『生きるも死も神のみが知る、なんて言いますがそんなことはありません』
『貴方のような魂は二つの道が存在します』
『死してその身に記録された罪を償うか、新たな肉体と力であの世界よりも過酷で残酷な異世界を生きるか』
『――俺、は』
「……またあの時の夢か」
昼寝をしていたはずだが、どうやら寝すぎたようだ。
体を起こし、何も盗まれていないかを確認して再び歩き始める。
異世界に転生して数ヶ月程経った。
死んだはずの俺は神という存在によって転生し、気が付くと見知らぬ平地で子供の姿で倒れていた。
最初に助けてくれた人のお陰でここが帝国という国であること、南に進めば帝都と呼ばれる大きな都に着くこと、しかし帝都はオネスト大臣という人物のせいで政治腐敗が続いていることを知り、一先ず記憶を無くした旅人のマカという設定で帝都に向かって行動している。
ちなみにマカは転生した際に得たこの世界での俺の名前だ。
「……どこ見ても草木ばっかり」
所持品は指輪とマッチと二日分の食糧が残っている程度。
このまま次の村もなく食える動物もなければ飢え死ぬという最悪の事態になりかねない。
「こんなことなら食える草とか聞いときゃよかったな」
この世界には危険種と呼ばれる一般人視点だと危険な生物が存在しているが、危険度によってはその肉はかなり美味いものが多い。
最近だとランドタイガーと呼ばれる危険種はかなり美味しかった。
……あ、やべ。思い出したら腹減ってきた。
「……ダメだダメだ。夜食分がなくなる」
欲に負けて明日、明後日食べる分の飯がなくなれば確実に詰む。
我慢だ。あと数日も歩けば村の一つや二つ出てきてなんとかなるはずだ。
「いやああぁぁぁぁ!!!」
「……!」
人の、それも子供の声。でもさっきまで人を襲うような危険種なんてどこにもいなかったはずだ。
「……誰かが特定の場所に危険種を誘導しているのか?」
魔物使いのような人物が金目のもの目当てに危険種を使役している可能性は十分にある。
なにせ声は子供の声だ。大方地方貴族か何かが近道のために傭兵でも雇ってこんな森突っ切ってきたのだろう。
つまり、その襲われている人を助けば恩を売れて飯も食える。
完璧じゃないか!
「……と、言える雰囲気なら良かったんだがな」
悲鳴の後すぐに感じたのは異臭。
血の臭い、というべきか。
だが俺も移動しているとして、そんな短時間でここまで鼻につくような異臭を放つだろうか。
なにか、いけないものに足を突っ込んだような……。
「……いやいや、血の臭いとかならそれこそ人助けの為にも動くべきだろ」
それにここで危険種を倒せば数日の飯にはなるかもしれない。
今は進んでみよう。そうしよう。
「……おいおい、どうなってんだこれは」
血の臭いが更に濃くなると同時に見えるのは引きちぎられた人間の体と木型の危険種に立ち向かう子供たち。
あんな大勢の子供がどうして森の中に?
いや、俺も周りから見れば子供の姿になっているのだが……。
……って、今は考えるより行動するのが先か。
「念じるはクラリネット」
指輪から七色の炎が宿り、クラリネットが出現する。
……数は多いが、やれない事はないだろう。
「――バーニングビブラート!」
このクラリネットから放たれる特殊な音波で対象を沸騰させて爆発させる技だが、これを人間や危険種に使えば体内の水分が沸騰して北斗神拳のようになる。
これが神様という存在から得た力。
……得た力とはいっても一部は転生ものでよくあるタダで手に入れた能力ではないのだが。
俺はリボーンのキャラの武器と技を使うことが出来る。
とはいえ、今は使える技は限定的なのだが。
「どうだ!!」
木型の危険種は一気にその全身を破裂させて……
させて……
…………。
あれ? こいつら効いてない? なんで?
……もしかしてこいつらは体内に水分がないのか。
それなら沸騰なんてしないのも納得……
「……出来るかぁ!!」
何か理由はあるはずだがとりあえずこいつらとやりあうのは危険だと分かった。
ここは大人しく逃げるしかない。
「ちっ、バーニングビブラート!」
目標を人の死体に変更し、死体が爆発することで危険種の注意をそらさせる。
その間に子供たちを安全な場所まで避難させれば俺の勝ちだ。
「お前ら! さっさと逃げ……」
言葉よりを続けようとしたが、金縛りにあったように全身が動かなくなる。
最初に感じたのは寒気だった。
次に悪意が迫ってきているのが分かり、最後は殺意が背後に立っていた。
「――ここだけ様子がおかしいから見に来てみりゃ、お前ただのガキじゃねえな?」
並の殺意ではない。ここにいるだけで常人なら気絶しそうなほどの殺意があった。
こいつには勝てない。逃げるべきだ。
生存本能がそう告げている。
だが、このクラリネットじゃ逃げることは出来ない。
「……念じるはボンゴレ霧の守護者・六道骸」
クラリネットがリングに吸収されるように消滅し、リングには濁ったバイオレット色の炎が宿る。
手には三叉槍、右目には六の文字。
他に使えるものはない。
でもこれなら大丈夫なはず。
「――流石はボンゴレ霧の守護者。俺の意識が乗っ取られそうだ」
このアイテムの奥の手とも言える能力。人物を指定した場合、その技と力、更に戦闘能力を手に入れることが出来る。
時間制限ありに加えて精神を支配されそうになるが、全ステータスが向上するこの力は奥の手と言えるだろう。
……もっとも、今は匣兵器やヘルリング、形態変化は使えないが。
「だが、その代償に相応しい能力ではある」
三叉の槍で地面を軽く叩く。
それに合わせて木々から無数の猛毒を持つ危険種が現れる。
「第三の道、畜生道」
「危険種を操る帝具か。だがさっきの音の帝具のほうが厄介に見えたぜ!」
男の髪が異様に伸び、それが武器となって次々に危険種が倒されていく。
それに加えて男が武器として使っている刀。
少しあれに掠っただけで危険種が次々と倒れていく。
呪印のような模様を見るに少しでも斬られると呪いの類で死ぬ系の武器か。
気にはなるがこの国に長居すればいずれ分かるだろう。
「それじゃ、行きますか」
第一の道 地獄道。
畜生道で危険種を召喚し、地獄道で数匹の外見を俺に変える。
あとは適当に戦わせて俺は帰るだけだ。
近くに倒れていた二人の子供だけを抱えてその場を離脱する。
俺が助けることが出来るのはこれだけと考えるとどうも最良の選択と思えないが仕方ない。
「この体で子供を二人も持てたなら十分でしょう」
いつまでも消えることのない血の臭い。
おそらくだが、あそこにいたのはただの誘拐された子供ではない。それよりも恐ろしい何かの可能性が高い。
これが帝都の闇か。まあこれで最終目標は決まった。
そうとなれば帝都に向かうよりどこかの村で数年ほど滞在して肉体が成長してから行動した方がいいか。
『どうか善き道を、誇れる選択を』
「……誇れるかどうかは正直厳しいかな」
それでも俺に出来ることは動くことだ。
たとえその先が地獄だろうとも。