早朝、バベル前の広場にロキ・ファミリアの選抜隊の姿があった。時間帯が時間帯だが欠伸をかみ殺している者など居らず、皆、今から向かう先の危険性を承知して緊張した面持ち。今回彼らが目指すのは未到達領域。ファミリアの名を上げる為、ダンジョン攻略の第一歩とすべく気合いが入っている。
(え、遠征は二回目ですが緊張します……)
春姫もサポーターとして参加しており、前回の遠征では五体無事に帰還するも昨日まで言葉を交わしていた仲間の死を体験した。手が僅かに震える中、ふと目を向けたバベルの入り口から丁度出てきた者を見て耳が反応する。当然、ヴァルツである。
幅広の大剣とパンパンに詰まったバックパックを背負い、ロキ・ファミリアに気付いたのか先頭に居た団長のフィンに近寄って来た。春姫も日頃なら歩み寄っていく所だが、流石に自重する。厳しくて怖い先輩が居るのだ。只、尻尾だけが内心を表す様にソワソワと動いていた。
「『
「へえ。君がわざわざ用意してくれるって期待できるね、
バックパックの外ポケットから取り出して手渡されたのは小さな箱で中には飾り気のない五個の指輪、石は恐らく魔石を加工したものだろうが填められている。フィンはそれを興味深そうに眺め、他の団員も同様の視線を送る。前の主神を脅してオラリオにやって来た等風変わりな噂が絶えない彼だが、作り出す装備は基本的な価値でさえ熟練の職人に匹敵し、付加される能力によって更に価値が跳ね上がる。
何よりオラリオ最強の冒険者であるオッタルが上客である事が過大評価で無いことを証明していた。
「前回譲って貰ったウダイオスの魔石とスパルトイのドロップアイテムで作った。詠唱時間を半減してくれるが使い捨てだ、よく考えて使え。名は……アカマキギャミアオマミマミキミャキマキだ」
魔法の使用においてもっとも弱点となるのが詠唱時間である。強力な程に一節毎に掛かる時間も増え、数秒の差が生死を分ける事もある。リヴェリアやレフィーヤという優秀な魔導師が所属するロキ・ファミリアだからこそ価値がどれ程か理解出来た。
そして、誰も真偽を疑わない。彼への好き嫌いはあっても作り出す物への信頼だけは共通事項なのだ。
「……相変わらず凄いな。うん。有り難く使わせて貰うよ」
「ディアンケヒト・ファミリアで聞いたがカドモスの泉水を依頼されているのだろう? 役に立ったら魔石かドロップアイテムを優先的に売ってくれれば助かる」
フィンが言う相変わらず凄いとは何を差しているのか、話を聞いていた者全員が悩むネーミングと効果であった。取り敢えず残念な名前であるのは確かである。用事は終わったとばかりに立ち去るヴァルツだが、春姫に軽く手を振って擦れ違いざまに口を開く。
「お前の力で仲間を守れ。そうすれば仲間がお前を守ってくれる。無事に帰って来たら何か祝いの品を贈ろう」
「が、頑張ります!」
少し気合いが空回りしそうな春姫だが上層部の内に頼れる仲間が何とかする事だろう。完全に恋する乙女の目で彼の背中を見詰める春姫を見ながらアマゾネスの姉妹は呟いた。
「あれで付き合っていないんだから凄いよね」
「春姫もさっさと押し倒せば良いのに。裸見たら気絶するなら目隠しするなりして……エロいわね、凄く」
目を布で覆い服をはだけた春姫が布団に相手を誘う光景を思い浮かべたティオネは背徳的な物を感じてしまう。妙な色気がそこにあった。
「……という訳で春姫への贈り物を今から考えたいのだが知恵を貸して欲しい」
「いや、朝飯買いに行く途中で連れてこられたと思ったらそんな相談かよ、兄貴っ!?」
「まあ、酒を奢って貰えるなら相談に乗るぞ」
俺の知人で意中の相手への贈り物を相談できる相手は少ない。上客として猛者を筆頭にフレイヤ・ファミリアの連中とは懇意にしているし、既存の作品を自分にもと言う注文も受けている。ただしアレン、貴様は駄目だ。遊びだのなんだと言ったのだから、嫌いな相手と遊ばなくとも問題有るまい?
閑話休題、神フレイヤを信奉する奴らに他の女について相談しても役に立つとは思えず、そこそこ交流のあるアスフィは主神のお供で不在。他の団員とは其処まで交流がない上に主神である神ヘルメスは胡散臭い。
あと、椿。お前は別に呼んでいない。勝手について来ただけだ。だが、一応出身地は同じか。ならば一応役に立つかも知れんな。
「それとヴェル吉。この男、作品が全然売れずに困窮している弟を心配して飯を奢ろうと言うのだ。この期に栄養を補充しておけ」
……相変わらず口の減らない団長だ。それは兎も角、何故愚弟であるヴェルフの作品が売れないのか、最近主神殿との会話で判明した。お前の作った物は性能はそこそこだが名前が良くない。何故なら……。
「俺達が付ける名前はセンスが光り過ぎて気後れしてしまうようだ」
「な、なんだとっ!? 自信があったのに売れなくて不満だったが、そんな理由だったのかっ!?」
驚愕するヴェルフだが仕方がない。俺も今まで性能が褒められても付けた銘に微妙な顔をされる理由が分からなかったが、気後れして居たのなら仕方が無いだろう。……メイン装備である『大金剛変化自在丸秋雨雲水δⅢ』の名を略した大金剛でしか呼ばれない理由に納得がいった。
これは俺が今まで作った中でも特にお気に入りであり、わざわざ秘境を巡って漸く手に入れた黒竜の鱗を高ランク冒険者に傷付けて貰い、破片を加工して作った道具で加工して、貴重な材料で作った魔剣を駆使して何とか完成に至った。不破壊属性もオリハルコンを使用して付与しており、多くても二個の所が自己再生等の他にも様々な能力が発現しているのだ。
「おい、店主。強めの酒をくれ。素面で聞いているのは馬鹿馬鹿しい」
既に何杯ものジョッキを空にした椿は俺の奢りだからと好き放題に注文する。……役に立たなかったら半分しか払わんぞ。
「つーか、前に魔導書をやったんだろ? 普通に飯奢るとかで良いんじゃねえか?」
ローストビーフのサンドイッチをアイスティーで流し込みながら言ってくるヴェルフ。確かに通常数千万ヴァリスで売買される貴重品だが、ちょっとした訳が有るのだ。
春姫同様に盗賊から助けて故郷に帰った者の中に魔法大国の出身が居て、更に親類に魔導書を作れるほどの者が居たらしく謝礼として贈られたが、解析の結果として魔法スロットを増やせる物ではなく既に埋まっている俺には無用の長物。ならば金に換えるよりも同じ境遇だった春姫の役に立つ方が……、という訳だ。
「……櫛などどうだ?」
つまり元手がタダの物なのだから普段の感謝も兼ねてそれなりの物を贈りたいと言った時、山盛りの肉料理に食らいついていた椿が呟いた。
「手前も会った事があるが素晴らしい髪だった。ならば櫛も一級の物を使ったら良かろう。手前の手元に
「……驚いた。まさか参考になる意見がお前から出るとはな、椿。完全に酔ったからか?」
「そう言えば一応女だったな」
「よし。手前に喧嘩売っているな、お前達」
早速とばかりに先に職人の所に向かった俺だが、財布を見事にせしめて好き放題に食べていた椿とヴェルフが俺の知らぬ間にこんな話をしていた。
「んで、何で櫛を勧めたんだよ? 他に理由が有るだろ」
「……知っているか? 手前や春姫の故郷では櫛を贈るのは求婚を意味するのだ。ふはははは! お前に義理の姉が出来るかも知れんぞ?」
そして幾日か経った後、厄介な新種に遭遇したロキ・ファミリア達はやむを得ず引き返し、オラリオに帰還の知らせが広まる少し前の時間、俺は血塗れで何か良いことでもあったかの様な顔をしながら街を疾走する新人冒険者を目撃するのだが、『
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