鍛冶兄弟のダンジョン賛歌   作:ケツアゴ

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第十六話

「回復系の『邪狩虎・血射治(じゃがりこ・ちいず)』に束縛系の『負網金(ふあみこん)』。……神々もビックリのネーミングだよね、この魔剣」

 

「言うな。性能と売り上げは良いんだ……」

 

 ベルの為にヘファイストスに武器を打って貰った対価として多額のローンを背負ったヘスティアはヘファイストス・ファミリアの店舗で働いているのだが棚に並べられたヴァルツ作の魔剣の銘を見て何とも言えない気分に陥ってしまう。彼女にそれ以上は禁句だと店員の男性が告げるが彼も彼で微妙な気分だ。本来は魔法の劣化でしかない魔剣だがヘファイストス・ファミリアのそれは性能も値段も高く、スキルの恩恵で残存魔力量が色の変化で分かる彼の魔剣は罅が入って崩壊間近を知らせる他の魔剣よりも売れている。

 

「職人の世界じゃ腕の良い奴が偉い。商人の世界じゃ売れる物が偉い。……名前は兎も角な」

 

 効果も魔法を凌駕するとされるクロッゾの魔剣には劣るが単文詠唱レベルにまで達しており、淡い光で周囲の者を回復したり金の鎖で相手を束縛したり等、他の魔剣に比べて特異な性能も求められる理由だ。……但し高価だ。ベートが所持している通常の魔剣が百万ヴァリスだが、彼がわざわざ選ぶ程の性能の魔剣の更に数倍の値段で販売されているので上級ファミリアにしか手が出せなかった。

 

「そっか。職人のファミリアでお店だもんね。……ネーミングセンスは別として」

 

「ああ、職人が経営する店だからな。……ネーミングセンスは別だが」

 

 付けられた銘も突飛なものではない筈だが、ヘスティアも店舗の責任者も何故か微妙な気分で棚に視線を送る。特にヘスティアなどは神会で付けられる痛い二つ名に匹敵するセンスに脱帽だ。数の優位とファミリアの力の差をバックに弱小派閥に洗礼を行う神々のノリで付けられた二つ名は地上の人間達には素晴らしく感じるが、同系統のヴァルツのネーミングは受け入れられない。

 

 それは直感と呼ばれる物が理由だ。神の悪意と遊び心に溢れた痛々しい名を賞賛する人の子が本当にヤバい、そう思える何かがヴァルツの付ける名には存在した。

 

「本当に地上には未知が沢山だよ……」

 

ヘスティアはどうしてだろうと悩みつつもベルが将来的に彼の作品を購入したとしてノリノリでアレな名前の物を使わなくて済むのだとも安堵する。兎に角、ヴァルツのネーミングセンスは彼とヴェルフ以外には受け入れられないレベルであった。

 

「おっと、お客さんだ。いらっしゃいませー。……あっ」

 

「か、神様っ!?」

 

 そんなベルだが今まさに来店してきた。それも女連れだ。因みに担当アドバイザーのエイナなのだがそんな事など知らないヘスティアからすれば先ほど心配したばかりの眷属が知らない女とデートしているという驚愕の展開で、ベルも最近稼げるようになったのに主神が新しいバイトをしているのだから当然驚く。

 

「一体どうしたんんですか!?」

 

「どうしたもこうしたもあるかっ! ベル君の浮気ものぉおおおおおおっ!」

 

「ええっ!?」

 

 ヘスティアが涙目で叫んでベルが更に困惑する。店員の男性が止めるまで場が混迷を極める中、椿の工房をヴェルフが訪ねていた。打たないと決めた筈の魔剣を持参し、主神や兄以外の相手に見せている彼の心境が複雑なのは顔を見れば一目瞭然。苦虫を噛み潰した様な顔で魔剣への評価を待っていた。

 

 

 

「……ふむ。何かあったかは知らんが漸く忠告を受け入れる気になったか。主神殿や兄に見せに行かない所は未だに意地を張っているが……ふぅむ」

 

 椿の手の中の魔剣は伝説に残るに相応しい力を秘めている。団長である彼女の打つ魔剣すら凌駕する出来のそれをマジマジと見つめて唸り……無造作に放り投げた。カラカラと机の上で音を立てる魔剣を見たヴェルフは自分が作った物を乱雑に扱われた事で立ち上がろうとし、歯噛みして座り続ける。

 

「……スキルの恩恵で魔剣の性能としては一級品だが、鍛冶師の作品としては未熟だ。ヴェル吉、それはお前が一番分かっているだろう? 今まで魔剣を否定し腕を鈍らせてきた。だから今も立てなかったのだ。……違うか?」

 

 椿の問い掛けにヴェルフは返答しないが握り締めた拳が肯定を示す。一夜で作った物であることを加味しても目の前の魔剣は満足できる質ではない。例えスキルの恩恵で高い性能を持っていても鍛冶師としての誇りが許せなかった。だからこそ椿が言ったように立てない。目の前の魔剣を誰よりも否定して来たのは自分自身なのだから。

 

「……これからは魔剣を打つ。だがっ! 俺は俺の為にしか打たねぇ!」

 

「別に構わんだろう。鍛冶師にも客を選ぶ権利はある。お前の兄も一定以上の質の物はオーダーメイド限定であるしな。盆暗に気に入った物を渡すなど鍛冶師なら誰も好まん。……ほれ、乱暴に扱って悪かった」

 

 立ち上がり叫んだヴェルフを座ったまま見上げる椿は静かに言い放ち、机の上の魔剣を差し出す。それを引ったくる様に受け取ったヴェルフは入り口に向かって走り出し、ドアノブに手を掛けた所で歩みを止めると椿に背を向けたまま再び叫んだ。

 

 

 

 

 

「……絶対だ。絶対にお前もヘファイストス様も兄貴も越えてやるっ! こんな挫折位で俺の心は折れも冷めもしねぇんだよっ!!」

 

 乱暴に扉を閉めてドタドタと走り去っていくヴェルフ。きっと今から工房に籠もって一から魔剣制作の修行に取り掛かるのだろう。彼の足音が聞こえなくなった後で椿は肩を竦めて溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

「やれやれ。賭けはヴァルツの勝ちか。来た時の様子から数日は掛かると思ったのに、奴の予想通り一日目で覚悟を決めるとは。……兄弟の絆という奴か?」

 

 取り敢えず腕を更に上げて何時までも追いつけないヴェルフをからかってやろう、そう決めた椿は鎚の音を工房に響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結婚を機にクロッゾの名を捨てる? ええ、それが良いかと。王族が一応のケジメを付けたとは言え未だ敵視するエルフはオラリオだけでもって大勢居るでしょうから」

 

 豊穣の女主人の中庭にてリューとヴァルツは言葉を交わし、同時に剣を交わす。先日の約定によって十人中十人がヴァルツに原因があると言うであろうとは言え、勘違いから攻撃を仕掛けた詫びにこうして手合わせを行っている二人。正面から鍔迫り合い、二人同時に相手の木刀を弾くなり後ろに跳ぶ。

 

 勝負はステイタスの差と、何よりも技術の差でリューが優勢。矢張りスキルで上乗せされた技術を本職でないヴァルツが使うのと実戦で身に馴染ませた技術を本職だったリューが使うのとでは大いに違う。

 

「……ああ、それは俺も思っている。王族の顔を立てて大っぴらに敵対はされないがな」

 

 クロッゾの魔剣が戦争で使われた際にはエルフの住処である森も焼かれ、未だにクロッゾの一族を憎んでいるエルフは多い。数年前に両者合意の下でリヴェリアが王族としてケジメを付けるという形で思いっ切り殴った事は既に広まっているが、それでも敵意が消えたわけでは無いのだ。

 

「だからまあ、将来的に春姫との間に生まれる子には重荷を背負わしたくない。鍛冶師か冒険者か、それ以外を選ぶかは別としてな。……所で刀の調子はどうだ?」

 

「ええ、素晴らしい出来映えです。……妙な音さえ鳴らなければもっと良いのですが」

 

 微妙な顔をしたリューが見つめるのは壁に立て掛けてあるヴァルツから贈られた刀。木刀を使っていた彼女の希望で刃を潰しているこの魔具は、強い方が良い経験になると渡された物だ。能力は二つあり、一個目は魔法に対する打撃。水流であろうと火であろうと一つの固まりとして殴り飛ばせる。……もう一つは音だ。打撃の度にある音が鳴るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、確かにピコピコ鳴るのは少し間抜けだな。だが、名は良いだろう? その『ピコピコ反魔(はんま)ー』」

 

「……ノーコメントで」

 

 高潔なエルフの誇りが善意で渡された物への否定を許さない。性能も優れているので使わない選択肢も存在しない。ただ、名前だけが無性に嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所で妙な噂が。ラキアがクロッゾの嫁を捜しているとか」

 

「母が亡くなって久しいが、男やもめに気を使った王の計らい……な訳はないか。面倒事の臭いがするな」




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お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます

  • 春姫との結婚生活
  • 別ヒロインルート アスフィ
  • 別ヒロインルート フィルヴィス^^
  • 別ヒロインルート 誰か募集
  • 一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!
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