鍛冶兄弟のダンジョン賛歌   作:ケツアゴ

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最近出番が増えているヴェルフですがタイトルがタイトルですしね?


第十五話

「……それでどうなったの?」

 

 ダンジョン内での休憩中、春姫の惚気話を聞かされたティオネはさほど期待していないという顔で訊ねる。初めてを捧げる、その言葉だけで純情なレフィーヤなどは茹で蛸みたいになっているのだが今までの事が事なのでティオネは期待していない。少し離れた場所で話が耳に入ったリヴェリアも何かを予想していた。

 

「ヴァルツ様は只一言、分かった、とだけ仰り……私の初めてをお受け取りになりました。少し痛かったですが至福の思い出で御座います……」

 

 だが、当の本人は指で口元を隠しながらうっとりとした表情で語り、頬を赤く染めてそっと顔を逸らす。その仕草に色気を感じ取ったティオネは彼女に先を越されたという驚愕の事態に思わず口をあんぐり開けて固まってしまう。散々フィンにアピールしている自分が進展せず、鎖骨を見ただけで羞恥から気絶して淫夢を見る純情エロ娘の春姫が純潔を散らしたというのだから仕方がないのだろう。

 

 

 

「……また夢ではないのか?」

 

 どうやらその際の姿を妄想してしまったらしいレフィーヤが熱病にかかった様な事態に陥る中、リヴェリアは極めて冷静にそう呟くのであった。

 

 

 

 

「ヴァルツ、えらく機嫌が良いじゃない。春姫ちゃんにプロポーズでもしたの? 派閥の問題、交際は兎も角それは早いわよ?」

 

 一方、ヴァルツが持って来た商品の魔剣をチェックしていたヘファイストスは何時も何を考えているのやらと考えが読めない表情をしているヴァルツが珍しく上機嫌なのを見て少し驚いた様子だ。また変な物でも作ったのかと他に持参した弓や鎌に視線を向けるのだが、どうやら違った様子だ。

 

 

「……実は春姫のファーストキスを貰ってな。歯がぶつかって少しびっくりしたが最高の気分だ」

 

「ふんふん。それでそれで? ……それだけ?」

 

「いや? クロッゾの名は面倒だから将来的に俺が婿入りするのが良いと伝えたが……どうして呆れている?」

 

 数年前から誰が見ても恋人同士だった二人が漸く正式に交際を始めたと思えばキスだけで明らかに浮かれきった様子。これにはヘファイストスも肩透かしを喰らった気分だ。にも関わらず結婚後のことはちゃんと考えているというのでなんとコメントして良いのか分からない、今の心境はそんな感じであった。

 

「まあ、節度を持つのは大切として……腕を上げたわね」

 

 更に進んだ関係を望んでいるのが見て取れる春姫に同情しつつも主神として忌憚なき評価を下す。ヴェルフと違って伝説に残るような規模の威力の魔剣を打つスキルを所有していないが、今回持ってきた魔剣は一般的な物とは格が違う。恐らく同等の物を打てるのはヴェルフを除けば自分と椿位のものだというのがヘファイストスの判断だ。

 

 齢二十にしてこの領域の魔剣を作り出す才と鍛錬は口にする目標が実を伴わない誇大妄想ではないと知らしめるに充分。

 

(本当に叶えるかも知れないわね……)

 

 神の領域の者すら高く見上げる領域を登り続けるという大口を実現するかも知れない鍛冶師の作品を見て刺激されたのか無性に鎚が持ちたくなったヘファイストス。この時ばかりは主神としての書類業務が煩わしくなった。

 

 

 

 

 

「あっ、それと武器だが銘は『当たりが出たらもう一個』と『鎌ってちゃん』だ」

 

「……そう」

 

 ネーミングについては何も言うまいとする。実際に売れているし性能は良いのだから仕方ないとするしかなかった。例え九割以上が付けられた銘で呼ばなくともネーミングセンスにはコメントしないヘファイストス、主神の鑑だろう。多分言っても無駄だろうし、それでも無性に言いたい気分では有ったが……。

 

 あの椿でさえ追求しないネーミングセンスはどうして此処まで行き着いたのか全知全能の筈の神でさえ分からない地上の未知の一つであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギキィイイイイイイ!!」

 

 キラーアントというモンスターが存在する。上層部に出る蟻型のモンスターで、金属並に硬質な甲殻だけでなく重傷を負えば仲間を呼ぶという厄介な性質を持つので甲殻の隙間に刃を差し込んで素早くしとめるのが推奨される。例えステイタスが上でも圧倒的な数の暴力によって覆されるのだから。

 

「やべっ! 逃げるぞっ!!」

 

 ヴェルフも何度もキラーアントは倒してきたし、仲間を呼ばれたらどれ程厄介なのかヴァルツが敢えて呼ばせて教えてきた事もある。だが、この日の彼は他事に思考を割かれ何時もなら見逃さない瀕死のキラーアントを放置してしまった。響き渡る耳障りな鳴き声と奥の通路から響くキラーアントの群れが蠢く音。何処かで大量発生『怪物の宴(モンスターパーティー)』でも起きたのか床や壁、天井を覆い尽くす程の圧倒的な数が濁流の如く迫ってくる。

 

(畜生っ! 何やってんだ、俺はっ!)

 

 あの濁流に捕まれば飲み込まれ成す統べなく殺されると一斉に逃げ出す三人。先頭は現在の所最も敏捷が高いヴェルフで、立ち塞がる他のモンスターを斬り伏せていく中、懐に忍ばせたナイフ程度の大きさの魔剣に意識が向く。今朝、郵便受けに入っていた物で誰が作って誰が入れたか分かっていた。これを使えばどうにかなる、そう分かっていても使用を躊躇う中、背後から悲鳴が聞こえた

 

「きゃっ!」

 

「リリッ!」

 

 今回、自ら売り込んできたから雇ったサポーターのリリルカ・アーデが転倒したのだ。ベルはそれを見逃せず引き返して彼女を助けに向かう。キラーアントの群れは直ぐ其処まで迫り二人の命運が尽きるまで後少しと悟った瞬間、ヴェルフは魔剣を構えて走り出していた。

 

「伏せてろっ!! 白砕鬼鞭(はくさいきむち)ぃいいいいいいいいいいっ!!」

 

 真上から振り下ろした瞬間、魔剣の先端から無数の白い鞭を思わせる冷気が発せられる。意志を持つかの様にしなってキラーアントに叩き付け、触れた瞬間に内部まで凍らせて打ち砕く。吐く息が白くなる程に周囲の気温が下がり壁に霜が付着する中、百や二百を優に越えていたキラーアントの群れは魔石を砕かれて大量の灰となり、幾つかのドロップアイテムだけが残されていた。

 

「す、凄いね、ヴェルフ! それがリリが言ってたクロッゾの魔剣なの!?」

 

「流石です、ヴェルフ様! リリは感激してしまいました。伝説に違わぬ威力ですね!」

 

「……いや、作ったのは兄貴だが、これはクロッゾの魔剣とは別モンだ……」

 

 口々に感想を言ってくる二人の声を聞きながらヴェルフは握り締めた魔剣をジッと見つめる。スキルによって失われたクロッゾの魔剣を作る力を得た彼だからこそ手の中のこれは別物だと、兄が己の力で行き着いた領域の品だと理解させられる。

 

「……マジで何やってんだよ、俺は」

 

 二人に聞こえない大きさでヴェルフは呟く。悔しさと無力感で魔剣を握る手が震えていた……。

 

お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます

  • 春姫との結婚生活
  • 別ヒロインルート アスフィ
  • 別ヒロインルート フィルヴィス^^
  • 別ヒロインルート 誰か募集
  • 一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!
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