「え、えっと、先ずは夫婦二人きりで愛を育むという事でしょうか? わ、分かりました。……ヴァルツ様の望むがままに頑張ります。ですが最初は優しくリードして頂けると……」
育ちが良い春姫ではあるが家を勘当されたのが十一歳の時で、現在は十六歳。当然、そういった知識は派閥の仲間から聞いたり本を読んだりで手に入れている。未だキスすら未経験で行為に関しては見たこともないが、以前ヴァルツの鎖骨を目撃して気絶した際、淫夢を見て現実とごっちゃになる程だから内心興味は有るのだろう。
ヴァルツから櫛を渡されるという祖国の求婚方法をされた返事である、子供が何人欲しいか、に対してどう言うことかと訊ねられた結果、割り出したのは上記の結論。未だ子供は早いと予定にすら入れていなかったとの判断だ。よくよく考えれば自分は未だ十六歳。母親の幸せの前に女としての幸せを与えたいと思っているのだと判断した。
尚、勘違いである。ヴァルツはその求婚方法を知らないのだから困惑するばかり。人前でその様な事を言われては恥ずかしいし、場所を移すのが最適だと判断した。
「……取り敢えず家に来い。貰い物のケーキが有るからお茶にしよう」
場を切り替えて状況を変えようとするヴァルツ。落ち着ける場所で詳しい話を聞き出して、何やら勘違いされている様なので誤解を解こうとするのだが、どうもそれを許して貰えないようだ。
「け、結婚前にエッチな事をしようなんて不潔です! 駄目です、見過ごせません!」
此処で更なる混沌が投入。生真面目で春姫同様に妄想癖があるレフィーヤがどんな結論に至ったのか真っ赤な顔で叫んで場を更に混乱させ、騒ぎが更に大きくなった。だが、此処で助け船が思わぬ相手から入る。状況を飲み込めないアイズとティオナを放置してティオネがレフィーヤの口を塞いで止めた。
「はいはい、落ち着きなさい。ヴァルツ、私達の分もお茶を頼めるかしら? 喉乾いちゃって」
「……感謝する」
貸しは高く付くわよと視線で語るティオネ。一刻も早く事態を収拾したいヴァルツは少し理不尽に感じるも承諾するも、実際に理不尽である。だが、駆け引きが別段得意な訳ではないヴァルツは文句も言わず、未だパニック状態で妄想の世界に入っている春姫の手を持って先導する事しか出来ない。その背中を見て上手く行ったとほくそ笑むティオネではあるが自分と違って恋愛が順調な姿を見せられるのは面白くなかった。
「って言うか何の躊躇いもなく手を繋いだわね、彼奴……」
オラリオの住宅街の外れにある庭付き一軒家がヴァルツの家だ。主に工房で過ごし、休む時以外は滅多に帰らないにも関わらずそれなりの大きさの家を購入したのには理由がある。
「うわぁ。本が沢山! あっ! あれってわたしも好きな奴だ」
英雄の活躍する話が好きなティオナが一目で夢中になる程の大量の本、それがヴァルツが家を購入した理由だ。鍛冶を始めとした各種技術本や武術の指南書、伝承を記した物語までジャンル毎に分けられた無数の本。蔵書数ならロキ・ファミリアの資料室にさえ匹敵するであろう冊数の上に普通に出回っていない古書や単純に紙を紐で纏めただけの何処かの家の倉にでもしまわれていた文献のたぐいらしき物まで存在し、何度も来た事のある春姫以外の面々は圧倒されている。
「あれって絶版になった筈のエルフの伝承を纏めた幻の一冊っ!? ……あの、どうして此処まで本を集めていらっしゃるんですか?」
どれだけ探しても見つからなかった希書をあっさり発見して意識を奪われつつもレフィーヤは浮かんだ疑問を口にする。少なくとも鍛冶には些かも関係がないようにしか思えず、何日も工房にこもる職人の彼と家中に存在する本の山が結び付かない。アイズやティオナも同様だが、どうもティオネには心当たりが存在する様子だった。断言するには朧気な記憶だが、ベートが彼の発言を語っていたのを思い出したのだ。
「何が発想の起点になるか分からないからな。英雄の行動、薬品の反応、ありとあらゆる手を尽くさねば届きたい場所には届かない。それだけだ……」
「届きたい場所? やっぱり神の領域とか?」
未読の本を見つけたのか視線を伝承や物語の棚にチラチラと向けつつもティオナが言ったのは多くの鍛冶師が目指す場所だ。人の身で神の領域を目指すという大言で誇大妄想じみた夢ではあるが、それでも追い続け挫折する者や片鱗を掴んだ者、至ることが出来た者が存在する。だから発想としては当然の物だがヴァルツは顔を横に振って否定した。
「目指さぬのは論外で、至っても尚、半ば。多くの鍛冶師が目指す神の領域、俺はその領域に至った者さえも見上げる場所にたどり着きたい。それが叶ったのなら更に先へ。……俺からすれば終着地点を決めている奴が信じられん」
だが、ヴァルツの周囲は違った。鍛冶の技を教え込んだ父や祖父も、鍛冶について熱く語る同僚も、皆彼の夢を聞けば変人を見る目を向ける。神の領域こそが至高であると信じ、その先の高みがあると思考すらしない。それが彼にとって不満だった。
不満が顔に出ていたのか神でなくとも彼が本気で言っていると感じ取った面々が唖然とする中、最早慣れたとばかりに唯一本棚が置かれていない客間へと手招きするのであった。
「こ、このケーキはっ!」
宝石の如く輝くフルーツが盛られたタルト、雪を思わせる粉砂糖をまぶした皮はサクサク中は舌触り滑らかで濃厚ながらしつこくない味わいのカスタードクリームのシュークリーム。ほんのり狐色のクレープ生地を何層も重ねて生クリームを挟んだ ミルクレープ。遠征中は決して食べる事の出来なかったスイーツがテーブルに所狭しと並べられ、食べて食べてと訴えかけて来るようだ。
そして甘いもの大好きなレフィーヤは見抜いていた。これら全てオラリオでも屈指の人気店の商品で、開店前から並ばないと買えず、並んでも買えない事さえあった品々。中には未だに口にしていない超人気商品や新商品まで当然のように存在し、思わず目を輝かせた。
「昔盗賊から助けた子供が就職していて、二十の誕生日に持ってきてくれたが別の店の者も同様に持ってきて食べきれず困っていた。遠慮せずに食べてくれ。まだ冷蔵庫に有るから持って帰ってくれれば助かる」
「そ、そうですか! では遠慮せずに頂きます」
困っているからと言われたのを免罪符に、先程までの悪印象など捨て去ったかのようにケーキに手を伸ばす。普段は多くても二個で済ませるし、多く食べていたらリヴェリアから小言を言われるだろうから無理だが遠征中に食べられなかった事もあってカロリーの事は完全に忘れ去る。たとえ体重計に乗って後悔する事になっても今この時はスイーツの海に溺れたかった。
後日後悔の海に沈むレフィーヤと同様にスイーツを食べ進めるティオナ、黙々と最初の一個を食べているアイズと一個食べた後は手を着けないティオネ。春姫は二個目を食べるかどうか迷っており、町中でした騒ぎなど忘れ去ったらしい。
「さて、食べながらで良いから確認したい。子供云々は俺が櫛を渡した事に関係しているのか?」
此処で空気を読まずに爆弾が投下され、モンブランの栗から食べようとしていたレフィーヤとプリンに手を伸ばした春姫双方の手が止まる。この時点でティオネは何かすれ違いが起きているという自分の予想が的中したのを悟った。
「……あぅうううう」
「い、今にして思えば街中でなんて事を……」
勘違いは修正され二人はクッションで顔を隠しながら悶えている。春姫は兎も角として、レフィーヤの方は割と自業自得な感じではあるのだが。もう少し落ち着いていれば被害者は春姫だけで済んだだろうに後の祭りだ。
「それは兎も角として春姫。あの流れからして俺が求婚すれば受けていたと解釈して良いのだな? ……なら、交際から始めないか? 恋人になろう」
そんな中、暫く何かを考えていたヴァルツは春姫に手を差し出す。更に羞恥で顔を紅潮させて言葉さえ出ない春姫であったが、クッションで目から下を隠しつつも差し出された手を取って頷いた。
「……口の中がジャリジャリするわね。って言うか二人っきりの時にしなさいよ、そういうのは」
「……私達忘れられてる?」
「次はエクレアにしよーっと!」
口々にコメントを述べる三人。レフィーヤは目の前の光景にキャパオーバーを起こしたので気絶している。恐らくはアイズに告白する夢でも見ている事だろう。
「あかんっ! なんか面白いシーンを見逃した気がするで、ママ!」
「……何を言っているのだ、ロキ。それと誰がママだ、誰が。それよりもだ……どうもイシュタル・ファミリアがきな臭い。注意しておかねばな」
イシュタル・ファミリアも春姫不在で色々と変化
感想お待ちしています
次回は経験値ブーストの割には3の理由とか二つ名で呼ぶ理由とかデートとか
他の作品も書きたいがね
お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます
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春姫との結婚生活
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別ヒロインルート アスフィ
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別ヒロインルート フィルヴィス^^
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別ヒロインルート 誰か募集
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一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!