が上がる。

秦の目からは、涙が零れ落ちていた。

 

「て、提督、ご報告がまだあります。」

 

「えっ、まだ?」

 

「はい。 この海域に至る途中で、艦娘・皐月、卯月、弥生の三名を救助しました。 命に別状はありませんが、弥生ちゃんは意識不明です。」

 

「え? 三人が救助されてる? ほんとか!」

 

「はい。 ほんとの偶然なんですけど・・ わっ」

 

秦は改めて榛名を抱きしめた。

 

「そうか! 無事だったのか。 ありがとう、榛名! ありがとう!!」

 

抱きしめられた榛名の顔は、煤けてはいたが、赤くなっていた。

 

「朝霜ちゃん、お帰り! はるちゃんも!」

 

「睦ちゃんもお疲れだね! 旗艦の役目、ご苦労様だね!」

 

お互いを労った。

その後、秦たち全員は、榛名の医務室へとやってきた。

そこで治療を受けている、皐月、卯月、弥生を見舞うために。

秦たちが医務室に入り、皐月と卯月を見つけると・・

 

「皐月、卯月! 無事か? よく生き残ったぞ。」

 

そう言って、また、涙を流していた。

皐月が口を開いた。

 

「父さん、ボク・・ ボクたちは、勝ったの?」

 

「どうやら、そうらしい。 戦いは終わったみたいだ。」

 

「そうなの・・」

 

ホッと安堵したのか、疲れが出たのかはわからないが、次第に表情が崩れてきた。

その目に光るものが出てきていたが・・

 

「わぁーん、うーちゃんも頑張ったぴょんー。 でも、でも、艦が沈んじゃったーーー」

 

と卯月が泣き叫ぶほうが早かった。

そう叫んで秦に抱き着いてきた。

抱きとめた秦が卯月の頭を撫でていた。

 

「そうかそうか。 でも、よく生き残ってくれたね。」

 

そう言って、

 

「皐月も、おいで。」

 

と誘う。

皐月も、頭に包帯を巻いた状態で秦にすり寄ってきた。

 

「へへへ。」

 

と泣き笑いながら。

抱き寄せたまま弥生の眠るベッド傍へと進んだ。

 

「弥生、弥生・・」

 

弥生は目を覚まさない。

でも、息はしているようだった。

 

「まだ、起きませんか?」

 

と榛名が聞いてきたが、

 

「ああ。 まだのようだ。 でも、生きている。 それだけでも嬉しいことだよ。」

 

そう言って弥生の手を取って握る秦だった。

 

 

三隻が寄り添ってから暫く。

回復した空母・鳳翔の通信機器が、軍令部臨時司令部からの通信を受信した。

それは、横須賀隊の司令艦隊に併設されていた、軍令部の臨時組織からだった。

つまりは、横須賀司令艦隊の司令部は健在、ってことだった。

内容は”今次作戦ハ成功セリ 作戦ヲ終了スル 全艦帰投セヨ”だった。

 

「ようやく、終わったんだな。」

 

「そうみたいね。 ようやくかぁ。」

 

「やった! 終わったのね!」

 

「みんな、ご苦労様。 全艦に通達しておくれ。 ”終わった”と。 それと、周囲の艦に届くように、全方位に向けて、合流信号を。」

 

「「「了解!」」」

 

三艦の艦内にこの知らせが行きわたった。

と同時に、

 

「睦。 航空隊に通常体制に戻すよう、指示を。」

 

「ウン! 了解。」

 

そのうえで、改めて、通常警戒部隊として直掩隊を発艦させることにした。

 

「格納庫にて待機中の戦闘機隊、哨戒機隊、警戒任務で発艦せよ!」

 

待機中の戦闘機隊は、烈風の4機と対潜哨戒機の4機の計8機だった。

 

「戦闘機隊は対空戦闘装備、対潜哨戒機隊は通常哨戒装備! 急げ!」

 

数分後、準備できた機体が空へと上がっていく。

ただし、停船状態のためにカタパルトを使ったのだが、左カタパルトが破壊されているため、右カタパルトのみだ。

やや時間がかかったが、全8機が飛び立っていった。

艦隊の上空を周回しだしていた。

そして、戦闘態勢継続のまま、空中待機状態だった航空隊に帰還指示を出した。

燃料タンクが空になる寸前の機体もあったが、どうやら無事に帰還できるようだった。

さらに、対空迎撃を受けて、弾痕がいくつもある機体も中にはあった。

ただ、撃墜された機体もあったために、全機帰還とはならなかった。

飛行甲板後方で着艦作業が行われたが、結局のところ、戦闘機隊で4機、対潜哨戒機隊で6機が未帰還となっていた。

損耗率は20%を超えていた。

 

「直掩の機を除いて、全機帰投したよ。 未帰還は10機だよ、父さん。」

 

「そうか・・ そんなに帰ってこなかったか・・」

 

「帰っては来たものの、修理が出来そうにない機体もあるって。」

 

「酷くやられたものだな・・ いや、ご苦労様と伝えておくれ。」

 

そう言うと、秦は、

 

「では、パラオ泊地に帰投する。 朝霜、榛名に通達。 舫を解いて、機関前進!」

 

と。

 

「了解。 舫解け! 進路、パラオに! 全艦、前進微速!」

 

鳳翔、榛名、朝霜が単縦陣でパラオを目指して動き出した。

3艦とも機関部への直撃は無かったものの、速度は12から14ノットが限度だった。

周囲には、敵影もなければ、味方の影もなかった。

艦隊が進む前方には、だだっぴろい水平線があるだけだった。

後方には・・ まっ茶色になった島が一つ、小さく見えていた。

 

 

パラオに向かって進み始めてすぐの事だった。

一本の通信が入った。

それは・・ 戦艦・金剛からの緊急電だった。

それも、”至急、救助を乞う”と。

通信は、同じ文言と位置情報を繰り返していた。

 

「金剛から救助要請だと?」

 

「そうみたい。 至急電になってるよ。」

 

「この位置からすると、ここから100キロほどか・・」

 

すぐに榛名から連絡がきたのだった。

 

「提督! 金剛お姉さまの救助を要請します!! 今なら、今ならまだ間に合います!! ですから!!」

 

「まて、榛名! 落ち着け! 言われなくとも救助する! だから、落ち着くんだ。 いいね?」

 

「・・はい・・」

 

「睦、上空の哨戒機2機をこの位置に向かうよう指示をしてくれる?」

 

「了解だよ! 上空の2機に指示するね!」

 

睦の指示により、艦隊の周囲50キロ付近を哨戒していた哨戒機が目標地点に向けて速度を上げて向かっていった。

 

「よし。 睦。 艦隊、進路変更だ。」

 

「了解。 進路変更、ヨーソロー!」

 

艦隊は金剛の発信情報の位置へと進路を取った。

 

「しれーかんへ。 あたいが先行するよ! いい?」

 

「ああ。 そうしてくれ。 頼む。」

 

「オッケー! じゃあ、出力一杯!」

 

朝霜が艦隊を離れていった。

 

 

金剛と榛名は、姉妹艦の比叡、霧島とともに進攻部隊の一翼を担っていたが、激烈な砲火の応酬のなか、比叡、霧島を失っていった。

自分たちの目の前の戦況がいい方向に進み、損害が出たものの、まだ余裕があった。

そのため、金剛は、榛名に対して随伴する数隻とともに秦の艦隊の支援に向かうよう、指示を出した。

 

「榛名ァ、ここは何とかなりマスから、駆逐艦2隻を伴って、楠木テートクの支援に向かってクダサーイ。」

 

「え? いいのですか? まだ戦闘は続きますけど?」

 

「さっき、電探でこの戦域から楠木テートクの居る方向へ抜けた敵艦を補足したデスネ。 楠木テートクの方は、大型戦闘艦がイマセーン。 だから、支援にいくデース!」

 

「そうなのですか! 分かりました。 榛名は、駆逐艦2隻とともに楠木提督の支援に向かいます!」

 

「楠木テートクによろしくデス!」

 

秦の艦隊の支援に向かう榛名であったが、それでも被害は受けていたのだ。

榛名が離れてしばらくすると

 

「フー。 ようやく静かになりましたカ。」

 

と思った金剛だったが、電探に新たな敵艦を補足した。

敵の艦隊を。

敵の艦数は4隻を認めた。

どうやら戦艦2を含んでいるようだった。

こちらは、戦艦1に駆逐艦2。

駆逐艦は、綾波と敷波だった。

近くに味方艦艇が数隻認められたが、大型艦ではなかった。

主砲の射程に入ったらしく、敵からの発砲を認めた。

数十秒後にあたり一面に着弾して、高い水柱が上がっていた。

金剛も狙いを定めて、主砲を放つ。

砲撃可能な3基で砲撃を始めた。

 

「全門、ファイヤー!」

 

戦艦同士の打ち合いとなったが、金剛の方が練度は高かったようで、敵弾が当たるよりも早く、こちらの主砲弾が先に命中した。

爆発炎のあと黒煙が、敵艦に上がった。

上がるのと同時に、駆逐艦・綾波と敷波が肉薄攻撃に入った。

残る魚雷を放つために。

近づく駆逐艦に気づいた敵の駆逐艦が接近してきた。

気づくのが遅く、既にこちらは魚雷を発射した後だった。

駆逐艦同士の打ち合いになったが、魚雷に気づかず、命中。

また、駆逐艦を抜けた魚雷は戦艦にまで達し、命中していた。

金剛は損害を受けながらも、打ち合いは続いていた。

その被害が徐々に金剛の船体を蝕んでいく。

 

「被害は、大丈夫?」

 

”何とか。 ただ、浸水が止まりません!”

 

「何とか、持たせるデスネ! まだ敵艦は生きてマス!」

 

(そうは言ってもきついデスネー。 いつまで持チマスカ・・)

 

”機関室、浸水! 速力低下!”

 

「ダメージコントロール! 急いで!」

 

”アイアイサ!”

 

「主砲、よく狙って! 次で仕留めるデスネ! ファイヤー!!」

 

放たれた主砲弾が命中し、敵戦艦1隻が落伍していった。

 

「残る1隻!」

 

敵艦からの砲撃は続いており、水柱がいくつも上がる。

しかし、その水柱が徐々に近づいてくる。

そのうちに一発が艦体中央部に命中した。

 

「アアッ! 何処? 被害報告!」

 

”中央部直撃です! 被害は軽微! しかし、排水ポンプに被害! 排水が間に合いません! 傾斜角、さらに拡大!”

 

波に揺れながらも、艦の速度が徐々に落ちていく。

金剛は、

 

(もう、ここまでか・・)

 

と思った。

 

「綾波、敷波に告ぐ。 直ちに反転し、先行して現海域を離脱!」

 

駆逐艦に、急ぎ反転、離脱を指示した。

ただ、自身の被害は大きかったのだ。

 

(榛名、元気でいてくだサイ。 楠木テートク、榛名をお願いしマース。 比叡、霧島。あなたたちの元へもうすぐ行くデスヨ・・)

 

舵を切りながらそう思ったのだった。

その時だった。

 

「「ママー! 今行くね!」」

 

と。

我が耳を疑った金剛だったが、

 

「そ、その声は、択捉に松輪ァ?」

 

まさにその通りだった。

 

「接舷して排水手伝います!」

 

「何言ってるですカ! ここはまだ敵の射程内デース、早く離れなサイ!」

 

「ここまで来て、ママを置いていけないよ!」

 

金剛の左舷に択捉、右舷に松輪が強制接舷した。

 

「早く離れなサイ! 敵弾が・・」

 

敵の砲弾が落下してきた。

3艦の周囲に着弾する。

激しい水しぶきが3艦に降り注ぐ。

 

「「キャー」」

 

と叫び声が。

そして、

 

「接舷、完了。 排水ポンプ接続して! 電源をつないで! 早く! 急いで!!」

 

「仕方ありませんネ! 二人とも、速度を合わせるデスネ! まったく、あなた達ハ!」

 

怒りながらも、二人の行動に感謝をする金剛だったが、ここは敵艦の射程内だ。

降り注ぐ敵の砲弾が徐々に3艦に近づく。

ついに、その砲弾が命中した。

 

「アッ・・」

 

叫び声とともに、択捉に爆発音が響いた。

 

「択捉! 飛び移りなサイ! 船体は放棄してでもこっちに来るデス!」

 

爆炎と煙が上がった。

外れた砲弾が着弾して、降り注ぐ水で甲板上は水浸しだった。

 

「主砲、敵艦を沈めなサイ! ファイヤー!!」

 

「択捉? 択捉! 無事なら返事しなサイ! 松輪ァ、択捉が見えまスカ?」

 

「ママ。 択捉姉さんは・・ 」

 

「どうしたデス?」

 

「択捉姉さんの艦は、見えません! さっき、爆発して・・」

 

「なっ! 択捉ーー!」

 

金剛が艦橋から、択捉が居た舷を見るが、既にその姿はなかった。

 

「ノォォォォォーーーー!! 択捉ゥゥゥゥゥーーーー!!」

 

金剛の叫び声が響いた・・

次の瞬間、金剛は怒りに震えた。

 

「こんのぉお!! よくも択捉を! 主砲、敵艦を沈めるデス! 全門斉射ッ! 砲身が焼きつくまで撃ち尽くすネ!!」

 

どこにそんな力があったのか。

主砲弾の装填が通常より早く行われていく。

砲塔旋回、砲身が上がって、斉射する!

その怒りの砲弾は、敵艦を外すことなく、全弾が命中した。

激しい爆発ののちに、あっという間に沈んでいく敵艦。

それを確認した金剛。

 

「松輪ァ、無事でスカ?」

 

「うん、私は何とか。 ママは、大丈夫?」

 

「何とか、持ちこたえてますネ。 デモ、もう残弾がありまセーン! 周りを確認したら、直ちに修理と補給のために、この海域を離れマース!」

 

艦尾から沈みつつある船体に鞭打って進む金剛だった。

 

 

戦闘終了の報を受けたのはすぐ後だった。

周囲の確認の後、この海域からの離脱をしようとした。

金剛が甲板上を状況を確認しながら、択捉の居た左舷を歩いていた時だった。

被弾痕に人が倒れているのを認めた。

 

(誰かいる?)

 

と思って近づくと、択捉だった。

艦が爆発する直前に、乗り移っていたのだ。

だが、出血多量で気を失っていた。

 

「Oh! 択捉! 無事で・・」

 

金剛の目にも涙だったが、急ぎ医務室へ運び、医療チームによる応急処置が始まった。

松輪にも択捉が見つかったことを伝え、出せる速度いっぱいにして現海域を離れるのだった。

択捉が生き残っていたことを喜ぶ二人だったが、2艦とも被害が酷く、無事に帰りつくか不安であった。

トラックに向かって進む金剛と、それに寄り添う松輪だが、トラックまであと500kmとなったところで、機関室が水につかってついに停止してしまった。

 

”機関が停止しました。 これ以上、進めません!”

 

「排水は無理?」

 

”これ以上はもう無理です。 機関停止! 速度ゼロ!”

 

報告の通り、戦艦・金剛は太平洋の真っただ中で停止し、徐々に沈み始めた。

トラックに向かいながら通信機器を修理していたが、部品が十分にあるわけではなかったので、あり合わせだった。

それでも通信可能となったとき、金剛は全方位に向けて、救援を求める通信を送った。

戦闘の終了の通信は受け取った。

この辺りなら、まだ近くに味方がいるかもしれない。

希望をもって、救助要請を発したのだった。

誰かが救援の要請に応えてくれるに違いない、と思ったからだが、沈みかけた状況で、金剛は覚悟をした。 それは2度目の覚悟だったが・・

 

「総員退艦! 全内火艇を降ろセ! 浮き輪も全て投下セヨ! 早く! 繰り返す! 総員退艦セヨ!!」

 

そして、松輪に向かって・・

 

「松輪、今までよく戦いマシタネ。 もう、帰れそうにありまセン。 今まで楽しかったデスヨ。 あなたたちだけでも、帰るデスヨ。」

 

と、金剛の心は固まっていた。

妹たちの元に行くことを。

だが、松輪が反論する。

 

「何言ってるの。 ママと一緒に帰るの! 択捉姉さんはどうするの? 皆で帰ろうよ!」

 

「この状況では、帰ることはできませんヨ、松輪。 打電したから救助隊が来てくれるハズデース。 あなた達だけなら内火艇に載れまス。」

 

「ヤダ! 一緒に帰ろうよ? みんなで帰ろうよ! ね? ママも一緒に帰ろうよ! ね?」

 

涙を流しながら金剛にしがみついて叫ぶ松輪だった。

その松輪を優しく抱きしめる金剛の目には光るものがあった。

戦艦・金剛に横付けしている海防艦・松輪だが、金剛と舫で繋がれ、電源ケーブルなども接続されているから、今、金剛が沈めば松輪も巻き沿いに沈んでしまうのは目に見えていた。

内火艇に乗り移っていれば、救助隊が来てくれるハズですから、二人は生き残れる・・と思った金剛であった。

金剛が改めて覚悟した、ほんとにその時だった。

空からプロペラ機の音がしてきた。

音に気付いたのは松輪だった。

 

「・・この音は! もしかして・・・」

 

西の空から音が近づいてくる!

 

「見張妖精! 誰か! 見える?」

 

”お待ちを!  ・・見えた! はいっ10時方向、視認しました。 あれは・・み、味方です! 味方航空機です! 数は2! ・・あっ! 同じく10時方向海上に艦影!”

 

金剛の見張り妖精からの報告だった。

 

”上空の航空機より通信! ”我、第一対潜駆逐艦隊、空母・鳳翔航空隊。 艦隊が到着するまで頑張れ!”です。”

 

それを聞いて、

 

「やった! 助かったよ、ママ!!」

 

と言って喜ぶ松輪と、

 

「オォォォ! 通信は届いていたんですネ・・ 楠木テートク、ありがとう・・ホントにありがとう・・ 択捉、松輪、これで生きて帰れまス!」

 

と言う金剛だった。

金剛の目から滝のように涙が流れ落ちていた。

 

(また、命永らえましたカ・・)

 

「さぁ、みんな、内火艇に移るデスヨ! 総員、退艦!!」

 

 

出せる速度いっぱいで走ってきたのは、先行してきた朝霜だった。

 

”前方に、戦艦・金剛を確認! どうやら停止しているようです!”

 

「よっし。 間に合ったみたいだね。」

 

ただ、既に機関が停止、左に10度以上、傾いているようだった。

 

「結構、傾いてるじゃん! 急ぐよ!」

 

”こちら見張台。 周囲に内火艇や筏が多数!”

 

金剛や択捉、松輪をはじめとする妖精たちも内火艇や海に投げ込んだ筏に掴まっていた。

 

「よ、よし。 船を止めて! 救助を急いで!」

 

朝霜は艦を止めて、タラップ、縄梯子を降ろしたりして、救助活動にかかった。

救難作業にかかって暫くして、戦艦・榛名と空母・鳳翔が到着した。

同じく救助活動に参加する二艦。

 

「金剛お姉さまーー!! どこでーす??」

 

榛名が叫ぶ。

 

「榛名ーッ! 私はここデース! 無事ですヨー!」

 

朝霜の甲板上で手を振って叫んでいた。

 

「ご無事でーー!!」

 

榛名の目にも金剛の目にも涙が流れていた。

後続してきた榛名、鳳翔にも妖精たちが救助された。

そして、

 

「救助終了! よし、全艦パラオに向けて、前進微速!」

 

パラオへと戻ろうとしたその時だった。

 

「ああ! 金剛が、戦艦・金剛が!」

 

戦艦・金剛が急に沈み始めた。

見張台から叫ぶような報告がきた。

戦艦・金剛の艦尾が水面の下に落ちていく・・

反動で艦首が徐々に水面より持ち上がっていく・・

艦首から10メートルほどだろうか、水面の上に現れたかと思うと、右に傾きながら、急速に後ろに向かって海中に落ちていく・・

戦艦・金剛に引きつられて海防艦・松輪も波間に消えていく。

 

”戦艦・金剛、海防艦・松輪が沈みます!”

 

その姿を金剛は、駆逐艦・朝霜の甲板上から見ていた。

沈みゆく艦の周りには気泡が出ていたが、沈むにつれ気泡が激しく湧き上がってきた。

 

(今まで、ありがとう。 サヨウナラ・・)

 

そう言って、沈みゆく艦に敬礼をしていた。

また、海防艦・松輪も一緒に沈んでいく。

 

「あぁ・・ 沈んじゃう・・」

 

「皆、良く戦ってくれた。 有り難う。」

 

と沈みゆく艦に、秦は声をかけるのだった。

戦艦・金剛と海防艦・松輪が完全に水没したのを見届けて艦隊はパラオへと向かったのだった。

 

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