帰ってこれた者は少なく・・
まずは、休息が必要だった・・
呉、終わりと始まりの前に
執務室は、大型ストーブが焚かれ、部屋の温度は暖かくなっていた。
そこに、無事に帰って来れた面々が勢ぞろいしていた。
「みな、お疲れ様。 ここに帰ってこれた人数は少ないが、よく戦ってくれた。 今日はもう十分に遅いから各自休養をするように。 なお、明日から修理を行うが、出撃はなしだ。」
「そうなのか、提督。 勝ったとはいえ、何もしないのはどうかと思うが?」
そう言うのは長門だった。
「君の気持は分かるが、船体がボロボロで何ができる? 船が動いても補給はしないと動かないだろ。 それに、ホレ・・」
そこまで言ってソファーに座って眠りこけている朝霜と弥生を指さした。
「暖かい部屋に入っただけで眠ってしまうほどの疲労じゃないか。」
秦が傍まで行って、朝霜の頭を撫でるのだった。 それも優しく。
そして、四人が余裕で座れるソファーでは、択捉と松輪が抱き合って、軽い寝息をしていた。
その二人を撫でる金剛が、
「私たちは大丈夫ダケド、この子達には休息が必要ネ。」
と、休息することに賛同してくれていた。
「こういう状態だ。 長門、君も疲労しているんだから、休んで。 警備は神風、春風、旗風らの神風型にお願いするよ。 いいかな?」
「いいわよ、司令官! 任せてよ!」
と元気のいい返事をする神風だった。
そして秦は全員に解散を命じた。
今日明日は自由にして良いと。
各自の自室に向かうヤツ、食堂に行こうとするヤツ・・
そんな中、金剛は眠る択捉を抱きかかえていた。
「榛名ァ、手伝ってくれますかァ?」
榛名が何かと思うと、眠る松輪を指さしていた。
”松輪を頼む”と。
理解した榛名が、
「フフフ。 分かりました。 松輪ちゃんですね。」
と言って松輪を抱きかかえて、二人して執務室を出ていった。
執務室は静かになった、と言っても、秦と鳳翔とこども達が残っていた。
睦は翔子を抱き上げていた。
翔子は、睦を見つめて何か言おうとしているようだった。
ウフー、ウフーと。
皐月は千翔を抱いてソファーに座っていた。
その千翔の頬を撫でる。
「あらあら。 二人ともお姉ちゃんたちにあやしてもらってるの? 良かったわねぇ。」
と言うのは鳳翔だった。
秦はそんなみんなを見ていたが、
「さあ。 我々も引き上げるか。 大佐も五十鈴も休んでいることだし。」
と言って官舎へと引き上げることにした。
寝ていた朝霜と弥生を起こし、以後の業務を神風たちに任せることにして。
◇
ほぼ1カ月ぶりに”我が家”に帰ってきた秦たち。
「「やぁ、なんか、懐かしいね。」」
声を揃えて言うのは皐月と朝霜だった。
「ほぼ1カ月ぶりだもんねぇ。」
全員が居間に入って、炬燵に入った。
「改めて、みんなお帰りなさい。 任務ご苦労様でした。」
と鳳翔が、穏やかに微笑んでいたが・・
「うん。 お母さん、ただいま。」
「ただいま。 鳳翔。 とにかく、全員無事に帰って来れたよ。」
その言葉を聞いて、感極まったのか、
「うぅぅ・・ みんな、ホントに無事で・・ 良かった・・」
鳳翔が涙しながら、顔を手で押さえていた。
それを見た弥生が、
「お母さん、泣かないで。 ほら。 ちゃんとみんな帰ってきたんだし。」
そう言いつつ、泣く鳳翔を抱きしめた。
「そうだよ。 みんな無事に帰ってきたんだ。 だから、泣かないで。」
そう睦も皐月も言うのだった。
「そうね・・ ありがと。 泣いていてはダメね。」
と涙を拭うのだった。
「そうだよ。 お母さんは笑顔でなきゃ。 ねぇ?」
翔子を抱く睦が、翔子の顔を覗き込むようにして話していた。
その言葉を理解したのかしていないのか、翔子が、アッ、アッと小さな手を睦の頬を撫でて?来たのだった。
涙を拭って、鳳翔は思った。
皆に慰められるなんて、と。
そして、いつの間にか、大人になったみたい、と。
「でも、お腹減った~!」
朝霜の声に、皆が反応する。
「そうだね。 到着が遅かったから、お腹空いたね。」
「はいはい。 そう来るだろうと思ってましたよ。 もう準備は出来ているわよ。 さあ。」
鳳翔が皆を食堂へと誘った。
帰還初日の夕食は、豪勢なものではなく、心がホッとするような、”母の味”を醸し出す鳳翔お手製の和食だった。
みな、お淑やかに、とはいかず、ガッツくのだった。
「料理長のご飯も美味しかったけど、やっぱり、お母さんのご飯は美味しい~!」
「ふふふ。 ありがと。 あ、そんなにガッツかなくてもお代わりはあるから。」
牛バラ肉と玉ねぎを炒めた”牛肉のバラ焼き”、根菜たっぷりの”豚汁”、”赤魚の煮付け”などなど。
そしてふっくら柔らかな銀シャリに、秦の実家レシピの塩吹き梅干し。
「玉ねぎ、あま~い。」
「煮付けも、身がぷりぷり!」
「ご飯粒がキラキラ。 食べるとあまーい。」
正直言うと、今日の味付けは少々濃いめだった。
塩が多かったり、醤油が多かったりと。
疲労している体には濃いめの味付けがいいだろうと思ったのだったが、当たったようだった。
賑やかな食事タイムが終わると、
「あー、食べた食べたー。」
「うん、美味しかったねぇ。」
と言う皆の声だ。
しかも、食器にはきれいさっぱり食べられており、残飯も無かった。
「ふふふ。 これだけ綺麗に食べてくれると、後が楽でいいわ。」
「あ、後片付け、ボクも手伝うね。」
「じゃあ、私も。」
と言って皐月と睦が、割烹着を着た鳳翔の両隣に立って手伝っていた。
皐月も睦も、割烹着を着ている。 エプロンではなく、だ。
その頃、居間では・・
「ふぁぁぁぁ・・ お腹がいっぱいになると、眠ーい。」
そう言うのは朝霜だったが、
「こら。 ここで寝るなよ。 ほら、お風呂の用意は出来てるからさっさと入ってきな。 そしたら寝てもいいから。 いい?」
「ふぅわぁああい・・」
気怠そうな返事だ。
ちょっと心配だ。
(湯船の中で寝ないだろうな?)
そう思う秦だった。
「ただいま戻りました!」
そう言って入ってきたのは榛名だった。
「やぁ、お帰り。」
「はるちゃん、お帰りなさい。」
「択捉達は寝たのかい?」
「はい。 あのまま寝ちゃいました。 ご飯も食べずに、です。 でも寝顔を見てると、かわいいですね。」
そこへ後片付けを終えた鳳翔たちがやってきた。
「あら、お帰りなさい。」
「ただいまです。 鳳翔姉さん。」
「晩御飯は? 食べる? すぐに用意できるけど?」
「あ、いえ。 金剛お姉さまと済ませてきました。」
「そう。 それは残念ね。」
「あー、鳳翔姉さんのご飯美味しいですからちょっと残念ですねぇ。 でも、いまはお腹いっぱいなので。」
とテヘっと笑うのだった。
「あ、そうだ。 榛名、悪いんだけど、こいつらと一緒にお風呂に入ってくれるかい?」
「え? お風呂ですか?」
「ああ。 朝霜と弥生が今にも寝てしまいそうだからさ。 お願いできるかな?」
秦と榛名の視線が朝霜と弥生に向かう。
朝霜は今にも寝落ちしてしまいそうなほど、フラフラしていた。
「そういう事ならいいですよ。 ほら、朝霜ちゃん、弥生ちゃん、行くわよ。」
そう言って、朝霜と弥生を連れてお風呂へと入って行った。
睦と皐月は赤ちゃんと遊んでいたが、授乳の時間となっていた。
鳳翔の乳房は、出産前に比べひと回り大きくなっていた。
華奢な鳳翔の身体に大きくなった乳房がパンパンに張っている。
着物なので、見た目にはその張り具合は分からない。
鳳翔が翔子を抱き、着物の胸元を開いて乳房を露にして授乳を始めた。
「翔子ちゃん、おっぱいですよ~。」
そう言うと翔子が左の乳房に吸い付き、んく、んくと母乳を飲み始めた。
それを覗き込む睦と皐月。
「わぁ、飲んでる、飲んでる。」
秦には背を向けていたが、母乳を与えている鳳翔の姿を見る秦は、なにかほっこりするような感じがしていた。
暫くすると、翔子が乳房から口を離した。
次は千翔だ。
翔子を睦に預け、皐月から千翔を受け取った。
翔子は左だったが、千翔は右の乳房だった。
「はい、千翔ちゃん。 おっぱいですよ。」
千翔もんくんくと母乳を飲み始めた。
睦に抱かれていた翔子だったが、首を回して秦を見つけていた。
視線の先に秦を捉えると、手を伸ばして、秦の元へと行こうとするのだった。
アッ、アッ と言って。
「あれ? 翔子ちゃん、父さんとこ行きたいのかな?」
そう言って、秦に預けてきた。
「はい、父さん。」
「おう。 翔子~、お腹いっぱいかなあ。」
受け取った秦が、高い高いをしていた。
キャッキャッ言って笑っているようだった。
「笑ってるね。」
「でも、大きくなったなぁ。 ひと月だけなのに、もうずっしりだ。」
そう秦が言うと、鳳翔が、
「そうでしょ。 毎日抱いてるとそうは感じないんですけど、改めて見てみると確かに大きく、重くなってますね。」
と言うのだった。
「そうなんだ。 あんまり気にしてなかったよ。」
そう言うのは皐月だった。
そのうち、千翔も母乳を飲み終えたようだった。
「はい、皐月ちゃん。 お願いできるかしら。」
そう言って千翔を皐月に預けてきた。
「いいよ、お母さん。 千翔ちゃーん、いらっしゃいな。」
ニコリとしながら千翔を抱いた。
千翔は、アッ、アッ、と言って皐月に抱き着いてきたのだった。
着物を整えた鳳翔が・・
「それじゃ」
と言って、台所へと向かっていった。
ん?
と思っていると、小さな哺乳瓶を2つ持ってやってきた。
「え? 哺乳瓶?」
二つの小さな哺乳瓶には100ccほどの白い液体が入っていた。
「ええ。 この子達、1回の母乳だけでは足りなくて、飲まない間に母乳を絞っておいたものなんです・・」
鳳翔が何か申し訳なさそうな表情でやってきたのだが、その顔に秦が・・
「何を申し訳なさそうな顔をするんだい? 足りないのは、それだけこの子達がお腹をすかせてるって事だろ? それにこの子達の成長は、必然なんだから、そんな顔をしないで。」
「そうは言っても、母からはいろいろと言われていますし・・」
秦は、ここが震源か、と思った。
「鳳翔。 お義母さんには俺から言っておくから、昔は昔、今は今、だよ。 それに、鳳翔は双子じゃないだろ? 一人と二人じゃ違って当然だよ?」
「はぁ、そうは思うんですけど・・」
「はぁ・・ しっかり者の鳳翔も、やはり人の子だなあ。」
と言って、ククッっと笑った。
「もう! 笑わないでください! これでも真剣に悩んでたんですから!!」
プンプンと怒り顔の鳳翔だった。
「ああ、悪い。 ごめんよ。 そういう事なら俺にも相談してくれよ? 少しでも君のためになりたいからさ。」
「じゃぁ、そうさせてもらいますね。」
そう言って、哺乳瓶の一つを睦に渡して、
「睦ちゃん、お願いできるかしら? やり方はこうやって・・・」
「了解だよ。 はい、翔子ちゃん。」
吸い口を翔子の口にあてがうと、吸い付いてきた。
両手で哺乳瓶を持とうとする。
「じゃぁ、皐月ちゃんもお願いできるかしら。」
「うん、いいよ。 はい、千翔ちゃん。」
翔子と同じように、千翔の口に吸い口をあてがうと吸い付いてきた。
「「わぁ、飲んでる飲んでる。」」
5分としないうちに、
「もう飲んじゃったよ。」
「なんか早いね。」
二人の赤ちゃんはミルクを飲み終えたようだ。
二つの哺乳瓶は、ほぼカラの状態になってしまっていた。
「二人とも、お腹いっぱいかな? ふふふ。 いっぱいみたいね。 じゃぁ、ご馳走様ね。」
そう言って哺乳瓶を片付ける鳳翔であった。
そのうちに、お風呂に行っていた連中が帰ってきた。
「あー、さっぱり。 でも、ねむぅーい・・」
「まったく、どっちだよ。」
呆れる秦だ。
「朝霜ちゃんたらぁ。 あぶなかっしいわねぇ。 大丈夫?」
「どうしたんだ、榛名?」
「いえ、朝霜ちゃんたら、湯船の中で気を失いかけて、何回湯船に沈んだか・・」
「え? そうなの?」
「はい・・ だから危なっかしくって・・ こっちがゆっくり出来なかったくらいですよ・・」
「おぉ、それは悪かったなぁ。 朝霜、もう部屋で寝ていいぞ。 弥生も。 ほら、早くしな。 あ! 半纏着てけ!!」
「ほぉぉぉい・・」「はぁ・・い・・」
気怠そうな返事だったが、フラフラと部屋へと入って行った。
「榛名も悪かったな。」
「大丈夫です。 それじゃ、私も休みますね。」
「ああ。 お休み。」「お休み、はるちゃん。」
そう言って榛名も部屋へと入って行ったのだった。
「さてと・・ 睦、皐月、卯月。 お前たちもお風呂に入ってきな。」
「「はあーーい。」」
「で、だ。 翔子と千翔をお風呂に入れるの、手伝ってくれる?」
「ん、いいよ。」
「あら、いいの? 赤ちゃんのお風呂は大変よ?」
「大丈夫だよ。」
とは睦だ。
「わーい、うーちゃんも赤ちゃんと一緒に入りたーい。」
「それじゃぁ、お願いしようかしら。」
鳳翔がそう言うと、三人と鳳翔、赤ちゃん二人がお風呂へと向かった。
一人残された秦は、炬燵に足を突っ込んで考えていた。 これからの事を。
(さてさて・・ 今日は帰ってきたばかりだから、呑気にしてられるけど、明日からはどうなるのやら・・ このままって言う訳にはいかんのだろうな・・)
なんて考えていた。
五分ほどすると、鳳翔が襷がけの姿で、バスタオルを抱えて戻ってきた。
「あなた、この子、翔子をお願いします。」
見ると、バスタオルにくるまれた翔子がいた。
どうやらお風呂上りらしいく、身体から湯気が上がっていた。
「ああ、了解だ。」
そう言って翔子を受け取ると、鳳翔はまたお風呂へと戻っていった。
バスタオルで頭をふきふき、身体を拭くと、にっこりと笑うのだった。
「お風呂は、気持ちよかったかぁ。」
そして鳳翔が再びバスタオルを抱えてやってきた。
「あなた、こっちもお願いします。」
翔子の身体を拭き終わって服を着せたところだった。
「おぅ、了解。」
翔子と同じく、バスタオルにくるまれた千翔がいた。
「やぁ、おかえりぃー。」
そう言って身体を拭くのだった。
赤ちゃんに服を着せて、布団に寝かせていた。
秦の隣に鳳翔が帰ってきて、
「ふぅ。 あの子たちったら案外上手くやってくれたわ。 助かっちゃいました。」
そう言って微笑む鳳翔だった。
「そうか。 そりゃよかったな。 じゃぁ、これからもあいつらに頼むか?」
「フフフ。 そうですね。 それもいいですね。」
そう言って二人で笑いあうのだった。
そして睦たちが帰ってきた。
「ああ、いいお湯だった!」
「うぅうん、さっぱりしたぁ。」
「お帰り。 ありがとうね。 翔子と千翔をお風呂に入れてくれて。」
「どうと言うことないぴょん。」
「じゃぁ、これからもよろしくお願いするわね。」
「「任せてよ!」」
そう言って胸を張る睦、皐月だった。
「でも、眠くなってきたぴょん・・ もう寝るぴょん・・」
「ああ。 お疲れさまだね。 ゆっくりお休み。」
「「はぁーい。 おやすみなさーい。」」
そう言って自室へと入って行った。
残された秦と鳳翔は・・
「さて、二人を寝かせたら、風呂に入るか。 一緒に。」
と言う秦に、頬を赤めて、
「ええ。」
と応える鳳翔だった。
翔子と千翔をベビーベッドに寝かせ、秦と鳳翔が二人してお風呂に入るのだった。
秦と鳳翔・・
まったりと、ゆったりと、正に熟年夫婦のように。