ダンジョン十八階層、モンスターが出現しないその場所の一角に墓があった。正義のファミリアとして悪を討ち滅ぼし、最後は悪の手で壊滅に追いやられた彼女達の生き残りであるリュー・リオンは静かに墓石の手入れを行っていた。
復讐のため、悪人を、悪人の疑いがある者を、知らずに協力した商人を、憎悪に突き動かされるままに屠ってきた彼女も今ではお尋ね者だ。今は姿を僅かに変え、気が付いている者も素知らぬ振りを続けて豊穣の女主人で働いている。
そんな彼女が帰ろうとした時、十七階層との境目周辺で騒ぎが起きていた。階層主の復活時期だと思い出し、フードを被って姿を隠しながら様子を伺うことにする。誰か死者が出そうな時にだけ力を貸し、他は極力目立たぬようにする筈だったが目の前の光景に絶句してしまった。
「ボールスさん、此奴で最後です!」
「よーし! 安全のために押さえとけ!」
ゴライアスの討伐後と思わしき様子だが怪我人は今両側から抱えられている者一人。他の者は血や土埃の汚れこそあれど怪我は見受けられず、後ろ姿や装備のせいで誰かは分からないが怪我人を集団でいたぶろうとしている風にしか見えない。判断を下した瞬間、リューは装備である木刀を構えて飛び出していた。
「不埒者め、恥を知れ」
「……邪魔をするな」
飛び出した時に誰かが叫んだ為に不意打ちの一撃は籠手で防がれ、反撃を受ける前に後ろに跳んだリューは囲まれぬように気を払いながら敵を観察、戦力を分析する。
(先程の男は恐らくLv.3の上位。他は3が一人に2が複数。先ず、先程の彼を……!?)
リンチにされる寸前を助けた筈の冒険者も突如乱入したリューを敵と判断した様子で武器を構える。理解不能な状況で彼女の思考は乱れる。言い表せぬ焦りと恐れがLv.4まで上り詰めた彼女の心にこみ上げてきた。
何らかの魔法での洗脳……直前まで殴ろうとしていた上に乱入後に発動の様子は無いと否定。つまり理外の何かによる要因が存在し、誰が操っているのか操られているのかも不明。最悪自分も洗脳を受ける可能性さえあると判断を下した時、先程の男、よく見れば知人の変人が何やら納得した様子の顔をしていた。
「皆、彼女は敵じゃない。何か誤解をしているようだ」
「どういう事か説明をして頂けますか? 怪我人を押さえつけて殴ろうとなど尋常ではありませんよ?」
「いや、俺は治療をしようとしていただけだ」
「……すみません。意味が分かりません」
だろうな、この場でヴァルツとリュー以外の誰もが心中でそう呟いた……。
「この籠手で殴って治療する所だったのだ」
「すみません。意味が分かりません」
繰り返すが二人以外の皆が同感であった。
「……成る程。私の短慮による誤解だったのですね。何故か納得は行きませんが」
「……だろうなあ。ぶっちゃけ兄貴が悪い」
攻撃を受けたのは自分だけなので話はこっちで付ける、ボールス達にそう言ってリューと共にダンジョンの外を目指す道すがらに魔具の効果について説明された彼女は釈然としない思いを抱えながらも高潔なエルフ故に非は認める。だが、怪我人を殴って治療するなど誰が一目で理解できるのかとヴェルフから援護が入れば今度はヴァルツの方が釈然としない思いを抱える事になった。
恐らく春姫でないかぎり満場一致でリューの援護をするだろう。リューが第三者でもそうするのだろうが、勘違いで襲い掛かった事実には変わりがない。償いをしなくてはと思うのは当然であった。
「何かお詫び? ああ、ならば偶に手合わせを頼みたい。他のファミリアには頼み辛く、手応えのあるモンスターが出る階層まで行くのは手間だからな」
リューとしても問題はなく即座に承諾される。今後、早朝の時間に豊穣の女主人の中庭で模擬戦を行う二人の姿があった。
「明日は初デート……緊張して参りました」
黄昏の館の自室にて着ていく服を悩んでいる春姫。今まで何度も一緒に食事に行ってたじゃないのと同室の仲間が呆れるが、恋人になる前と後では気持ちが違うのか緊張が見て取れる。それ以上に顔は幸せそうに弛みきっていたが。
ずっと好意を抱いていた相手から交際を申し込まれた事は彼女にとって人生で最上に思える喜びであり、不満があるとすれば想いの伝え方をちゃんとしたかった、それだけだ。何を着ていっても誉めてくれるだろうが、どうせならば少しでも綺麗と思って欲しい。手持ちの服は肌の露出が少ない物が多いが、ふと手に触れたのはティオネから贈られたアマゾネスの店の服。
「流石にこれは……ヴァルツ様の家で着て、ヴァルツ様だけにお見せしましょう」
下着同然の服を手にとんでもない発言が自然と呟かれ、同室の彼女は天然純情エロ娘の称号を心の中で春姫に送る。見ているだけで砂糖を吐きたくなる気分なのだから告白のシーンを見せられたアイズ達は如何程かと思った時、一つ懸念事項を思い出した。
「ロキは大丈夫? 春姫たんは誰の嫁にもやらーん、とか言わない?」
「そ、その場合は春姫・クロッゾではなくサンジョウノ・ヴァルツになるのでしょうか? わ、私はヴァルツ様の妻になれるのならばどちらでも……」
「違う、そうじゃない」
頬に手を当てて婚姻の事まで想像して赤くなる春姫。次第に妄想が進んだのか新婚初夜らしいシーンの言葉を呟きだしたので見ていた彼女は苦いコーヒーを飲みに食堂へと向かう。戻った時には子育ての段階に進んでいた。
『
オラリオには神だけが使える大浴場の他にも公共の大浴場が存在してそれなりの盛況を見せるのだが、正式オープン前からその施設は神や人の注目を集めていた。一流の職人に発注した彫刻などの内装に極東やエルフなど国々や種族特有の浴場を再現した各種入浴施設。湯上がり後の食事やお茶を楽しめる設備まであり超高級施設最大の売りは……温泉であった。
正確には天然の温泉ではなく、ヴァルツが中層で発見した未発見領域の温泉の岩とそこを住処としている魚型のモンスターのドロップアイテムを素材にしたハンマー『温泉ハイグレードF』の能力によるものだ。十八階層から切り出してきた水晶から湧き出る水が各種効能の高い温泉へと変化し、水風呂にも使われる。当然、水晶も内装に使われていた。
「闘技場に向かわないと聞かされた時は驚きましたが、まさか此処だったとは……」
「正式オープン前にVIP会員だけ先行招待しているが、オーナーが俺と同伴者一人も招待してくれてな。……喜んでくれて何よりだ。お前の喜ぶ顔だけで俺は幸せになれる」
並んで足湯に浸かりながら二人は語り合い、自然と手を相手の手に重ねようとして宙でぶつかり合う。互いに気恥ずかしそうにそっぽを向きつつも今度は春姫の手を下にして指を絡ませながら重ね合った。
「きゃー! 今の見た? 聞いた? これだけで来た価値があったわね!」
「うーん。女神には目もくれず恋人だけを見つめる……良いわね!」
さて、当然だが客は他にも居る。この場で二人の様子を遠巻きに観察するのは女神達、それも上位ファミリアの主神で資金が潤沢な者達だ。後は何とか女神とお近づきになりたいと企む金持ちの男位で男神は数える程にしか居ない。お金があるファミリアの主神も、別に潤沢でない資金を着服する主神も別に使う場所が有るのだ。
他人の恋愛を眺めてキャーキャー騒いでいた女神達だが足湯コーナーに入って来た女神を見て表情を変える。嫉妬がマジマジと浮かぶ視線を向けられて尚物怖じせずに優雅に歩むのはフレイヤと同じく美を司る女神、娼婦を束ねる歓楽街の支配者イシュタルである。
恐らく端切れでさえも零細ファミリアの主神の手に入らないであろう施設貸し出しの衣装で褐色の肌をした豊満な肉体を隠しても溢れ出る美は隠せない。イシュタルは背後に眷属の女性の中で最も強いアマゾネスのアイシャを率いヴァルツ達の正面で足を湯に浸らせた。
「……久し振りじゃないか。なあ、
「ああ、例の事情聴取の時に顔を合わせた以来だな、神イシュタル」
多くの男を一目で魅了する美神。だが、フレイヤ相手同様にヴァルツは淡々とした態度で応対した。イシュタルは面白くなさそうに鼻を鳴らし、指先を春姫に向けると笑みを浮かべ本気の魅了をヴァルツただ一人に向けて問い掛ける。
「それが噂の恋人か。所で……そいつと私、どっちが美しい?」
「春姫だ。と言うより、その問いに恋人である春姫と答えない事など貴方が司る愛への侮辱だろう? 恋人を選ぶ美神への侮辱か、恋人を蔑ろにする愛の女神への侮辱か、選ぶなら俺は前者を選ぶ」
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お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます
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春姫との結婚生活
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別ヒロインルート アスフィ
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別ヒロインルート フィルヴィス^^
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別ヒロインルート 誰か募集
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一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!