そこに両家の親たちも呼ぶことに。
すると・・
「あ、そうだ。」
唐突に声を出す秦。
「ところで鳳翔、お宮参りに行かないと。 まだ行ってないだろ?」
産まれて一カ月くらいの赤ちゃんを、地域の産土神さまへのご報告するのであるが・・
既に翔子と千翔は2カ月になっていたのだ。
「お宮参りですか?」
「ああ。 翔子と千翔の。」
「確かに、まだ行ってませんけど・・」
「それじゃあ、行こうか。 そうなると、両家に連絡しないといけないな。」
「そうですねぇ、確かに、両家にとって初孫ですし・・ 母とお義母さんには少なくとも連絡しないと・・ ですね。」
「え、なになに? お宮参り? ボクも行く!」
「あ、あたいも行くから! ね、いいよね、しれーかん?」
「ああ。 行くならみんなで行こう。 それじゃ、おふくろたちに連絡するか。」
こども達も”行きたい”というお宮参り。
秦と鳳翔はその日のうちにそれぞれの実家に連絡するのだった。
急な決定だったが、お宮参りは、安産祈願で行った亀山神社に行くことにした。
日取りは次の休日に行うことにしたのだった。
「じゃぁ、急いで用意をしないと・・」
という鳳翔だったが、
”あなたはそんなに用意する物はないのよ?”
と母に言われていた。
母親から
”こっちから持っていくから。”
と言われたのだった。
◇
そして、次の休前日。
それなりの荷物を持った親子とみられる三人組が広島駅に降り立ち、呉線の列車に乗り換えていた。
「結構、遠いな。」
「私とお母さんは一度来たから、そうは思わないよ?」
そんな会話が聞こえてきていた。
「ほら、父さん、お母さん。 早く! 次はあの列車だよ!」
呉線の列車は4両編成の快速だった。
乗換に時間が掛かったが、列車には乗れたものの、ほぼ満席に近かった。
乗り込んだ隣の車両でボックス席が空いていたので、三人組はそこに座った。
「やぁ、間に合ったな。」
「ええ。 後はこのままね。」
”呉線、快速広ゆき、発射しまぁす!”のアナウンスの後、扉が閉じられ、動き出す列車。
暫くして、一人の年老いた女性がやってきた。
少々大きめの荷物を抱えていた。
どうやら空席を探しているようだったが、三人が座るボックス席のそばにやってきて、
「すみませんが、ここ空いてますか?」
「ええ。 空いてますよ。」
そう言って娘に荷物を網棚に移させた。
「すみませんね。」
そう言ってボックス席の一つに座った。
そこで、母親が、
「大きな荷物ですね。 どちら迄?」
と問うた。
年老いた女性が、
「え、呉までですね。」
と答えた。
「あら、私たちも呉までなんですよ。」
「おや、一緒やね。」
「お一人ですか?」
「ええ。 呉の駅で息子らが待っているらしいので。 駅までは一人ですわ。」
「あら、そうなんですか。 息子さんがお出迎えですか。 いいですね。」
母親の会話を聞いていた娘が、
「そういや、お母さん、私たちは駅で誰が迎えに来てるの?」
と母親に聞いた。
「えっと・・ 確か、睦ちゃんが来てることになってるけど・・」
そう言うと、
「睦ちゃん?」
と女性が聞き返してきた。
「ええ。 娘のこどもなんですよ。 確か今年14歳だったわね。 それが何か?」
「いえ、ウチの息子のこどもも睦って言いますのでね。」
ん?
「おいくつですか?」
「今年で中学2年やね。 だから14。 いっしょやね。」
ん?
女性と母親は、同時に何かおかしい、いや何か変、と思った。
そんな会話をしていても列車は進んだ。
既に広島の街を離れ、車窓には海が広がっていた。
「今日は、どのような赴きで?」
と女性が問うと、
「ええ。 明日、孫のお宮参りなんですよ。 フフフ。 女の子の双子なんですけど。」
母親がニコリと嬉しそうに答えた。
「では、あなたは?」
母親が聞き返すと、
「ええ。 私も明日、孫のお宮参りでして。 奇遇ですね。 女の子の双子なんです。」
と女性が答えた。
!!
!!
そこまでで、二人の女性が、思い至った。
「あのう、失礼ですけど、息子さんのお名前は・・」
「息子ですか? 名を秦と言いますが・・」
「やっぱり! ウチの娘は鳳翔と言います。」
「おや!」
二人の女性は、お互い驚いた表情だ。
「じゃぁ、なに、 義兄さんのお母さん?」
「え?? 秦君のお母さんだって?」
娘と父親が驚いていた。
「それじゃ、そちらさんは、鳳翔の親御さんかい? おやまぁ、こんなところで。」
四人が、秦の母親、鳳翔の家族と言う事が分かって驚くと同時に、
「ウチの息子がお世話になって・・・」
「いいえ。 こちらこそ。 ウチの娘がお世話になっていまして・・・」
お互いに恐縮し合う母親同士であった。
「それじゃあ、出迎えは義兄さんと睦ちゃんなのね。」
「そうね。 秦からは鳳翔の家族も来るとは聞いていましたが、ここで会えるとは。」
「ええ。 私も、秦さんのお母さんがどんな方なのか、と思っておりましたが。」
二人の母親が笑っていた。
”間もなく、呉、呉です。 お降りの方はお忘れ物のないようご支度ください・・・・”
「あ、もう着くよ! 荷物忘れないでね、お父さん!」
「なんでワシ・・」
「あら、あなたは唯一の男手なんですから、いいじゃないですか。」
そうしているうちにホームに差し掛かって、列車が止まった。
「やあ、着いた着いた!」
四人が降り立つと、改札の外に軍服姿の男性と女の子らが居るのが見えた。
◇
「ねぇ、父さん。 おばあちゃんたち、次の列車で来るの?」
「ああ。 何故か、広島からは同じ列車になってたな。 何か合わせたみたい・・」
双方の家族には、お宮参りの前日に呉に到着するようには、伝えたものの、呉線の列車は同じになるとは思ってもみなかった。
「一緒だとお出迎えが一回で済むね。」
呉駅の改札口で待つのは、秦と睦、弥生の三人だった。
そして、予定時刻通りに母親たちが乗った列車が、駅に着いた。
列車からぞろぞろと人が降りてきたが、母親たちの顔を認めたのは、改札を出る人波の最後の段階になってからだった。
最初に気付いたのは尚子だった。
「あ! 睦ちゃーん!! お義兄さーーん!」
そう言って手を大きく振った。
そして気付いた睦も大きく振り返していた。
「おーーい、尚子おねーちゃーん!!」
改札を出てくる四人の姿を見て、秦が頭を抱えていた。
「やっぱり、一緒だったか・・」
と。
「ようこそ。 お袋。 ようこそ、お義母さん、お義父さん、尚子ちゃん。」
秦が四人に挨拶する。
「いやぁ、列車の中で一緒になってな。」
「ええ。 最初は呉までですねって言ってたんだけど、話してるうちに、あれ?ってなって。」
「そしたら、身内だったんだって。 ね、お母さん。」
最後は尚子が話した。
「まぁ、それは良かった、のかな。 とりあえず、ホテルにチェックインだけして。 それから官舎へ行くから。」
四人を連れて、駅前のホテルへと向かい、チェックインを済ませた。
荷物を部屋において、ホテルの前からタクシー二台に分乗して呉鎮守府官舎の前までやってきた。
「着いたよ、おふくろ。」
「おやまぁ。 大きいやないの。」
と驚く秦の母親。
「最初は、みんなそうだよなぁ。 でもすぐ慣れるから。」
そう言って玄関から中に入った。
「ただいま戻ったよー。」
「たっだいまーっ!」
すると奥からパタパタと小走りにやってくる足音が。
軽快な足音だった。
「はあーーい、今行きまーす!」
鳳翔の声だった。
「あ、お帰りなさい、あなた。」
「ただいま。 みんな連れてきたよ。」
「おや、鳳翔。 元気そうやな。」
「お義母さんもお元気そうで何よりです。 さあ、入ってください。」
「こんにちは、 鳳翔お姉。」
「いらっしゃい、尚子ちゃん、お母さん、お父さん。」
「やぁ、鳳翔。 久しぶりだな。 元気そうじゃないか。」
「お父さんも。」
「で、赤ちゃんは、どこだい?」
「え? 奥ですけど・・ その前に! 手を洗ってください!」
「え、なんで?」
「なんで、じゃないです! ダメですから! ちゃんと洗ってからでないと触らせません!!」
すぐに赤ちゃんを見ようとする父親を制止する鳳翔だった。
しかも、本気で怒っているようだった。
「あ、お義父さん、ここは言う事を聞いてください。 ここでは鳳翔を中心に回ってますので・・」
そう秦に言われて、渋々言う通りにする父親だった。
「そ、そうなのか・・」
ふふふ、はははは
その姿を見て、鳳翔やこども達が笑っていた。
秦は、”ご愁傷さま・・”と思ったのだった。
◇
全員が居間に上がり込んでいた。
元々広かった部屋を上げ床にしていたが、全員が入るとやや手狭になった。
布団で眠る赤ちゃんを覗き込む母親’s。
「まぁまぁ、かわいいじゃない。」
「きゃー、かっわいい~。」
尚子が赤ちゃんの頬をツンツンする。
「ぷにぷに~。」
「これ、尚子。 あんまり触ってると、せっかく寝てるのに起きちゃうわよ?」
「え~、いいじゃん、いいじゃん・・」
「もう、尚子お姉ちゃんたら・・ 泣き出すと大変だよ・・」
「そんなこと言わずに。 どれどれ、ワシも・・」
と言って父親が翔子の頬を撫でたときだった。
目を覚ましたようで、最初は父親をボーっと見ていたかと思うと、
”ぎゃーーーーーッ、あーーーーーーッ、アーーーーッ”
と大声で泣き出してしまった。
両の手を思い切り握って、身体を強張らせているようだった。
「あちゃー・・」
泣いちゃったよ・・的な視線が、皆の視線が父親へと向かっていた。
「え、お、おーーい、何とかしてくれ・・」
泣きそうな顔をして、おろおろしている姿に鳳翔と母親が笑っていた。
「ふふふ。 仕方がないわねぇ。」
と母親が言ったが、いつまでも泣き止まない翔子を睦が抱き上げていた。
「翔ちゃん、大丈夫だからねぇ、お姉ちゃんが居ますからねぇ。」
そう言いながら背中をポンポンしていると、泣き止んできた。
”アッ、アッ”
と言いながら、睦に抱き着いていた。
「もう、大丈夫だよー。 誰も意地悪しないからー。」
と皐月が翔子の涙を拭いていた。
赤ん坊は分からないことが多い。
睦と皐月があやすとすぐに泣き止んだ。
そして笑いながら睦の頬を掴もうとしてきたのだった。
”ア、ウ、アー”
と言って。
「さすが睦ちゃんと皐月ちゃんね。」
そう言うのは、千翔をあやしていた榛名だった。
「へへへ。 慣れたものでしょ。」
その様子を見ていた母親が、
「あら。 鳳翔、あなたは? 榛名ちゃんにも抱っこさせて・・」
と聞いた。
鳳翔の返答は、
「私? 今は皆があやしてくれるので。 ふふふ。 私が育てるというより、みんなが育ててるって感じよ。」
ということだった。
「あんた、いい身分じゃない。 妊娠中は秦さんに任せっきりで、今度は皆にまかせっきりじゃない・・」
なんとまぁ、と呆れる母親だ。
「ねぇ、睦ちゃん、私も抱いていい?」
と尚子が聞く。
「うん。 いいよ。 ・・はい。」
と睦から尚子へと抱くのが替わった。
鳳翔はちょっと心配だった。
「ん、あ! 案外重い!」
尚子に抱っこされる翔子だったが、その目は明らかに、”誰?”と言っているようだった。
「へへへ。 翔子ちゃんか。 こんにちは。 私はあなたのお母さんの妹だよ。 よろしくね。」
と笑って見せた。
すると、笑って尚子の顔に手を伸ばしてきた。
”あー、アー”
って。
そして、榛名が抱く千翔を、秦の母親に渡すのだった。
「どうぞ、お義母さん。 下の子で、千翔ちゃんですよ。」
母親が受取り、あやす。
「まぁまぁ、あなたが千翔ね。 おばあちゃんよー。 よろしくねぇ。」
すると、千翔も笑って母親の顔へ手を伸ばそうとするのだった。
「もう2カ月になるんやったか?」
「ああ。 2カ月ちょっとになるかな。」
「そうすると、ちょっと軽いんかな?」
「そうですね、産まれたときからして体重は倍ほどにはなってるんですが、所謂標準と言うモノからすると軽いですね。」
そう言うのは鳳翔だった。
ま、双子だったし、ある程度は致し方が無いのだが。
その日の夕飯は、母親’sたちと共に官舎で摂るのだった。
食事後、明日に備えて、親たちはホテルへと引き上げていった。