幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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引越も無事に終わり、無事な空母・鳳翔での試験航海に出た。
そこで思わぬ出来事が・・



新たな艦娘?

響灘。

駆逐艦を先頭に空母、その後ろにもう一隻の駆逐艦が航行している。

太平洋に向かうべく、豊後水道を目指していた。

 

「あー! やっぱ、いいわぁ、この潮風。」

 

デッキで伸びをする秦が思わず声を出していた。

 

「ふふふ。 そんなこと言って。 私なんて、何カ月ぶりですよ?」

 

と鳳翔が秦に向かって微笑んでいた。

 

「ははは。 そうだったな。」

 

「ねーー。」

 

翔子を胸に抱いた鳳翔が秦の傍までやってきていた。

艦橋には、こども達が全員いたのだが、デッキに居るもの、海図台室に居るもの、自由だ。

千翔は榛名が抱いてあやしていた。

 

 

艦隊の先頭の駆逐艦は、神風。

後方の駆逐艦は、春風だった。

 

「司令官、間もなく豊後水道に入ります。」

 

と神風から連絡が来た。

 

「よし、このまま単縦陣を継続。 豊後水道を出るまではこのまま。」

 

「「了解。」」

 

各艦へ伝達すると返答が同時にやってきた。

 

「父さん、空母・鳳翔も了解。」

 

最後に睦が報告してきた。

 

「暇だねぇ。」

 

そう言うのは朝霜だった。

 

「あ、朝霜ちゃん。 ダレてない?」

 

「そうそう。」

 

「だってぇ・・ 艦の修理は終わんないし、やることないしさぁ・・」

 

駆逐艦・朝霜の修理は、睦月型と同じドックに入って行っているため、各艦と同時に終わらないと海に出れなかった。

だから・・ 空母・鳳翔の訓練航海に付き合ってきたのだった。

いや、暇だから便乗しているだけなのだ。

 

「そう言わないでよ、朝霜ちゃん。 そんなんだったら、ボクたちはどうなのさ。」

 

「そうぴょん。 なんにもやることないぴょんよ?」

 

睦月型の三隻、弥生、卯月、皐月は、絶賛改造中でまだまだ海に出れないのだった。

おまけに、艦内にも入れないのだった。

 

「そうは言ってもねぇ・・ ねぇ、しれーかん、ヒマだよ? 何かないの?」

 

朝霜が秦に愚痴った。

 

「そう簡単にあるわけないだろ。」

 

とザックリと返す秦。

 

「ぶー! ヒマ、暇!!」

 

と駄々を捏ねるのだが・・

 

「朝霜ちゃん、じゃあ、手伝ってくれる?」

 

と声を掛けたのは、海図台の前で千翔を抱く榛名だった。

 

「そろそろおしめを換えようと思うんだけど、手伝って? ね?」

 

ニコリと微笑みを送る榛名。

 

「う・・ そう言われると、し、仕方がないねぇ。 手伝うよ・・」

 

渋々同意をして榛名の下へと歩を進めたのだった。

 

「まぁ、航海は順調だし、飛行隊の訓練も問題なしだし・・」

 

呟くように言う秦。

そう。 何もかもが順調だったのだ。 恐ろしいくらいに。

しかし・・・

 

「ん? 睦、増速してる?」

 

秦が、艦が増速していることに気付いた。

前を行く神風に徐々に近づきつつあった。

 

”前方、駆逐艦・神風との距離、2500に接近。”

 

ん?

そこで皆が気づいた。

 

「あれ? 3000以上離れていたよね?」

 

「あれ? 私は増速してないよ? あれ? なんか変だなぁ・・」

 

皆が何か変、と感じた時だった。

 

「あっ、あっ、あぁっ・・」

 

と声を上げている翔子に気付いた。

鳳翔の胸の中で、前を行く神風を掴もうと手を盛んに伸ばしては握ろうとしていた。

 

「あらあら、そんなに前に行きたいの? それとも向こうに行きたいのかなぁ。」

 

”前方、神風との距離、2000に接近!”

 

そこまでに至って、鳳翔もおかしいと気付いたようだった。

 

「もしかして・・ 睦ちゃん、増速してる?」

 

「ううん、私は増速してないよ? むしろ減速させようとしているんだけど、言う事を聞いてくれないの!」

 

「なに?」

 

「え? どういう事?」

 

空母・鳳翔はどんどん増速していく。

 

”こちら機関室。 機関圧力一杯です! これ以上の増速は危険です!”

 

と機関室から悲鳴ともいえる報告が来た。

さらに、

 

「こちら神風。 あのぉ、接近してるんですか? ちょっと怖いんですけど・・」

 

と言ってきた。

 

「と、とりあえず、神風に最大速へ増速すように連絡を。」

 

「り、了解!」

 

「後方の春風に、距離を開けるよう連絡。」

 

「分かったよ。」

 

秦の指示が飛び、睦が応えていた。

連絡を受けた駆逐艦・神風が増速する。

スクリューが起こす波が大きくなっていく。

駆逐艦・神風の最大速度は37ノットあまり。

空母・鳳翔は34ノットほどなので、徐々に神風が離れていく。

 

”前方、神風との距離、2500。・・・ さらに開いて2600・・”と。

 

一旦、翔子の動きが止まったように思ったのだが、

 

”アッ、アッ、ア、ア、ア・・”

 

更に激しく手を伸ばそうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと、翔子ったら・・」

 

鳳翔の腕から出ようともがく翔子だった。

そして、神風が近づかず、徐々に離れていくのを確認したのだろう。

翔子の表情が笑いから泣きそうな表情へと変わっていった。

 

”ああーーーーーーーーッ、あーーーーーーーッ”

 

と大声をあげて泣き出してしまった。

 

「あらあら、神風ちゃんが離れちゃったのね。 お仕事だから仕方ないのよー。 ごめんねー。」

 

そう鳳翔が言いながら翔子を抱きかかえて背中を擦っていた。

翔子の顔が鳳翔の着物にすり寄って泣いていた。

 

”アゥーー、アゥーーー、アーーーッ!”

 

抱いたままの鳳翔が、秦に目配せして、海図台の後ろまで下がっていった。

それを見た秦は、

 

「睦、制御は可能か?」

 

「うん、同調よし、大丈夫。 制御出来るよ!」

 

「よろしい。 艦隊速度を巡航速度に。 神風、春風に集合合図を。」

 

「了解。」

 

艦の速度が徐々に落ちてきた。

巡航速度になったとき、神風と春風が周囲を周回行動していた。

 

「ふぅ。 一時はどうなるかと思ったよー。」

 

「ホントだよー。」

 

と神風と春風が言い合っていた。

その時、陽が傾いていることに気が付いた秦だった。

そして、

 

「よし、呉に戻ろう。 睦、進路変針だ。 呉に帰るぞ。」

 

と指示するのだった。

 

「了解。 全艦に達する! 進路変更。 進路は呉! ヨーソロー!」

 

睦が復唱し、艦隊が舵を切って呉に向かうのだった。

艦隊が呉に向かい始めてしばらくして、鳳翔が翔子を抱いて秦の傍までやってきた。

翔子は泣き疲れたのか、鳳翔に抱かれて眠っていた。

 

「寝ちゃった?」

 

「はい。 そうとう泣いたみたいで・・」

 

翔子の頬には涙が流れた跡がくっきりと残っていた。

秦がその頬の涙の跡をなぞっていた。

それでも起きない。

 

「一体全体、どういう事なんだ? 儀式も何もしてない赤ん坊がいきなり艦を操れるのか?」

 

「さあ・・ 私もなんでそうなっているのか、さっぱりで・・。」

 

翔子を抱いた鳳翔が困惑顔で言った。

次に睦が、

 

「私も、いきなり同調できなくなるなんて・・・」

 

と、こちらも困惑顔だった。

 

「でも・・ 確かに、艦の加速は・・ この子だったよな・・」

 

「うん。 間違いない、と思うよ。」

 

「やっぱり、そうですよね・・」

 

秦、睦と鳳翔は互いを見やって言葉を無くしていた。

翔子に、赤ん坊にそんな力があるのか・・

いや、単なる偶然か・・?

いや、睦がおかしかった、と言っている以上、何らかの作用があったのは間違いない・・

いくら考えても分からない。

理解不能だった。

秦の傍に立つ鳳翔も同じみたいだった。

”理解不能です”と言いたげな困った表情をしていた。

事情を知るのは艦橋に居た、榛名、朝霜たちもだった。

そして・・ そのまま呉港に帰り着き、その日が終わろうとしていた。

 

 

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