美を司る女神に対して向けられた、他の女の方が美しい、という言葉。耳にした女神達はイシュタルに嫉妬し忌み嫌う者でさえも戦慄し、下を向いて震えている主神の顔は分からないが眷属のアイシャは戦々恐々、話題を向けられた春姫はこみ上げてくる嬉しさと恥ずかしさと恐怖で混乱するも肩を抱き寄せられた事で平静を取り戻し、次の瞬間には羞恥心で思考が沸騰する。
「ひゃっ!? …きゅう」
「むっ。のぼせたか、春姫? 仕方ない、休憩室に運ぼう」
現状を作り出した犯人であるヴァルツはというと周囲の反応など素知らぬ顔で春姫を姫抱きにして場を後にしようとする。現状、女神達からすれば場の空気は最悪だ。眷属のアイシャは勿論、彼女達も確かに有力な眷属は多いが上位ファミリアには一歩も二歩も劣るとは言えイシュタル・ファミリアに八つ当たりされては堪らないと我先に去ろうとするが、何を血迷ったかヴァルツがイシュタルを振り向いて声まで掛けた。
この瞬間、気絶した春姫を除いた二人以外が一斉に凍り付く。お前、何を言う気だと大いに焦り俯いたままのイシュタルに視線を向ける。特に逃げる訳にも行かないアイシャ等は顔の色が蒼白間近だ。
正直言ってイシュタルのヴァルツへの印象は良くないとアイシャは認識している。彼が五年前に討伐した盗賊の証言で人身売買を行っていた交易所が摘発を受け、証拠は見つからなかったがイシュタルが何度も出入りしていたとギルドに目を付けられた。結果、他の冒険者を攫って薬で犯して廃人にまで追い込んでいた前団長が手配され逃亡。今も歓楽街にギルドが強く目を光らせている。
故に仇敵のヴァルツの発言の反応が恐ろしかったのだが……。
「……何か面白い事でも言っただろうか?」
この時、正面に居なかった者達にもイシュタルの表情がはっきり見えた。彼女は普段の余裕も女神としての矜持も捨て去り、可笑しくて堪らないという顔で笑いを堪えていたのだ。そして遂に限度に達したのか女神としての矜持も明後日の方に投げ捨てて大いに笑い出した。
「……くくく、はははは……はーっはっはっはっはっ! ひぃひぃ、そりゃ確かにそうさ! 美貌に負けて愛を捨て去るなんざ、それこそ私への侮辱だよ! は、腹が痛い! こんなに可笑しいのは久し振りだよ!」
人目もはばからず足をバタバタ動かして爆笑する姿にアイシャも女神達も唖然として向けていた感情を忘れ去る。最後の誇りなのか転げ回って笑いはしないがイシュタルはその寸前まで行っていた。
そもそも自然界において美とは何の為に使われるのか? 繁殖の相手を得るためである。力を競うのは何故か? それも同じ理由だ。美も、力も、愛を手に入れる為の手段なのだ。つまり愛に比べれば美も力も無価値だと言えるだろう。
イシュタルは美と愛、豊穣と戦を司る女神である。そんな彼女にとってヴァルツが嘘偽り無く述べた言葉は意外な内容であり、何よりもツボに入る。それが今の爆笑の理由であった。
だってそうだろう? 彼女が嫌うフレイヤは他の派閥から気に入った相手を魅了して引き抜く。つまり美貌に負けて別の者に向けていた愛を捨て去るという事だ。他ならぬ愛を司るフレイヤがそれをさせているのだからイシュタルは可笑しくて仕方がない。本人達はフレイヤに愛を向け愛されれば充分なのだろうが、其れと同様に前までは他の誰かと愛を向け合っていた筈だ。友愛にしろ、親愛にしろ、男女の愛にしろ、愛の女神が愛を捨てさせているなど皮肉で間抜けだとイシュタルは大いに嘲笑っているのだ。
「ちょいと気まぐれで来てみれば予想外に楽しかった! 帰るよ、アイシャ。今晩は仕事は休んで私の奢りで宴会だ。直ぐに準備しな!」
「ちょ、ちょっとイシュタル様っ!?」
主神の心境の変化を図れず困惑した様子で後を追うアイシャ。追い越されたヴァルツは先ほど視界に入った光景を忘れ去るかのように軽く頭を振り、春姫を休憩室まで運んでいった。何を見たかというとイシュタルは足を大いに動かしており、正面に居たという事だ。彼女の下着については色も有無も記さないでおこう。
「起きたか。大丈夫そうだな」
「えっと、ヴァルツ……様?」
春姫が目を覚ませば知らない天井の下だったがヴァルツの顔が間近に有る方が印象に強かったので場所は気にならず、今の状況にだけ意識を向ける。具体的には膝枕をされながら団扇で扇がれていたのだった。思わず飛び跳ねた後でもう少し堪能すべきだったと後悔してヴァルツの顔を見れば少し困惑した様子で春姫の顔を見ている。
「神イシュタルから去り際に膝枕でもしてやれと言われたからしてみたが………不愉快だったか?」
「い、いえ、断固違います! 寧ろ嬉しいというかもう少し……もう少し堪能させて頂けますか? 恋人として春姫の我が儘を聞いて欲しいで御座います」
ちょっとだけ拒絶されないかと不安だった春姫だが、ヴァルツが無言で膝を叩いていたので喜んで膝枕を続行する。今度は愛する男の膝の感触を意識しながらそっと目を閉じ、もう少し我が儘になる事にした。
「あ、あの、少しだけ頭を撫でて頂きたいのですが……」
「ああ、構わん。いや、撫でさせて貰いたい位だ」
そっと頭に手が置かれて優しくなで回される。喜びと今更こみ上げてきた羞恥で再び意識を失いそうになるも必死に意識を保って春姫は今の幸せを噛みしめていた。
「ヴァルツ様、春姫は幸せで御座います」
「俺もだ。お前と過ごせて幸せだと思う」
春姫が遂に意識を手放して眠ってしまい、ヴァルツが遅くなったからと起こすまでこの膝枕はずっと続く。その間、ヴァルツは幸せそうに微笑んだままであった。
「……良い。本当に……良い」
「同感……」
尚、先程の女神達もずっと眺めていた模様。
「モンスターの脱走か。随分物騒な話だな」
次の日、ヴァルツは怪物祭の最中に起きた脱走と未確認のモンスターをロキ・ファミリアの冒険者が倒したという話をステイタスの更新中にヘファイストスから聞かされた。
オラリオの住民はモンスターと身近な様で遠い存在。ダンジョンにはバベルという蓋があり周囲は高い壁に囲まれて警備の冒険者が外からの侵入を許さない。故に深く関わる機会は怪物祭で調教される姿程度だったが、今回の事で恐ろしい存在なのだと深く心に刻まれてしまった。
「ガネーシャの所は後始末で大変らしいわ。……また神会で面倒な事になりそうだわ。ランクアップよ、ヴァルツ。次の更新でLv.4になれるわ」
ヴァルツ・クロッゾ
Lv.3
力 B:755 → A:830
耐久 C:629 → B:745
器用 S:911 → S:988
敏捷 C:602 → B:752
魔力 E:491 → D:531
鍛冶 H
神秘 i
「新スキルも一個発現よ。……また面倒になりそう」
・自分及び愛し合う相手のステイタスに補正
・互いの想いの丈で効果向上
・互いの想いが続く限り効果持続
・想いが消えれば双方共にスキル消滅
一方その頃、ロキ・ファミリアのホームでは……。
「春姫たんにセクハラする口実に更新したら……なんやコレ」
春姫にも同様のスキルが発現していた。
その数日後、ランクアップを行ったヴァルツは身体と意識のずれを直す為にダンジョンに向かう準備をしていたが、路地裏を通った時に黒いフードの人物が現れた。
「また何か依頼か? ……魔石の買い取り許可を得る為とはいえ面倒な」
「お前の魔法は便利だからな。……十八階層で指定した人物から荷物を受け取り解析して欲しい。出来れば持ち帰り、危険と判断したなら破壊しろ」
感想お待ちしています
元の予定では送ったホームの入り口で春姫が唇にキスするつもりだったが勇気出ずにほっぺにしてしまう、そんな予定でした
お気に入りが千 感想が百を越えたら番外編書きます
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春姫との結婚生活
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別ヒロインルート アスフィ
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別ヒロインルート フィルヴィス^^
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別ヒロインルート 誰か募集
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一定以上経過する度に一個ずつ書けや、オラ!