幸せの後先~ハズされ者の幸せ3~   作:鶉野千歳

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秦の第一対潜駆逐艦隊の訓練が続く中で、一つの決断をすることに。



”妹”と”ママ”

響灘を中心に、第二対潜駆逐艦隊を始めとする各艦の訓練が続いていた。

第二対潜駆逐艦隊・・旗艦に戦艦・金剛を配し、護衛空母として大鷹、随伴する駆逐艦に、文月、長月と海防艦の択捉、松輪の計6隻から成っていた。

海防艦の航続距離は、長くない。

従って、遠く遠洋まで行くときには、補給艦が随伴するか、途中で補給を行う事になっていた。

戦艦・金剛は、榛名と同じく、35.6cmの主砲はそのままに、両舷側の副砲を換装し、対潜兵器を搭載した。

対魚雷用爆雷投射機を片舷四基で計八基。

両舷で八基の対空噴進砲を新設。

その際、両舷の魚雷発射管は撤去した。

駆逐艦・文月と長月も皐月らと同じく、12cm単装砲を、60口径12.7cm単装両用砲に交換した。

各艦とも、自動給弾装置を取り付けることに成功していた。

皐月や朝霜らの第一対潜駆逐艦隊の各艦も自動給弾装置の取り付けが終わっていた。

空母・大鷹は、全長が180m余りと小さいため、搭載機数は少なかったが、それでも、艦戦に烈風8機、対潜哨戒攻撃機12機の20機を積むことが出来た。

 

◇

 

今日は、第一、第二の対潜駆逐艦隊の合同訓練だった。

呉港に帰って来た睦、皐月たち。

いつものように、小用沖に錨を下した。

最近は、戦艦・榛名も小用沖に停泊していた。

八人がそれぞれの内火艇で戻ってきた。

執務室に着くなり、榛名がソファーに倒れ込んだ。

肩で息をしている榛名だ。

 

「大丈夫?」

 

と聞くのは睦だった。

 

「はぁはぁ・・ 睦ちゃんや皐月ちゃん達は、どうして平気なの? 榛名は・・ ヘトヘトですよ。」

 

見るからに、疲労困憊の様子だ。

 

「え~、今日は、そんなにきつくは無かったよ?」

 

と平然と答える睦たち。

榛名は・・ 更にへこんでいた。

 

「あ、あなたたちは、一体、どんな訓練をしてきたのよ! 金剛お姉さまや択捉ちゃん、松輪ちゃんなんか、ヘトヘトだったのよ?っていうか、睦ちゃん、あなたは久しぶりなんでしょ? なんで元気なのよ。」

 

「そうは言われても~。 今までの訓練は、お母さんのを見てきたし、一緒に艦橋にはいたし・・ あれが普通って感じだしぃ。」

 

「あら、私はそんなに厳しくは無かったでしょ?」

 

その言葉に、目を開いて固まっている皐月や朝霜たち。

 

(その”厳しくなかった”ってぇのは、お母さんだけでしょ!!)

 

(あたい達は、みんな苦しんだんだよぉ。)

 

と心の中で叫んでいた。

 

「それはそうと、さっぱりしましょ。」

 

といって、鳳翔はレモネードを用意してきた。

 

「さぁ、皆、どうぞ。 美味しいわよ~。」

 

「「わぁーーい!」」

 

現金な奴らである。

 

「はい。 榛名さん、あなたも。」

 

「あ、ありがとうございます。 いただきます。」

 

一口飲んで、

 

「うーーん、甘酸っぱくて、おいし~。」

 

とは、みなの感想だ。

レモネードを飲み終えると、皆、ハァアーっと息を漏らして、更にソファーに身を預けるのだった。

 

「はははっ。 とにかく、榛名には、あの機動に慣れてもらわないといけないから、ヘバるのはまだ早いよ。 しんどいだろうけど、頑張ってくれ。」

 

「はい! 榛名、全力で頑張ります!」

 

頬を赤めて、カラ元気で答えていた。

とは言うものの、疲労しているのは明らかで、夕食後、自室で布団にダイブしてしまった榛名だった。

 

◇

 

寝室で秦と鳳翔が話し込んでいた。

 

「今日の榛名達の訓練はどう思う?」

 

「そうですね。 始めたばかり、と思えば、よくやっていると思いますよ。 特に、金剛さんは積極的ですね。」

 

「ははは。 やっぱりそうかな?」

 

「ええ。 榛名さんも頑張ってはいますが、やはり大型艦は動きが遅いですからね。」

 

「第二の、対潜主力は択捉と松輪になるだろうな。」

 

「はい、あの二人が主力ですね。 文月ちゃんも長月ちゃんも頑張ってもらいませんと。」

 

「ああ。 彼女らが使い物になるには、まだ先かな?」

 

「そうですね。 まだまだやることはありますし。」

 

「鳳翔には面倒を掛けるね。 それはそうと、体調は問題ないかい? 無理はしないでよ?」

 

「はい。 大丈夫です、問題ありません。 お腹の子らは、少しづつ大きくなって行くのが判りますから。」

 

「そうか。 それならいいけど。」

 

「それはそうと、あなた。 榛名さんのこと、どうするつもりですか?」

 

「どうとは?」

 

「榛名さん、あなたのことを・・」

 

「ああ、そのことね・・ 正直、悩んでいるよ。 今は、普段通りに接しているつもりだけど、いつまでもこのままでいければいいんだけどなぁ。」

 

「私は、あなたと榛名さんがケッコンカッコカリしてもいいと思っています。」

 

「え? それは・・ 本音かい?」

 

「・・はい・・」

 

秦は、ため息をつくしかなかった。

 

「ったく・・ お前さんは、皆にやさしすぎるよ・・ 今は、自分の幸せを一番考えたらいいんじゃないか。」

 

「それは・・ 榛名さんに悪いですよ・・」

 

「その時は、榛名もわかってくれるさ。」

 

「そうでしょうか・・」

 

「そうだよ。 榛名も馬鹿じゃないんだ。」

 

「でも・・」

 

「鳳翔は心配性だな。 とにかく! 俺は鳳翔以外とケッコンするつもりはないよ。」

 

「それは・・ 嬉しいですけど・・」

 

「ったく、お前さんは・・ じゃあ、俺が思っている別の案を言うよ。」

 

「別の案、ですか?」

 

「ああ。 榛名を、俺の妹にする、という案なんだけど、どうかな?」

 

「妹、ですか?」

 

ちょっと驚いた顔をする鳳翔だった。

 

「ケッコンは出来ないけれど、妹なら、俺の近くに居ても何ら不思議は無いと思うんだけど。 これなら、皆の思いを最低限、満たすことができると思うんだが・・」

 

「た、確かに。」

 

「ま、結局のところは、榛名がどう受け止めてくれるか、になるんだけどね。」

 

「私としては、あなたがそれでいいのなら、構いませんよ。」

 

とようやく、ニコリとほほ笑んだ鳳翔だった。

 

「そうなると、ある意味、また家族が増えるなぁ。」

 

「フフフ。 そうなると、榛名さんは私の義理の妹になるんですね。 じゃぁ、”さん”じゃなくて”ちゃん”て呼びましょうか。」

 

「ああ。 そうしてくれるかい。」

 

そう言って二人して微笑みあって眠りに就くのだった。

 

◇

 

翌日0800、いつもよりちょっと早めに執務室に楠木家の面々が集まった。

 

「え~、皆に報告というか、家族会議というか・・」

 

「父さん、はっきり言えば?」

 

「そうだよ、しれーかん?」

 

いつもははっきりと言う秦なのに、ごにょごにょしているから、痺れを切らせる睦、朝霜。

 

「ああ。 悪い。 実はな、結論から言うと、榛名を・・俺の妹にしようと思うんだ。」

 

【え?】

 

鳳翔を除く全員が、驚き、さらにどういうこと?と首をかしげていた。

最初に口を開いたのは睦だった。

 

「それって・・ お母さんはいいの?」

 

「榛名が最高練度に達した。 提督としては、ケッコンカッコカリをする権利が生まれたわけだけど、俺としては、鳳翔以外にジュウコンまでしてケッコン相手をさらに持とうと言う気は無いから。」

 

皆を見渡して、さらに、

 

「榛名の気持ちは、どうやらケッコンカッコカリを望んでいるんだ。 そして、それを俺は知ってしまった・・」

 

「父さんとしては、ケッコンは出来ないけど、榛名さんの気持ちも分かるってとこだね?」

 

「まぁ、平たく言えば、そうなんだけど。」

 

「あたいらは、しれーかん次第だけどさぁ。」

 

「ボクも、父さんの考えにとやかく言うことはないと思うけど、お母さん次第じゃないかなぁ。 卯月と弥生は、どう思う?」

 

「ん、うーちゃんは別にいいぴょん。 きれいなお姉さんができると思えば。」

 

「私も、別にいいよ。」

 

皐月らの視線が鳳翔に集まる。

 

「あら、私? え~っと・・・」

 

苦笑いを浮かべながら、

 

「私は・・ 提督の言う通りでいいですよ。 榛名ちゃんが提督の妹になることに、異存はありません。 もっとも・・」

 

「もっとも?」

 

「提督が、私を、十分に気にかけて下さる、あ・愛されている事が改めて分かりましたから。」

 

お腹を擦りつつ、頬を赤めながら答えていた。

 

「鳳翔・・ すまないな。 また、お前さんに世話をかけることになって。」

 

「まぁ、お母さんがそういうなら、いいんじゃない? ね、皆?」

 

皆が、うん、と言う。

こんな感じで、家族会議の結果、榛名が秦の妹になることが決まったのだった。

その後、0900になって執務室に榛名がやってきた。

秘書艦なので、来るのが当たり前なんだけれども・・。

 

「おはようございます、提督。 って・・ 何ですか? こんなに朝からたくさん集まって・・」

 

部屋に入って、楠木家の全員が揃っていたので、何かと驚く榛名だった。

 

「おはよう、榛名。」

 

「おはよう、榛名ちゃん。」

 

(あれ? ”ちゃん”呼び? ん?)

 

「おはよう、お姉さん。」

 

(ん? ”お姉さん”?)

 

「あの、”ちゃん”呼びに”お姉さん”呼びって何ですか?」

 

そう呼ばれて、疑問に思う榛名。

 

「あぁ、ごめんね。 君の対応を家族で話し合ったんだよ。 その、それでね、君を俺の妹として楠木家の一員にしようということになったんだ・・」

 

えっと言う驚いた顔をする榛名だったが、すぐに暗めの顔になった。

 

「そ、そうですか・・ 私が提督の妹ですか・・」

 

俯いて黙り込む榛名。

 

「だめ、かな?」

 

秦が榛名に聞く。

しばらく考えた後で、

 

「分かりました。」

 

と言って顔を上げた。

表情は努めてにっこりとしていた。

 

「では、よろしくお願いしますね、”兄さん”、”義姉さん”。」

 

皐月や睦たちに向かって

 

「よろしくね。 皆、私の姪になるのね。」

 

「やったあ! よろしくぴょん! 綺麗なお姉さんができたぴょん!」

 

「あー、でも続柄からすると、あたいたちの”叔母”さんになるんだね。」

 

と言ったのは朝霜だったが、それを聞いた榛名が反応する。

 

「”オバサン”って呼ばないでね。 ”お姉さん”で呼んでね、朝霜ちゃん。 いい? あなたたちもよ?」

 

と”お姉さん”呼びをにっこりと微笑んで強要する榛名であった。

でも、と続ける。

 

「でも、提督とのケッコンカッコカリを諦めたわけじゃありませんから。」

 

と高らかに宣伝したのだった。

 

「え?」

 

と驚く秦。

 

「いつか、必ず、提督から指輪を貰って見せます!」

 

とガッツポーズをしていた。

それを聞いて、

 

「フフフ。 あなたの負けですよ?」

 

と笑いながら鳳翔がいう。

ため息をつきながら、机に倒れ込む秦だった。

 

◇

 

そんな話が賑やかになっていたころ、執務室の扉が、バァーンと勢いよく開けられた。

 

「ヘイ、テイトクー! 匿ってクダサーイ!」

 

榛名の姉、金剛だ。

 

「な、なんだ? どうしたんだ?」

 

「シー!」

 

人差し指を口元にあてて、静かに、という金剛。

すると・・、

 

「おはようございます。 司令官。 金剛ママを知りませんか?」

 

と言って入ってきたのは松輪だった。

 

「松輪か?  はぁ? ママぁ??」

 

驚いたのは秦だった。

 

「あっ いた!」

 

どうやら松輪は、金剛を探していたらしいが・・

 

「ママ、こんなとこに居た!」

 

【ママって・・】

 

秦をはじめとして、鳳翔も榛名も、睦たちも、”?”が頭の上に浮かんでいた。

金剛は、両手で頭を抱えて、

 

「あちゃー、見つかっちゃいましたネー」

 

と。

 

「もう、ママったら、急に居なくなるなんて、ヒドイよ?」

 

そういいながら、松輪は金剛の足許に纏わりついていた。

 

「・・あの、金剛サン。 どういうことかな?」

 

と秦が聞く。

ソファーに二人に座るよう促し、話を聞くことにした。

 

「実はデスネー・・ 艦隊演習の後、大鷹とこの子たちと、戦術の話をしてたデスネ。 そうしたら、大鷹が私のことを”金剛姉さん”と言いましたネ。 それを聞いた択捉と松輪が私のこと”ママ”って言いだしたんデース。

 

”姉さん”ならまだしも、”ママ”ですからネェ。 嫁入り前の私に”ママ”はないデース。」

 

「それで、金剛は逃げ回っていたと?」

 

「Oh、イエース・・」

 

半ばしょげている金剛であったが、ソファーに座っている膝の上には、松輪がいた。

しかも、金剛と向かい合わせに座っている。

身体を金剛に預けて、というよりも、抱き着いている方が正解のようだ。

しかも、顔はにやけて、金剛の胸に顔を摺り寄せていた。

 

「でもなぁ・・ その状況は・・ どう見ても、幼子を抱える若い母親にしか見えないんだが・・」

 

「Oh、テイトクまでそんなこと言いますカー!」

 

「でも、金剛、お前さんも、満更ではないんだろ? その恰好を見ると。」

 

ウッっと声が聞こえたような気がした。

 

「お前さんの気持ち次第だけど、諦めて呼ばれるだけでもいいんじゃないか。 いっそのこと割り切ったら? 少し考えてみたらどうだい? 実際、そう呼ばれている艦娘は居るんだし・・」

 

そう言って秦は鳳翔を見た。

 

「そうですね、お母さんって言われるのもいいものですよ? まぁ、最初は戸惑いましたけど。」

 

金剛は、ウーーっと唸っている。

 

「松輪たちに、”ママはだめ”っていうのもありだけどさ。」

 

「ハァ・・、なら、ちょっと考えるデース。」

 

そう言うと、金剛は、松輪の手を引いて執務室から出て行った。

肩を落としたままだったが・・。

その後ろ姿は、まったくもって、幼子の手を引く母そのもの、であった。

 

◇

 

それから数日したある日・・

廊下をバタバタと走る音がしてきた。

 

「コラー! 松輪ァー! 択捉ゥー! 待つネー!! ママの言う事を聞かないとノーなのネー!」

 

「「きゃー!」」

 

という叫び声が廊下から執務室の中まで聞こえてきた。

その声で作業の手が止まる秦や鳳翔たち。

 

「な、なんだ? あの声は金剛か。 で? 逃げているのは松輪と択捉か。 金剛は自分で”ママ”って言ってるのか?」

 

「そうなんです。 金剛お姉さまは、どうやら諦めたようなんです。」

 

と溜息をつきながら榛名が説明してくれた。

 

「まぁ。 あの様子じゃ、金剛さんも大変そうね。 フフフ。」

 

「ったく・・ この鎮守府に、新しい家族の誕生するのは構わないが・・ ちったぁ、静かにできないもんかね?」

 

「仕方ありませんね、択捉ちゃんも松輪ちゃんもまだまだ幼子ですし、ママが出来て嬉しいんじゃありませんか? それに・・」

 

「それに?」

 

「金剛さんも、ママって呼ばれて嬉しんじゃないですか。 とても嫌がっている風には見えませんから。」

 

「「! 確かに。」」

 

と、笑う秦、鳳翔、榛名だった。

 

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