しかし、いつまでもまったり出来ない状況には変わりはない・・
まだ、そう。 まだ終わっていないのだ・・
翌日0830の執務室に全員が揃っていた。
「おはよう。 朝から全員に揃ってもらったが、今後の話をしたいと思ってね。」
「どういう事だ、提督。」
まず応えたのは長門だった。
「うん。 まずは、帰ってきた各艦の修理を行う。 使えるドックは全部使う。」
「全部使っても、全艦の修理が終わるのはかなり先になるのでは?」
そう聞いてきたのは五十鈴だった。
「そうだな。 だから、軽微と思しき艦は、民間の工場のドックも使って修理を行うつもりだ。」
「「え? 民間のも??」」
「ああ。 現状において無傷なのは居留守部隊だった艦だけだから、何とか早急に修理をする必要があるからね。」
そう言って皆の顔を見渡す秦だった。
「それで、全体としての今後の話は・・ 今日から軍令部や国防省で話し合われるだろう。 その結果次第、と言うことになるだろう。」
「まぁ、そうでしょうね。 それによって・・ ですか。」
そう言ってきたのは大石大佐だった。
「ああ。 ま、民間のドックはこれから話をつけるから、早ければ昼前にはドックに入れると思う。 皆、各艦の状況確認をしておいてくれ。」
【了解!】
そう言って、執務室を出ていった。
◇
昼前になって、民間のドックを使えることになった。
大型のドックには、戦艦・長門、同・榛名、そして空母・鳳翔が入る事になった。
そして、中規模のドックには駆逐艦クラスが数隻まとめて入るのだった。
空母・鳳翔がドックに固定される作業を見ていた秦と大石大佐、榛名の三人。
「おぉぉ。 パラオで損傷個所を調べた以上にやられてるなぁ。」
空母・鳳翔は、被雷1本と聞いていたが、それ以外に艦尾艦底にへこみや歪みが認められた。
「うわ・・ 直接当たったわけじゃないのに、かなり影響を受けているな・・」
舵が歪んでいた。
魚雷を回避した、はずだった。
それでも良く動いてくれたものだ、と思う秦だった。
その空母・鳳翔以上なのが戦艦・長門だった。
上部構造物は破孔で穴だらけ、火災の跡だらけだったが、水線下も酷いものだった。
魚雷を少なくとも3本が直撃した後があった。
更にへこみが数か所。
亀裂や破孔が明らかに分かるほどだった。
戦艦・榛名も、四番砲塔が大破しているのは確認していたが、その影響は艦底にまで及んでいた。
明らかに艦内から外に向かって船体が膨れていた。
水線ギリギリに砲弾があたった後もいくつかあった。
「うわ・・ ここまで酷かったんですね・・ 良く浸水しなかったわ・・」
自身が操ってきたとはいえ、ここまでとは思わなかったのだろう。
榛名が被害をみて驚いていた。
他にも巡洋艦、駆逐艦のドックも見て回った秦たちだった。
「被害状況の報告は・・ 明日までに纏められるでしょう。」
大石大佐の言葉に秦が応える。
「そうだなぁ。 それでお願いするよ。」
一通り見て回った秦たち。
「提督、みんな被害は大、ですが・・」
「なるべく早く修理をしてもらおう。 作業員たちには無理をさせることになるけど、ね。」
「分かりました。 ドック作業員に伝えます。」
◇
結局、夕方になって執務室に帰ってきた秦たちに、
「父さん、お帰り。」
と言ってくれたのは皐月だったのだが・・
「ねぇ、ボクたちはどうすればいいの?」
と聞いてきた。
艦が沈んでしまっている皐月、弥生、卯月の三人は、手持無沙汰のようだった。
そんな三人を、鳳翔が子育ての手伝いをさせてはいたのだが・・
「おかえりなさい、あなた。 榛名ちゃんも。」
「ああ。 ただいま。」
「それで、どうでした?」
「ん、思った以上にひどい状況だよ。 特に榛名は・・ 数カ月かかるかも、だね。 ま、ドックからの見積次第なんだけど。」
「そんなに? 見た感じは問題ないのかな、と思ってたんですけど。」
驚く鳳翔だった。
「俺もそうは思ってたんだけどね。 特に四番砲塔の周りの装甲が内部から外へと膨れてて、最悪、艦尾を切り落とすかも・・・」
「そ、それは酷いですね・・」
「とにかく、明日以降に見積が出るだろうから。」
「はい、そうですね。」
そんな会話が交わされていた時だった。
一本の通信が入ってきた。
横須賀の秋吉からだった。
「よう。 こっちはようやく横須賀に着いたぞ。 そっちはどうだ?」
「これは秋吉中将。 お疲れ様です。 こちらはついさっき各艦をドックに入れた状態です。」
「そうか。 こっちはこれからだ。」
「そうなんですね。 で、御用の向きは、なんでしょう?」
「帰り着いて早々なんだが、上層部や役人たちと今後の話をすることになった。 その内容次第では、かなりの体制変更を伴う可能性がある。 当然、お前さんにも影響があるから、そのつもりでな。」
「また、ですか・・」
「なんじゃ、つまらなそうな声を出すな。 前にも言ったじゃろう。 お前にふさわしい地位だと。」
「今でも十分すぎますよ。 私は・・」
「おっと、そこまでじゃ。 退役はさせんからな。」
先手を取られた、と思った秦だったが・・
「お前さんは、いったい何人家族がいると思っておる? しかも増えたんじゃろうが。 将官クラスの給料でないと苦しいぞ?」
そう言って、脅される秦。
「そこで脅しますか?」
「ガハハハ。 そう言うつもりは無いわけではないが・・ 貴様、家族が増えたんじゃったな。」
「はい。 赤ん坊が二人、増えましたので・・」
「お前さんと鳳翔の子か。 可愛いじゃろうな。 ワシからすると孫のような感じがするのう。」
はぁ・・ と言うしかない秦。
「とにかく、近日中に連絡が来るはずじゃ。 それまでは現状維持でな。」
「はい。 分かりました。」
「それではな。」
と通信が切れた。
ふぅ、とため息をついて椅子にもたれる。
「廻りからどんどん埋められていく・・」
天井を見つめながら呟くのだった。
「ふふふ。 仕方ありませんね。 あなたは出来る人ですから。」
そう鳳翔が言うと、
「鳳翔・・ お前さんまでそう言うか・・」
と更に椅子に沈み込む秦だった。
「一度、聞いてみたかったんですが・・」
そう言ったのは榛名だった。
「なんでそんなに退役したいんですか? 昇進はいいことだと榛名は思いますけど・・」
「まぁね、昇進するだけなら、ね。 役が上がる、当然、責任も重くなるわけだ。」
「それはそうですけど・・」
「俺としては・ 人の悪意を、散々見てきたから、そこに関わり合いたいとは思わないだけなんだけど・・」
「それはそれは酷かったもんねぇ。」
横から話すのは、秦の事を知る睦だった。
「ああ。 まぁ、家族が増えたけど、俺個人としては、睦やこども達とじっくりゆっくりと触れ合いたい、鳳翔のそばにずっといたい、と思っているだけなんだよ。」
そう秦が言い、その目は鳳翔を見つめていた。
「出来れば・・ 朝から晩まで、ずっと鳳翔を抱きしめていたい・・ その気持ちなんだけどな・・」
「もう・・ 恥ずかしい・・」
頬を赤める秦と鳳翔だった。
その場にいたこども達は・・
”はいはい。 ご馳走様。”
と口にはしないが、態度はそう言いたげだった。
「私は、ずっとあなたの傍にいますから。 ふふふ。 そうですね、もしあなたが軍を辞めたら・・ 私は小料理屋でも始めようかしら。 もちろん、あなたにも手伝ってもらいますけど。」
「ああ。 その時は手伝うさ。 一緒に居れるなら、喜んで。」
互いを見つめ合う秦と鳳翔。
「あーあ、暑い暑い。」
「そういう事は、二人の時にしてください。 もう。 義兄さんも鳳翔姉さんも。」
呆れているのは榛名もだった。
「あー、その時は榛名も一緒ですよ。 いいですね! ふふ。 看板娘をやってあげます。」
だと。
「あら。 それだといいわね。」
「それじゃ、お母さんの美味しい料理と、美人の看板娘で大入り間違いなしだね!」
「あたいたちはどうすんだよ? 看板娘がいるんじゃ・・」
「おいおい、今から話を進めないでくれ。 まだ辞めるって決めてないんだぞ?」
呆れる秦だった。