鍛冶兄弟のダンジョン賛歌   作:ケツアゴ

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原作で黒幕っぽい神だが……精霊は植物系で、神はファミリアとかが 部下だった精霊とか?


第九話

 突然ではあるがヴァルツは中層が、正確には中層に出現するモンスターの内の二体、アルミラージとヘルハウンドとの戦いが苦手である。苦手と言っても少々複雑な事情があるのだが。

 

「出来れば戦いたくないが……無駄な話か」

 

 中層に入るなり壁や天井が盛り上がり、アルミラージやヘルハウンドの群れが這い出てくる。本能的な人への敵意を剥き出しにしてうなり声を上げ、天然武器を構えて今にも飛びかかって来そうな姿を見てヴァルツは静かに呟いた。

 

「クロ……いや、安直だからクロスケガーンボランドランペイジか? あっちは……シロ吉VRMⅡだな」

 

 モンスターを眺めながら考えていたのは、もし飼うならばどの様な名前を付けるか、である。当然無理だとは理解している。調教の方法など知りもせず、オラリオのルールでダンジョン外への連れ出しにも規制がある。逃げ出した時に出るであろう人的被害を考えれば問題外の考えだと変人の彼でも理解できる。

 

 だが、彼は動物好きなのだ。自分の生活スタイルからペットなど飼えないし、世話をさせる人を雇うのは何かが違う。モンスターならダンジョンにも連れていけるし、炎を吐くヘルハウンドなら熱気がこもる工房に居ても大丈夫そうで吐き出す炎も鍛冶の役に立つだろうと誘惑の声が聞こえてくる。もしかしたら自分を死に誘うダンジョンの罠ではと、ダンジョンが喋れたら全力で否定しそうな事を考えつつ大盾状態の大金剛を構えた。

 

 今にも炎を吐こうと口を広げて魔力を集中させるヘルハウンドに向かって盾を構えたまま接近、目前で踏み込むと同時に盾を叩きつけた。この時点で頭蓋骨を砕かれたヘルハウンド達は絶命、背後の壁に激突して全身の骨が砕ける。グニャリと弛緩した肉体が壁に血をなすりつけながら地面に落下した時、ヴァルツは盾を鞭に変化させて反転、飛びかかって来たアルミラージを打ち据える。下級冒険者や上級冒険者に成り立ての者からすれば恐ろしいモンスターも第二級冒険者の彼からすれば恐れるに足らず、可愛いと思い抵抗があっても余裕で撃退していた。

 

「……動物を虐待している気分だな」

 

 なまじ普通の犬や兎と大きく見た目が変わらないので倒した跡の爽快感が無く微妙に良心の呵責を感じるのでこの二匹を相手にするのは本当に苦手だと思いつつ魔石を回収している最中、岩陰に黒い固まりが隠れているのを目にしたヴァルツが近寄れば慌てて逃げ、また隠れているつもりなのか別の岩陰から自分を見ている。その正体は小さなヘルハウンドだった。通常の個体が狼程度なら子犬程。此処が外なら繁殖で生まれた個体と判断する所だが、ダンジョンではモンスターの繁殖は確認されていない。

 

「……ほら」

 

 何より異質なのは本能から来る絶対的な敵意が瞳から感じられず、警戒はしているが興味も向けている事。弁当の中からハムを取り出して翳すと反応して鼻をひくつかせながら視線を向ける。左右に動かせば視線が追いかけ涎を垂らしていた。投げてやれば跳んでキャッチし尻尾を振りながらガツガツと食べ進め、食べ終われば口元を舐めながら何かを期待するように尻尾を振ってヴァルツを見ていた。既に警戒の色は皆無である。

 

 

 

 

 

 

 

「我が見抜くは森羅万象 この世全てを解析し、全ての神秘を暴き立てる 我に見抜けぬ秘密無し アナライズ」

 

 リヴィラの街に辿り着いたヴァルツはローブの男の指示通りに酒場に向かい、兜と鎧で姿を隠した男から布に包まれた丸い荷物を受け取った。顔が知られている事もあり街に来て直ぐに帰っては怪しまれるだろうと向かった先は友人であるボールスの店。鍛冶師を目指していたという彼と酒の席で意気投合し、二つ名でなく名で呼んでいた。

 

 お茶を出して貰い作って欲しい物が有ると依頼された後で価格の交渉が開始、幾つか条件を結んで決定した帰りに人目の無い所で包みを開けば中身は不気味な赤子が入った宝玉だった。クロッゾが鍛冶貴族と呼ばれていた由縁、分け与えられた精霊の血が何かを感じ取ったヴァルツは魔法で正体を解析、宝玉がどの様な物なのかを知った瞬間に宙に放り投げ魔剣を発動させ炎で焼き尽くした。

 

「……今すぐに神ウラノスに」

 

 事態は急を要すると感じながらも先程頭に入って来た情報、宝玉に込められた妄執と呼ぶべき念が精神を蝕む。端から見れば酷い顔色で、ダンジョンを出た時には既に月が天高く上っている。一旦休むべきかと思った時、足元がふらつくも直ぐ近くにいた物に支えられた。

 

 

「大丈夫……ではないわね。ちょっと来なさい」

 

 現れたのはガネーシャ・ファミリア団長シャクティ、二つ名は『象神の杖(アンクーシャ)』。民衆の味方である主神の意志の元に見回りをしていた最中にヴァルツを発見した彼女は顔色を見て尋常でないと判断、仲間と共に彼を連れてホームへと戻る事にした。

 

 一方、リヴィラの街の酒場では先程宝玉を渡した人物が支払いを済ませて出て行く所。その隣には顔はよく分からないが女が居て二人はそのまま宿屋に向かう。その様子を眺めていた男達は今から起きる事を邪推し、女の体に卑猥な視線を送るのであった。

 

 

 

 

「世話になった、神ガネーシャ。やはり生物を解析するのは負担が大きくて困る。いや、今回は類を見ない大きさなだけだがな」

 

「そうか、所で……俺がガネーシャである!」

 

「知っている。初対面でもなく、その様な特徴的な益荒男神は一柱だけだろう。見間違えはしない」

 

 ガネーシャ・ファミリアのホームにて少々休憩を取ったヴァルツは出されたお茶を飲みながらガネーシャに頭を下げる。所で彼は平然と本来は隠すべきである魔法の内容について口にしているが、当然ガネーシャが既に知っているからだ。昔、自分が作った魔具の能力をどうやって把握しているのかを訊かれ、平然と答えて以来何度か頼まれて魔法を使っている。

 

 その頼み事の内容とは……彼の膝の上で眠そうにしている小さなヘルハウンドに関係していた。

 

「お眠でちゅかー? お腹いっぱい食べまちたからねー」

 

「……その子はアレで間違いないのか?」

 

「ああ、以前会った彼らと同じだ。言葉は話せんがな」

 

 飼い犬を溺愛する飼い主のような声でヘルハウンドの背中を優しく撫でるとスヤスヤと安心した様子で眠り出す。先程までバックの中に隠れていたこのモンスターの姿を見たのは二人が話しているアレや彼らと呼ばれている存在。余りに特異な存在故に解析を任せられヴァルツが知る由となった。

 

 

「……しかし先日の脱走騒動でモンスターへの恐怖心が強まったが、自分達とは全く別の存在というなら神や神に近づいているとされる眷属も同じだろうに。闇派閥や破落戸同然の輩、各地に侵攻を繰り返すラキア。市勢に溶け込め本能以外の理由で牙を向ける後者の方が恐れらないか?」

 

「確かにその通りではあるが、他の神の前で言わない方が良いぞ?」

 

「分別は付けてある。特に神ヘルメスの前では絶対に口にはしない。アレは態度にこそ出さないが俺を嫌っているからな。俺も神アポロンと奴は好かん。……どうかしたか?」

 

 神の目前で恩恵を受けた者の一人であるヴァルツが口にした言葉に否定出来ない分、ガネーシャは複雑そうだ。バベルという蓋で外への流出が抑えられ外のモンスターはダンジョンの同族よりも遥かに劣る。ならば人の理外の精神性を持つ神や、恩恵を受けた者の方が恐ろしいと思われそうだが、少なくてもモンスターという共通の敵が存在するのがそうならない要因だろう。

 

 それは兎も角として一応警告をしておいたガネーシャの表情が一変する。動揺に焦燥、そして悲哀。神としての力が彼に凶報を告げた。

 

 

 

「俺の眷属が……ハシャーナが死んだ」

 

 一部の神を除き、神にとって眷属は愛情を向ける存在。愛の形は人のそれと比べて歪な場合があっても変わらず、ガネーシャは眷属に与えた恩恵の消滅を感じ取り膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「……精霊? 間違いないのか?」

 

「ああ、ロキ・ファミリアが深層で遭遇した芋虫型、この前魔石を解析した花型、その両方が宝玉が寄生したモンスターに魔石を与える為の触手。それが精霊に成長する為のな。……ああ、ガネーシャ・ファミリアに彼らの同胞を預けたぞ、フェルズ」

 

 狼狽したガネーシャ同様に眷属達も慌ただしくなったホームを後にしたヴァルツは家に向かう道の途中で黒いフードの人物……フェルズに出会い解析の結果を告げる。有り得ないと話を聞いたフェルズは態度に出し、顎に手を当てて何かを考え込んだ。

 

「……ウラノスに伝えよう。分かってはいると思うが吹聴は止してくれ」

 

「ロキ・ファミリアの面々には? 既に芋虫型については知っている。それにフレイヤ・ファミリアが大規模な遠征をしない以上、ダンジョンで遭遇するなら彼らか一人で奥に行く猛者位だろう?」

 

「ああ、そうだな。じゃあ君の方が信用されているから任せる。但し私達については秘密だ」

 

 わかっている、ヴァルツがそう返事をする途中でフェルズの姿は消え去る。暫し彼が消えた方向を眺めていたヴァルツだったが眠気を覚えたのか欠伸を一度するなり家に入ってベッドに潜り込んだ。

 

 

『リア…アリア……アリア』

 

『アリア、貴女に会いたい。ああ、一つになりましょう、アリア……』

 

 この晩、見た夢は宝玉の解析によって入り込んだ悲痛な願い。アリアという名を呼び、求め続ける誰かの叫び。ヴァルツには酷い悪夢に思えてならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジかいな。精霊とかシャレにならんで、ホンマ」

 

 黄昏の館にて出掛ける直前に報告にやって来たヴァルツの報告を受けたロキは頭を抱え、同行する予定だったので部屋に居るベート、ホームに残った幹部のガレスも動揺を隠せない様子。だが、ヴァルツが帰りベートを退室させた後でロキとガレスは更に顔を曇らせる。

 

 

「……アリアを求めているかぁ」

 

「面倒な事になったの……」

 

 

 

 

 

 

 その頃、ヴァルツはフレイヤ・ファミリアのホームを訪ねていた。何人かは鍛冶師としての顧客でありローンが残っている者も居る。その中にはオッタルも含まれている。フレイヤの側にいる事が多くダンジョンに向かう機会が少ない彼は約束通り素材での支払いが滞っていた。

 

 

「今月の支払いがまだだ、猛者。少し面倒事に巻き込まれてな。知らぬ振りは気分が悪い。支払い代わりに力を貸してくれ」

 

 オッタルはフレイヤに忠実な眷属だが義理堅い武人だ。だからゴリラアームDXという名にも強く抗議できず、性能が優秀なので支払いについては気が咎めている。今回は完全に弱みにつけ込まれた形だ。……と言うより同じ理由でダンジョンに同行した事は彼以外も何度かあった。

 

「……仕方無い。フレイヤ様にも支払いについては命じられているからな」

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、お前達は仲が悪いからな。仲間に調達を頼むのも難しいか」

 

「……否定はしない」




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