鍛冶兄弟のダンジョン賛歌   作:ケツアゴ

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第十話

「ううっ……。やはり露出度が……」

 

 朝食後、鏡の前でティオネに贈られたアマゾネスの衣装(尻尾の穴は加工済み)に着替えた春姫だったが肌面積の広さに思わず胸元を隠してしまう。押しつけた腕で形を変える大きな胸はティオナが見れば憤慨物だろうが、誰かに見られるのが恥ずかしいと同室の団員が出掛けた後に着替えたので当然誰もいない。何度か深呼吸をした彼女は意を決した様に枕の下に隠した本を開く。

 

 『色仕掛け百選』何とも胡散臭いタイトルの本であり、ティオネから借りた本だ。春姫の現在の衣装は上が布地が少ないビキニで下は下着同然の前後に布が垂れ下がっている様な踊り子を連想させる衣装。極東の名家で育ち普段から露出を押さえた服を好む春姫、ヴァルツの鎖骨を見ただけでオーバーフローで気絶した彼女は既に羞恥心で限界だったが勇気を振り絞ってとある練習をしていた。

 

 扉を開けて廊下を確認し、同室の者が何か忘れ物をして取りに帰ってこないか慎重に確認すると本を熟読し、本番で失敗しないように何度も確認の後、実行に移す。

 

「や、優しくして下さいませ……」

 

 ベッドの上に座って指で口元を隠して上目遣い。僅かに顔を背けてチラチラと相手を見ることを意識する。……何の練習かはお察しである。

 

 暫く鏡に映った自らの姿を眺めていた春姫だが、今度は寝転がって上半身だけを起こし、誘うように両手を伸ばす。顔には余裕を保つ……少なくても本人は今の表情が保てていると思っていた。実際はどうあれ、本人は。

 

「つ、次は……どうぞお好きな様に。春姫はヴァルツ様の物で御座います」

 

 続いて四つん這いになり余裕綽々と(実際は違う)挑発的な笑み(のつもり)を浮かべ舌なめずりをしながら言い放つ。

 

「春姫に全てお任せください。今宵は寝かせませんからお覚悟を。……一滴残らず搾り取って……」

 

「春姫、確か炊事当番は暫く先だったよね? ならダンジョンに……」

 

 この時、余裕が出てきたのかノリノリでやっていた春姫は重大なミスに気付く。扉を閉め忘れていたのだ。部屋の中は丸見えで、更にタイミング悪くダンジョンに誘いにきたアイズが立っていた。

 

 

「……お邪魔しました」

 

 目を合わさず静かに扉を閉めるアイズ。春姫は暫くの間固まっていた。彼女が我に返ったのは十分後。羞恥心が一気にこみ上げて来る中、服を着替えると装備品を身に付けてホームを飛び出してアイズ達に合流した。

 

 

 

「ダンジョンで御座いますね? ええ、春姫もご一緒します。ちょうど何もしていませんでしたから! ええ、本当に何も!」

 

「……うん。春姫は何もしてなかった」

 

 強引に先程のことを無かった事にした春姫と、格下の彼女相手に言い表せない威圧感を感じて頷くアイズ。一緒にいたティオナ達は何がなんだか分からずに疑問符を浮かべるも春姫に笑顔を向けられるとそれ以上は何も聞けない。人間、追い詰められれば途轍もない力を発揮するらしい。

 

 先程まで見てはいけない物を見たアイズの挙動不審さに何かを感じ取っていた一同も黙りダンジョンに潜るための買い出しが進むのだが、どうも擦れ違う女神達が春姫を見て何やら話をしてキャーキャー騒いでいる。恋バナだと察したティオネが思い出したのは怪物祭りの最中にあったというイシュタルとの一件。女神達の間ではモンスターの脱走よりも興味深いのか広まっており、ロキも知り合いに会う度にあれやこれや聞きたがられウンザリしていた。

 

「ねぇ春姫。例の温泉施設で進展があったんだって? どのくらい進んだのか教えなさいよ」

 

 ロキ・ファミリア随一の肉食係ティオネは逃がさないとばかりに春姫の首に腕を回して耳元で囁く。語るのは恥ずかしいのか赤くなりつつも誰かに話したいという気持ちもあったのか春姫は陶酔した顔で語り出す。ティオナは兎も角、アイズも興味深そうに耳を傾けていた。

 

「……イシュタル様より美しいと、春姫を愛していると言っていただきました。それだけでも至福だというのに……」

 

「ほらほら、最後まで話しなさい。幹部命令よ、幹部命令」

 

 流石に此処から先は話すのは無理だと俯く春姫ではあるがティオネはそれを許さない。脇腹を擽って続きを話すように促せば春姫も恋の進展を自慢したいという気持ちがあったのだろう。照れと自慢が入り交じった顔でそっと右手を前に出して愛おしそうに視線を向ける。まるで今も繋がっている気分だった。

 

「……指を絡めて手を繋ぎ、膝枕もしていただきました。恋人になるとは本当に素晴らしい事なのですね」

 

 まさにこの世の春とばかりに語る春姫。恋愛素人のアイズはそれだけで赤くなっているし、リヴェリアと共に魔法石の購入に向かっていなければレフィーヤも同様だっただろう。ただ、ティオナはよく分かっていない様子だ。

 

「ふーん。良かったね、春姫」

 

 とりあえず本人が嬉しそうなのだから良いことなのだろうと素直に賛辞するし、春姫も語って聞いて欲しいというのが一番なので構わない。問題があるとすればティオネだ。正直言って不機嫌そのものだった。

 

 

 

「はー!? アンタ、マジで言ってる!? そこまで行って手を繋いで膝枕、それもして貰う方って……。もう二人ともひん剥いて閉じ込めるしかないわね」

 

「ひ、ひん剥くっ!? あ、あの、何かお気に障ることをしたでしょうか!?」

 

「殆ど何もしてないから呆れてんのよ、こっちは! あー、もどかしいっ!! 子供の恋愛か、アンタ達はっ!」

 

 他人の恋愛にかまけるのは自分の恋が疎かになるフラグとも言えるが、常に全力投球暴走気味なティオネにとってヴァルツと春姫の恋は息抜きに丁度良い模様。只、イチャイチャしている癖に進展が遅いのはイライラする要因で、困惑する春姫や注目を集める通行人をよそに普段は被っている猫を脱ぎ捨て叫ぶティオネだが、本性は結構な人数が知っているので評判の低下はあまりない。寧ろ聞き耳を立てていた女神達からすれば同感だった。

 

 この後、色々お節介を焼こうとする推進派と周囲から見守ろうとする傍観派の二つの派閥が出来るが別の話である。

 

 

 

 

 

 場面は変わってダンジョン内。縦穴を使って下へ下へと中層を突破、巨蒼の滝などは一々正規の道を進むのは面倒だとばかりにオッタルがヴァルツを抱えてダイブ、目的地である三十階層にまで辿り着いた。食糧庫を順番に周り、ロキ・ファミリアの面々がダンジョンに入った時刻には食事を始めていたのだが……。

 

 

 

「……料理が上手くなる魔具? お前が神フレイヤにでも振る舞うのか?」

 

 エプロン姿でキッチンに立つオッタルの姿を想像するヴァルツ。似合うような似合わないような微妙な姿が浮かぶがオッタルは首を静かに振って否定した。

 

「詳細は聞くな。出来るか出来ないかだけ言えば良い。金はちゃんと払う」

 

「ああ、出来るぞ。だが素材が……向こうから来た」

 

 指差した先には本能から二人に襲いかかろうとするブラッド・ザウルスの群れ。オッタルは立ち上がると静かに剣を構える。一匹たりとも逃がさない、鏖殺だ。気質の目ではない鋭い眼光を光らせて言外に告げると動き出す。格の差を感じ取ったモンスター達だが時既に遅し。全滅するまで一分も掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ドロップアイテムは無しか」

 

「確かボールスの店でも売っていた。……戻るか」

 

 肩を落とすオッタルはヴァルツの言葉に静かに頷く。そのまま十八階層に向かう二人であった。

 

 




感想お待ちしています

お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます

  • 春姫との結婚生活
  • 別ヒロインルート アスフィ
  • 別ヒロインルート フィルヴィス^^
  • 別ヒロインルート 誰か募集
  • 一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!
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