「帰れ! 俺は魔剣は作らねぇ!!」
この日もヴェルフは魔剣制作の依頼をしに来た冒険者を邪険に追い返す。所有者を置いて勝手に砕け散る、そんな魔剣が嫌いな彼の元に魔剣を求める客が殺到するのは何とも皮肉な話だ。
鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、鎚に想いを乗せろ。それが鍛冶師の師である祖父や父から教わった言葉だ。だが、ヴェルフに魔剣を作り出すスキルを、兄であるヴァルツが魔具を作り出す能力を開花させた際に目の色を変えた周囲に流されだした二人を見たある日、ヴァルツは家を出た。今思えば一緒に来るかと誘われた時に素直について行けば良かったと思う。
昔大病を患って恩恵を得るのが遅れなければもっと早く出ていただろう、とも思った。改宗可能になった日に神を脅して国を去った兄なら絶対にすると確信している。
「ったく、何奴も此奴も……」
『権威や金に目が眩んで誇りを捨て去る。そんな者から教わった誇りにどれだけの価値がある? そんな物で自らの道を狭めるから何時までも未熟なんだ、お前は』
兄はそんな風に割り切っているがヴェルフは違う。彼にとって大切な物だ。その言葉を鍛冶師の誇りとして心に刻み込んで腕を磨いて来た。だから魔剣を打たない彼だが周囲は魔剣を打つように言い、拒むヴェルフはファミリアでも孤立。今ではダンジョンに共に潜るのはヴァルツ位しか居なかった。
何だかんだ憎まれ口を叩きながら素材集めに付き合ってくれ、この前も勝手にゴライアス討伐の取り分を無くしたからと言って中層の素材を全部渡して来た。先程完成したミノタウロスの角を使った短剣『
「……見てろよ、兄貴。借りは絶対返すし鍛冶師として絶対に越えてやる」
中層で採れた鉱石を使った太刀を鞘にしまいながら呟き、ヴェルフは工房を後にした……。
「あっ! 変人の弟だ! モンスターの死骸を喜んで解剖してたんでしょ?」
「え? 弟が変人じゃなかったっけ? この前も興味深いって笑いながらダイダロス通りを走ってたって聞くよ?」
「僕、色々な薬を買い込んで実験してるって聞いた事がある」
「そっか。あの人、変人なんだね」
街を歩けば指さしてくる子供達。これも新たな鍛冶の技法の参考になればと何でも手を出すヴァルツの行動が原因だが何時の間にか自分まで変人呼ばわり。無邪気な声を聞きながら思う。何時か絶対殴ってやる、と……。
「……ヴェルフ、ちゃんとお風呂入ってる?」
ヘファイストス・ファミリアの店舗に向かって新人鍛冶師の作品を置く場所に向かい、相変わらず自分の作った物が売れていないのに溜め息が出てしまう。取り敢えず新しく作った武器をヘファイストスに見せに行ったのだが開口一番に眉をしかめられる。思い出してみれば数日は風呂に入らず工房に籠もっていた。
灼熱の炎と向き合って鎚を振るい玉の様な汗を流す。自分では感覚が麻痺していたのか気付かなかったが、思い起こしてみれば擦れ違う人が変態呼ばわり以外にヒソヒソ何かを言われていた気がする。ダンジョンに籠もって戦っている冒険者も汗と土と血の匂いで途轍もないが、鍛冶師の汗臭さも酷い物だ。正直鼻が曲がりそうである。客商売の店舗ではNGである。スメハラ、ダメ、ゼッタイ!
「三ヶ月位前、アンタの兄貴も汗臭い状態でやって来て、これから春姫っていう例の恋人に会うって言ってたのよ。兄弟揃って本当に……」
「マジか、あの馬鹿。あり得ねぇだろ……」
「ええ、椿に頼んで風呂屋に叩き込んで貰ったわ。丁度来ていたロキ・ファミリアの幹部も手伝ってくれたしね」
その光景を頭に浮かべて額に手を当てるヴェルフ。ヘファイストスも思い出したのか同じ様なポーズを取る。本当にあの馬鹿は、と同時に思うのであった。
「因みに本人は、春姫は別に平気で御座います。何度も工房にお邪魔して嗅ぎ慣れていますし……汗の臭いすら好きで……ハワッ!? だ、そうよ」
「……え? その頃、まだ恋人じゃ無かったんじゃ?」
尚、春姫の真似をするヘファイストスがちょっと可愛いと思ったのは秘密である。
「取り敢えず風呂に入らなねぇとな。第一印象が台無しだ」
ヘファイストスと分かれた後、時計を見れば約束の時間……一緒にダンジョンに潜る予定の相手との顔合わせの約束まで余裕がある。余りに仲間が見つからないからと気を揉んだヴァルツが知り合いの神の眷属で同じソロのLv.1と組ませてみてはと提案、ヘファイストスがヘスティアに話を持ちかけて組むことになった。
流石に今の状態では不味いと自分で服の臭いを嗅いで汗臭さを自覚しながら風呂屋へと向かう前に着替えを取りに戻る。そして風呂で汗を流したのだが、約束の場所に向かう途中で女神達に取り囲まれてしまった。
「君、ヴァルツ・クロッゾの弟だよね?」
「うんうん、似てる似てる! 間違いないって!」
一瞬、魔剣の依頼かと思ったが様子が違う。好奇心に目を輝かせ、本人の返事も待たずにキャーキャー騒いでいる。兄がまた何かやらかしたのかと訝しむヴェルフに女神達は小瓶をダース単位で手渡してきた。他には大人のデートスポットの特集をした雑誌や大人があれやこれやを楽しむための道具等々、袋に入っているから良いが、知り合いに持っている姿を見られたくない物ばかり。
「え、いや、一体これは……」
「じゃあ、お兄さんに渡しておいて! それと応援してるって伝えてね?」
困惑するヴェルフを置いてマイペースに去っていく姿は女神であると思うヴェルフ。街中でこの様な物を渡されても困るばかりであった。
「……さっさと兄貴に渡してくるか。此処から近いのは自宅だが居てくれよ?」
子供が目にしたら駄目なので適当な場所にも捨てられず、処分を誰かに頼むのも抵抗がある。この様な物を持っている所を誰かに見られるのは絶対に嫌だと思ったヴェルフは速攻で兄に押しつけようと心に誓うのであった。
「……まさか弟にこの様な物を渡されるとはな」
「俺が用意したんじゃねぇよ!」
ダース単位の小瓶……精力剤を手にして微妙そうな顔を向ける兄に当然の抗議の声を向けるヴェルフ。この日は朝から何となくついていない一日であった。
尚、この後で向かったベルとの顔合わせは上手く行ったので翌日早速ダンジョンに向かう事になる。翌日、その姿を入り口付近でリヴェリアが、バベルの上からフレイヤが見掛けていた……。
感想お待ちしています
昨日は少なかった……
お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます
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春姫との結婚生活
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一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!