工房に響きわたる金属音が止み、完成した作品を所定の場所に並べる。未だ魔具としては商品にならず、今から順繰りに解析をして付与された能力を確かめる。……未だ目指すべき高みには届かず。多くの鍛冶師が目指しもしない頂は未だ片鱗すら見えずにいた。だが、今は一歩一歩進むだけだ。
「突き刺した相手を内部から焼くトライデント……こんがり丸焼きフォーク。殴った相手を癒やす籠手……痛いの痛いの飛んでい拳。ふむ。後は魔剣が数本、これらは残存魔力を色で知らせる効果を付けられているな」
どうやら長時間作業に没頭していたらしくネーミングを終えると空腹と乾きを感じる。遠征中でなければ合い鍵を渡している春姫が差し入れを置いていたり持って待っていたりするのだが暫くは帰って来ないだろう。適当に買っておいた保存食を水で流し込んでドアを開けば足元に一匹の野良猫が座って此方を眺めていた。
ボスと呼んでいる雄で近所の猫のボス猫をしており、しつこいと感じない周期で餌を強請りにやって来る。豊穣の女主人という店の賄いがクリームシチューの時は毎回姿を見せる他、金物屋の斑猫や黒い野良猫と仲が良いらしい。尚、他の場所では違う名前で呼ばれており、名を聞かれても、俺の名前はいっぱいあってな、とでも困ったように名乗るのだろう。
「……どうちまちたかー! 餌が欲しいんでちゅねー。ほーら、煮干しでちゅよー! うーん。ボスは本当に可愛いでちゅねー」
人に慣れているのか撫でたり抱っこしても抵抗せず喉をゴロゴロと鳴らす。常備している上物の煮干しを俺の手から直接食べ、粉を舐めとるとお礼を言うようにニャアと鳴いて去って行くボスを目で追うと此方を見て固まっている怒蛇達の姿があった。
「……えっと、出直した方が良いですか?」
「いや、空気を入れ換える為に開けただけで出掛ける用事は無い。……それよりも早いが何かあったのか?」
昨日は食料を買いに出た以外は工房に籠もりっきりだが、どうやら遠征後恒例のドロップアイテムの換金作業の途中の様子。誰か死んだという顔でもなく何かしら不足の事態があったから帰還したのだろう。手にはカドモスの皮膜、それも上質だ。
……剣姫め。何故出直すか聞いたかは知らぬが、予約したとは言え口約束。他のドロップアイテムを売るからと皮膜を他のファミリアに買われては困る。昨夜、アイデアが浮かんだのだ。
「千五百万でどうだ?」
「千五ひゃ……!?」
「よし、売った!」
『
丁度昨日の買い出し前にフレイヤ・ファミリアの四つ子からの新規の武器の作成依頼を終え、今回は素材ではなく現金での依頼として一億二千万有ったので二千万の袋を渡す。五百万は奇妙な魔石の代金、つまり解析後は寄越せという事だ。
「まいどありー! あっ、後で他の素材も売りに来るから。春姫に来させた方が良い?」
「いや、どうせならばゆっくりと話がしたいからな。約束の物も有ることだし、明日にでも一緒に昼飯を食べようとでも伝えておいてくれ」
さて、解析後は半分は粉々に砕いて溶かした他の金属に混ぜ込んでみるか。いや、次に何時手に入るか分からないのだから……。
実にそそるな!
「あーあ。仕事モード入っちゃったよ。じゃあ、帰ろっか。お腹ペコペコだよー」
「そ、そうですね。二千万とか持っているの不安ですし、ディアンケヒト・ファミリアにも寄らなくちゃいけませんし」
顎に手を当てて考え事を始めた俺に背を向けて四人は去っていく。この後、気がつけば空が暗くなり始めていた。腹も減ったので何処かに食べに行くかと思ったが、先ずは解析だけでもと思い魔法を掛ける。対象である魔石の持ち主であるモンスターの情報が説明書を読んだかのように頭に入り込んできた。
「……情報が少ないな」
言ってみれば組織の一部門についでだけ知って、組織全体の活動内容や本部の場所、組織名事態は不明という感じ。まあ、俺はあくまで鍛冶師。ダンジョンについてはロキ・ファミリアに話して後は任せるとしよう。
「……宴の席での余興か?」
神ロキのお気に入りの店で宴会の場といえば此処だと思い豊穣の女主人に来てみれば縛り上げられている『
「んな訳有るかいっ! この阿呆がアイズにセクハラかましおったから罰や」
どうも宴も開始からかなり経過しているらしく、中には酔いつぶれている者も居る。神ロキは縛られて吊されている凶狼を小突いていた。見れば剣姫は確かに落ち込んだ様子だが、いったい何を言われたのやら。
因みに奴のことだが嫌っていない。口は悪いが幼い頃に語り父や祖父さえもが正気を疑った夢を否定しなかったからな。
「例の件は明日報告する。では、宴を楽しんでくれ」
春姫と言葉を交わしたいが宴の邪魔をするのも無粋と言うもの。入ったからには席に着こうと空いているカウンター席に向かったのだが、何故か隣にほろ酔い加減の春姫が座ってきた。
「ふふふふふ。ヴァルツ様が沢山居ます」
「だいぶ酔っているな……」
言ったら悪いが酒臭い。戻らなくて良いのかとロキ・ファミリアのテーブルに目を向ければ先程まで春姫が座っていた席の周囲は皆酔いつぶれ、彼女の席の前には大量のジョッキが重なっていた。流石に恋人でもない女性を飲みに誘うのは下心があるようで知らなかったが酒豪だったか。
「おーい、ヴァルツー。高い金払って貰ったさかい、春姫たんは貸し出すでー。でも、お持ち帰りはNGやさかいにな」
「誰が連れて帰るか、全く……」
セクハラなら自分の眷属に限って欲しいと思っていると春姫が俺が注文した酒に瓶を持ってコップに酒を注いでいる。どうも酌をしてくれるらしい。……悪くない気分だ。
「えへへへー! このお酒も美味しいです」
お前が飲むのかっ!? しかも俺のコップだぞ、それは。仕方ない、新しいコップを頼むとするか。間接キスは流石にな……。
「あっ、これってヴァルツ様ので御座いますね。はい、お返しいたします」
半分ほど飲んだコップを差し出される。受け取ろうとしたのだが両手で包み込む様に持っていて受け取りにくいのだが、そう思っていると何かを察したという顔。助かったと思ったらコップを持って俺の口に当てて傾けて来た……先程口を付けていた場所なのは気のせいだな。
「春姫との間接キスですよ~」
駄目だ、この酔っ払いどうにかしないと!
「……すぅ」
「助かった……」
酔いが回ったのか春姫は寝息をたてて俺により掛かっている。無防備に体を預け気持ちよさそうに笑みを浮かべてた。椿が言っていたが遠征帰りにも関わらず艶のある上質な髪から良い香りがした。
「……ついでにホームに寄って報告しろと言われたが」
宴も終わり酔い潰れていない者が酔い潰れた者を連れて帰る中、何故か俺の背中には春姫が乗っていた。どうしても背中で感じる感触に意識が向く。……所詮俺も男だったか。
「どーやー、ヴァルツー! 春姫のおっぱいは柔らかいか、へぶぅ!?」
「この馬鹿は無視して構わん。悪いな、色々と」
流石慣れた手際で神ロキを沈める九魔姫。別に構わんと首を振り、ロキ・ファミリアのホームである黄昏の館に到着すると先に他の面々を担いでいた怒蛇に春姫を託し、神ロキの部屋へと通される。既にLv.6の三人も揃っていた。
「んじゃ、簡潔でええから教えてくれや。妙な新種のモンスターやけど、何が分かった?」
……流石超位的存在、先程までのたちの悪いセクハラ上司の顔は何処かに行っている。俺が普通の存在ではないと顔に出していたか?
「俺が分かったのは一部だけ、働き蜂の様な存在だというだけだ。魔石を集め、何かに献上するという習性を持っている、それ以外は分からん」
つまり他のモンスターの魔石を食べることを覚えて強くなった強化種と呼ばれる存在が今もダンジョンで力を高めているという事だ。当然空気が重くなるが、それを振り払う様に神ロキが手を叩いた。
「はいはい、酒の入った頭で詳しく分からん物を心配してもしゃーない! 解散解散!」
俺はこの後で直ぐに帰り、神ロキは三人と部屋に残る。どうもパターンとして春姫は二日酔いでランチに行けないだろうと伝えられたので、ならば暫く研究に没頭したいと櫛を代わりに渡すように言ったが断られたのだが、その事について神ロキから話があるようだ。
「……あの様子やと春姫の故郷では求婚を意味するって知らんみたいやな。よし! 面白そうやから手渡す時は覗くで!」
止めて置けと、三人から怒られ説教を受ける神ロキであった。
「……全く。ヴァルツが春姫に櫛を渡すのを覗こうとか言うなんて」
(えぇっ!?)
勇者が部屋に戻る帰り、呟いたのをトイレに起きていた春姫が偶然耳にしてしまっていた……。
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お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます
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春姫との結婚生活
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別ヒロインルート アスフィ
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別ヒロインルート 誰か募集
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一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!