幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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新しい官舎を建てることになった。
艦の修理も行うことに。
しかし、傷は大きくかったのだった。

それでも・・



新しい建物と別れと

秋吉との会話のあと、すぐに新しい官舎、施設の建設を命じた秦。

妖精さんの仕事は早い。

土地の造成、建物の建設、と建築には何かと時間がかかるのだが・・

しかし! 発注後、1週間で目に見える形は整っていた。

新・鎮守府となる建物は、本館と艦娘寮、提督の官舎の三棟がコの字型になった建物になった。

高台に作られたため、以前よりも海が見渡せる位置になった。

さらに旧建物よりやや南向きとなっていた。

建築中の建物を下見に来た秦、榛名。

 

「さすがに、仕事が早いなぁ。 もうここまで出来ているのか。」

 

「そうですね。 この調子ですと、あと1週間ほどで転居出来るかと。」

 

「そうか。 ここは見晴らしがいいな。 瀬戸がよく見えるし、港も見渡せるな。」

 

「街からは遠くなりますが、見晴らしの点では、前よりもいいですね。」

 

榛名と秦が建物を背に海を見ていた。

しかし、季節はまだ3月の半ばになったばかりだった。

風が冷たく吹いていた。

 

「う~、まだまださぶいなぁ。」

 

「内装はこれからですが、中に入りましょう。 多少は暖かいですから。」

 

そう榛名に勧められ、建築中の建物に入った。

内装は、今いる官舎とほぼ同じ形に依頼した。

それでも生活の場となる範囲は、みんなの意見を求め、それを反映させている。

本館には、提督の執務室、作戦指令室、通信室、医務室、休憩室兼食堂など。

艦娘寮には、一部屋四人が入る部屋がいくつか。 1階にお風呂や娯楽室、集会所などだった。

官舎は、秦たち家族の生活の場だった。 鳳翔こだわりの厨房や水回り、家族用風呂、居間などなど、2階に部屋。

そして今回の建物は居間までとは違う点があった。

それは・・

艦を失った艦娘たちの生活の基盤たる住居としての寮であった。

寮というより下宿が近いだろうか。

ここに住まう事が決まっているのは、金剛、択捉、松輪の一家と呉の居留守部隊で今後も秦の配下になる旗風ら神風型駆逐艦娘の4人だった。

その点で行くと、現状より小ぶりの建物だった。

・・・

下見を終えて執務室に戻ってきた秦。

 

「さてと、各艦の修理状況を聞こうか・・」

 

 

「・・・・という状況です。」

 

「そうか・・ もう3月の半ばを過ぎたのにな・・ やはり、傷は大きかったか・・」

 

「思った以上ですね。」

 

呉に帰投して1ヶ月以上経つが、修理が完了したのは空母・鳳翔のみ、だった。

駆逐艦・朝霜の損傷は上部構造物だけと思われていたが、ドックに入れてみると、船底には歪みや亀裂が多数見つかった。

結果的に、戦艦・榛名と共に、外装甲板の取り替えが発生し、作業に時間がかかっていた。

 

「こんなにやられてたんだネ。」

 

そう言う朝霜に、秦は

 

「よくこれで帰って来れたもんだなぁ。」

 

となかば感心していた。

長門やその他の艦艇は自走出来るところまでは何とかなるそうだった。

 

「睦月型の三隻は?」

 

「はい。 機関の更新に手間取っていますが、今月中に更新のメドが。」

 

「武装関係は?」

 

「機関の更新が済み次第、取り掛かります。 作業単体では3週間ほどあれば、なんとか。」

 

「手間はかかるだろうが、何とかやってくれ。」

 

秦はそう言うしかなかった。

ドックでの作業に、自身が手を下すことが出来なかったから、なのだが。

空母・鳳翔の修理完了に伴い、航空隊の訓練が再開されるのだが、搭載機の更新を行った秦。

 

「鳳翔。 機種転換を行うから、訓練を指示してくれるかい?」

 

「はい、いいですけど・・ 睦ちゃんでなくていいんですか?」

 

「ああ。 出来れば睦と一緒がありがたいんだけど。」

 

「それでしたら了解です。」

 

空母・鳳翔の搭載機の更新を指示した秦だったが、

 

(やはりしばらくは時間が掛かるだろうな・・)

 

と思っていた。

 

 

秦は、何もしない訳にもいかなかったので、空母・鳳翔だけでも訓練を始めることにした。

訓練の開始を指示し、予定を組み上げていく。

暫くして、

 

「提督。 訓練開始までの予定が組みあがりました。 こちらです。」

 

と言って榛名が予定表を秦に見せた。

 

「詰めれば三日ほどで準備が完了しますが、いかがしましょう?」

 

「ありがとう。 作業は詰めなくていいよ。 それだとどれくらい掛かる?」

 

「およそ一週間かと。」

 

「じゃあ、それでお願いするよ。」

 

「分かりました!」

 

秦は睦に向かって、

 

「睦も手伝ってくれる?」

 

と聞いた。

 

「うん、いいよ!」

 

と睦は元気よく返してきた。

 

「ねぇ、あたいたちはどうすればいいの?」

 

そう聞いてきたのは朝霜だった。

 

「朝霜ちゃん。 ボクたちはやることがあるじゃん?」

 

「何を?」

 

「な、何を、じゃないよ! まだ改造中でしょ?」

 

「でも、暇じゃん。 見てるだけだし・・。」

 

「だーめ! 見てるだけでも・・」

 

「まぁまぁ、皐月、そう言いなさんなって。」

 

「ダメだよ、父さん。 特に朝霜ちゃんは甘やかすと図に乗るんだからさあ。」

 

右手を腰にあてて呆れる皐月ではあったが・・

 

「ちょっと! 皐月ちゃん、その言い方酷くない? いくらあたいでも凹むよ?」

 

「これこれ。 朝霜にはちゃんとドックの作業を見ておくように。 それができたら手伝ってもらうから。 それだといいだろ?」

 

「ほーーい」「しょうがないねぇ」

 

だと。

渋々とはいえ、納得したような・・。

 

 

その日のお昼休憩で官舎へと戻った秦。

 

「ただいま。」

 

居間では鳳翔が二人の赤ちゃんを相手にしていた。

 

「ばぁー、今日もご機嫌ねぇ、二人とも。」

 

そんな鳳翔に声を掛ける秦だった。

 

「お疲れさま、鳳翔。」

 

その声に驚いて振り向いた。

 

「あ、お帰りなさい。 お昼ですね? 準備は出来てますよ?」

 

「ああ。 ありがとう。」

 

「たっだいまぁ!!」

 

と言ってこども達も帰ってきた。

皆でお昼ご飯を摂って休憩する。

その時、秦が鳳翔に声を掛けた。

 

「ねぇ、鳳翔? 空母・鳳翔の訓練をやろうと思うんだけど、どうだい? 久しぶりに乗ってみるかい?」

 

すると、少々驚いた顔をして、

 

「あら、いいんですか?」

 

と聞き返すのだった。

 

「ああ。 訓練と言っても、修理が終わった後の試験航海なんだけどね。 あ、航空隊の発着艦訓練もやるんだけど?」

 

「あー、私が乗るとなると、この子達の面倒は誰が?」

 

「いや、その子たちも一緒に、と思ってるんだけど。」

 

「まぁ。 一緒にですか?」

 

「ああ。 どうだろうか?」

 

「フフフ。 いいんじゃないですか。 私も久しぶりに艦橋へ上がれるんですね。」

 

微笑みながら二人の赤ちゃんを見る鳳翔だった。

 

「ああ。 睦の活躍を直に見れるぞ。」

 

「あ、それは楽しみですね。」

 

と言って赤ちゃんの頬にスリスリして微笑む鳳翔だ。

 

「あなたたちも初めてでちゅねぇ。 フフフ。 一緒に乗りましょうねぇ。」

 

そう言ってあやすのだった。

 

「でも、その前に、大石大佐と五十鈴の送別会と、長門たちの送別会をやらないとな。」

 

「そうですね。 大佐と五十鈴ちゃんは佐世保でしたか。」

 

「ああ。 二人そろって佐世保だ。 長門たちは横須賀だし。」

 

「残るは・・ ウチの家族と、神風型の四人と、艦を持たない連中だけだな。」

 

「送別会は、合同でしょ、父さん?」

 

「ああ。 わざわざ別個にやる必要は無いし。 やるときは盛大にな。」

 

 

3月下旬になって、長門たちの横須賀への異動日が決まり、それに合わせて送別会を行う事になった。

昼間から、食堂で。

宴会と言うには寂しい人数だが、それでも賑やかにやろう! と相成ったわけだが。

 

「長門、神通、他の艦娘たちも、今までご苦労様。」

 

「ありがとう、提督。 私としては提督の下でもっと働きたかったがな。」

 

「ははは。 そう言ってくれるのはありがたいが、こればかりはな。 命令である以上、従うしかないわけだが・・。」

 

「提督、いろいろとお世話になりました。」

 

「やあ、神通もな。 艦の方は航行には支障ないかい?」

 

「はい。 修理妖精さんたちが頑張ってくれましたので。 戦闘はまだ無理だと思いますが、航行には支障ない程度まで修復しています。」

 

横須賀に移動となる戦艦・長門、軽巡・神通を始めとする艦は既にドックを出て呉港内に浮いていた。

全艦の機関は動いており、いつでも出港可能な状態になっていた。

同日に佐世保へと移動する艦も港内に浮いていた。

佐世保に行くのは大石大佐、五十鈴の他に海防艦たちだった。

択捉と松輪は金剛と共に呉に留まるが、それ以外の艦を有する海防艦娘は全員が佐世保行きだった。

横須賀、佐世保への出発は明日0600だった。

 

「提督、お世話になりました。」

 

そう言ってきたのは大石大佐だ。

 

「いやいや、こっちこそ世話になりっぱなしだったね。」

 

「何を仰いますか。 いろいろと勉強させていただきました。」

 

「五十鈴も世話になったね。 二人の晴れ姿を見れないのは残念なんだけどな。」

 

「も、もう。 そういう事言うんだから!」

 

顔を赤くしてそっぽむく五十鈴だ。

それを見て皆で笑うのであった。

 

「提督、結局呉に残るのは?」

 

「ああ。 第一対潜駆逐艦隊の6隻と、神風型駆逐艦の5隻、イ号潜水艦各型式あわせて20数隻だけだよ。」

 

「やはり、少ないですねぇ・・ 昔に比べると・・」

 

「そう言わないでくれ。 みんな生き残りの猛者たちだよ。 今となっては貴重なベテランだよ。」

 

秦もみな笑っていたが・・

 

「あら、司令官様。 褒めていただけるのは嬉しいのですけれど、ベテランとは、ある意味、年寄りって言ってます?」

 

そう言うのは春風だった。

 

「ん? そうじゃないよ。 素直に貴重な戦力だって意味なんだけど。」

 

「まぁ、艦齢は古いですけれど、私たちは女学生ですわよ?」

 

巻き髪がふわふわして、袴を穿き、ブーツを履いている春風が少々お怒り気味になっていた。

 

「大正ロマン風だもんね。 うん、そうだね。 神風や春風たちもこれからもよろしく頼むよ。」

 

「しょうがないわね。 私たちが頑張ってあげるわよ。」

 

と手を腰にあてて朝風が言うのだった。

 

「ふふふ。 みんな期待しているわ。 でも無理しないでね。」

 

そう言って話を纏めたのは鳳翔だ。

結局、呉に残るもののうち、袴姿なのは、神風型の五人とこの鳳翔の六人になる。

ただし!

鳳翔の袴の丈はやや短め。

神風型の五人の袴の丈は長い。

赤ん坊・千翔をあやしながら微笑んでいた。

 

「あれ? 翔子は? 鳳翔じゃないのかい?」

 

「さすがに二人同時は無理ですよ?」

 

「翔子ちゃんはここだよ?」

 

皐月が抱き、睦があやしていた。

 

 

送別の宴は、夕方にはすっかりと終えて、食堂では後片付けがおば様方の手で行われていた。

 

「すみません、後片付けをお願いしてしまって。」

 

そう声を掛けたのは秦だった。

 

「あら、提督じゃない?」

 

「お礼なんていいのよ。 これがあたし達の仕事なんだから。 でも、すぐに新館に引っ越すんでしょ?」

 

「ええ。 場所が変わりますが、引き続きお願いしたいと思いますので。」

 

「それならいいわよ。」

 

「今度からは、料理の質をあげましょうかねぇ。 今までは”量”だったからねぇ。」

 

そうね、とか、それはいいわね、とか言うおば様方だった。

 

「そう言えば、金剛ちゃんは残るんでしょ?」

 

「ええ。 択捉と松輪も一緒に。」

 

「じゃぁ、金剛ちゃんには料理も覚えて貰わないといけないわね。」

 

「二人の”ママ”なんですからねぇ。」

 

それはお任せします、と言うしかなかった秦だった。

 

 

別れの朝。

0530になって全員が岸壁にやってきていた。

まだひんやりとする空気の中、大石大佐が異動組を代表して秦に挨拶をしてきた。

敬礼をして。

 

「楠木提督、いろいろとお世話になりました。」

 

「いや、こちらこそ。 大佐、道中気をつけてな。 みんなも気をつけて。 今までありがとう。」

 

全員が姿勢を正して敬礼をしていた。

それに応える居残り組たち。

 

「では。」

 

と一言言って各自内火艇へと乗り込んでいった。

大石大佐と五十鈴は海防艦・対馬に便乗するそうだ。

そして各艇は桟橋を離れていく。

各内火艇が各艦に横付けされ、皆乗り移っていく。

その様子を見る秦たち。

 

「とうとう行っちゃうね。」

 

そう言うのは朝霜だった。

 

「ああ。」

 

そして、煙突から勢いよく煙が上がってきた。

すると、錨が巻き上げられ、巻き終わると、いよいよ動き出した。

神通を先頭にして、長門や駆逐艦、海防艦が続いていく。

艦に向かって陸から手を振る。

大きく手を振っていた。

 

「元気でねーー!!」

 

「いってらっしゃーーい!!!」

 

応えるかのように汽笛が鳴る。

そして岸壁から見えなくなるまで、皆手を振っていた。

 

「行っちゃったね・・」

 

「寂しくなったねぇ・・」

 

呉港内を見渡しても、残るは十隻余りの艦だけ。

そして、鎮守府中心部は明け渡すのだ。

 

「さあ! しょげてもいられないぞ! 引っ越しだ!!」

 

そう言って新館へと引っ越し作業を行うのであった。

 

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