睦の試験!
秦には気がかりなことがあった。
それは・・
「朝霜、皐月、卯月、弥生。 お前たちは、今、俺を父親、鳳翔を母親としているが、今のままでいいか、それとも、睦みたいに養女になるか、と言う問題があるんだが?」
「「養女?」」
「うん、相生の時は、楠木姓を名乗ってもらったけど、ホントのところはどうしようかって思って。」
「養女ってことは、ボク等が司令官の戸籍上も娘ってことだよね?」
「そういうことだな。」
「・・私は、良い。 養女に、なる。」
そう言ったのは弥生だった。
「や、弥生ちゃん。 決めちゃっていいの?」
そう聞くのは睦だ。
「うん。 お父さんとお母さん、良いもん。」
「そうか。 弥生。」
と言って秦が弥生の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「うーん・・ やっぱり、ボクも!」
「えー! うーちゃんも!」
「はいはい。」
と鳳翔が言いつつ、微笑みながら皐月と卯月の頭を優しく撫でた。
「朝霜はどうする?」
「あ、あたいは・・」
ちょっと考えていたようだが・・
はぁーっと溜息をついて、
「あたいも、なるよ。 養女に。」
「そうか。」
秦が朝霜の頭を撫でたのだった。
撫でられた四人はそれぞれに、へへへっと言って笑っていた。
だが、秦は笑っていなかった。
「養女になってくれるのは有り難いが、一つ言っておきたいことがあるんだ。」
「なんだい?」
「今後、将来の話なんだけどね。」
「提督を辞める話かい?」
そう言ったのは朝霜だった。
「え、なんで知ってる?」
思わず、驚いて声を上げた秦だった。
「そりゃ、娘になるんだもん。 それくらいは分かるさ。 へへへ。 実は横須賀で秋吉提督から聞いたんさ。 ”奴はいずれ辞めるぞ”ってね。」
「そ、そうなんだ。」
「だから、分かった上で、娘になるんじゃん。 気にしなくても良いよ。 ね、みんな。」
うんうんと首を縦に振る、卯月と皐月だった。
◇
次の日の午後、秦は、大石、五十鈴、榛名、鳳翔と共に、対潜用に向けた改造を行っている高速戦艦・金剛と同・榛名を視察にやってきた。
35.6cmの主砲はそのままに、両舷側の副砲を換装し、追加で対潜兵器を搭載する予定だ。
対魚雷用爆雷投射機を片舷四基で計八基。
更に、両舷で八基の対空噴進砲を新設する。
その際、両舷の魚雷発射管は撤去する事となった。
「兵装の交換や増設だけだから、工事期間は短くて済むよね。」
「はい。 既に撤去する分は完了しています。 今は新たに増設する分も含めて、自動給弾装置を設置中です!」
と榛名が説明してくれる。
「「自動給弾装置?」」
そう聞くのは皐月、朝霜だった。
「うん、特に機銃のね。 25mm機銃だと、今までのは弾倉交換式で、1個の弾倉に15発しか装填出来なかったから、大型弾倉を備える方式に変更しようと思って、榛名と金剛で試行中なのさ。」
へぇーって言う声が聞こえたような気がした秦だった。
「これが上手くいけば、各艦も改造しようと思ってるんだ。」
各機銃や高角砲での給弾方法は、箱型の弾倉を交換する方式が主だった。
対空機銃の様に弾幕を形成する場合は、相当の弾数が必要となるが、15発ではあっという間に無くなってしまう。
なんとか、チェーンのようなベルト給弾式にしたいのだ。
そうなれば、1ベルトの長さだけが問題となる。
極端に言えば、無限に長いベルト給弾式にすれば、無限に撃ち続けることができる。
実際は、銃身の過熱やらを避けるために、連続射撃数が限られることになるのだが。
金剛と榛名は、同型艦ではあるが、微妙に違いがある。
大きな違いが無い二隻だが、改造するための入渠のタイミングによって改修が行われたり、行われなかったり、と差が出るのだった。
◇
金剛と榛名の視察を終えた秦たちは、小用沖へとやってきた。
各自の艦にて保守作業を指示し停泊中の空母・鳳翔へとやってきた。
艦娘・睦の、空母・鳳翔での起動試験のためだ。
艦橋にまでやってきた、秦、鳳翔と睦の三人。
「それじゃぁ、始めようか。」
との秦の合図で、睦が艦娘席に座る。
傍に鳳翔が立ち、
「睦ちゃん、最初だから、焦らずにね。」
という。
「うん。 やってみるね。」
「では、睦、始めてくれ。」
睦は目を瞑って精神同調を始めた。
しばらくすると、睦の唸り声がしてきた。
うぅぅぅぅーーっと。
しかし、機関の始動音はしてこない。
睦が目を開いて、ぷはぁーーっと息を吐いた。
どうやら1回目は失敗の様だ。
「はぁはぁ、結構、キツイ。」
そう言いながら、息を整え、再び目を閉じた。
またも、うぅぅぅぅぅーーっと唸り声がする。
しばらくして、睦が、ぶはぁーーっとさっきよりも大きめの息を吐いた。
またもや失敗したようだった。
見ると、睦の額には玉のような汗があり、汗が流れ落ちるほどだった。
はぁ、はぁ、と肩で息をしていた。
「いきなりは、難しいか・・」
と秦が言うと、
「どうでしょう。 まったく動かない事はないと思いますが・・」
と鳳翔が応えた。
やはり、初回からの起動は無理で、しばらくやってみるしかないのか、それとも、睦は、この艦との相性が悪いのか、と、考える事はいっぱいあった。
その後、何度か繰り返してみたものの、艦はまったく起動しなかった。
何度か繰り返したため、睦が疲れてへたり込んでしまった。
「つ、疲れた・・・」
と。
そこで、休憩をとることにした。
鳳翔が紅茶を淹れて、三人で飲んでいた。
今日はジャムを入れたロシアンティーだった。
「はぁー、甘くておいしー。」
「良かったわ。 疲れたでしょ。 ゆっくり休んでちょうだい。」
「艦種が変わると、こうも難しいもんなんだなぁ。」
「艦種というより、久しぶりの方が、影響が大きいんじゃないですか?」
「やっぱりそうかな。 どうだ、睦?」
「うぅーん、かなりキツイ、かな。 今のところ、ウンともスンとも言わないからね。」
「駆逐艦と空母とでは、コツが違うんだろうか。」
「さあ、どうでしょう。 私も複数の種類を持った事が無いので、分からないですね。 ごめんね、睦ちゃん。 お役にたてなくて。」
「ううん、大丈夫だから。」
既に陽が傾き、夕暮れ時になっていた。
「もうこんな時間か。 それじゃ、あと一回やって、今日のところは終わろうか。」
「「はい。」」
休憩後に、今日最後の精神同調を行った。
が、また上手くいかなかった。
肩を落とす睦。
「どうして上手くいかないんだろう・・」
と嘆いていた。
「また、明日があるわ。 明日はきっとうまく行くわよ。」
と宥める鳳翔だが、確実に動くとは言い切れなかった。
秦も、
(こりゃぁ、時間が掛かるかな・・)
と考えていた。
夕食後、お風呂から上がった睦は、疲れからか、速攻でベッドに入って眠ってしまった。
「ありゃあ。 睦ちゃん、お疲れだね。」
「ボクでもやったことない事をやろうとしてるんだもん。 そりゃぁ、疲れるよねぇ。」
「なんか、かわいそうぴょん。」
「でも・・ 睦ちゃんしか居ないから・・ 頑張ってもらうしか、ない・・」
そこへ秦がこども達の部屋にやってきた。
「入るぞ。 睦はいるか?」
「あ、しれーかん。 睦ちゃんかい?」
秦に返事を返したのは朝霜だった。
「睦ちゃんなら、もう寝ちゃったよ。」
次に答えてくれたのは皐月だ。
「え、そうなのか。 かなり疲れてたからなあ。 無理もないか。」
秦は、ベッドのそばまでやってきて、眠る睦の頭をそーっと撫でてやった。
「お疲れさん、睦。 お休み。」
と。
そして、四人に向かって、
「すまないな。 睦から相談があったら、乗ってやってくれるかな。」
と。
「あたいらでいいなら、どんと来い!だよ。」
皐月、弥生が、そうそう、と言っていた。
「とは、言うものの、かなり難しい事をやっているからねぇ。」
「すまない。 迷惑を掛けるね。」
と言って秦は部屋を後にしたのだった。
部屋の外では鳳翔が心配そうな顔をして立っていた。
「あぁ、居たのか。」
「睦ちゃんは、どうですか?」
「もう、ぐっすりと寝てたよ。 だいぶ疲れているようだ。」
「そうですか。」
と溜息をつく鳳翔だった。
「今回ばかりは、睦に頑張ってもらうしかないよ。 鳳翔・・ 何かサポート出来る事があったら、してやってくれるかい。」
「はい。 それはもちろんです。」
秦はその言葉に、ありがとう、と返事をして、
「それじゃ・・ よっと。」
「きゃあ!」
秦は鳳翔を抱き上げた。
お姫様抱っこだ。
「あ、あなた、何を。」
顔が赤くなる鳳翔だ。
「何をって、これからベッドに行くんだけど?」
「もう!」
頬を膨らませてはいたが、その顔は微笑んでいた。
抱き上げられ、腕を秦の首に廻して。
秦は、抱き上げたまま、寝室へと入って行った。