幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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全ての戦闘行為が終わった。
生き残った艦が泊地へと戻った。
そして、ようやく呉へと進路をとる残存艦隊。
その道中の一コマ・・


帰路

そして2日後、ようやくパラオ泊地に到着した秦たち。

3000キロ以上の距離を、被弾した箇所を修理しつつ帰ってきた。

 

”桟橋に接岸!”

 

桟橋で、秦と榛名、金剛たちが無事なことを喜び合った。

降り立つと同時に、榛名が金剛に飛びついていた。

 

「お姉さま! 無事で何よりですぅ・・うぅぅぅ・・」

 

「榛名ァ、心配かけたみたいデスネ・・」

 

姉妹二人が抱き合っていた。

 

「うっ・・ うわああぁぁぁぁあああああ・・・」

 

榛名の泣き叫ぶ声が響いていた。

 

「ホントに、ホントに心配したんですからぁぁぁ・・」

 

「泣き虫さんデスネー。 私は無事デース! 榛名も無事だったんでスネ。 良かったデース!」

 

姉妹、しばらく二人だけの時間だった。

その後、気を失ったままの択捉を医務室に運びこんだのだった。

松輪も一緒に医務室で診察を受ける為に。

秦は、泊地に着いた各艦の修理を指示した。

だが、ここパラオ泊地にはドック設備がない為、船体の本格的な修理は出来なかった。

なので、なんとか航行に支障のない範囲まで修理を行い、呉に戻ってから本格的な修理を行う事とした。

 

「やはり、ドックが無いと無理だな。 上部構造物だけでも、航行に支障ない範囲で直しておこう。」

 

それでも、真っ黒に焼け焦げて、穴だらけとなった上部構造物の修理は行うことにしたのだ。

もちろん、休息を兼ねた半舷上陸ではあった。

上部構造物の修復に2,3日は掛かるだろう、と予測された。

その間に、秦はトラックの司令艦隊に連絡を取ることにした。

 

「ご無事でなによりです、秋吉提督。 その声は・・お元気そうですね。」

 

「ああ。 お前さんもな。 そっちの被害はどうだ?」

 

「ええ。 かなりやられました。 無事にパラオまで帰れたのは途中で合流できた榛名を含め三艦だけです。 艦娘は全員無事ですが。 それも上部は穴だらけですよ。」

 

「そうか。 榛名が無事だったか。」

 

「はい。 途中でうまく合流出来ました。 ただ・・ 戦艦・金剛は沈みました・・」

 

「そうか・・ こっちもやられたよ。 結局、空母・赤城、加賀が沈められたからなあ。 かなりの損害だよ。 まぁ、報告は軍令部で纏められるだろうがな。」

 

「空母・赤城に加賀が・・ そんなに?」

 

「ああ。 今、ここに居るのは赤城のお陰だ。 あの時、赤城の退避の判断が無ければ、ワシは今頃海の底じゃよ。 敵にまだあれだけの航空戦力があったとは思わんかったぞ。」

 

「そうだったんですね・・ 事前偵察で、航空機の存在は見当たらなかったはずでは・・」

 

「そうワシも思っておったんじゃがな。 秘匿されていたようだ。 結局、艦船は7割あまりの損失じゃ。 娘っ子たちは半数は救助されたがな。」

 

「コテンパンですね。」

 

「ああ、まったくな。 大和、武蔵を始めとする戦艦群はほとんどが沈められた。 霧島、比叡も帰ってこなかったからな。」

 

「”帰ってこなかった”って、その言葉は・・ まだ早いのではありませんか?」

 

「そうじゃな。 まだ望みはあるな・・ 希望は持たないとな。」

 

「はい。」

 

「とにかく、敵勢力は壊滅できた。 基地も破壊しつくした。 これで奴らが居なくなればいいんじゃがな。」

 

「暫くは哨戒を続けるしかないですね。」

 

「そうじゃな。 で、そっちはどうだ? 修理は出来そうか?」

 

「パラオにドックが無いので、結局は呉に帰らざるを得ません。 簡単な修理だけで3日ほどかかりそうです。」

 

「そうか。 こっちも呉や横須賀まで航行可能な状態まで修理して、あとは帰ってからなんだが、やはり3,4日は掛かりそうだな。」

 

「はい。」

 

「あとは米軍が監視に就くじゃろ。」

 

「そうですね。」

 

「そうじゃ。 大石君も無事だぞ。 ちょっとまて。」

 

そう言うと、大石大佐に変った。

 

「提督。 大石です。」

 

「おお。 お疲れ様。 無事だったかい?」

 

「はい。 おかげさまで。 五十鈴も無事です。 が、船は沈んでしまいましたが・・」

 

「いや、生きていることが大事なんだよ。 良く生き残ったね。」

 

「はい。 ありがとうございます。 提督もご無事でよかったです。」

 

「ははは。 船はコテンパンにやられたよ。 ま、積もる話は呉に帰ってからにしようか。 では、呉で。」

 

「はい、呉で会いましょう。 秋吉提督に替わります。」

 

そう言って再び秋吉が通信にでた。

 

「で、鳳翔には連絡したのか?」

 

「いえ、まだ、ですね。 これからのつもりです。」

 

「そうか。 早く連絡してやれ。 寂しがってるじゃろ。 それでは、内地でな。」

 

「はい。 それでは。」

 

そう言って通信を終えた秦だった。

そして、呉に向けて、鳳翔に向けて通信を送った。

 

”発 第一対潜駆逐艦隊 楠木、 宛 呉鎮守府司令部”

”本日、第一対潜駆逐艦隊はパラオ泊地に帰還せり。 軽微な修理の後、呉に帰投す。”

”なお、楠木以下、艦娘は全員無事。 金剛、榛名、択捉、松輪の四名は第一対潜駆逐艦隊と共に帰投す。”

 

と。

 

「父さん、呉に向けて送信完了したよ。」

 

「ありがとう、睦。」

 

そこへ、各艦の修理状況を金剛が報告してきた。

 

「ヘイ、テートクー。 各艦の修理は順調デース! ただし! 榛名の四番砲塔はダメデース。 なので、そのままにしてマース。」

 

「ありがとう・・ でも、なんで金剛が? 医務室で付き添ってたんじゃなかったのか?」

 

「全然元気ですネー。 艦が無くて、暇してマス。 なので榛名のお手伝いネ!」

 

「なーるほど。」

 

「あ、ママ、ずるい! 私も手伝ってるでしょ?」

 

横から突っ込むのは、元気な松輪だった。

 

「オー! そうでした、ソーデシタ!」

 

「もう! 忘れちゃダメでしょ!!」

 

そう言って金剛の足に抱き着くのであった。

そうしている間に、一本の通信が入った。

 

「父さん、電文が来たよ。 これ。 呉から見たい。」

 

「え? 呉から?」

 

「うん。 たぶん、お母さんからだね。」

 

”発 呉鎮守府司令部  宛 第一対潜駆逐艦隊”

”パラオ帰還ご苦労様。 皆の無事が何より。 早期の呉帰還を心待ちにしている。”

 

「フフフ。 堅苦しい文面だな。 ・・そうだな。 早く帰ろうな、みんな。」

 

「公だからね。 私信だったらもっと砕けてるんじゃない? 早く帰ってきて~とか。」

 

「あたいならそう打つけどな~。」

 

「おい。 私信じゃないんだぞ。 まったく・・」

 

呆れる秦であった。

それから三日のち、修理が終わったことで、呉に向けて出発することに。

時刻は0700。

既に陽は昇っていた。

 

「全艦出港する。 抜錨!」

 

「了解! 全艦抜錨!」

 

各艦の錨が巻き上げられていく。

 

「出港する。 出港水路へ。 前進微速!」

 

水路と言っても、サンゴ礁が途切れて船が通れるほどの隙間があるだけなんだが。

環礁内から外洋へと微速で出ていく艦隊。

環礁を抜けると、

 

「全艦、単縦陣に移行! 巡航速度へ増速! 進路は日本、呉!」

 

と秦が指示を出す。

 

「全艦、巡航速度に上げ、進路、呉! ヨーソロー!」

 

駆逐艦・朝霜を先頭に、戦艦・榛名、空母・鳳翔と続き、後続するのは輸送船他10隻だった。

卯月は駆逐艦・朝霜に、皐月と弥生は空母・鳳翔に、金剛、択捉、松輪は戦艦・榛名に乗っていた。

帰りはどこにも寄らず、まっすぐに北へ、呉へと向かったのだった。

それでも3000キロはある距離だった。

やや右に進めばグアムに寄れるが、それよりも早く帰投することを選んだのだった。

 

 

太平洋上を呉に向けて進む艦隊・・

戦闘艦艇は三隻しかないが、それでも”艦隊”として、凛として、胸を張って、進む。

ただ・・ 周囲には、何にもない、だだっ広い海の上である。

往路のように立ち寄ることも無いので、まったくの水平線しかない。

 

「ねぇ。 しれーかん、ねぇってばぁ。」

 

「なんだ、朝霜?」

 

「暇。」

 

「それがどうした。」

 

「あち! だからぁ! ヒマじゃん!! って言ったの!」

 

「だから何だよ? ちゃんと船を扱ってればいいんだぞ?」

 

「そうじゃなくてさぁ。 なんかないの? 周りは海しかないしさ。 鴎もいないし、陸地も見えないし。」

 

「朝霜ちゃん、何もない時は、それなりに楽しむことを考えないと。」

 

「そうは言ってもさぁ・・」

 

「じゃあ、榛名の後部甲板を見てみな。」

 

戦艦・榛名の後部甲板を覗き見た朝霜。

 

「ん? あ・・」

 

そこには・・ 甲板上に白い天蓋を張り、その下にデッキチェアを置いて、ビキニ姿にサングラスをした金剛が居た。

 

「ウゥゥゥン、相変わらずいい天気ネー。 こんがり焼けるネー。」

 

「もう、ママったら、焼けちゃうよ?」

 

そう言うのは択捉だ。

 

「ダイジョウブネー。 たっぷりオイルを塗ったネー。 それに、天蓋だから、そんなに焼けないノネ!」

 

「もう、そんなこと言ってぇ・・ まったく、プールサイドでもないのに・・」

 

「そうは言うけど、ここは、シーサイドネ! 変わらないネ!」

 

「・・・・」

 

呆れて物も言えなくなる択捉だった。

そこに秦が横から入った。

 

「朝霜、数日は何もないから、金剛を真似るのもアリだぞ? 日本に近づけば寒くなるしな。」

 

それを聞いて、

 

「あたいもやろっかなー。」

 

だと。

そのやり取りを聞いていた金剛が、割って入ってきた。

 

「ヘイ、朝霜ー! 一緒に焼くネ!」

 

そう言われても・・と思った朝霜だが、何か違和感があった。

 

「あー、でも・・ 金剛姉さん、お酒・・飲んでない??」

 

そう。 顔が赤かった。

 

「オー、お酒じゃナイネ! お酒はないから、ラムネで代用ネ!」

 

ホラ、と言ってラムネの瓶を見せた。

 

「ら、ラムネ・・」

 

原因は単なる日焼けだったのだが、朝霜はアルコールによる赤ら顔と思ったのだった。

 

「イエース。 榛名のラムネ製造機が無事だったネ。 ただ、温度調節が難しくて、キンキンに冷えてるネ!」

 

そこへ榛名がやってきて、

 

「もう。 金剛お姉さまったらぁ。 修理しましょうって言ってるのに、そのままで良いなんて・・。 壊れたままなんですからね?」

 

「このキンキンに冷えてるのがいいのネ。 ホラ?」

 

金剛が指さしたのは択捉だった。

キンキンに冷えたラムネの瓶を持って、炭酸を気にせずに、ゴクゴクと飲んでいた。

 

「ぷはぁー! 冷たくて美味し!」

 

「択捉ゥ、いい飲みっぷりネ!」

 

「択捉ちゃん! 金剛お姉さまに感化されすぎよ!」

 

「え? そうかなぁ。」

 

「榛名は気にし過ぎネ。 もっと心に余裕が無いとネ!」

 

そこまで言われて、がっくりと肩を落とす榛名だった。

 

 

太平洋を北上する秦たち。

徐々に緯度が上がるほどに日差しが弱くなってきた。

日本では2月なのだから、当然と言えば当然だ。

 

「少しずつ冷えてきたね。」

 

海を渡る風が冷たく感じられるようになってきた。

 

「そーだなあ。 呉まであと少しだね。」

 

「そろそろ長袖の冬服に着替えようか?」

 

睦らこども達は、相生時代の第一中学校の制服のまま乗り込んでいた。

南太平洋にいる間は夏服で良かったが、だんだんと寒く感じるようになってきていた。

着替えようか? 何ていってるそばから一人、冬服を着ていたやつがいた。

卯月だった。

 

「あれ、もう冬服着てる!」

 

「だって、だんだん寒くなってきてるぴょん。 海の上ならこの服で十分温かいよ?」

 

「じゃあ、明日と言わず、今からみんな衣替えしよう。」

 

そう秦が言うと、オッケー! だってさ。

日焼けをしていた金剛は一昨日から服を着ていて、今日は空母・鳳翔の艦橋にいた。

 

「そうするネ! もう寒いですからネ。 択捉、松輪。 あなたたちは寒くないですカ?」

 

「あたしたちは大丈夫だよ!」

 

択捉、松輪の幼児組は元からしてスカートは短いし、上衣を着ればいいよって言うし。

 

「みんな、衣替えしたら、イメージが変わるなぁ。」

 

そう言うのは秦だったが、秦も衣替えを済ませていた。

 

「まあ、見慣れてはいるけどね。」

 

と言うのは皐月だった、が・・

 

「あっ!」

 

「皐月ちゃん、どうしたの?」

 

急に声を上げた皐月に睦が聞いた。

その皐月が指を差した。 その先は・・

司令官席に座る秦の膝の上に弥生がちょこんと座っていた。

 

「いつの間に・・」

 

へへへ、と笑っている弥生だった。

その弥生の頭を撫でる秦が、微笑んでいた。

 

「まぁ、いいじゃないか。 後で皐月もしようか?」

 

「あー、お願いするよ。 でも、その座り方は・・ ちょっと恥ずかしいかな・・」

 

「でも、択捉や松輪みたいな座り方じゃないから、大丈夫じゃないのかい?」

 

「あれはあれで、ボクには恥ずかしいよ。」

 

そう言って頬を朱に染める皐月だった。

 

 

日本の哨戒圏に入ろうか、という時になって、電探に反応がでた。

 

”本艦の右舷3時方向、60キロ以上に、艦隊を探知!”

 

「艦隊? 所属は分かる?」

 

”遠すぎて判明しません。”

 

「ま、そうだよね。 どうするの、父さん?」

 

「そうだな・・ 睦、哨戒機を3時方向に向かわせてくれるかい?」

 

「うん。 上空哨戒中の哨戒機2機を向かわせるよ。 いい?」

 

「ああ。 オッケーだ。 やってくれ。」

 

睦が指示を出して、艦隊周辺を周回していた哨戒機2機が向かっていった。

暫くして3時方向へ向かった哨戒機から報告がきた。

 

”艦隊より約70キロ付近にて、味方の艦隊を確認。 大型艦1、小型艦8、小型の空母が2。 大型艦は長門型の様です。”

 

「そうか。 睦、合流通信を送ってくれ。」

 

「了解。」

 

通信を送るまでもなく、長門から通信が入った。

 

「こちら呉司令艦隊・長門。 楠木提督の艦隊か?」

 

「楠木だ。 長門か?」

 

「ああ。 久しぶりの声だな。 ちょっと待ってくれ。」

 

「替わりました。 大石です。」

 

「おぉ。 大佐か。」

 

「これは楠木提督。 何とか追いついたみたいですね。 もうすぐ目視で確認できると思います。 そちらに合流したいと思いますが?」

 

「了解だ。 こちらは12ノットで航行中だ。」

 

そんな会話が交わされた後、徐々に艦隊が近づいてきた。

 

「見えた! あれだね。 先頭は・・」

 

どうやら先頭は神通の様だった。

艦隊右舷から接近してくる呉の司令艦隊。

 

”司令艦隊、間もなく合流します。”

 

「両艦隊に告ぐ。 速度、進路をあわせ! 以後の指揮は、私・楠木が執る!」

 

【了解!】

 

司令艦隊が面舵を切って、両艦隊が合流した。

と言っても、秦の艦隊の右舷側に並行する形に司令艦隊がついただけだった。

秦が司令艦隊を見ると、上部構造物は、余すところなく、煤だらけの穴だらけ、と言った方がいいくらいに被害が大きかった。

甲板が捲れあがっているところも、砲塔がゆがんだままのもあった。

 

「こりゃあ、酷くやられたなぁ。 俺らより酷いとはな。」

 

と秦が言えば、

 

「うわぁ、酷いねぇ。」

 

と皐月が続いて言う。

 

「激しい戦闘だったんじゃない?」

 

とは睦だった。

 

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