「初めまして、マクシミリアン殿。私が『エルドラド・リゾート』オーナーのテリー・セルバンティスで御座います」
「……初めまして。それと申し訳有りませんが握手はご勘弁いただきたい」
友人……いえ、知人であるヴァルツさんに覚悟や葛藤を至極どうでも良い質問で台無しにされた私ではあったが、男装して船上パーティーに同行していた。今はラキアの占領下に置かれた国の貴族でヴァルツさんの友人であるアリュート・マクシミリアンであり、今回探りに来たテリーと軽く言葉を交わしつつ相手の瞳を見る。
春姫さんには好色な瞳を、私とヴェルフさんには関係を利用してヴァルツさんを抱き込まんとする道具を見る意志が含まれていた。……この男を見た時、予想は確信に変わる。思い出すのは私が正義と名乗れていた頃の事。敬愛する女神の慈悲は無駄であったとこみ上げてくる怒りを隠して宴の席に向かいました。
「彼女達は皆、私の移り気な愛を受け入れてくれた大切な存在です。この美貌を独り占めしては愛や美を司る女神様達の怒りを買いますのでお披露目している訳でして……」
新しく入ったという獣人の女性の腰に手を回しながら語るテリーの横で彼女は、いえ、所有物の証のつもりなのかチョーカーを付けている彼女達は笑みを浮かべてはいるが表面的だ。恐らくは何らかの手段で従わされているのでしょう。見るに耐えませんが今の私は下手に動けない。
「……せめて殴りつける大義名分さえあれば」
テリーは娯楽都市からの出向してきた大物……という事になっている。背中を晒し解錠薬を使えば全てを白日に晒せますが、ただ叫んでも無駄。私自身も死んだことになっているとはいえ賞金首だ。正体が露見すれば危険が及ぶ人が多い以上は手を出す口実を作り、その上で表舞台に立つ誰かにテリーの正体を暴いて貰えば良いだろう。事が順調に進めば何故解錠薬を使ったのかという疑問は有耶無耶に出来る。
警備に駆り出されているガネーシャ・ファミリアの団員に視線を送りつつ顔の上半分を覆う真っ赤な薔薇が刻まれた白い仮面に手を当てる。ヴァルツさんの魔具で装着者を男性であると誤認させる効果がある。酷い火傷を隠すためと伝えている他、顔見知りでも男を見て私だと思わない為に正体の露見を防ぐには向いていた。
……グレード・ザ・マスクマンGという名前はどうかと思いますが便利であることには変わらない。私は遠目に食事を楽しむヴァルツさんを眺めながら少し前のことを思い出していた……。
「買取? ああ、構わないから品を出してくれ」
偶に私はダンジョンに潜ることもあるが流石にギルドにドロップアイテムの買い取りを頼むのは不可能だ。そして最大派閥の一つであるロキ・ファミリアでさえ交渉次第では買い叩かれるのだから私なら尚更。別にお金に困っている訳でもないが(ミア母さんに途轍もない負債こそ有れど)、時に大金が必要なケースもあるので適正価格での買い取りが望ましい。
この日、ミア母さんから聞かされた私はため込んでいたドロップアイテムを携えて彼の工房を訪れていた。エルフとしてクロッゾの名に思うところがない訳でもなく、変人との噂は既にあったので抵抗はあったが背に腹は代えられないとしたのですが提示された金額は予想より上でした。
「……何かの間違いでは? この金額を貰う理由がない」
店でよく見かける下心を込めて気を引くためのチップを渡してくる酔客と同じだと思った私は余分な分は返却しようと思いました。お金が多いに越した事はありませんが私は他の皆のように上手くあしらえる自信はない。ならば変な期待をされる前にと思ったのですが、彼の興味は既に渡した素材に移って私を見向きもしていません。
「何か勘違いをしているが俺はお前よりも素材の質の目利きは得意と思っているし、それが外れたなら自己責任だ。少なくとも俺の中ではそれだけの価値がある」
「……そうですか。あらぬ疑いをかけて申し訳有りません」
これが職人かと偏見を持って接した事を恥じる。真剣な瞳で素材を手に構想を始め何やらブツブツと呟きだした今の彼は既に私を認識してさえいないのでしょう。それでも礼儀として頭を下げて帰りだした頃、彼への評価は噂に聞く変人ではなく生粋の職人へと変わっていました。
「さて、今度は無理にでも魔石を食わせて強化種にした個体と通常の個体の死骸を持ち帰って解剖して……」
ええ、帰る直前に生粋の職人兼変人へと再び変わりましたけど。この後も私は彼の元に素材を売りに通い、今は朝の稽古に付き合って頂く仲になったのです。
「ったく、参ったな……」
私が宴の席を離れて壁に背中を預けていると先程まで女性に囲まれていたヴェルフさんが同じ様に宴の席を離れて此方にやって来ました。彼は彼で兄の影響か名が知れており、魔剣を求めてか籠絡するように仕向けられた様子の女性達が寄って来た事に辟易した様子。
私にも何人か向かって来た上に目に熱がこもっている気がしたのは気のせいでしょう。いくら男と認識されるとはいえ、その様な事がある訳がありません。想い人が居るなどと適当にあしらって去って頂きましたけど少し疲れた気分です。
「丁度良い。少しお聞きしたい事が……」
想い人で思い出しましたが、彼とパーティーを組んでいるのは私の親友シルの想い人。最近雇ったというソーマ・ファミリアのサポーターについて訊ねれば彼は怪訝そうな顔になる。何やら色々ありそうですね。
「……どうもベルの奴が金を奪おうとしていた奴から助けたって言う小人族と似てたみたいなんだよ。それに冒険者に不信感を抱いてるみたいつーか。……いや、兄貴とソーマ・ファミリアの団員が揉めた事があるから変に感じるのかも知れないけどよ」
「ああ、そういえば一年前に……」
ソーマ・ファミリアの団員の内、Lv.1の冒険者は金銭に関わるトラブルに多く関わっている。換金所での査定額への文句など異様に金に執着しているのですが、ヴァルツさんの工房に盗みに入ろうとして会いに来た猛者に取り押さえられたという事件があったのを思い出しました。あの一件の後、関わった団員は追放されてファミリアも厳重注意を受けたらしいですが……。
「どうもこなさなくても罰則が無いノルマが有るみたいだけど……臭いよな?」
「ええ、怪しいですね」
ペナルティーを恐れての結果なら稼ぎの悪い下級冒険者が焦る理由になりますが、ノルマ達成が不可でも何も無いのなら何故? という疑問が湧きだしてくる。ミア母さんなら何か知っているかも知れませんね……。
「それで貴方はどうする気ですか? 私としては縁を切ることをお勧めしますが」
「いや、ベルの奴は信じてるし、何か理由があるなら助けようとするお人好しだからな。俺も仲間だし付き合うだけだ。……ちょいと風に当たって来る」
「……貴方も充分お人好しですよ」
呆れて良いのか感心して良いのか……いえ、これは呆れる所なのでしょうが本人達が見捨てる気がないのなら私は何も言うべきではないのでしょう。ヴェルフさんも甘いと思っているという表情でしたし、これ以上は野暮です。ついつい溜め息を吐いてしまった時、ポーカー等のギャンブルが出来るテーブル周辺で、ざわ…ざわ…とどよめきが起きる。
「あれは……」
負けているのは『
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