汗が吹き出る熱気がこもった工房の中、只愚直に鎚を振るい続ける。耳に届くのは金属がぶつかり合う音だけで、目に入るのは少しずつ形を変えて完成に近付く金属。それ以外は一切が意識外であり、恐らく今の俺を殺害するのは容易だろうが、その様な価値が皆無な思考は当然浮かばない。
「……」
当初の予定通り想定した物が出来上がる。当然、何の感慨も浮かばない。技が確かならば何ら変化が起きる要素はなく、己の技量では成し得ない筈の逸品を作り出した時のみ心が動く。但し、それは此処までの話、鍛冶職人としてだけの話であり、背中の一部が熱くなったのを感じ作品に手を翳す。今の俺は鍛冶職人であり神ヘファイストスの眷属として作り上げた籠手に向き合っていた。
「我が見抜くは森羅万象 この世全てを解析し、全ての神秘を暴き立てる 我に見抜けぬ秘密無し アナライズ」
光の粒子が籠手を包み込み、金属構成、強度、重量のバランス、物体を構成する要素全てが頭に入ってくる。最後に付与された力を理解した時、僅かに口元が緩むのを感じていた。
「『力+200』か。……良し。お前の名はゴリラアームDXだ」
神の恩恵を得た者には時にスキルという能力が発現する。俺が得たスキルは『
「早速依頼主の所に行くとするか。さて、バベルとホームのどちらに居るのか。無駄足は勘弁だが、奴の反応が楽しみだ」
愚弟よ、詰まらぬ事に拘って己の幅を狭めたいなら好きにしろ。俺は己の全てを使い更なる高見に向かって歩き続けるぞ。俺は籠手を布で梱包すると工房を後にする。外に出ると轟々と降り続く土砂降りだった。
「……運気を上げる装備が欲しいな」
どうやら集中しすぎて雨音に気付かなかったらしい。工房に傘は置いていないしどうすべきかと悩んだ時、向こうから覚束無い足取りで傘を片手に向かってくる者が居た……。
「おい、彼奴って『
「あの没落した鍛冶貴族クロッゾのっ!?」
鍛冶貴族、それが俺の一族が賜っていた名であり、古代に祖先が精霊を助けて得た力で途轍もない威力の魔剣を作り出せたから得たものだ。森を焼き払い精霊の怒りを買って失った地位にも名誉にも何一つ価値はない。事実、住処を焼いたとしてエルフには未だ睨まれるし、俺のスキルが発現した途端に欲に囚われた父達を見れば厄介事にしかならん。だから最初に恩恵を得て半年経った当日に当時の主神を脅して改宗を可能にしてオラリオにやって来た。
愚弟……ヴェルフの奴は暫く祖国ラキアに居た様だが主神に許されオラリオに来たまでは良かったが、クロッゾの魔剣を打てるのに気に入らぬと打とうとしない。実に愚かな事だ。
「さて、此処に居れば良いのだが……」
俺はバベルの内部に入り真上を向く。派閥の問題から共に行けぬので、傘を借りた同行者を待たせてエレベーターに乗って上階を目指す。ホームに居るのなら店で傘を借りねば。此処五ヶ月ほど主神殿に顔を見せていないしな。
「……凄まじいな。装備として十分な出来だが得られる効果がデタラメだ」
「そうか。オラリオ最強の男に誉められるのはむず痒いな」
「……所で名前だがどうにかならないか?」
「妙な事を言うな。ゴリラアームDXが気に入らないのなら……スーパーゴリラハンドEXでも構わないが……」
「いや、俺が言っているのは……」
俺の付けた名の何が不服なのか困った表情を浮かべるオッタル。やれやれ、注文の多い上客だと困った時、横から声が掛けられた。途端にオッタルの顔が何時もと同じ物になる。此奴が忠誠を捧げる唯一の相手、美神フレイヤだ。
「構わないじゃないの、最初の名前で。ねぇ、オッタル」
「……はっ。では、料金として深層の素材を送っておく。もう去れ」
元より長居する気がなかった俺は神フレイヤの私室を去る。俺の作品に興味があるとかオッタルに用事がある場合に立ち入ることを許可されているが、他の眷属は面白くないのが顔に出ていて面倒臭い。連れを待たせていることだし、主神殿には次の機会に会うとしよう。此処まで久しいのだからどうせ小言を言われるのは同じだ。
「待たせたな、春姫」
「いいえ、大丈夫で御座います、ヴァルツ様」
バベル一階に戻れば座っていれば良い物を立って待っていた少女が嬉しそうに寄って来る。狐の獣人で極東出身の春姫だ。珍しい種族と美貌から荒くれが少なくない冒険者に声を掛けられれば厄介だが、所属ファミリアが有力故に喧嘩を売る馬鹿も居まい。
「今日は助かった。用事がなければ茶でもご馳走しよう。好きな甘味も選んで良いぞ」
「で、では、お団子を……」
遠慮がちだが尻尾や耳が動いて喜びを伝えてくる。今回、仕事に夢中になって食事を忘れがちな俺に差し入れを用意して向かったのだが見事に差し入れを忘れた上に俺が前忘れた傘を届けるのは良いが自分の分も忘れたのでバベルまで同じ傘でやって来た。さて、この少女と出会ったのはどんな切っ掛けだっただろうか……。
『俺の作品を取り返しに来たが、まさか人身売買までやっているとはな』
ああ、思い出した。俺の作品が盗まれたから暇潰しにオラリオの外にあった盗賊のアジトに乗り込んだら捕まっていたのだったな。勘当された身で寄る辺もなく、仕方ないのでオラリオまで連れて行って知人に紹介したら恩返しのつもりか足繁く通って来るようになった。まあ、別に迷惑でもないし助かっているから構わんがな。
「……春姫は毎日が楽しいです。大変な事や……ちょっと怖い人もいますけど、きっと盗賊の方々に売られていたら今頃……」
「おい、考え事は良いがはみ出しているぞ」
雨足は既に弱まっているがボケッとして傘からはみ出した春姫の肩を抱き寄せて傘の中に入れる。少し歩けば春姫が所属するファミリア、ロキ・ファミリアのホームである黄昏の館が見えてきた。
「ああ、そう言えば遠征が近いのだったな。無事に帰って来たら普段の礼に……」
「春姫たーん!」
何かご馳走しようと言う寸前、扉が開いて無乳の女神が飛び出して来る。春姫に抱き付きセクハラしそうだったので抱き寄せれば顔面から地面に激突した。
「何をやっているんだ、ロキ……」
「おや、久しいな『
呆れ顔で出て来たハイエルフに軽く挨拶を行っておく。初めて会った時は迷惑をかけたからな。
アレはダンジョン内で出会った時、連れのエルフ共が俺の家名を聞いて恨み言をぶつけて来たから頼んだんだ。
『よし。王族のお前が代表して殴れ。会う度にこれでは鬱陶しい』
『いや、初対面で何を言うんだ、貴様は……』
感想お待ちしています 次は12時
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一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!