出撃全艦、全員が帰ってこれなかった・・
そして、岸壁には・・
合流して翌日の朝。
「そろそろ哨戒圏に入るかな?」
「そうだね、そろそろだと思うんだけどね。」
位置的には足摺岬の南南東方向に300kmほど、鹿屋基地から400kmほどの位置に達しようとした時だった。
”電探に反応有! 艦隊正面11時方向に航空機を探知!”
「どこの機体か分かる?」
”現在、照合中です。”
「この位置なら鹿屋の哨戒機か、高知の哨戒機か。」
”敵味方信号を確認。 どうやら鹿屋基地の哨戒機のようです。”
”航空機より通信。 艦隊の所属を聞いてきています。”
「俺が話そう。 繋いでくれ。」
”了解。 ・・繋がりました。 どうぞ。”
「こちら第一対潜駆逐艦隊、旗艦空母・鳳翔、指揮官の楠木だ。 呉司令艦隊と共に呉鎮守府に帰投中である。」
”こちら鹿屋基地所属第---航空隊、第1小隊隊長機です。 貴艦隊を視認しました。 無事の帰還、お疲れ様であります。 以後の哨戒は我々にお任せください。”
「了解した。」
「父さん、それじゃあ、ウチの哨戒機や直掩機はどうするの? このまま続けるの?」
そう聞いてきたのは睦だが、陸上からの哨戒範囲にはいれば、基本、自分たちでの哨戒は必要ない。
だが、まだ陸地までは距離があったので、
「そうだな。 もうしばらくは現状のままでいこう。 もっと近づけば終わろうか。」
としたのだった。
◇
哨戒機から鹿屋基地に秦の艦隊10数隻を確認した、と報告がされた。
その報告は呉鎮守府にも伝えられた。
「鳳翔さん。 鹿屋基地から連絡です。 ”呉に向かう10数隻の艦隊を確認した。”との事です。」
連絡を受けたのは呉鎮守府で居留守部隊の臨時秘書艦の旗風だった。
「ありがとう。 そう。 あの人たちがようやく帰ってきたのね。」
そう言って微笑む鳳翔だった。
「報告のあった位置からですと、呉に到着するまで一日半はかかるでしょうか。」
そう言うのは旗風だった。
「そうね。 明日のお昼過ぎかしらね。 フフフ。」
執務室のソファーで二人の赤ちゃんをあやしながら鳳翔が答えていた。
そして、
「もうすぐお父さんとお姉ちゃんたちが帰ってきまちゅよ~。 帰ってきたらいっぱい、遊んでもらいましょうね~。」
と翔子と千翔の頬をツンツンしながら話したのだった。
そして、一本の通信が入った。
「鳳翔さん。 提督の艦隊より通信です。 ”呉到着は明日午後1500の予定”とのことです。」
「ありがと。 了解、と返信てくれるかしら。」
「分かりました。 そのように返信します。」
「それと、みんなにも伝えて頂戴な。」
鳳翔はそう言って提督席の机に置いてある写真を見た。
その写真は、秦、鳳翔の二人を真ん中にしてこども達と一緒に撮った写真と鳳翔に抱かれる二人の赤ちゃんの写真だった。
(みんな、無事に帰ってくるのね。 じゃあ、明日の夕飯は何にしようかしら? ちょっと豪勢にしようかしら。)
なんて思う鳳翔だった。
「鳳翔さん。 哨戒に出る予定の神姉さま、春姉さまにも、提督の艦隊が近づいていることを伝えます。 よろしいでしょうか?」
「そうね。 出迎えをお願いできるかしら。」
「はい。 伝えます。」
◇
翌日未明になって、陸地が見えてきた。
「前方2時方向に陸地を視認。 恐らく足摺岬。」
「ようやくか。」
秦、睦たちの目に陸地が見えてきた。
艦隊はまっすぐに豊後水道を目指していた。
「艦隊はこのまま豊後水道を直進し、佐多岬沖を通過する。」
【了解。】
日が昇ると艦隊は豊後水道に入っていた。
両舷に陸地が見えていた。
左に九州、右に四国。
ここまで来て秦は航空隊に、岩国基地への帰還命令を出した。
「航空隊に下令する。 全機岩国基地へ。」
その命令を受けた空母・鳳翔に残る航空隊が発艦していく。
”提督、お世話になりました。 お先に失礼します!”
順次発艦していった航空隊だが、しばらくの間、艦隊上空を旋回していた。
全機が発艦し終わるのを待ってはいたのだが、それでも周回を繰り返していた。
全機が揃って数周したのち、隊長機が翼を振って岩国へと向かっていった。
「もう。 全機、岩国へ向かったよ。」
と報告してきた睦だったが、周回を繰り返した航空隊に呆れていた。
「佐多岬を通過。 響灘に入ったよ。」
「了解。 睦、呉に気象情報を問い合わせておくれ。 どうやら雲が低いみたいだ。」
そう言いながら、秦は艦隊の進む方向の空を見てた。
確かに、黒い雲が遠めに見えてはいたが、呉に近づくにつれ、さらに色の濃さを増していたのだった。
「呉より返信。 雲が低く降雪中なれども軍港機能に支障なし、だって。」
どうやら雪が降っているようだった。
2月とは言え、瀬戸内まで雪が降るとは、かなりの低気圧、寒気なのだろう。
予定より遅れてはいたが、屋代島、情島などを回り込んで、柱島沖を通過し、広島湾に入って艦隊速度を10ノットとした。
艦隊には、舵の調子が思わしくない艦もあったため、江田島を廻って呉港に入ることにした。
江田島を廻るころには1500を過ぎていた。
「正面に呉港を確認! 各艦、投錨用意!」
秦の艦隊は、榛名も含め、小用沖に、長門を中心とする司令艦隊は呉港正面に向かった。
それぞれが所定位置に着くと、錨を降ろしたのだった。
「投錨、よし。」
艦橋のデッキで外を見た秦が甲板を見て、
「もう、こんなに積もったのか。 甲板が真っ白だなぁ。」
と呟いた。
それを聞いていた皐月たちが、
「ホントだね。 真っ白だね。 甲板の白線も見えないや。」
「報告では、既に5センチほど積ってるって。」
と言って秦の隣で甲板を見ていた。
吹雪ではなかったが、それでも次々と空から降ってきていた。
雪のために、視界は悪かった。
「うわぁ、対岸がほとんど見えないじゃないか。 うっすらと見える街が、白と黒の世界にしか見えないなぁ。」
「本当だ。 久しぶりにこんな景色見たよ。 でも、舞鶴の時の方がもっと多かったよ? ね、父さん?」
「そういや、そうだったな。 舞鶴では優に5メートルは超えていたかなあ。」
「ゲ! 5メートルってどんなんだよ?」
呆れる皐月を尻目に、ははは、と笑う秦だった。
投錨した場所から桟橋までは内火艇を使った。
最初は船内にいたが、桟橋が近づくと船の舷側に立って、前方を見ていた。
桟橋が近づき、減速し始めると、岸壁に人影を認めた。
秦は、それが誰か分かった。 いや、分かっていた。
そして大きく手を振って叫んだ。
「ほうしょうーー!!」
「「え? お母さん??」」
睦、皐月たちが驚いて外を見た。
その人影は、その声に手を振り返してきた。
鳳翔だった。
雪の降りしきるなか、傘を差して、岸壁で一人待っていた。
「「あ、お母さんだ! おおぉぉぉーい!」」
睦と皐月が岸壁に向かって手を振った。
鳳翔もそれに応えて、さらに大きく手を振っていた。
内火艇が桟橋に横付けされ、秦たちが降りた。
桟橋にも雪が積もっていたが、歩く通路分だけが除雪されていた。
岸壁に上がると、秦は真っ先に鳳翔の前に進み、抱きしめた。
何も言わず、いきなり。
が、鳳翔も予測していたかのように、微笑みながら抱きしめられていた。
「ただいま。 鳳翔。 会いたかった・・」
「ええ。 私も・・」
手に持っていた傘が雪の上に落ちていた。
「かなり待たせたみたいだな。 体が冷たいじゃないか。」
「そうだとしても、いまこの瞬間は・・ 暖かいです・・ あぁ、あなたの匂い・・」
秦の胸に顔を埋める鳳翔だが、頬を摺り寄せていた。
秦も、優しく抱きしめていたが、時には強く抱きしめることも。
そして、それを呆れた様子で見ていた睦たちが痺れを切らせ・・
「あー。 それくらいにしてくれにゃいかな? 寒いんだけどさ!」
と。
それにつられて、皐月、朝霜が・・
「ほんとだよ。 あー、さっぶ!」
とワザとらしく言うのだった。
「あ・・・、悪い・・」「ご、ごめんなさい・・」
頬を赤めて同時に謝る秦と鳳翔だった。
「そう思うんだったら・・ えい!」
「あ! ボクも!」
「あー! うーちゃんも!」
抱き合う二人に、睦、皐月、卯月、弥生、朝霜が抱き着いてきた。
おしくらまんじゅうみたいに。
「「へへへ。 お母さん、帰ってきたよ。」」
「あら。 みんな、お帰りなさい。」
その姿を見ていた榛名が、
「まったくもう。 義兄さんも鳳翔姉さんも、ちょっとは場所をわきまえてくださいね? 皆も、早く部屋に入りましょうよ?」
と言うのだった。
「じ、じゃぁ、みんな、執務室に行こう。 執務室に向けて前進ヨーソロー!」
秦がそう言って、雪降る中を早足で執務室へと向かうのだった。